Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

    ほぼほぼ現実逃避を出す場所

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    nmhm_genboku

    ☆quiet follow

    じゅじゅつの美醜逆転

    美醜逆転物語「瑞樹の事、諦めるのかい?」
    「は?」

    それは、昨日の夜の話。
    カラコロとグラスを揺らして氷の音を楽しみながらそう尋ねた親友に、五条は目を瞬かせた。綺麗なものが好きだという彼女が褒めた六眼をこれでもかと見開きながら、五条は親友を見る。

    「私個人の感想としては瑞樹はほかの女とは違う。悟が危惧しているように、色んなところから声がかかるだろうね」
    「それは、分かってるよ」
    「ならいっそ、私たちの手で縛りを設けた方が早いんじゃないかな?彼女は今現在どうしてもあの宿儺の器に依存している。如実には出ていなかったけれど、体を寄せたり、腕を組んだりと密着するのが多かった。お互いがお互いを慰めている感じだったかな。調べたところ彼女の両親は幼い頃に亡くなっていて、親戚は彼女の価値を十分に知らないまま結婚だなんだとうるさいんだろう?」
    「…傑がそこまでいうの珍しいね。なに、惚れちゃった?年の差考えろよ~?」
    「ふふ、悟に言われたくはないけどね」

    コトン。少し重ためのグラスが音を立てる。彼女の術式を知っているのは今は悟と私と、あの宿儺の器の悠仁だけ。ならいっそ、どこにも行かないようにガチガチに縛った方が早いと思うんだけどなぁ、なんて。そういえばそれはダメだよ、と諭された。

    「おや、正論は嫌いじゃなかったかい?」
    「嫌いだけどさ、そういうことじゃねぇじゃん?決めるのは瑞樹で、彼女はまだ世間を知らない。もしかしたら」
    「ほかの奴らに靡くかもって?それは無いんじゃないかな」

    彼女が求める価値観は綺麗であること。そして彼女のお眼鏡に私たちは含まれている。もうきっと、彼女以上の存在なんて現れないだろう。
    無自覚に、無差別に人の自尊心を掬い(救い)上げる彼女以上の存在なんて。

    「やる時は教えてくれよ」

    私も1枚噛むからさ、なんて。

    ★★★

    「え!?私だけ別任務!?なんで!?二級以上じゃないと単独任務ダメですよね?」
    「三級にも満たない呪霊との対戦でございます。御身を護れるように、との上層部からのお言葉でして…。付き添いの呪術師が現地にてお待ちとなっております」
    「ほぉん???」

    私この展開知ってっかんな!!あれだろ!お見合いセッティングされてる裏で悠仁たちが特級と戦うやつだろ!!支部で履修してっかんな!!!

    「断ったらどうなります?」
    「…五条様方が少しお忙しくなるだけですね」
    「なにそれ脅しじゃん…」
    「気のせいですよ」
    「…これついて行ったらお見合いとかじゃないですよね?」
    「…えぇ、違います」

    ★★★

    「うそつきーーーーー!!!!!!!」

    バタバタと広い廊下を走る。見合いじゃねぇって言ったじゃん!!って言ったら顔合わせですからとかクソみたいな返答された。クソじゃんまじでクソじゃん!!なんて言いながら走る。

    「なんや、騒がしい」
    「ひっ!?な、直哉さまッ…!」
    「ラッキー!ヘイ兄さん!助けろ!」

    ずさぁッ!と目の前のイケメンを盾に追いかけていた不細工を見る。中指を立てながら騙されてきた人間にすることじゃねぇよ!なんて言いながら盾にした兄さんの着物を握りしめる。

    「貴様よくそんな男の着物を握れるな!?」
    「ハァん!?そりゃこっちのセリフだわ!!よくそんな不細工ヅラで友禅着れんな!!?てめぇとおしゃべりするぐらいなら私はこっちのイケメンと話すわ!!」

    そんな信じらんねぇ!!みたいな顔してくんなよ!お前がこの世界でイケメン()といわれようとも私のイケメンはこっちの細め目のお兄さんだわ!!

    「あんさんおかしなお人やなァ…」
    「ヴァッ!?まって笑わないで。めっちゃイケメンじゃん。服もいいやつだった。罪だわ。ごめんちゃい」
    「あぁ、気にせんでえぇよ」

    災難やったねぇ、とうっすらと笑いながら頭を撫でて、玄関はあそこやよ、と教えてくれたイケメンに、やっさしぃ~なんて思いながら、玄関に向かって走る。ついでに俺の外履き使ってええよって言われたのででかいけど使わせて貰うわ!ありがとう!!イケメンはやっぱり優しい。はっきりわかんだね!!
    そう思いながらダッシュで屋敷から出れば呪力が回ったのを感覚的に理解して、影を使って悠仁の下へと行った。

    「ほう?」
    「待って!!!?」

    なんで宿儺!?トプン、と急いで影に潜り直して伏黒の影から出直す。まぁ気絶しているからちょっとどうかと思う!!

    「ばっか!!ばっかじゃんホントふざけんなよ!?悠仁返せや!!」
    「待ったくうるさい女だ」

    はー、と耳を掻く宿儺を見ながら、悠仁の身体を観察する足元から緩やかに上に視線をもっていけば、心臓がある場所に穴が、あった。

    「うっそ心臓ねぇじゃん!!!?」
    「けひっ、小僧なら戻らんぞ。今わの際まで死にたくないと泣いておった」
    「ふざけ~!?おっま普通そこまでする!?つーかそこまでしないと制御されるってことですね!把握!!ざまぁ!!!!」
    「チッ…まぁよい。貴様を殺すのも理由はない。ただ、殺す。最初邪魔をされたからな。このまま俺が直々に殺してやろう」

    そう言って目の前にやってきた手を影に潜ることで回避。ザフッ、と空気を切り裂いた。その後ろでザパッ、と影から表に出た。そんな私を見てほう?と言葉を吐いた。

    「ばっか!!マジでばっか!!俺まだ四級だぞ手加減してもらってもいいですかぁぁぁぁぁああああ!!??」
    「チッ、うるさい小娘だな。死ね!」
    「生きる!!!」

    宿儺の攻撃を避けながら、こちらからも出来る攻撃を仕掛けていく。わずか二ヶ月だ。それだけの鍛錬のみなのでそんなに強くもなっていない私だけれども、宿儺の攻撃を逸らすことは出来るようになったのでホント頑張った。どっかの最強二人に週四で体術見てもらってめっちゃよかった!!避けるだけでもしんどいです!!!

    「どうした、逃げるだけじゃコイツの心臓は戻さんぞ」
    「分かってるよ!!!」

    ポタポタとしたたる汗をそのままに、息を整える。ゆっくりと呪力を練る。にやりと奴(宿儺)が笑ったのを見て、頭に浮かんだあの忍者漫画の酉の印を組み、闇に溶けて息を殺しながら僅かな呪力の揺らめきを見つけ、呪力を投げつけられる。掠るだけでも激痛が走る。

    「風影呪法ッ!」

    そう言葉をついて、けほっ、と息を吐いた。目の前に宿儺の手がある。それを見つめながら、ぐ、と息をのんで、あの歴史書とは程遠い戦国ゲームの術を思い浮かべて小さく声を出した。

    “空蝉の術”

    「ぐっ…!?」
    「っしゃオッラァ!!!!」

    ダンっ、と宿儺の影を踏んで、自分の呪力を流して影の形を操る。心臓を元に戻す意思をもたせろ!バタフライエフェクトで誰も死んでいないけれど、もしかしたら悠仁が死んでしまうかもしれない。だって“この世界は現実”なんだ。
    踏んだ悠仁の影の形を変える。体から棘が出ているような形にして、指を鳴らす。目の前の悠仁の肉体が影の形を再現しようと体内から黒い棘が溢れて血が飛ぶ。ゴフッと悠仁の口から血を噴き出したのに動揺した私の心を見抜いて宿儺の横薙ぎの腕が頭に当たって吹っ飛ばされる。一瞬だ。一瞬の呪力の乱れを感じ取って、一番守りが薄くなった顔を狙ってきた。

    「ッ…、ッ」
    「少し油断したが、こんなもんか」
    「は、は…クソッ、タレッ」
    「ほう、喋れるか!」

    意識を狩ったつもりだったんだがな、なんて言ってくる邪悪に口の中にたまる血なんて無視した。ゴロゴロと喉が鳴く。鼻血も出ている。ほんっと勘弁してほしい。我女やぞって言いたい。

    「なんだ、死にかけか。俺に傷を一瞬でもつけた事には褒めてやろうと思ったんだがなァ…」
    「うぁ…」
    「九条ッ!!」

    ひゅうひゅうと息を吐き出しながら、体を起こそうとすれば背中を踏んで起き上がるのを阻害される。ほんっとお前~~~~~~!!!!

    「やめろ!!」
    「フン、貴様が弱いせいでコイツが死にかけ、お前が最初の任務からいなかったせいで小僧は俺に身体を乗っ取られている。哀れだな」

    ケヒヒ、と笑ったそいつに、ギシリと歯が軋んだ。言い分はわかる。今回は嫌な予感がしていたけれど、時期的に“まだ死ぬのは先”だと思ってしまった。あぁ、ほんと油断だ。油断が招いた結末だ。

    「…九条。俺と死ぬ覚悟は、あるか?」
    「ここで悠仁止められるなら、一緒に死んでやるよ!」

    そういえば、ドッ、と腹を蹴られあえなく吹っ飛ばされる。あぁ、ほんと無力。マジで私は人間としても呪術師としても無力だと思う。ぜんぜん体力着かないし、女だなんだと言われて見学とか多くて駄々こねたりしてる。けど…けどさ。

    「助けに来てくれてもいいじゃんッ」

    せんせいのばか。小さくそう言って気絶した。ぐらつく視界の中、霞んだ意識の中で誰かが私の名前を呼んだ気がしたんだ。

    ★★★

    「次、私や伏黒、野薔薇やセンセー達に同じことしてみろ」

    今度は私が死んでやるよ。怒り心頭を見せつけ、痛む体に鞭を打って老害どもにそういった彼女を、僕も傑も罪悪感で胸を痛めた。目の前の腐ったミカンが怪我をした彼女に向ってあのまま禪院家に居たらこんな目に合わなかったといった瞬間から彼女は泣きたい衝動を抑えながら、中指を立て、お前らのせいで怪我をしたんだよ、と言葉を吐いた。

    「そもそも、私を禪院家に連れ出されなければ、悠仁たちと同じ任務につけれた。私の術式なら特級でも僅かながらに時間を稼ぐことが出来ていた。悠仁が死んだのはお前たちのせいだ。お前たちのせいで私が怪我をしなければならない状況だった。お前たちのせいで、呪術師は死んでいくんだッ!!!等級もわからない任務につかせるしかないくらい無能ならお前らが行ってそこで死ねッ!!犠牲を出す任務しか出せないならお前らが死んでしまえッ!!!お前たちがいるからこの世界は地獄なんだ!!!!」

    ボタボタと涙を流しながらそう言った彼女に向かって尚罵倒しか吐けない老いぼれに、僕は黙れよと言葉を吐いた。声を殺して泣きじゃくる彼女を抱きかかえ、落ち着かせるために背中を叩く。目の前の老害に傑が女性を泣かせてもなおそんな言葉を吐けるなんて、呪術師以前に人として軽蔑します、なんて言われてさらに怒っているけれど、誰でも軽蔑するだろ

    「遅くなってごめんね…」
    「…別に、いいです」

    スンッ、と鼻を鳴らしてどうせ悠仁生きてるだろうし。なんて小さく呟いて肩口に目を当てる瑞樹に、ドキッとすれば、隠せてないですよ、と小さく笑ってくれた。

    ☆☆☆

    「…ばか」
    「ごめん」

    ぎゅっ、と抱きしめて心音を確認する。また泣きそうになって、絶対許さないなんて言って、彼女はさらに強く抱きしめた。

    ☆☆☆

    「五条センセ、ごめんね」

    本当はだめだったんでしょ、会うの。なんて言って来る彼女に、まぁね、なんて言ってそれでも、大丈夫だよ、と言うしか無かった。

    「私…あの時先生達に会わない方がよかったかな…?」
    「なんで?」
    「宿儺がさ、私が最初の任務にいなかったから悠仁が死んだって。そもそも私が女だから今回禪院に連れ出されたし、そもそもあの時五条センセに会っちゃったから、私は保護対象になっちゃったんでしょ?」
    「んー、ちょっと違うかな。遅かれ早かれ悠仁は来ないにしても君はこちら側に来ることになっていたよ」
    「なん…」

    で、と声をあげようとしたけれど、僕との顔の近さに驚いて固まる瑞樹に、ゆっくりと口角を上げて見せる。

    「瑞樹は頑張り屋さんだね」
    「は…」
    「けど、もう少し頼ることを覚えよう。君は何も悪くない。悪いのはあの腐ったみかん共だ。悠仁も、瑞樹も、恵たちも、みんな被害者だ」
    「…答えになってません」

    そう言ってこちらを怪訝そうに見る瑞樹に、五条はそういう事だよ、と言葉を吐いた。まぁつまるところ、なぜこちら(呪術師)側へ来ることが必然なのかは、教えてくれないらしい。ケチだな、なんて思いながら、九条はふぅん、と言葉を吐いた。
    そんな彼女を見ながら、五条はそっと息を吐いた。かの虎杖悠仁の死は、九条瑞樹の死と直結する。五条と夏油はそう確信している。ぼんやりしているくせに、芯はしっかりしている彼女のことだ。きっとあっさりと自分の価値を穢す上層部の目の前で死ぬことだろう。お前らが私を殺すんだとでも言うように。あ~~、想像しただけでカッコいいな…。

    「瑞樹、悠仁と一緒に修行してもいいんだよ?」
    「……悠仁が生きているっていうのはバレちゃダメでしょう?」
    「まぁ…。でも僕は最強だからね。瑞樹が悠仁と一緒に修行したいっていうなら、僕頑張るよ?ちょっと無理しないとだけど、傑とかもいるし、瑞樹は気にしなくても「センセ」ッ…」
    「……五条センセ、ダメですよ。」

    ゆったりと笑った彼女の顔を見て、五条は泣きそうな顔を晒した。そんな顔に、夏油は慌てたように悟、と小さく声を上げた。その声色にハッとしてすぐに顔を隠した五条に、九条はため息を深く吐いてそういうの好きじゃないなァ、と声を上げた。

    「ここはもともとセンセー達のテリトリーだったんでしょ?私に気にしなくてもいいし、個人的にはセンセーの綺麗な顔がしっかり見れるからラッキーぐらいにしかならないから気にしないでよ。なんかそうやってあからさまに行動起こされるとか嫌い」
    「きッ…!?」
    「あとそうやって行動するなら今日禪院で助けてくれた直哉さんって人の所に遊びに行くから」
    「ぜっっっっったいやめて!!!!!!!」
    「私もそれだけは許せないかな!!」
    「じゃぁ、隠さんで。こっちだってそんなあからさまな行動取られたら傷つくんですよ」
    「…傷ついちゃうの?」
    「まぁそれなりに」
    「おや…。それには気付かなかったな…。私たちのくだらないプライドで傷ついてしまうなら、君の前ではなるべく頑張るよ」
    「ちょ、傑!!?」
    「悟、大丈夫だよ。彼女は君の知る女共とは違う」

    そりゃ、そうだけど、と言う五条センセと、宥める夏油センセを見ながら、センセ―達どんな女に引っかかってんの?と言葉を吐いたら最後。愚痴大会になった。いや流石に五条センセの種目当てで近づいた女性がセンセの顔見た瞬間悲鳴上げて裸で逃げ出したと聞いた瞬間爆笑した。オメーの欲しがった子種まで頑張れやwwww

    「ヒッwwwww無理wwww」
    「因みに悟が体験した内容は私も体験済みだからね」
    「嘘じゃんwwwww」

    女の学習能力皆無かよwwwなんて爆笑していれば、瑞樹は逃げないでね、といわれたのでこの世界のイケメン()相手なら逃げる自信ありますね、と真顔で言えばふぅんと言葉を吐かれた。

    「センセー達が何に怯えてんのかわかんないですけど、私個人の意見で言うなら五条センセも夏油センセも、カッコいいですよ。もちろん悠仁も、伏黒くんも、野薔薇さんも。私、綺麗だったりカッコよかったりする人やモノが大好きなの。私の審美観は絶対変わることなんて無いですよ。あぁ、でももし変わってしまったらそうですねぇ…」

    私のこと殺していいですよ、なんて言ってちょっと冗談交じりにゆったりと笑いながら言えば、五条センセと夏油センセが嬉々として小指を差し出してきたのでゾッとしたよね。これだけのことに縛りつけんの!?って感じ。センセ達は私との記憶を綺麗な状態で終わらせたいからって言ってるけど、そう考えるとめっちゃ怖いな。なんだ、狂気的過ぎんか???まぁするけど。どうせいつか悠仁とも縛るだろうし。

    「…普通しねぇだろ、こんな契りみてぇな縛り」
    「ふはっ、だってセンセ達これで安心するんデショ?」

    手ェ震えてたじゃん、なんて笑っていえば、うるさい(よ)、とセンセ二人に小さく怒られてしまった。ははっ、ほんと

    「こんなに綺麗なのにさ。この世界の人たちはすごく損してるね」
    「そういうのは君だけだよ」

    まるで美しいものを見るかのように目を細め、頬を赤らめる彼女に、疲弊した自尊心が、少しだけ浮上した気がした。

    ★★★

    「んだよ、いつになく辛気くせぇ顔してんな、恵。通夜かよ」
    「禪院先輩」
    「俺を苗字で呼ぶんじゃ「真希!真希!!」あ?」
    「実際死んでるんすよ!一年」
    「おかか!!」
    「は、早く言えよ!!」
    「誰、アイツら」
    「二年の先輩」
    「おや、どうしたんだい?二年の君らが集まって」
    「?…おい外道、誰だ、その女」
    「んん?なんか敵意向けられてるんだけど、勘違いされてない?」

    女は敵みたいな顔を向けられたんだけどなんで??なんて言えば屋敷に来た女を思い出しただけだと言われた。

    「ふゥン?」
    「ちょっと。勝手にそこら辺の腐った女とこの子一緒にしないで」
    「野薔薇っち大丈夫だよ」

    特に気にしてないよ。ゆるっとそういえば眉間にしわを寄せて私が気にするんだよ、って言われたので一生推すって決めた。

    「野薔薇様…」
    「様はやめろ」

    ★★★

    「ふッ…!」
    「チッ!逃げんな!!」
    「投げ飛ばされなければ勝ちなんですよね!!?」

    普通逃げますって!!なんて言いながら、女性の柔らかさを利用して真希から捕まらないようにひょいひょいと避けていく。あれから自己紹介後、直近で行われる親善試合に出場するために、軽く手合わせをすることになったけれど、流石と言いたくなった。実際彼女は宿儺との対戦の際“逃げ”の姿勢を取りながらもしっかりと反撃を行っていた。
    つまるところ、現時点で彼女は宿儺三本分の実力はあるという事。“影を使用する事”に関しての解釈の幅広さは一家言あるだろう。掌印を使って攻撃の際に無駄に消費される呪力量を抑えさせる。才能の塊だな、と密かに五条たちは思った。今まで悠仁と一緒にいたからか、目も良いし、身体能力も申し分ない。ただ、あと一歩というところで前に行けないのはよろしくないな、と思った。

    その一瞬の躊躇いが、死へと直結することもある。だからほら、その一瞬の迷いで真希に掴まれてこちらへと投げ捨てられた。勢い余って思わず横抱きしてしまったけれど、軽くてびっくりしたよね。ちゃんとご飯食べさせなきゃって思った(使命感)

    「おっと…」
    「んんん~~~~~!!!!!逃げれると思ったのに~~~~!!!!」
    「はッ、あめぇよ」

    お互いギリギリの集中力でやっていたのか玉のような汗が溢れていて、首や額に浮かぶ汗がそれを物語っていた。

    「おめぇは一歩の踏み込みが甘めぇ。そんなんじゃいつか頭から食われるぞ」
    「まって、想像してしまった…」

    うぉぉおお、めっちゃグロい!!なんてちょっと騒いでいる瑞樹には悪いけれど、たぶん真希が言ったのは何も呪霊だけとは限らないと思う。実際何もわかってねぇなコイツみたいな顔して僕に横抱きされている瑞樹を見ているし。

    「おら、さっさと降りてこい。もう一回するぞ」
    「あ˝ぃ˝!!!」

    シュパリュタ、なんて呂律の回っていない言葉を吐いた彼女をおろして、ほどほどにね、と声をかけた。流石にずっと見ているわけにもいかない。それに今から任務だからなぁ…。

    「瑞樹、無理しないようにね」
    「はぁい」

    任務いってら、なんて水分補給をしながら言った彼女に、困ったような顔を向けてしまったのはまぁちょっとした癖だと思って見逃してほしいかな。なんて

    「みーずき!」
    「五条センセ、おはよーございます」
    「はい、おはよ。瑞樹には今日1日悠仁と一緒に映画を見てもらいます!」
    「映画?(あぁ、B級映画が…)」

    ぼんやりと確か原作で見てたなぁ、と思いながらくあっ、と欠伸を1つ。昨日は濃すぎた1日のせいでまだ疲れが残っていたから、これは助かるなぁ、なんて。そう思いながら、悠仁の軟禁()部屋である地下室へと向かう。その道中、夏油センセと合流し、今日の予定の確認と、私にもツカモト(仮)が渡された。

    「なんです?これ」
    「モトツカ。悠仁と色違いだよ~」
    「おソロっぴじゃん。センセ流石~」

    キャッキャしながら手渡されたぬいぐるみを観察する。あのツカモトのグローブの色が青から赤に変わっただけのぬいぐるみだ。確か呪力に反応して寝たり起きたり攻撃したりするんだよな、便利かよ。

    「無闇矢鱈に説明もなしに受け取るのはどうかと思うよ」
    「あ」

    パチッ、と目を覚まして攻撃しようとしたモトツカの頭を大きい手で包んで、するっ、と私から取り上げる夏油傑を見て、そういえば呪力流しそびれてたな、と反省。
    五条センセも説明してないことに気づいてごめんね、と急いで謝ってきたので特に何も気づかない少女()を装うために首を傾げてどうしたんですか、と尋ねた。

    「これ呪力込めないと攻撃されちゃうやつだったのすっかり忘れてた」
    「それ忘れちゃあかんやつやん」
    「ごめんねー。つい★」
    「気をつけなよ、悟はこういうことを平気でしてくる」
    「まぁ、センセが楽しいならどうでも」

    そう言って呪力を込めた手でぬいぐるみを夏油センセから貰い、地下室へと入る。寝ていた悠仁が私たちの声でうっすらと起き始め、起き上がる際に油断していたのか呪力が規定の出力より下回り、ツカモトも覚醒。攻撃をされるとこっちにも被害が出るのでモトツカを掴んでいない逆の手でツカモトの頭を鷲掴み、大人しくさせる。

    「寝起きでも油断しなさんな」
    「えっ、あっ、ごめん!?ってまって、瑞樹なんでそんな1発で出来んの!?」
    「…才能、かな?」
    「えー…」

    俺の昨日の苦労って何?なんて言っている悠仁には悪いけれど、こっち(呪力操作)関係は得意なんだ。私(根拠の無い自信)

    「へぇ…」
    「悟、目。あと呪力が微量だけど溢れてるよ」
    「おっと…」

    ごめんごめん、なんて言っている五条センセには悪いけれど怖くて見れねぇわ。分かる?悠仁と小声で話しているだけでゾワッとする程に重たい呪力が背中に這いずった私の気持ち。ねぇ、分かる????

    「なに?どうしたん」
    「嘘だろ…」
    「こやつの鈍感さはほとほと呆れるかえるな」
    「ふんっ!」

    パァンッ!とほっぺたを勢いよく叩く悠仁にビックリして肩を震わせてしまったけれど、なるほど、さっきのが宿儺か。本で見た通りどこでも現れるな…口が。

    「ビックリ人間ショーじゃん。ウケる」
    「五条先生達と同じ反応すんのやめて」
    「ごめん」

    つい反射的に謝りながらソファに座る。くあっと再度欠伸を漏らしながら、何見てんの?とDVDのパケに目を向ければ、首を傾げる悠仁に、一緒に呪力コントロールの練習すんだよ、と答える。

    「えっ!?マジで!?」
    「マジマジ。あ、ねぇこれ見よ。最後ヒロインが死ぬやつ」
    「ネタバレしないで!?」

    ★★★

    じっ、とDVDを観る2人を後ろから夏油は観察する。幼馴染だと言って何かと彼、虎杖悠仁の傍にいる彼女は、こういう時どうするのだろうと思って観察していたが、まるでそこが定位置であるかのように、彼の膝に座り用意されたコーラやポテチを食べたり飲んだりしている。
    映画を三本ほど見終わってふと、そう言えば彼女はあのぬいぐるみからは殴られていないな、と思いながら思わず要領がいいことに気づいたり、悠仁がぬいぐるみに殴られて爆笑しているのを見ながら、普段の彼女を思い浮かべる。

    短気で、肝が座っていて、意外と泣き虫で、けれど悠仁の死を直面した際には全ての感情を削ぎ落としたような顔で…

    「(意外と喜怒哀楽が激しいと思っていたけれど、外に出ればそれも成りを潜めていたな、そう言えば…)ねぇ、瑞樹」
    「はぁい?」
    「外じゃあまり笑わないけれど、どうしてか聞いてもいいかな?」
    「んー、別に面白い話じゃないよ。誰か知らない人に誘拐されかけて外じゃ悠仁がいない時はあまり感情出さないようにしてるだけ。てか夏油センセ、意外と私の事見てるんですね」

    あまり興味無いのかと思いました、なんてゆったりと笑った彼女を見て、小さく息を着く。

    「…気に触ったなら、謝るよ…」
    「全然。むしろイケメンに心配されたんでラッキーって感情ですね」
    「瑞樹、次これ観ようぜ!」
    「ホラーはやめてってば!!!!」

    夜中に起きると怖いんだぞ!?なんて言っているけれど止めるつもりはないんだろうな。あっさりとあの若草色の視線を戻していった彼の手腕に思わず独占欲が強いんだな、と理解した。
    2人だけで世界が出来上がっていて、そこに入るのは存外難しいだろうな、なんて思ってはた、と意識を戻す。
    私はいつの間に彼女のことをそこまで思うようになったのだろうか?
    出会いはまぁ強烈だった。悲鳴を上げられる程の顔なのに、彼女は悲鳴ではなくかっこいいと言葉を吐いた。それに嘘偽りはなく、思わず固まってしまったのは仕方がないが、いきなり腹筋触られたしな…。

    「瑞樹は筋肉フェチだった?」
    「いえ、目フェチですね」
    「でも最初私と会った時、腹筋触ったよね?」
    「なにしてんの!?」

    いや、だって良質な筋肉だったし、なんて言って悪びれる様子もなく言った彼女に、悠仁ははぁ、と頭を抱えるしか無かった。そんな彼を見ながら、彼女はゆったりと笑った。
    さて。そろそろ日もくれて来た頃、ピクリと反応を見せ、こちらへと振り返った瑞樹に、あれ?気づかれちゃった?と悪びれもなくこちらへと歩いてきた悟に、せめてここに来たら気配は出しなよ、と言えばちょっと今戦闘中でさー、と言ってきたのに頭を抱えた。対戦中のくせに呪霊ほっぽってくるなよ、って話だ。

    「瑞樹もくる?課外授業だよ」
    「行ってもいいなら!」
    「念の為私も行くよ」

    回収できる呪霊ならほしいと言えば、おっけーなんて軽く答えを返された。

    ★★★

    「富士山!!」
    「呪いの核はなんだろ?山かな?」
    「おっ、正解。流石瑞樹」
    「見た目火山みたいなやつですからねぇ」

    何となく、ですけど。そう言ってじっ、と呪いを観察する瑞樹を横目に悟は軽く呪霊と言葉を交わす。もちろん煽ることも忘れずに。にしてもあの呪霊ほしいな。

    「全く…だめだよ、そんな本当のこと言ったら」
    「傑だって思ってんじゃん」
    「センセ達煽らないと戦えないの?」

    困惑しながら私たちをみる彼女には悪いけれど、あまり強いと思えなくて、なんて言いながらケタケタと笑う私たちを見て、呪霊は怒り心頭の顔立ちで領域展開を繰り出した。瑞樹が言った通り、見た目が火山のせいか、一瞬にして湖が灼熱の火山島に変わる。

    「へぇ…」
    「瑞樹もうちょっとこっち。僕の服とか、どっかに捕まっててね。傑ももう少しこっち」
    「おや、私もいいのかい?」
    「ばーか、流石に危険に晒す訳にもいかねぇじゃん」

    助かるよ、なんて笑いながら言ってお言葉に甘える。きょろ、と身長差のせいで悟の腰にひっつき、周りを見渡す瑞樹を見る。反対の方に担いでいる悠仁に領域の説明しているのは聞いているようなので、興味深そうに見渡すその様子を観察しながら、悟の怖々としながらも悠仁に続けざまに説明するその根性に賞賛を零しながら、悟の繰り出し返した領域展開を観る。

    「お、おぉ!?宇宙じゃん!」
    「いつ見てもすごいね」
    「まーね!」
    「なんっで瑞樹そんなに落ち着いてんの!?」
    「いや、だって課外授業だし」

    ニコッと笑ってそういった彼女を見て、やっぱり呪術師になるならここまでイカれていないとな、なんて思ってしまった。

    ★★★

    「で?楽しかった?」
    「なにがだい?」
    「またまた~。今日一日ずっと瑞樹のこと観察してたんでしょ?」
    「まぁ、ね」

    あの後瑞樹を送り届けて夜蛾学長とのお話合いを終わらせて帰ってきた悟に、そうだな、と言葉を着いた。

    「隠し事も出来ないような子だな、と」
    「アッハッハッハッハッ!傑、それ本気で言ってる?」
    「…はぁ。何が聞きたいんだい?」
    「瑞樹、僕に譲れる?」

    その質問に思わず眉間に皺を寄せた。何を言っているのか分からない、という訳では無い。彼女を譲れるか否かという言葉に、もちろんだろうと答えられるつもりだったのに、その言葉が喉奥につっかえて吐き出せなかったことによる個人的嫌悪からだ。

    「傑は初めて瑞樹と会った時から好きなんだなって分かってたよ」
    「悟」
    「だからあの時、一緒に契りを結んだ」
    「悟」
    「傑、もう諦めなよ」

    お前は自分が思っているより瑞樹に恋してるよ、なんて。その言葉を飲み込みたくないのに飲み込んでしまえば、もう手遅れだって告げられているような感覚だった。

    「彼女を愛してしまいたくない」
    「まぁ、俺も傑も重たいらしいしな」
    「君の愛と私の愛の重さを一緒にしないでもらえないかな」
    「めんッどくせぇな!」

    ★★★

    好きになっていた。なってしまっていた。それに対してなぜ、という言葉と、いつ、という言葉が交差する。
    ふと、前方に見えた彼女に声をかけ、見つめ合う。訳が分からないという顔で、それでもゆったりと笑った彼女を見て、あぁ、もう仕方の無いことか、と自らを諦めた。

    「ねぇ、瑞樹」
    「はい?」
    「私の目は綺麗かな?」
    「…黒曜石みたいで好きですよ。でも最近疲れ気味ですか?」

    クマ出来てるみたいですけど、なんて甲斐甲斐しくこちらを見つめる目に、はぁ、とため息を吐いた

    「ごめん」
    「えっ、なにがですか?」
    「とりあえず謝らせてくれ。済まない」

    ぐっ、と眉間に皺を寄せてそう言えば、まぁ、いいですよ、とわかっていない顔で返事を返される。
    認めたくなかった。認めてしまえば、彼女がいつか悠仁や別の誰かと共に生きる未来でも我慢できていただろうから。でも、もうダメなんだろう。彼女が死んでも、私は彼女の亡骸を見るまで死んでしまったことを、信じることが出来ないと思う。

    「とりあえず悟は後で殴るよ」
    「なんでですか!?」

    だって気づかせてしまった責任は取ってもらわないと困るだろう?

    ★★★

    私と悠仁は、幼馴染と呼ばれる部類の人間だ。私は他の人より少し美的センスというものがズレていて、そこだけはどうしても譲れないものがあった。
    女の子の友達が少なくてもどうでも良かった。悠仁が綺麗なハニーオレンジの瞳を涙で濡らしていたあの時から、私は私の全てを使ってでも悠仁を護ろうと思った。
    正当な理由はない。私が、虎杖悠仁という存在をこの世界から消したくないと思った瞬間から、私と悠仁は幼馴染であり、家族なんだ。
    だから…

    「ねぇ、今の。訂正してよ」

    あんたみたいな腐った環境で生きてきた人間だけは許したくない。
    その日は、朝からずっと肉体強化のため、先輩にぶん投げられる日だった。昨日参加出来ていなかったせいで、めちゃくちゃ投げ飛ばされて、正直運動神経はいい方だと思っていたけれど、1年も早く実践で戦っていた先輩達は凄いなって思うぐらい鮮やかに投げ飛ばされていた。まぁ、後半ぐらいからは逃げられていたんだけれど、今はちょっと違和感を感じてしまって油断した隙をつかれてしまった。

    「いっててて…」
    「大丈夫か?」
    「モーマンタイです!」

    禪院真希先輩を筆頭に、おにぎりの具で語彙を絞って会話している狗巻棘先輩とか、突然変異のパンダ先輩。あとは乙骨先輩がいるらしいけれど、会ったことないので割愛。特級らしい。
    先輩達の身のこなし方が綺麗だなっなんて思いながら、受身を取ったら直ぐに立ち上がる練習をしていた。
    そんな中、喉が乾いたということで先輩たちの分の飲み物と一緒に自分たちの飲み物を買いに自販機へと向かえば、見知らぬ人影が2人、立っていた。

    「…誰?」
    「へぇ?気配には敏感なんだな」
    「真希先輩に似てますね。双子?」
    「…なんでここにいるんですか、禪院先輩」

    ザッ、と私の前に出る伏黒君に首を傾げながら、こちらを品定めするような目で見てくる真希先輩に顔立ちが似ている人に、思わず眉間に皺を寄せた。

    「ははっ、ほんとだ。学長から聞いたけど、アンタ私らに対して悲鳴1つ上げないんだな」
    「上げる必要がないって言いますか、イケメンだなぁ、とは思います」
    「ほほう?」

    その言葉にイカつい男が声を出す。ピリピリするような空気の中、不意に、傍らの男が悠仁のことを口にした。
    言葉一つ一つが気持ち悪くて仕方がなかった。彼の声をもう聞きたくなかった。
    悠仁のことを何も知らない男が、悠仁の外側だけを語る事に、嫌悪した。
    だから、だから

    「私はなにも、悪くない」

    ボソリと呟いた言葉と共に、自身の影が大きく揺らいだ。自分を正当化する言葉は得意だ。相手がどう言おうと、どういう理由であろうと、私の琴戦に触れたのが悪い。

    「私の友達をバカにした。お前はこの瞬間から、私の敵だ」

    ギッ、と睨みつけ、彼の影を捉える。ゆらりと身体を傾かせ、ドプン、と伏黒くんの影から相手の背後の影へと一瞬で飛んで、攻撃を仕掛けた。しかし隣の男がそいつを引っ張り、私の攻撃を躱させる。

    「おっと、短気な女だな」
    「悪い、東堂」

    助かったわ、なんて言った男へ1歩大きく踏み込んで近づく。あぁ、ほんと。

    「最低な気分だ」

    ☆☆☆

    物の壊れる音がする。キュウッ、と瞳孔が開ききった若草色の彼女の瞳が、その怒りを露わにする。禪院真依は繰り広げられる風の応酬に薄皮1枚犠牲にしながら躱すので精一杯だった。
    呪力のコントロールも去ることながら、術式の解釈と、それを補うフィジカルセンス。現在怒りで我を忘れて単調ではあるが、それを抜きにしても威力は倍増だった。

    「おら、逃げんなよ、クズ」
    「言葉使いわるいなぁ。もう少しお淑やかに話せへんの?」

    銃声を鳴らす。中に入っているのはゴム弾だ。問題もない。ただ、九条の攻撃を上手く躱す手立てが見つからずにいるだけ。
    東堂は伏黒と釘崎を相手取っているが、こちらは女ひとり。たった1人に2級術師である自分が押されているのだ。これは真衣にとって予想外でもあった。

    「風影呪法〝纏〟」
    「ぐっ…!」

    ズッ、と影を足に纏い、速さを上げる。一瞬で距離を詰め、頭を掴んで地面に投げ落とす。ジャリジャリとした砂が男の顔を嬲った。

    「何も知らないくせに、悠仁のことを偉そうに語りやがって…」
    「!?」
    「お前みたいなやつが、お前みたいな、人を人として見ていないやつが、これから生きる呪術師を殺すんだ」

    人殺し。
    ボソリとそう言えば、彼は目を見開いていた。ズルリ、とその隙を縫って自分の影で彼を拘束していく。このままこいつを生かすぐらいなら、そう一瞬頭の中で殺してしまえと言葉が響く。悠仁をバカにした。それだけの理由。それだけでも、私が苛立ちを覚えるのには十分で、それをほかの害虫に知らしめるためにも、ここでいっそ死んでくれないだろうか。
    ぐっ、と影を操っていた左手を握りしめようとした瞬間、あの日嗅いだ花の香りが鼻腔を掠めた。

    「こらこら、あかんよ、ここでこん人殺してもうたらあんさん上から怒られてまうやろ」
    「………どうだろうか。怒られはするけれど、私の友人をこいつはバカにした」
    「そうかぁ。でもそん友人はあんさんが人殺してまで自分を守ってくれ言うん?」
    「…………いわ、ない……」
    「せやろ?」

    ほら、術式解いて、おとなしゅうなろな。
    そう言って目を掌で覆って、深呼吸もせなあかんよ、と口を着く。

    「まだ真衣は子供なんよ。だから許したって?」
    「…私もまだ子供だから、許してくれるなら」

    ええよ、なんて。その言葉を聞いて、纏っていた呪力も、拘束していた術式も解く。力の抜けた私を見て、男はするりと手をどかした。キラリと太陽の光を浴びる金髪を見て、彼の顔を見る。やっぱりイケメンだな、なんて不躾に思えば、お久しゅう、なんて優しく笑うもんだから、思わずこの人こんなキャラだっけ?と首を傾げた。いや、こんなこと言うのもなんだけど(前世の)友人が言うには、クズとゲスを混ぜてできた女の敵って言っていたような気が…。別人か?

    「ふは、なんや、どないしたん」
    「いえ、あの日はありがとうございました」

    おかげで逃げられました。そう言ってお礼をいえばどういたしまして、なんて言って頭を撫でてくる。うぅん、ほんとに友人は何を持ってこの人がクズとゲスを混ぜてできた人間なんて言ったんだろうか。16巻後半を読む前に死んだからなぁ。私にはわっかんね!

    「瑞樹!!!」
    「夏油センセ…。五条センセも。お仕事は?」
    「終わらせてきたんだよ」
    「怪我してない!?大丈夫??」
    「モーマンタイ!」

    ゴキっ、と首を鳴らしてセンセの方へ足を向け、下に転がっている男を見て、腰をおってゆっくりと声を放った。

    「助けが入って良かったですね」
    「は…」

    彼が吹っ飛ばされた時から気づいていた。こちらを観察するような気配。ねっとりとした、品定めをするような感覚。私が人殺しになる前に止めた、この男の、気配。すっ、と体を起こしてふと彼の方へと向き直る。

    「そう言えば直哉さんってことしか知らないですけど、なんて呼べばいいですか?」
    「そのまま直哉って呼んでええよ」

    ニッコリと笑ってそう言った彼に、こちらもニッコリと笑って、それじゃぁ、直哉さんって呼びますね、と声を出した。

    ☆☆☆

    「相手高校、ヤバめですね」
    「どうしたんだい?」
    「あの男…あぁ、真希さんの双子の方ですね。全弾私にしっかり打ち込んで来ましたよ」

    避けましたけど。そう言ってゆったりと笑った彼女に、五条はへぇ、と声を出した。

    「分かっちゃった?」
    「相手のテリトリー内で出来ることは決まっていますからね。加えて私は貴重な女。なるべく傷物にするなって言うお言葉があったのかな。最後はそれすら忘れて思わず脳天狙ってしまったせいで集中力が切れてしまっていたのでそこを狙わせて貰いましたけど、いやぁ…」

    すごいですねぇ、なんて呑気に普段見せない悪どい顔をしながら、九条は声を出した。この場面を見たら恐らく悠仁は卒倒するだろうな、と五条は呑気にそう思った。悠仁のそばに居続けたからこそ、彼女は怒りを覚えたのだろう。

    「もう無茶はしないでよ…?」
    「あー、どうでしょう。あちら側が私の琴戦に触れなければ、なんとも。ただ、今現在あの男とは仲良くなれなさそうって感じですね」

    まぁ、別にいいですけど、なんて言いながらため息を吐いた九条に、五条は優しく頭を撫でた。

    「君が憂いている全てを取り除く、なんてことは僕たちには出来ない。けれど、君が上に来れば来るほど、発言力も大きくなる。酷かな、って思っていたけれど、そうも言ってられないみたいだし、ちょっと頑張ってみる?」

    昇級試験。
    ゆっくりとそう言った五条を見て、背中を押してくる夏油を九条は見た。

    「私は賛成するよ。君と、悠仁が現時点で〝幸せ〟になれる方法なんて、それしかないからね」
    「面倒な世界ですね…」

    まぁね。困ったようにそう返事を返した五条を見て、九条はため息を吐いた。
    宿儺と対戦し、生き残ったことで九条は4級から3級へと進級していた。現時点、宿儺の指三本分の戦闘力を有していると聞いて上は彼女に虎杖悠仁の処刑を任せる可能性もあり、五条も夏油もあまり昇級には賛成ではなかったけれど、今回の件で既に2級術師である禪院真衣を凌ぐ強さを確立していると上にも、面倒な男にも知られてしまったのだ。もう後戻りも出来ないだろう。
    嫌がらせ(京都の学園長を煽ること)なんてしてないで、彼女のそばにいてやれば良かった、なんて後悔したが、先立たず。こればっかりは仕方がないだろう。

    「瑞樹は術式の解釈が独特だけれど、それを差し引いても強いと思うよ」
    「あ、それ僕も思った。何を考えて術式を使っているのか聞いてもいい?」
    「特にこれといっては…ただ、役に立つだろうな、っていうのを想像しているだけですし…」

    まぁ、実際に言うなら思い浮かべている、と言うぐらいだ。羽があれば便利だとは思ったけれど、それは手に入らないだろうし。

    「うーん、どれぐらい頑張ればいいですか?」
    「そうだなぁ…」
    「死ぬ気で北から南まで休みなく走るなら、特級かな」
    「死にたくないので優しくして貰ってもいいですかwww」

    ☆☆☆

    「ちょっと、瑞樹。最近どうしたんだよ」
    「うぇ?」
    「一緒に任務に行くことも無くなってるだろ」
    「あ、あー…」

    まぁ、ちょっと理由があって、と九条は困ったように言った。あの日から約一か月。九条は近場を中心に2級から1級の任務に就いていた。実際、特級の呪術師が二人いる時点で遠出しなくても良かったし、夏油が一級から特級までを取り込むために色んな任務を請け負っているので、瑞樹個人からしてみればそこまで死ぬ思いもしていない。杞憂だったな、なんて呑気に思いながら、野薔薇に昇級試験受けてる途中なんだ、と言葉を投げた。

    「は?」
    「ほら、私宿儺と闘って生きて帰ってこれたから、三級に上がったんだけど、ついこの間、二級術師の禪院真衣くんとバトった時に二級術師相手でもやりあえるってバレちゃってさ。だからちょっと無理して昇級してる」
    「ちゃんと休めてンのか?」
    「まぁ、実際は軽い任務しかもらってないし」
    「ふゥン?」

    ちら、と私の後ろへと視線を向けて再度私の方へと視線を戻した野薔薇に、首を傾げれば、負けないように頑張るわ、なんて言って頭を撫でてきた。

    「ぐぅ…イケメンめッ」
    「アッハッハッハ!よしよーし。今度買い物付き合ってやるよ」
    「マ??めっちゃ助かる~!」

    買いたい服とかいっぱいあるんだよ~!なんて笑って言えば、そろそろ夏だしな、なんて。オシャンティーな野薔薇君に任せればカッコよくも、可愛くもしてくれるって知ってるんやで!

    「てかあんた他の人とも買い物に行ってるじゃない?私でいいわけ?アンタの後ろの二人とかも、ついていきたそうにしてるけど」
    「…………自分の知らない服がさ、買い物に行くたびに増える私の気持ち、わかる?」
    「は?」
    「センセ達と一緒に買い物に行くとさ、一つの店に入るたびに知らない服が増えるんだよ…ついでに自分の服なのに財布を使わせてくれない」
    「こわ…」
    「ホンそれなァ~~~~!!!!」

    だから一緒に買い物に行きたくない。真顔でそういえば可哀想な顔された。良いんだよ別に。私だって逆の立場だったらそんな顔してる。

    「荷物持ちすら出来ないって男としてどうなんだよ」
    「出来ないっていうかさせられないってやつだよ…。たとえイケメンでも女子コーナーのジェラピケを平気で買える人間にはなりたくない」
    「アンタが手懐けた最強だろ、どうにかしろよ」
    「既に手遅れですね」

    ハハッ、なんて言いながらため息をついて頭を抱える。なんでこうなったんだ、って話だわ。気づいたら両隣に最強、ってなってた。どこに行くにしても、五条センセか、夏油センセの近くにいる。別に嫌ではないけれど、180センチ越えの二人を従えてると首が痛くなる。こう見えても168もある身長だが、あの二人には無意味だ。圧倒的身長差。泣きたくなりますね???

    「個人的に、財布出されても困るんだよね。私の服だし」
    「有難迷惑ってやつか。アンタもう少し強く出ても良いんじゃねぇの?」
    「出れると思う?あの二人に」
    「ウケるwww」

    まぁそんな会話をしたのが大体一か月前。悠仁と映画観賞したり、任務行ったり、野薔薇様と買い物したり、任務行ったり、伏黒くんと買い物したり、任務行ったり、任務行ったりしながら、とうとう最終試験。全部で8県をまたいだ呪霊狩り。引率は今回一級案件も含まれるそうなので、夏油センセについてきてもらうことになっている。引率は公平にじゃんけんで決められた。18連続の相子の後、勝者が決まった瞬間はテンション上がった。一種の試合だった。冷静になるとじゃんけんでなぜあんなに白熱した試合になったのかわからないけど。まぁ、地獄だなんだと言っていたけれど、予定していた日程を3日ほど残して終了。案外簡単に終わってしまったなぁ、なんて思いながら新幹線の個室内で駅構内で買った駅弁を食べる。

    「そういえば瑞樹に聞きたいことがあったんだよ」
    「なんですか?好きな食べ物は豚バラと豚骨ラーメンで嫌いな食べ物は梅干しの私に言えることなら!」
    「チョイスが濃いね…」
    「えへへ…それで?なんです?」
    「瑞樹は確か九州出身だったよね?」
    「あ、はい。結構ド田舎ですけど」
    「犬鳴と田原は、しっているかな?」
    「現時点総合で死者数85、行方不明者数が未明の所ですよね?それがどうしたんですか?」
    「明日、私と悟と一緒にそこに行くよ」
    「…あそこ噂が噂を呼んでやべぇことになってるところですよね?今まで術師の介入がなかったと思うんですけれども…。」

    はて、今まで黒服の男を見たことがあっただろうか?ぼんやりと首を傾げれば、もう現時点で京都校が手を付けられなくなったから放置していたらしい。それが私に回ってきた、と

    「こんなこと聞くのもなんですけれど、なんで私です?この任務、間違いなく特級案件ですよね?」
    「あれ?言わなかった?瑞樹今特級の昇級に挑んでるんだよ?」
    「待って!!!!!」

    そういうの本人の意思とか必要でしょう!?なんて言えば、上の怪しい動きが如実に出始めているから今のうちに一気に昇級した方が早いらしい。面倒だなぁ、なんて言えば、今回を逃すとまだ面倒なことになるらしいので頑張るけれど…。

    「その前に一級試験受けてない気がするんですが…?」
    「え!?受けたよ!!昨日の単独任務やったでしょ?あれで無傷で帰ってきたから瑞樹もう一級だからね!?」
    「え!?アレ二級じゃなかったんですか!?」
    「違うよ!?」

    色々と規格外だなぁ、なんてちょっと困ったように笑ってきた夏油センセを横目にすみませんねぇ、と声を上げた。

    「ん?でも特級任務はしなくてもいいんじゃないです?私推薦もらえませんよね?」
    「特級は特殊なんだよ」
    「ほぅ?」

    どんなふうに?と聞けば、イカれ具合が他よりもすごいとか色々ふり幅があるらしい。まぁ確かに九十九さんは海外にいるだけで何もしないし、五条センセも御三家という割には自由奔放。夏油センセも結構好き勝手しているし、乙骨先輩は知らないけれど、ロッカーに同級生五人を詰め込んだり、婚約者を呪霊にしたイカレた男だってパンダ先輩言ってたな…。こう考えると特級やべぇな。

    「私特級無理じゃないですか?」
    「大丈夫だよ。それに特級相手にどこまでやれるか、っていうのも視たいんだ。君の今の状態から行くと、宿儺の指5本分まではギリギリ無傷で勝てそうだからね。でも今回の場所は強い呪霊がいるのは確実だからね、君の実力を測るために、今回は完全に祓うところまで行こうか」
    「心霊スポットと噂で倍ドン、さらに言えば都市伝説も加わってるから余計にしんどいやつじゃないですか…」
    「頑張ろうね」

    ふふ、と小さく笑った夏油センセを見て、はぁい、と気の抜ける返事を返す。できる所までは頑張るかな、なんて呑気に決心して、頭をかいた。




    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🇱🇴🇻🇪💴💴💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    h‘|ッЛ

    PAST風間トオルがデレないと出れない部屋

    ⚠️アテンション
    ・未来パロ(17歳、高2)
    ・しん風
    ・中学から付き合ってるしん風
    ・以前高1の頃○○しないと出れない部屋にて初体験は終えている。(いつか書くし描く)
    ・部屋は意志を持ってます
    ・部屋目線メイン
    ・ほぼ会話文

    ・過去にTwitterにて投稿済のもの+α
    『風間トオルがデレないと出れない部屋』

    kz「...」
    sn「...oh......寒っ...」
    kz「...お前、ダジャレって思ったろ...」
    sn「ヤレヤレ...ほんとセンスの塊もないですなぁ」
    kz「それを言うなら、センスの欠片もない、だろ!」
    sn「そーともゆーハウアーユ〜」
    kz「はぁ...前の部屋は最悪な課題だったけど、今回のは簡単だな、さっさと出よう...」

    sn「.........え???;」

    kz「なんだよその目は(睨✧︎)」

    sn「風間くんがデレるなんて、ベンチがひっくり返ってもありえないゾ...」
    kz「それを言うなら、天地がひっくり返ってもありえない!...って、そんなわけないだろ!!ボクだってな!やればできるんだよ!」

    sn「えぇ...;」

    kz「(ボクがどれだけアニメで知識を得てると思ってんだ...(ボソッ))」
    kz「...セリフ考える。そこにベッドがあるし座って待ってろよ...、ん?ベッド?」
    sn「ホウホウ、やることはひとつですな」
    kz「やらない」
    sn「オラ何とまでは言ってないゾ?」
    kz「やらない」
    sn「そう言わず〜」
    kz「やら 2442