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    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

    ほぼほぼ現実逃避を出す場所

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    nmhm_genboku

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    拳で殴ればどんな事でも乗り切れる

    ##拳で殴ろうシリーズ

    拳で殴ろうシリーズ今回の主人公(ざっくり)

    九条夏樹(♂)
    (くじょうなつき)

    呼び方(夢主⇔相手)
    花垣武道:タケ⇔なつ
    橘日向:ひなちゃん⇔なつくん
    千堂敦:アツ⇔夏樹
    山岸一司:カズ⇔夏樹
    鈴木マコト:マコ⇔夏樹
    山本タクヤ:たっくん⇔なっつん

    東リべをこよなく愛したトリッパー。
    タケミチが地獄の中を突っ走る度に泣き、ひなちゃんが死ぬ度に血涙を流した男。
    重度の東リべオタクで転生したと知った瞬間、タケミチの幸せのために体力育成していたら、逆行してきたタケミチとばったり会い意気投合。小学、中学と喧嘩にあけくれながら力をつけていく。中学1年時では既に知らない者はいないくらいその界隈では有名になっており、いつも青と黒の色が入った服を着ていること、沸点が高いこと、無表情で喧嘩することから、着いたあだ名が「深海の弾丸」
    毎度この2つ名聞く度にだせぇなって思ってるけど、言わないし言えない。だって2つ名ってあったらカッケーじゃん!っていう心がある。

    前回のあらすじ。
    視線が気になって釣ってたら釣れた

    「でぇ?今までなぁんで俺のことつけまわしてんの?」

    はぁ、とため息をはいて目の前の二人を見る。あの後、走ってちょっとボコって捕まえた彼らを見下ろしながらそう聞けば、チッと舌を打ってこちらを睨むように見上げてくるから、おや?と片間眉を上げる。

    「俺らはお前に用はねぇよ」
    「ココ、ちょっと黙ってろ。九条夏樹。花垣武道に会わせてくれ」
    「あ?」

    ゴツ、と靴音を大きく出して、彼らを見下ろしながらにらみつける。

    「お前らタケに何の用だよ」
    「お前には関係ない」
    「そうそう。まぁ“六桜”の活動にはちっとばかし被害が出るかも知んねぇけど、それでも悪い話じゃねぇって」
    「今“六桜”の活動って言ったな?それに干渉するっていうんなら見逃せない。お前らタケに何言おうとしてんのか、ここで吐け。その内容によっちゃ俺はお前らを海に攫ってもらわなきゃならねぇ」
    「ハッ海底に沈めるってか?」

    出来るもんならやってみろよ、なんていう彼らを見つめる。なんでこうも問題ばっかり出てくるんだろうか。俺が一体何したってんだ。
    はぁ、とため息を吐いて、二人を見る。

    「タケに会って、どうすんの?君らは俺につぶされた。黒龍の居場所はもう無くしたと思ったんだけど?」
    「なくなってねぇ!!勘違いすんな!“あの人”が作ったあのチームを、俺らが潰すなんてぜってぇしねぇ!!」
    「俺はそんなこと聞いてるわけじゃねぇよ」

    その声を聞いた突如。全員息をのんだ。ゆらりと揺れるからだ。花垣武道が言っていた、“潜りすぎている”という言葉を、ここで全員が理解する。

    「面倒ごとは嫌いなんだよ。君らが、タケに会って、何をしたいのか。その内容次第じゃぁ…」

    お前らを沈める。ゆっくりと体を折って、二人と目線を合わせる九条に、ココとイヌピーは息を止めた。真っ暗な深海が、こちらを覗いている。

    「は、なしが、したい」
    「どんな話?」
    「俺たちの、黒龍を継いでくれないか、と話がしたい」
    「あぁ、なるほど」

    わかった。ゆったりと、そう答えた九条から目線を外され、やっと息ができたというように、どっと肺の中に酸素が回る。ごほっ、とせき込みながら、彼を見れば、携帯を取り出しながら、とりあえず話しあう場所はセッティングしてやんよ、と言われ、東卍の連中がはぁ!?と驚いた声を出すが、俺が決めていい内容じゃないから、という。彼らの下につく可能性がある。それを知って、稀咲は待ってくださいと声を上げた。

    「確かに夏樹さんが決めていい内容じゃないですが、タケミチさんが断れなかったらどうするんですか!?」
    「その時は“六桜”から抜けてもらうよ」

    その答えを聞いて、全員は、は、と声を落とした。
    “六桜”から抜ける、それは、関東を取り締まるその席から降りるということ。それを、わざわざこんな奴らのせいで手放すということか。ぞっとしたその答えに、乾も九井も待ってくれと声を上げた。

    「俺たちはそんなことを望んじゃいない!!!」
    「望もうが望まないが、そんなの知らないんだよなぁ。俺らは六人で一つのチーム。下には誰も入れない。それはなんでか知らない奴らが多いから教えておくよ。“花垣武道と、橘日向の幸せ”このために俺らはチームを組んだんだ。そこにタケの心情なんてもんはないよ。お前らがタケを総長として招き入れるなら、俺らはその決断を受け入れてチームを解散する。だって下に人間を入れたらいつ歯向かわれるかわかったもんじゃないし。俺らはいらないって言ってるも一緒だし。“六桜”なんてその時点でもう意味ないでしょう?」

    チームを大きくするのははっきり言ってしまえば“数の有利性”を意味する。けれどそれはそれでどうとも思わない。だってそれが彼らの在り方だから。けれど俺らはそんなのどうでもいい。だって、負けないためのチームを作った。負けないための目標を作った。タケとひなちゃんの幸せのため、なんて俺が掲げているだけのチームの在り方で、実際は別にある。けれど、それを彼らが出来るか、と言われれば、それはそれは長い年月を必要としてしまうだろう。どうしても欲しいなら、その在り方すら捻じ曲げて、俺らを蹴落とす勢いで俺らからタケを奪うしかない。

    「君らのことなんて、俺はどうでもいいんだわ。けれど、お前らがタケを欲するなら、俺らを殺して、奪うぐらいの覚悟がないと意味ないよ」

    関東を制覇する前からずっと動いていたことも、彼らは知らない。見えるものしか興味がないなら、俺らの邪魔をするなよ。小さくそうつぶやかれた言葉は、誰も聞いちゃくれなかった。

    ☆☆☆

    「緊急って言ったから何事かと思ってきてみたら…誰?」
    「九井一君と、乾青宗くん。黒龍の最高幹部かな。九井君は集金とかが得意で、乾君はうでっぷしがある。鉄パイプ使ってくるやつだけど。あと姉がひとりいるかな。確か名前は赤音さん。小学校ン時俺らが助けたあの人だよ」
    「あぁ…あの時の。それで?そのうちの二人がなに?」
    「これ以上は俺口に出来ないから、あとはお前らで話して。とりあえず結果わかったら電話なりメールなりして」
    「あぁ、そういう…了解」

    適当に時間つぶしといて
    そう言って手を振ったタケに頑張れ~と声を投げて喫茶店から出ていく。

    「なっち、ほんとに三人にしていいの?」
    「んぁ?なに、心配してくれてんの?」

    やっさし~なんて言いながら、別にいいよ、と声を出す。いつもそうだ。タケのあの人たらしの部分は俺に持ってないものだから、勧誘も何も全部タケが回っていたし、チームに誘われるのもこれが初めてじゃない。

    「俺が間に入ると話し進まないし、別にいいよ。そういうの俺の管轄じゃない」
    「タケミっちが黒龍を受け入れちゃったらどうすんの?」
    「そんときゃ解散っすね」

    あっさり。この顔はマジだ。なんて不覚にもマイキーは理解した。“六桜”が解散する未来が見えない。今この関東を安全に暮らせるようにしたのは“六桜”が関東を制圧したからで、もし彼らがこの世界から消えたら、いったいどうなるんだろうか。
    目の前の敵を倒すことしか頭にないのに、それ以上に、彼らがしてきた業績を、自分たちができるのだろうか。思わず。マイキーも、ドラケンも、三ツ谷までもが、彼の腕をつかんだ。

    「…なに?」
    「なっち、もし“六桜”解散するなら、俺らの所においでよ」
    「ぜってぇやだ」

    ☆☆☆

    九条夏樹という存在は、まさにこの界隈では天才だといえた。
    オーバーサイズのカーディガンをはためかせ、目の前の男どもを地に沈める姿に、誰もが恐怖と感嘆の声を漏らした。一度見れば、彼のすべてを肯定するしかなく。その姿を見て、美しい魚だと、誰かが言った。

    この世界で泳ぐために生まれ、この世界で生きるために泳ぐ。
    “六桜”というというチームを作ったとき、だれもが一度は彼のもとへと訪れたことがある。美しい魚の威を借りようとするものや、彼の泳ぎに惚れたもの。そういった人間たち全員を、彼ではなく、花垣が追い返して、わずか6人のチームで関東を収めた。

    関東制覇したとき、九条たちは、わずか小学5年だった。
    山岸達4人が適度に相手を潰していく中、九条とタケミチは幹部を倒すために中心部へと乗り込む。彼らのスタイルがそれだった。九条とタケミチから素通りされるのは、いくら我の強い人間であろうとも脳を殴られたような感覚に陥る。

    まるで、雑魚には興味がない、と言われたような感覚に陥るから。それを、そうして手に入れてきた地位に、九条は特に興味がないような感じだった。
    相手を打ち負かした時、どうしても勝ったことを受け入れきれないような、まだ喧嘩を続けたかったというような顔で、その場に佇んでいる。九条は、勝つことに意味を見出すのではなく、喧嘩をすることだけを楽しんでいるような、そんな雰囲気があった。

    だから彼がこの世界から消えることを、誰も想像できなかった。

    「んで?なんて返したの?」
    「あぁ…夏樹に勝てるような強さを持ってから勧誘しに来いって言ったら絶望されたんだけど、お前なにしたの?」
    「ワンノック?あ、でも乾くんは骨外したし、九井君はちょっとオイタがあったから強めに潰した」

    そりゃ泣きそうにもなるわな、なんて言われて首を傾げるしかなかった。因みにタケにはさっきからずっと手を繋いでもらっている。浮上するのが遅くなってしまっているせいだ。

    「タケミっち、今日予定は?ないならそこらへんぶらっと回んね?」
    「あー、今日俺なつのバイクで来たんで、なつに乗っけてもらいます。動けるか?」
    「なぁに、久しぶりに俺とデートしたいの?」
    「はいはい、マイキー君たちとデートしようぜ」

    それデートじゃなくてランデブーだからぁ!なんて。はぁ、とため息を吐いて彼らをみて、鍵、と小さくいう。渡された自分のバイクのカギを見ながら、タケになんで俺のバイクで来たのって聞けば、一番スピードが出るからって言われて笑ったよね。そうだよね、俺のプリンセスちゃん可愛いもんね!!(極論)

    「それにお前、今東卍預かりだから喧嘩してねぇか聞かなきゃだし」
    「信用なくて草。流石に預かられてるところで暴れたりはしねぇわ」

    ケタケタと屈託なく笑いながら、するりと繋いでいた手を離す。今日はちょっとつかれたなぁ、なんて思いながら、ふらふらとバイクへと向かう俺を見て、佐野君が、一回戻ってくるし、タケミっち今日は俺の後ろでいいじゃんって言ったのどうしようって思ったよね。
    人のバイクのケツ乗ったことないタケからしてみたら、ちょっとドキドキってやつ?俺はそも中学上がったときのあっちの筋の人から入学祝でもらったからそれ乗ってるんだよね。お前にはこれが一番似合ってるって言われてカギとバイク渡された時の俺の心境誰かわかる?虚無背負った俺の心。誰か理解できる???

    「なっちはケンチンの後ろね」
    「東卍のトップのケツ乗るとか贅沢だねぇ。乗る乗る。実際今運転するとコケる自信しかねぇわ」
    「その状態で鍵受け取んないで!?」

    あぶな!?なんて言いながらさっさと佐野君のほうへと行くタケを見送って、はぁ、と眉間のしわを親指で伸ばす。

    「(今日は危なかった…)」
    「なっち」
    「んぁ…?」

    ぱち、と視線が合わさって、困ったように笑う彼の手が優しく撫でてくる。ぼんやりとそれを享受していれば、行くぞって言われたから、へぇいと声を出した。

    ☆☆☆

    「もしかしてこれってなっちの?」
    「んぁ?」

    リュウくんのカーディガンの端っこを握りながら、神社を下りれば、自分のバイクの前でうろうろする佐野君たちを見ながら、ついこの間近所の小学生からかっけぇ!って言われているのを思い出して思わず笑った。いや、行動が全部一緒www

    「そうそれ。この間阪泉くんに見てもらったやつね」
    「そう言えばお前が弄った後と、阪泉さんが弄った後じゃエンジン音がめっちゃ違ったんだけどwww」
    「俺のわがままプリンセスちゃんだから」

    まぁかわいいけどそろそろ乗り換えかなぁなんてぼんやり言えば、そういやこれってどうやって手に入れたのかって聞かれてまぁ説明したよね。その筋のおっちゃんからもらったって。そしたらあぁ、って納得されたけど、何に納得したのかわかんねぇわ。

    「…乗る?」
    「え!?」
    「は!?」
    「こいつ俺じゃないやつが乗るの好きだし。俺の場合はちょっと条件?みたいなのがあってさ。そういう時はテンション上げてくれっけど、普通に乗ると不機嫌なんよ。特に今みたいな感じの時はめっちゃ不機嫌で人に乗ってもらったほうがご機嫌になんの」

    だから乗ってもいいよって言えば、タケからそういえばこの子そういうやつだったな、って言われて、俺はうなずく。

    「実際なんでそんなに機嫌が悪く何のかわかんねぇけど」

    乗り方も丁寧にしてるんだけどなぁなんて呟きながら、佐野君にカギを放り投げれば、ほんとにいいの!?って言われるから、そんなに興奮しなくてもって思うよね。まぁ夜の散歩(無免許ノーヘル)は最高に楽しかった。

    ☆☆☆

    「そういえば、彼らにはなんて言って断ったの?」
    「あぁ…目の前のことで手がいっぱいなのに総長なんてできないって言ったかな。最近落ち着いてきているけど、“梵天”が動き出してきたから、もしかしてマイキー君たち危ないかもしれない」
    「あー、また面倒ごとに巻き込まれないといいけど」

    今回は俺ら手ぇ出したほうがいいかもなぁ、なんて言いながら、あくびをもらす。今日、また潜ってしまった自分に悪態をつきながら、ため息を吐く。

    美しい青の塗装がされた自分のバイクのケツに乗りながら、流れる景色をぼんやりとみる。

    「あぁ、そういえばひなの件、落ち着いたよ」
    「そう。結局“あたり”だったかぁ…」
    「まぁ、元愛美愛主の奴だったし、今アッくん達が首謀者を割らせてる。ちょっと手酷くなっちゃうけれど、まぁ仕方ないかなって。あと数日我慢してろよ」

    どうせマイキー君たちのところでもうまく浮上できないことぐらい分かってるからさ、なんて。まぁ、今回俺がひなちゃんを付け狙ってる男を殺しそうになっているから東卍に預けられているだけなんだけれど。

    「どうせ稀咲だろ」
    「可能性が高いのは、だけど、それ以前にどうしてひなを狙うことにしたのかってのが気になるじゃん」

    もしかしたら記憶戻った可能性もあるし、そう言って眉間にしわを寄せるタケに、違うとおもうなぁ、と言葉をつける。

    「おそらく、お前か、俺が今回の稀咲のトリガーだろ」
    「なんで?」
    「稀咲は何となく、俺とお前が“六桜”という少数チームで終わることが気に入らないと思う。あいつの性格上、強いやつを押し上げて、自分を影のように扱う癖があるからな…」
    「あー…」

    なるほどなぁ、なんて言ってバイクを俺んちの前に止める。

    「また後でマイキー君たち来るけど、それまで寝とけよ」

    あとでまた迎えに来る。そういって別れたタケを見送って、俺は自分の家へと入る。ぼんやりと、そういえば今日小テストあったような気がするなぁ、なんて思いながら、どうせ学校行っても先生の話なんてつまらないし、いっか、と自己完結した。

    “六桜”解散まで、あと3話




    星を見上げるのが、好きだった。
    煌びやかに灯る街並みから少し逃げて、山の中に入って見上げる星が好きだった。

    「はぁ…めんど」

    すぅ、と息を吐いて、寒くなってきた冬の空を見上げる。最近、他のチームがうじゃうじゃと湧いている。俺らじゃ捌ききれないほど、多く。

    アツやカズ達に頼んでいた見回りに、“梵天”の連中が出てくるようになった。現時点、ここに山積みになってるやつらも“梵天”。原作で言うと、稀咲が銃を持ち出したあのシーンを思い浮かべる。

    「星は歌うよファンファーレ。君とみていた夜の空。恋を奏でるにはまだ早く、僕は君と踊っていたい…」

    この世界で聞いた最初の曲。今あのバンドはどうしてるかなぁ、なんて思いながら、肺を汚してはぁ、と大きく息を吐いた。白く浮かぶそれが、タバコの煙なのか、それとも冬特有の白煙なのか。どちらかなんて分かりゃしなかった。

    「あぁ…エマちゃん、守んなきゃ…」

    ゆら、と浮上しにくいこの季節。体を揺らしながら山を降りる。俺は今日、何を見にあの山に行ったのだろうか。わからなくなった。

    ☆☆☆

    「ずっと考えて、決めたことがある」
    「俺も」

    コツ、コツ、コツ。ゆっくりとある地下への階段を降りて、扉を開ける。ついこの間、元愛美愛主の人間がひなちゃんを狙って俺らに捕まった。その首謀者は実際は半間とか、稀咲じゃなくて、まぁ、別のやつだったんだけど、それでも。それでも俺らは、彼を痛めつけたから、それなりに相手の親には頭を下げて、それなりの罵倒を貰って、ここに来ている。

    ガチャ、と重たい扉の先。アツたちがテーブルを囲んでこちらを見て、ため息をついてそれで?と聞いてきた。

    「“東卍”と“天竺”がぶつかる。その前にちょっと色々と阻止しなきゃなんねぇことが多い」
    「聞いたよ。“天竺”のヤロー共が喧嘩売ってんのに夜襲してんだろ?」
    「“東卍”が正々堂々と喧嘩買ってるからなぁ…今回俺らで“天竺”潰した方が早くね?」
    「まぁ、こんなこと言ったらなんだけど、俺らも俺らで敵襲受ける可能性あるけどな」

    それな〜なんて言ってる中、遅れてやってきたマコが扉を開けながら、“東卍”と“天竺”の抗争の日が分かったと言ってきた。つーかこいつほんとに情報掴むの早くなったよなぁ、なんて思いながら、いつ?と聞けば、原作通り2月22日。エマちゃんの、命日。

    「俺は、“天竺”のやり方が嫌いだ」
    「同じく」
    「異議なし」
    「まー、敵襲、夜襲当たり前って感じだしなァ。俺も無理」
    「文句なーし」
    「同じく」

    全員が手を挙げ、俺とタケを見て、にっと笑う。

    「それじゃぁ、“東卍”側の人間を護る、ということで。タケは今回の件があるからひなちゃん護ってて。悪いがアツたちには東卍の三ツ谷、河田兄、林田、場地の4人。俺は…佐野エマを護る」

    潰されねぇようにしろ、そう言って全員が頷いたのを確認して、解散する。
    さぁ、原作最後の抗争だ。

    ☆☆☆

    「やぁ、奇遇だね」

    ふわりと空から降りてきた魚に、その場にいた全員が息を飲んだ。
    道端で三ツ谷に仕立てられた服を着て、蒼のバンカラマントをはためかせ、睨む両者の前に出てきたのは、九条だった。右には“天竺”のトップ“黒川イザナ”、左には“東卍”の“佐野万次郎”と、“龍宮寺堅”、“乾青宗”と、今回の護り人“佐野エマ”いう布陣である。

    「君が黒川イザナくんか。お初に。俺は九条夏樹。ちょっとここでの闘いはご法度として中間に入らせて貰うよ」
    「へぇ?“六桜”から口を挟まれるなんて光栄だね。1戦どう?」
    「悪いけれど君には興味ないんだよね。ただやり方ってのが俺らが敷いたルールに乗っ取ってないから口を挟んでるだけ。この関東でのご法度ってのは理解してるかな?」
    「さぁ?俺ムショに入ってからわかんねぇわ」

    不敵な笑みをそう言って浮かべる彼を見て、ため息を吐いた。知ってる顔だわ、これ。めんどくせぇなぁ、なんて思いながら、そうか、と声を出す。

    「パンピーに手を挙げるのも、武器を手にするのもご法度。これを破った場合、如何なる理由があろうとも…俺らが潰す」

    兄弟喧嘩を邪魔されたくなかったら大人しく拳でやりあった方が懸命だよ。ゆったりと笑ってそう言えば、へぇ?と片眉を上げてじゃぁさぁ、と声を出す。

    「その女も、パンピー?」

    その声と共に、ウォンッ、とバイクの音がして、こちらへと走ってくるのを確認して、俺は一瞬でエマちゃんとその場を離れた。振りかざされたバットは空を切り、ポケットに忍ばせていた石を運転している男のハンドルを握る手を狙って穿ち、そのせいで盛大にずっこけたのを横目に、パンピーだろ、と声を上げた。

    「惜しかったでちゅね〜。なぁに?俺がここに来るまでに泳いでなかったとでも?」
    「………」
    「ってっめぇ!!!」
    「おら、そこストップ。手ぇ出すな」

    ったく、めんどくせぇなんて舌打ちしながらお姫様抱っこしていたエマちゃんを下ろし、息を吐く。濁る白煙が、口から薄く飛び出て、眉間のシワを親指で伸ばした。

    「君らの獲物だってのはわかってる。わかってるけど、腹立つなぁ…」

    ちょっと痛い目見る?なんて光のない深淵が除くその顔を見て、イザナはひゅう、と息を飲んだ。深淵が、こちらをじっと、覗いている。

    「ごめんなさい…」
    「なんだ、謝れんじゃん」

    分かればいいよ、なんて言ってエマちゃんにバンカラマントを羽織らせ、今日はもうお出かけしたらダメだよ、と釘を指しておく。俺のその言葉にこくりと頷いて佐野くんたちの方へと帰って行ったのを見て、パンッ、と手を叩く。

    「この場のいざこざは今ここで俺が預かった。イザナ、お前抗争で武器持ってきた時点で俺がお前らを喰い殺すから」

    覚悟してこいよ、そう言って翻す。彼の特攻服の肩紐が、揺らめいて、倒れて身動きの取れない奴らを回収させるために救急車を呼び、それじゃぁ、お前らさっさと帰れよ、なんて面倒臭そうに言った

    ☆☆☆

    海の底を今日はずっと泳いでる。ピリピリとした空気をまといながら、今日を迎える。別にこれといってどうしようとか、そういう理由はないけれど、それでも彼らを野放しには出来なくて、今日だけは、いつもは野次とかしている俺らが、しっかりと“六桜”として君臨している。

    廃コンテナの上。仕切りをしている訳では無いが、彼らを見下ろして、何も無い抗争で終わるようにと今日を願う。

    「マイキー」
    「分かってるよ。なっち達がいるってことでしょ?俺らは拳だ。旗持ちのアレはなっち達の間では許されてる」
    「ならいい」

    武器は使うな。拳で殴れ。彼らが出てきて、数多くの抗争の中で、ずっとこれだけは言われている言葉。

    素手で適わないからと言って、武器を使ってでも負けを認められないなら、それはオトコじゃない。
    その言葉通り、“六桜”はチームを結成する前の奴らでも、武器を1度たりとも使ったことは無かった。どんなに相手が刃物を使って立ち塞ごうとも、拳銃をブッ放そうとも、彼らは彼らの心情を曲げることなど1度も無かった。

    カッコイイと、その姿がいつの世にか憧れに抱かれ始めた頃、彼らは関東制圧を可能にした。治安が、彼らがその玉座に着いた瞬間、良くなったのを、マイキー達は覚えている。わずか小学生の6人が成し遂げたその偉業。

    彼らに歯向かう者なんていないから、“関東を仕切るチーム”として俺らのちっちゃな理由で争うこんな争いごとに、顔を出すのは極めて珍しい。けれど、相手があの“天竺”なら、理由は着くだろう。特に灰谷兄弟…

    「灰谷蘭!!お前今日棍棒使ったら腕おるから覚悟しろ!!」
    「メリケンサックは武器に入りますか!!」
    「入りません!」

    入んねぇんだ!?なんて基準がわかんないけど、まぁ、メリケンサックよくあるしな、なんてちょっと時代錯誤だな、と思いながら、全員が拳で対峙するなんて、このご時世稀にない。

    ドキドキと心臓が震えて、武者震いが起きる。九条達がよく言っていたのが、何となく、わかる気がした。

    “拳で殴れば大抵どんな事があっても乗り切れるんだわ”

    なんて。
    魁戦から始まるそれは、とても心が踊るだろうが、今回はペーやんがその選手。

    「ペーやん!行ってこい!」
    「パーちん任せとけ!」

    相手は斑目獅音。あんまいい思い出ねぇなぁ、なんて思いながら、九条とタケミチはぐっ、と眉間に皺を寄せた。

    「ごめん、タケ。1発KOだわ」
    「ペーやんくん腕っ節強いからなぁ…あれ完全に舐め腐ってるじゃん…」

    それでいいのか元総長。はぁ、とため息をついて今回面白みねぇかも、と呟く。
    楽しむな。

    「俺の情報によるとペーやんさんパーちんさんより腕っ節強いってあるわ」
    「細いから舐めてんだろうなぁ…俺あーいうやつの下に着きたくねぇ〜…」
    「実際斑目っち色々やりすぎて俺らに骨折られるは関節外されるはでちょっと苦い過去あるくせにその後マイキーくん達にフルボッコさせられてたよね。こんな事言うのもなんだけど、あの後真一郎くんにもお説教されたって知ってる?」
    「なにそれ初耳。めっちゃウケんだけどww」
    「なっちー!!それ後で教えてー!!!」
    「いいともー!」

    緊張感よこせ!!なんてちょっと恥ずかしそうに吠える斑目っちには申し訳ないけどマッジで怖くねぇんだよな。スマソ

    「俺が東卍潰す」
    「さっきっからよォ!!!」

    ゴツ、と額どうしをくっつけた斑目っちを無視してゴパッ!と拳を殴りつけた林くん!ひゅー!サイコー!!

    「さぁて。どうなるかなぁ…」
    「なつ。何時でも降りれるように準備してて」
    「大丈夫。今日は浮上してないから」

    そっか。そう言って空を見上げるタケにつられて、俺も見る。今日は、雪が降ると言っていた。

    「海氷は得意じゃないだろ」
    「んー、でも仕方ないよ。誰かが武器を忍ばせてる匂いがする」

    すんっ、と鼻をすする。忍ばせているのは誰かが、というのがちょっとこの場では分からないが、5秒あればどこにでも行けるように場所は取ってある。
    俺が先か、相手が武器を振るうのが先か。わずかコンマを争うだろうが、拳で殺り合う場所に不純物は必要ない。

    「なつ。もう少し、潜ってろ」
    「はぁい」

    パシャンッ。海を泳ぐ魚が跳ねて海底へと潜る。死なせない。誰一人として。
    この場で死ぬ予定なのは、黒川イザナと稀咲鉄太。稀咲はまぁ色々ありすぎて複雑だけれど、今世で彼は橘日向を諦めているから、助ける対象で、俺らの監査対象でもある。

    ここで武器を持っているであろう人物が、武藤か、稀咲か、半間か。

    「あぁ、やばい…」

    今日はちょっと、浮上するのが難しいかもしれない。じんわりと背中を伝う冷や汗が、俺らの最後を予言している。


    “六桜”解散まで、あと2話




    いつの時代だって、拳で語り合ってきた。それは、転生する前から、変わらない。だから、こればっかりは許せないってやつで。

    「俺らの監視下で良くも武器使いやがったなクソ野郎」

    その言葉と共に、ドンッ、と勢いよく魚が泳いだ。

    ☆☆☆

    “天竺”400人相手に“東卍”300人弱。1.5倍ほど違うのに、その差は拮抗していて、若干東卍が有利になっていた。まぁ、原作でも“無敵のマイキー”っていわれるほどだからなぁ、なんて思いながら、俺らは静かに観戦する。端から端まで。卑怯とばせられる事が無いように。

    「(実際ここまでちゃんと救済していたとしても、彼らが死なないという保証はない。東卍が解散しない限り、これは現実的であり、必然的であるのは仕方ないこと)ん、タケ、稀咲は?」
    「前線」
    「今回武器持ってる可能性あるのってムーチョと稀咲と半間だっけ?」
    「半間はどうだろ。稀咲が“白”なら間違いなく“白”なんだけどなぁ…」

    あの二人はニコイチみたいなところがあるから。そう言ってじっと彼らを見る。
    “愛美愛主”、“芭流覇羅”、“黒龍”の3つのチームを飲み込んでデカくなった“東卍”は、それなりに強く逞しい。

    みんな各個撃破で望んでいる。見ていて清々しいなぁ、なんて思いながら、しっかりとマイキーくんVS黒川イザナの戦闘に目線をかすませ、他を見る。

    「いーなー。俺らもまざりてぇ〜」
    「こういうでっけぇ抗争、俺らが関東のトップになってから全然ねぇもんな…」

    最近雑魚ばっかで飽きてる。なんて言いながら頬杖を付く4人に、まぁ、多分だけど乱闘するよ、なんて言っておく。

    「なつが武器を誰かが持っているって言ってるからさ、見つけ次第排除ってやつ」
    「なるほど。だから俺らに特服着て来いって言ったんだな」
    「“六桜”として正式に潰すからね」

    すぅっと目を細めながらそう言えば、了解って全員が警戒態勢を維持しながら喧嘩に集中する。

    「こんなこと言っちゃぁなんだけど、九井一はなんで“天竺”に行ったか知ってる?」
    「乾赤音が原因だってのは、聞いてる」
    「なァる」

    そら逆らえんわな、なんて言いながら、ぼんやりと見る。まだ、武器は出ていない。

    ☆☆☆

    風で揺れるバンカラマント。それに呼応するように同じく揺れるタケの長ラン。原作のようにはならないこの世界で、人を死に至らしめる武器を使わせないように治安を整理するのは少しだけ、骨が折れた。けれど、その理想はずっとは続かない。いつだって自分の理想の元に人は生きているし、いつだって自分の理屈だけで人は生きている。そうしてできた黒く濁ったそれは、酷く容易く、壊してくるんだ。

    「あ」

    アングリーが、泣いた。
    スマイリーが驚愕の顔をする。灰谷兄弟に嬲られて、八戒くんがボコ殴りにされているのを見て我慢できなかったようで。

    「あーあ」
    「つーか蘭くんマジでメリケンサック使ってて草」
    「お前がいいって言ったからだろ」

    メリケンサックは武器になんねぇもん。そう言ってうっすら笑う九条に、タケミチはまぁ、そうだけどさぁ、と声を出す。スルスルと四天王と呼ばれる奴らを倒していくその姿には感心する。あの力は火事場のクソ力ってやつかなー、なんて思っていれば、起き上がったムーチョくんが、懐からドスを取り出したのを皮切りに、俺ら全員が抗争に乱闘した。

    「が、はっ…」
    「まぁじで油断ならねぇなぁ、ほんと」

    パキョッ、と肩関節を外す音が、広がって、佐野くんたちがこちらへと視線を移す頃には“天竺”の下っ端は地に伏していた。

    「水を差して悪ぃが、武器を手に取った。この時点でお前らの抗争は終わりだ」
    「ごめんね、マイキーくん。でも、イザナくんにもしっかりと忠告はしていたはずだから、見逃す訳にはいかない」
    「わりーな」
    「残り150ぐらい?お前らには悪いがそれなりに罰は受けてもらわねぇと」
    「ごめんなー。恨むなら夏樹にしっかり忠告されてたのに武器持った奴恨んでな〜」
    「まぁ、ドンマイ」

    ゆらり。揺れるからだを抑えて、彼らを見る。周りはアツたちがやるからいいとして、あとはカクチョーと黒川イザナ。

    「九条は俺がやる」
    「カクチョー、お前は俺の殺戮兵器だ。負けるんじゃねぇぞ」

    こうなることは予測していた。彼らは強さを求めている。俺らを倒せば、彼らは実質関東だけじゃなく日本を支配することも出来るから。でも、それは、この世界において、“正しくない”話

    「タケ、ごめん」
    「いいよ。お前は優しいやつだから、こうなることは何となく分かってた」

    コツ、とお互い額を合わせる。俺の体温をゆっくりとタケに渡して、ゆっくりと目を開く。深く静かな海底が、俺の思考を飲み込んで、あの浅瀬のように美しい青の瞳へと帰りたがっている。

    「始めようか」
    「先に言っておきます。腕、おられる覚悟はしておいて下さい」

    ザッ、と姿勢を低くする九条と、拳を構えるタケミチ。ピリピリとした空気を察してか、誰も動けなかった。
    そんな静寂の中、飛び出したのは、カクチョーからだった。

    その姿を見て、グッ、と足に力を加え、飛び出したのは九条だった。低く放たれた弾丸のような体は、蹴りあげられる足を踏み台に大きく飛ぶ。ゆら、と揺らめくバンカラマントが、あっさりと背後を取られたことを意味していた。そうしてとった背後が攻守交替の合図。今度は九条がカクチョーのこめかみ目掛けて蹴り上げる。それをカクチョーは腰を落とすことで避け、振り向きながら後ろの九条に向かって拳を突き上げる。その動作を利用するための蹴りあげだと、九条は嘲笑うかのように腕を掴み、伸ばされた腕の上へと一気に着地し体重をかけ、彼の腕を無理やりへし折った。バキッ、と軽々しく、まるで木を折るかのように無表情で行われたその行為に、全員が息を飲む。
    ぐらりと痛みでぐらついた身体に、掌底打ちをかまし、バランスを崩して倒れそうなカクチョーの頭部を蹴り倒す。
    ドサッ、と倒れ、動かない彼の腹に向かって、蹴りを加え、浮いた体にもう1発蹴りを加える。

    “嬲る”と言った方が正しいだろうそのやり方に、その場にいる全員が息を飲み、タケミチが、九条の名前をのったりと呼んだことで、蹂躙は止んだ。

    「なつ、やりすぎ」
    「ん」

    コツ、と靴音を響かせ体を揺らす。実に滑稽で、呆気ない。じり、と“天竺”の彼らが一歩後退する中、パァンッ、とかわいた発砲音が静寂の空に響いた。

    ☆☆☆

    稀咲は確信している。ここだ、とあの、他者を痛ぶるその姿こそ、あの日自分が見た、“海底の魚”だった。息をするのも苦しくて、恐怖でその場を支配するその姿に、幾年月を夢見たことか。

    震える手で稀咲はタケミチへと照準を合わせる。美しく、綺麗なあの深海をずっと維持させるには、トリガーである“花垣武道”が稀咲にとって唯一の、邪魔者だったに違いない。

    かわいた発砲音。こちらを見開くように見る、大きな深海。その姿を見て、あぁ、俺は、彼に殺されたかったのかもしれないと、不意に思った。

    「稀咲ィィイ!!!!」

    叫ぶ深海が、こちらへと走ってくる。仕留めるよう撃った弾は躱され、足が鉛のように重たくなったその、一瞬。俺は意識を弾き飛ばされた。

    「あ、あぁっ…」

    ぽたぽたと意味の無い涙が零れる。邪魔だった。全員が、この場にいる全員が、邪魔だった。俺と、タケが2人で頑張ってやってきたこと全部、無駄になる。俺ら不良の間で、死者を出さない。どんな事があっても生きる。ドクドクと肩から流れるタケの血が、地面を汚す。

    「あ…」

    プツッ、と握ってた糸が、切れた音がした。

    ☆☆☆

    花垣武道は、自分がこうなることを何となく、理解していた。理解していたから、少し対策をしていたし、それで死ぬんだったらまぁ、仕方ないな、ぐらいだった。
    そんなうっすらと落とした意識の奥で、小さな子供か泣いているような、そんな声が聞こえた。

    「逃げろ!お前ら!!固まるな!!」
    「マイキー!逃げろ!グッ…」
    「イザナァ!!!」

    魚が、深淵を引き連れて泳ぐ。
    その場にいた約300人程の人間は、呆気なく倒れて、立っているのは半間とドラケン、マイキーとイザナだけだった。美しく、それでいて雄々しく繰り広げられた、“殺戮”のような、“無差別”な“蹂躙”。
    いつも花垣武道が抑え込ませていたその凶悪さが、今目の前に居る。敵も味方も関係なく嬲り、全員があと一歩、間違えれば死ぬ手前まで来ている。

    「なつ…」
    「タケミチ!?おい、生きてっか!?」
    「夏樹!!タケミチ!生きてる!!起きろ!!夏樹!!!」
    「無理だ…あいつマジで沈んでる…」
    「聞けよ!!俺らの声!!聞けよ夏樹!!!」

    ゆらゆらと揺れる身体が美しいと誰かが言った。靡くカーディガンが、魚のヒレのようで、美しい、と。
    けれど、九条夏樹という人間は、人より優れた喧嘩技術を持っていて、この大きな大きな海を自由に泳ぐ事が、生きている証だった。目の前の魚を仕留めなくてはならないのに、こちらはマイキー、イザナの2人で頑張っても全く攻撃を受けてくれない。

    死角から半間が攻撃したが、それか一瞬で意識を刈り取られ、もう立っているものは3人しかいない。海で溺れたものが、恐怖で歯を鳴らす。あのどうしようもない荒波に、抗えなかったあの幼い自分と重ねて、吐いた。

    「ほ、しは、歌うよ、ファンファーレ…」

    か細い声が、静まる戦場に響く。その声に、九条は初めて小さく反応を見せた。ちら、と横を見て座った状態で避難されていたタケが小さく、手を挙げた。

    帰っておいで、と言われている気がした。

    でもどこに?握っていた糸はとうの昔に離してしまった。帰る場所が分からなかった。だから、九条はその姿を見て首を傾げた。彼の声が届かない深淵へと、落ちようと思った。だって、彼の声だけが、深く沈んでも届いたから。
    沈んで、沈んで、彼の声すら届かない世界に行きたかった。この海が、自分にとっての生き場所で、広いと知っているから。

    「チッ、イザナ、なっちを引き上げんぞ!!」
    「言われなくても」

    海底を泳ぐ魚が、2人の攻撃を瞬時に避ける。揺らめくバンカラマントは、深淵のように深く、それでいて美しかった。ドゴッ、と脇腹に拳が入る。それを腕で防御すれば、ピシリと嫌な音を立てて彼の傍から飛ばされる。絶えず攻撃していないと、彼はさらに深くまで潜ってしまう。こちらから放つ拳は避けられ、彼から放たれる拳は穿つようにこちらへと降り注がれる。

    ドラケンは多分この時ほど死を覚悟した事は無いと言うだろう。目の前の魚を、仕留めるには、死と同等の何かを渡さなきゃ、この戦いは終わらないと直感的に感じたから。だからドラケンは目の前の魚を閉じ込める事にした。抱きしめて、その冷え切った身体をどんなことがあっても離さないように、キツく、抱きしめる。暴れる彼を押さえつけながら、彼の名を呼ぶ。

    帰ってこい、と。上ってこい、と。

    無防備な脇腹に拳が入ろうとも、肺近くに掌底打ちを受けようとも、ドラケンは意地でも彼を離さなかった。離したら、もう帰ってこないと分かったから。
    逃げようとする魚を、逃がせなかった。

    「なつ」
    「タケミっち!?」
    「ドラケンくん、ありがとう、ございます。そのまま、捕まえてて、ください」

    コツ、と顔を横向かせて、自分に目線を向けさせる。びっくりした子どものように、大きく目を見開いて、タケミチを見つめる九条に、タケミチはゆっくりと言葉を吐いた。

    「帰っておいで、なつ」
    「ぅ、アァ……ッ!!!」
    「手を伸ばして。大丈夫。お前が手放した糸は、ちゃんとそこにあるから」

    だから帰っておいで。痛いのに、涙で濡れたその顔をそのままに、青い瞳を見せながら、彼を呼ぶ。
    ずっと泳いでいたい。でも、あの綺麗な浅瀬にまた帰りたい。
    ひぐっ、と喉がなって、真っ黒な深淵のような瞳に光が戻る。

    ずるりと抜ける力をそのままに、地面に膝を着いた九条に合わせるように、タケミチとドラケンも膝を着く。タケミチを抱きしめ、泣きじゃくる小さい子どもが、九条夏樹という人間だった。

    遠くでパトカーの音がする。
    重軽傷者合わせて700を超えたこの最大の抗争は、誰も死ぬことも捕まることもなく、全て終わりを迎えた。

    そうして、彼らは決意する。

    “六桜”解散まであと1話




    「悪かった」

    そう言って下げられた頭が、途端に彼らの人間性を表しているかに見えた。

    ☆☆☆

    “天竺”対“東卍”の抗争は、“六桜”全員が残り自体を収束させる形で全て幕を降ろした。

    美しく泳いでいたバンカラマントが、彼らを物語る特服が、何故か霞んで見えた。このまま放っておくと、消えてしまいそうな不安が脳裏に掠めて、ドラケン達は何も声を出すことが出来なかった。

    「……今回の原因は、稀咲だ。お前が深く泳いだ事も全部分かってて、あいつは武器を取った。お前らは、何も悪くない」
    「そういう訳にはいかない。俺が潜りすぎた結果、お前らは入院する羽目になってる。自分のケツ拭けねぇやつが、どうこう言えたギリじゃねぇよ」

    悪かった。そう言って静かに頭を下げた九条に、ドラケンは、もういい、と言うしか無かった。

    荒波のように押し寄せ、飲み込んだ彼のあの動きは、立場とか、意地とか、そういうのなど関係の無い、あの場にいた人間等しく、“餌”だと言うような、そんな雰囲気すらあって、恐怖が勝った。
    いつも笑って、バカやっていたあの九条ではなく、“六桜”の、九条夏樹の本性だった。ただ、それだけなんだ。

    「ドラケンくんには特に迷惑かけたね。後遺症とか、そういうのあったら言って。あの時力加減出来てなかったら肺に骨刺さってたでしょ…?」
    「まぁ、あんときゃ必死すぎて痛みなんて二の次だったから別に気にすんなよ。それより、そんな格好して俺らに謝罪しに来ただけってのが腑に落ちねぇ」

    普段のお前らなら、そういうカッコしねぇだろ?なんて言えば、規模がでかかったからさ、と困ったように話す。

    「流石に700人を収容するのは難しくて他の病院にも入院してる奴らもいたからさ。“六桜”としてそれなりに責任感じてんのよ」

    君らが考えているほど事態は重かったんだよね、なんて言ってため息を吐く。実際、あの場でしっかりと立っていられたのは“六桜”だけだった。関東を纏めていたという功績が幸いして逮捕には至らなかったが、それなりに厳重注意を食らったし、活動は一時期停止とされている。

    「マイキーくん達がひとまとめにここに入院してて助かったよ。バラバラだと俺となつだけじゃ行けなかった可能性もあるから」
    「まぁ、俺らの特服がひとつの顔みたいなところもあるから今日は正装ってこと。特に意味もないからさ、そんなに難しい顔しないでよ」

    へら、と2人して笑ったその顔に、ふぅん、と声を出して、それならと全員納得する。

    「つーかお前ら警察に捕まんねぇって何してたらそうなんの?」
    「んー、まぁ、色々。詳しくは言えないんだ。ごめんね」
    「半年ぐらいしてもまだみんなが関東仕切ってるなら、多分言うかもしれないけれど、どうだろ?俺らのやってる事ってある意味グレーゾーンだしなぁ」

    まぁ、いつかは分かるよ
    そう言ってぼんやりと外を眺める九条とタケミチに、マイキーとイザナが検査から帰ってきたのか、騒ぎながら病室へと帰ってくる。仲直りしたようで良かった、なんてちょっと安心しながら、2人の様子を見るタケミチに、九条はそのままぼんやりと外を見続けていた。
    沈んだ先が、より深かったせいで、未だにしっかりと浮上できない九条は、たまに音が鈍く、聞こえなくなっていた。それは、彼が抱く弊害なのか、それとも、もとからなのかは今じゃもう分からない。
    タケミチと九条を目にしたあと、イザナとマイキーはぱっ、と笑顔を見せ、彼らの名前を呼ぶ。

    「お久しぶりです。お怪我の具合はどうですか?」
    「タケミっちに比べたら100倍マシじゃね?」
    「骨折で済んだのは奇跡だなんだって医者から言われててくっそ笑うわ」

    カクチョーも先日からリハビリに回ってるよ、なんて言ったイザナに、それは良かったです、とタケミチが笑う。

    「なっち」
    「…はい?」
    「まだ軽く潜ったままだけど、戻れそう?」
    「夏になればしっかりと戻りますよ。そう言えば、そろそろ退院でしたっけ、おめでとうございます」

    その節は申し訳ございません、そう言って腰を折った九条に、イザナはこれぐらいでグチグチ言わねぇから頭上げろ、なんて言って面倒そうに声を出した。

    「あの日、お前はあの男のせいで理性を飛ばしたんだ。そこに漬け込むほど、俺らは馬鹿じゃない」
    「そーそー。それに稀咲と半間、あの後自首して捕まったんだっけ?銃刀法違反の容疑でって」
    「そうですね。まぁ、死なないだけでも有難いです」

    この世界はずっと理不尽に回っている。死ななくていい人が死んで、生きてて欲しい人が殺される。そんな未来なんて望んでいないと泣きながら思った前世の俺よ。今日、しっかりと俺はお前が望んだ世界を手にしたよ。ぼんやりと空を見ながらそう思っていれば、そろそろ桜の季節だと認識する。

    「ねぇ、なっちたち今度花見しよーよ。ここの屋上桜がすげぇ綺麗に見えるんだよ!」
    「あー、申し訳ないんですが、俺らそろそろ受験で…」
    「そう言えばお前らまだ中二だったな…」

    俺らより大人みてぇで忘れるわ、そうドラケンくんに言われて2人してちょっと困ったように笑った。

    「“天竺”も、“東京卍會”もこれからどうするんですか?」
    「んー、俺はまだ考えてる」
    「“天竺”は解散だ。俺はちょっとやりたいことを見つけた」
    「やりたいこと?」
    「世界の身寄りのない奴らを俺の国民にする。小さい頃カクチョーと話したあの夢を、少しでも早く実現するんだよ」

    そう言ってニット笑ったイザナくんに、俺らは何かあったら力になりますから、と答える。彼が、世界を旅する未来がここにある。それがなんと言えばいいのか分からないけれど、素晴らしい未来なのだと、理解できるから、俺らはゆっくりと笑った。

    「それじゃあ、俺らはこれで」
    「またな」
    「えぇ。さよなら」

    ペコリと頭を下げて、病室から出る。彼らが退院する時怒るだろうか。でもそれは、仕方の無い事で、俺らはきっと、これが最善なんだと言うしか無かった。
    退院費も、後々必要になるであろうお金も全部看護婦さんに渡して、数年間、ありがとうございました、と涙ながらにお礼を言われれば、俺らのやってきたことは、全部正義だったんだと、何故か安心できた。

    ☆☆☆

    彼らが出ていった病室で、ふと誰かが美しい魚だったと言う。あの日、一瞬で意識を狩られながらも、泳ぐあの姿は、まるで人ならざる美しさがあった。
    人の上を飛び、細い身体からは想像も出来ないほどのしなやかさを持って、当たりを倒していくその姿はまるで、弾丸のようで。でもそれだけじゃなくて、その姿をずっと見ていたいと思わせる全てがあって。

    「なっち綺麗だったなぁ。しっかり見れなかったことがすげぇ残念」
    「まぁ、この世界にいればまた見れるだろ。なっちもタケミっちも、この世界じゃないと生きれねぇよ」

    なんの根拠もないその言葉。けれど誰もが思うのだ。あの二人は、広いこの世界にいてこそなのだ、と。
    美しいと言わざるおえない戦闘スタイル。海面を泳ぐ魚のように、一糸乱れぬその姿は、多くの不良の心を掴んで話さない。
    春が来て、夏になれば、全員完治しているだろうから、その時はまた、遊びに誘って。今年ことは海に行ってスイカ割りもしようぜ、なんて笑って言う彼らに、まるで全てが泡沫の夢だったかのように、“六桜”の姿が消えた。

    解散という言葉は聞いていない。けれど、姿を表すことの無くなった彼らを必死に探しても、学校に突撃しても、彼らと認識のあった橘日向に聞いてみても、その姿は一向に見せなかった。
    そこでふと、彼らはあの時病室に訪れた彼らの最後の言葉を思い出す。
    またね、と言った自分たちの言葉に、彼らはさよならと言った。もう会うこともないかのように、先の未来すら取り付けることなく。

    「………許せるか?なぁ、俺らは、あいつからが居なくなることを、許せるか?」
    「無理だな」
    「あーあ、なっち達も馬鹿だよなぁ…」

    探しても見つからないまま、夏の空が賑わう季節になった。多くの星が降り注ぐその日、“六桜”の解散宣言が俺たちの耳に飛び込み、全員が息を飲んで決意する。
    彼らは、自分たちが住みにくいと思ってこの世界から抜けた。ならまた、住みやすい世界にしたらいい。

    土台をしっかり作って、もうこの世界から逃げられないようにしたらいい。

    仲違いしていた一虎も戻ってきて、“関東 卍會”へと名前を変えて。彼らが、ずっとこの先、笑い合える未来を手にするために。

    「ごめんね、なっち。タケミっち。お前らの苦痛を知ってやれなくて。でももう大丈夫。俺らが、お前らの居場所になるから」

    うっすらと笑ったその脳に、とある男を思い浮かばせる。
    あの日、九条夏樹をこちら側へと戻した花垣武道の存在。あれは、ずっとむかし。小さい頃憧れた、自分の兄貴と同じような、そんな錯覚を覚える。

    欲しいと思ってしまえば、あとは転げるように落ちるだけ。

    そばにいて欲しいだけ。自分たちと一緒に、この世界で、自由に泳いで欲しいだけ。自分たちと一緒に、この世界で手を差し伸べて欲しいだけ。

    逃がしてなどやるものか。

    自分たちを魅入らせたあの存在が、自分たちを正気にさせたあの存在が、この世界から消えるなんて許さない。

    「ごめんな、2人とも」

    それは、一体誰が呟いたセリフだっただろうか。





    これにて中学生編終了です〜!!
    高校生編は番外編に乗ってるので、続きを出す時にでもシリーズ移動させますね〜!

    以下あとがき。

    最初は自分と数名のフォロワーさんだけが楽しめたら、と思い書き始めたこの作品でしたが、皆様からたくさんのコメント、スタンプ、いいねやブクマを貰いながらここまで書くことが出来ました。ありがとうございます。

    たくさんの方に九条夏樹くんを好きになっていただき、感無量でございます。

    最初と最後は書く時に決めており、解散するまでの流れをどうするか、皆様には分からないように、10話という短い内容の中でまとめる事に必死で、誤字や脱字など多かったと思います。ですがその中でも、九条くんの戦闘スタイルを綺麗に魅せられるようにと力を入れて書くことが出来てとても楽しかったです。

    続きは番外編シリーズに既に出ておりますが、高校生編となります。

    ここまで本当にありがとうございました。また次回。今度は高校生になったなっち達を応援していただけますと幸いです。
    それではまた。

    サーモン(鮭)
    2021/08/10


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