「世界一幸福な男に訪れた不運」 雷雨の激しい日だった。
ペラ、ペラと紙が次の頁を撫でて捲られる音を聞きながら、武道は正座の姿勢でまんじりともせず畳の床を見つめていた。彼の前には襖が取り去られた押し入れがあり、そこに男が腰掛けている。この部屋の主である、場地圭介だ。機械的に漫画を開いたままぼうっと座り続けている武道をよそに、彼は悠々と愛読書であるという動物図鑑を読んでいた。
どうしたものか、と彼は心の中だけでため息をついた。
花垣武道は、つい先日世界一幸福な男になった。
幸福という言葉は、人によって意味を変える。ある人にとってそれは莫大な富であったり、名声であったり。武道にとっての幸福とは、愛する者たちの生存と幸福だった。それは単純に富や名声を求めるよりもよっぽど貪欲な望みだったので、彼がそれを手に入れるためには、何度も人生をリベンジし続ける必要があった。けれども諦めないこと、折れないことを誓った彼は、ついにそれをやり遂げたのだった。
6865