タイトル未定少女は走っていた、前日降った雨の水溜まりに靴が濡れようとも背後から迫り来る人ではない何かに追われながら口呼吸をして熱くなった喉で息を切らし全力で足を動かした。
偶に通る短いトンネルの近くまで来てふと点滅する蛍光の近くに人影が見えたが恐らくあれも悪霊か地縛霊か何かだろうと無視をして走り抜けようと脳内で言い聞かせる。
少しずつ背後の何かに追いつかれつつある事に冷や汗をかきながらトンネルに入る。
が、足がもつれて受け身も取れないままザザッと制服のスカートから肌の露出している足の面が地面と擦れる。
痛みが走るも今はそれどころでは無い、立ち上がろうとするも上手くいかない。かなりの距離を走り続けた為に足が疲弊してきまったのだ。
「こんな所で…いやだ…」と半泣き状態になっていれば知らない男の声がした。
「アレに追われているのか」
薄暗いトンネルの中で点滅する蛍光灯が照らし出している霊が手をかざすと泥のように地面に追いかけてきた何かの気配が消えていくのが分かった。
まだ頭の中で処理しきれていないものの助かったのだと分かり上体だけ起こした、目の前に居る霊からは悪霊の気配がするものの何かこちらに仕掛けてくる感じはせず呼吸を整える。
「妙なものに追われていたな」
「何も知らない子供が呪いに手を出してそれが実は本物で扱ってみたらまあさ中途半端に発動した…ものだと思う」
意外と冷静に説明出来ている自分に驚きつつも先日クラスメイトが自宅の蔵から持ち出したとかいう古い書記を持ってきておりそれからはどんよりとした気配が感じられた、話を盗み聞きしていれば呪いの類の手順がどうとか聞き取れたのでその場からさっさと立ち去った記憶がある。
「……」
「えーっと、でもほら悪霊さん?が溶かしてくれたお陰で無事だし相手には呪い返しされてると思うの」
何を考えているか分からない悪霊に話しかける私は傍から見たらトンネルの虚空に話しかけるヤバい奴なんだろう誰も通らない夜の時間帯で良かった。
「立てるのか」
「え、あ〜……よっと、立てた立てためちゃくちゃ痛いけど」
ふらつきつつ何とか立ち上がってピースをしてみせる、悪霊にピースって何してんだ私は。というか痛いな足擦りむいてるとこ絶対シャワーとか消毒沁みるやつじゃん最悪だわ、ガーゼあったかなあ。なんて足を見つつ考えていたらまた話しかけられる、お喋りさんなのかこの悪霊は…?
「なら早く立ち去るといい」
「……悪霊さんは地縛霊なのかな」
違うとの返答を得てやっぱりとあまり来ないトンネルだとしても見かけない霊だと思っていたしこれだけの存在感に私が気付かない訳もない。
「だったらお礼させてよ、命助けてもらったようなものだし」
少しだけ悪霊の表情が動いた気がしたものの薄暗いトンネルの中では気のせいだったのかもしれない。
***
ほとんど親が帰ってこない自宅に到着して浴室に直行する、靴下を脱いでシャワーで傷口を洗浄して消毒とガーゼを貼って完了。
一連の流れを悪霊さんは見ていたけど楽しいのか見ていて、リビングに居て良いって言ったんだけど。
「疲れたからソファに横になるの許されたり〜」
面倒くさくてブレザーだけ脱いで制服を着たままソファに仰向けで勢いく背中からダイブする、じっとこちらを見ている悪霊さんに目を向けるもやはりら何を考えているかはさっぱり分からない。
「悪霊さんよお礼なんだけど何がいい?」
「最上だ」
「え、あ。最上さん、生前のお名前で」
「そうだ」
なんかどっかで聞いたことがあるような名前だな、少し考えるも疲れた頭では上手いこと思い出せずモヤモヤするもまあいいかと話題に戻る。
「最上さんは〜生前好きだった食べ物とかないの〜、お供えすればワンチャン食べれそうな気がするんだけど」
「………」
「?」
数秒置いて甘いものと返ってきて少し驚いてしまった、いやでも男性が甘いものを好きなのは全然不思議では無いな。
起き上がるのは面倒だけど私も甘いもの食べたいしキッチン漁ろう、何かあったはず。
チョコソース、コーンフレーク、アイスクリーム、ポッキー、コーヒーゼリー。
うちのキッチンは天才だろうか、あっという間にパフェを完成させてしまったし大変美味しそうで早く食べたい。飲み物はお茶しかなくて口の中リセットするにはありだけど紅茶とかが良かったかも。
「家庭でも作れるものなんだな」
「材料さえあれば割と作れるよ、スコーンとかも」
お、反応を示した今度作ってお供えでもしてみるか。……?私通うつもり??と自分の中の考えに疑問符を浮かべていたら既に最上さんは食べ始めており食べれるんだ…不思議な光景だなどと自分も食べ始めた、美味。さすが私。