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    ru_za18

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    鶴+幼女
    神域に迷い込む幼子と鶴丸のお話

    2025.8/17 夏インテ新刊に収録

    暗闇に差し込んだ白 何も無い、真っ白な空間。その中を一歩、また一歩と進めば、足元には小さな波紋が広がっていく。まるで、水の上を歩いているかのように。落ちもせず、己を映しもしない足元はここが水の上ではないことを教えてくれる。だが、白一色しかないこの中にいるのは、同じく白に身を包んだ俺だけだ。
    「自分の神域なんざ、そんなもんだよな」
     “神域”は、どうしたって自分自身が反映される。他のやつの神域へ行ったことはないが、俺の神域は白に染められた空間だった。
     初めて訪れた時こそ驚きもあったそれは、回数を重ねれば飽きる。真っ白の無があるだけ。なのに、何故ここに来るのか。
    「お、また迷子かい?」
    「……しろいひと」
     俺を見上げる幼子の瞳は、涙で煌めいている。どうやら先程まで泣いていたらしい。頬に涙の伝った跡がある。
    「今日は何をしていて迷子になった?」
    「わかんない」
     幼子を抱き上げれば、俺の首筋に腕を回してくっついてくる。俺からの問いかけで一応は考えるように首を傾げたが、それでも思い付かなかったのだろう。知らない内にこの幼子は神域へ迷い込んだらしい。
     いや、ここで一つ訂正しておきたい。“迷い込んだらしい”と言ったが、この幼子が迷い込むのは今回が初めてではない。今回で十を超えた。全く、どれだけ俺の神域に迷い込むというのか。見ず知らずの大人に対して警戒するであろう抱っこも、この幼子はすんなりとさせてくれる。歳の頃で言えば、四つか五つか。
     ――もう少し危機感をだなぁ……。
     そうは思えど、こんな幼子に伝わるわけもない。“七つまでは神のうち”と言うが、ここまで神域に入り込める幼子は果たしてこの世にどれほどいるのか――。
    「しろいひと、ひとり?」
    「ん?あぁ、そうだぜ」
    「わたしもひとり。いつもはくらいとこいるんだよ。ここはあかるいね」
     涙は何処へ行ったのか。楽しそうに笑う幼子は、年相応の姿に見えた。けれど、何かにハッと気付いたように見えたと思えば、一瞬で表情が陰る。
    「もう、おわりだって……」
    「あ、おい!」
     抱いていた幼子はだんだんと透けていき、白の中へと消えた。子供特有の高めの体温を俺の腕に残して。あの幼子の体温を少しでも覚えておきたいのに、ぎゅっと握った腕に感じるのは自らの体温のみ。
    「……よし」
     “思い立ったら吉日”だ。ぐっと力を込めて床を蹴る。一回転すれば、ぐるりと変わった景色。そこは先程の白に染まった世界とは違って、真っ暗闇にぽっかりと輝く月が浮かぶだけ。降り立った場所は山だったようで、梟の鳴き声と木々のさざめきが聞こえる。
     歩き出した方向は、なんとなくだ。けれど、何処かで『こっちだ』と確かな何かを感じている。ゆったりと歩いていたはずなのに、どんどんと加速していく足はいつの間にか駆け出していて、辺りで一番高い木の天辺を目指す。
    「…………見つけた」
     目的地を見つけ、そのまま木から飛び降りて一直線に向かう。普段は暗闇の中が得意じゃない。短刀や脇差の方が良い動きをするだろう。けれど、今この時ばかりは、自分の目が空にある月にでもなったかのように方々が見渡せた。おかげで、目的地を見つけるのもすぐだったわけだが――。
    「早くそっちに行くからな」
     聞く人はいない。だが、そう言ってやりたい人がいる。駆ける足は、どんどん力強さを増していった。

    「おぉ、起きたか」
    「ほれ、今回はどうだった?」
     男たちの持つ松明の灯りがゆらりと揺れた。洞窟の奥の、そのまた奥にある鉄格子がその光を反射する。鉄格子の中に敷かれた二畳ほどの畳の上にいるのは、巫女の服を着た幼子だ。まだ眠気があるのか、目をこすりながらぼんやりとしている。鉄格子前の男たちは、今か今かと返答を待つ。
    「……しろ」
    「白か!これは良いことがあるぞ!」
    「早くみんなに知らせてやろう」
     幼子が答えれば饅頭を鉄格子の中の畳に置き、男たちは喜びながら洞窟の外へ走り出す。足取り軽く、一目散に。
     幼子は背を向けて去っていった男たちを見た後、ぼんやりと遠くで灯る光を頼りに、置かれた饅頭の包み紙を剥がして口に含む。程よい甘さが、一人の現状を癒やしてくれるようだった。
     夢で見た“しろいひと”を思い出しながら、抱き上げてくれた夢の余韻に浸る。現実では、幼子にそんなことをしてくれる人はいない。会いに来る人はいても、『巫女を穢れに触れさせるわけにはいかない』と幼子に触れてくれる人はいないのだ。ただ一度だけ、『半分あちら側にいるから神様に会えるんだろう』と言われたが、幼子が理解しているわけもない。
     食べ終わってしまった饅頭の包み紙を、折り鶴の形へと折りだす。以前、『お供えだ』と折り鶴が置かれていった時に、折り方を鉄格子越しに見せてもらっていた。迷いもなく、すっ、すっと折り目をつけて折っていけば、出来上がる折り鶴。
     ――しろいひとみたい。
     白の包み紙で折られた折り鶴は、何故か夢で会った人を思い出させる。上に掲げて見ていれば、いつ来たのだろうか。折り鶴――いや、その先にある鉄格子の向こうに人がいる。
    「よっ!ここで会うのは初めてだな」
    「……しろいひと?わたし、ねてないよ」
     夢でしか会ったことのない“しろいひと”が目の前にいる。何故ここにいるのか疑問に思いながらも、鉄格子の隙間から頭を撫でてくれた彼の手に、これが現実だと理解する。
    「ここから出たいかい?」
    「でられるの?」
    「あぁ、君が望むなら出してやる。俺と一緒に行こうぜ」
     “しろいひと”は幼子の願いを聞いてくれる。そして、手を差し出してくれる。ただ一人、幼子に触れてくれた人。返事の代わりに、差し出された手を握る。その手は、これまで夢の中で感じていたものよりも温かく感じた。
    「それじゃ、行くか」

     後日、そこを訪れた人が見たのは、無残にもばらばらに斬り落とされた鉄格子と、畳の上に置かれた白い折り鶴だけだったという。
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