午前2時のプロローグ(仮題) 暑さで目が覚めた。スマホを見ると時間は深夜の2時。
何か飲もうとキッチンに行くと、リビングで同居人がゲームをしていた。
「あれ、お前寝たんじゃないの」
「暑くて起きた。窓開けてもあちぃからエアコンつけてゲームしようと思って」
「電気代ってしってる・・・?」
「だから部屋の電気つけてねぇだろ」
テレビの逆光で少し見づらいけれど、こっちに顔も向けずにゲームに熱中する功李のうなじには汗が垂れている。テーブルにコップが見当たらないあたり、暑い暑いと言いながら水分は取ってないらしい。取れよ、熱中症になるぞ。
冷蔵庫を開けて飲み物を物色していると声が聞こえてきた。
「俺お茶な、お前は?」
「お前の飲み物はソルティライチしか選択肢ありませ〜ん、塩分と水分取れ馬鹿。私も暑くて起きた」
カラカラと氷を二つのタンブラーに入れ、片方にお茶、もう片方にソルティライチを入れて功李のところに向かう。
「なにやってんの」
「ポケモン、実はやったことないんだよな」
「マジ?人生損してるよお前」
「何割?」「10割」「馬鹿じゃねぇの」
ソルティライチを一口飲んで一息つく。あれ私ソルティライチのんだ?言わなきゃバレないか。
暗闇の中で光るテレビの明かりは少し目に痛い。テレビの中では主人公の女の子が最初のポケモンを受け取って、ライバルと戦っている。序盤も序盤な気がするんだけど、こいついつまでやるんだろうか。
ゲームから目を逸らさずに功李が話しかけてきた
「明日って」
「うん?」
「明日って、なんかなかったっけ」
「あるよ、六道さんちのゴミ拾い。あと酒杯のばあちゃんのおつかい」
「またゴミ拾いかよ。境内広いから嫌なんだけど」
「お菓子とラムネもらええるから我慢せぇよ」
「俺和菓子嫌い」「このクソガキ」
ソファにもたれかかってお茶をちびちびと飲み、ゲームと功李を眺める。何故かかっこよく見えてしまうのはテレビの逆光効果と信じたい。
エアコンの風は心地いいというよりは少し寒い。縮こまっていると功李の着ていたカーディガンを渡された。膝掛けがわりにしてまた眺めていると、寝てしまいそうになる。
「おい、」
「ん?」
「寝んなら部屋もどれ」
「やだ、暑いもん部屋」
少し寝落ちていたらしい。タンブラーの中の氷が崩れて、からんと音がなった。
功李がこちらを向いて呆れている。首を回すと少し痛くて、パキパキと小さい音が聞こえた。
「ここだと風邪ひくけど」
「お前のカーディガンあるし」
「絶対足りないだろ」
「足ります、足らせます」
「はぁ……寝ても部屋運んでやらねぇからな」
特に会話をするでもなく、静かに流れる時間。功李はワイルドエリアでポケモンを乱獲している。
やっぱりテレビの光が目に眩しくて、少し目を閉じるとそのまま眠ってしまった。
体の痛さで目が覚めた。電気をつけていないのに部屋は明るくて、窓から朝日がのぞいている。どうやらあのまま朝まで寝ていたらしい。ソファにもたれていた体を起こすと、薄手のブランケットがはらりと落ちた。横では功李が眼鏡を外して眠っている。
何時までやっていたか知らないけれど、もう少し寝かせてやろう。