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    マンボウのイデアを巡るアゼムとヒュトロダエウスwith巻き込まれセルク、そして一万二千年の時を経て因果応報を身を以て体感する羽目になるアゼムの欠片こと光の戦士。

    アゼムが創造するイデアが気になったのとヒュトロダエウスのイデア審査の様子が見たかった。
    ヒュトロダエウスはイデア審査でバチクソに扱きおろしてても某サメの時のようにあんまり普段と雰囲気変わらない気がする。

    #FF14

    モーラ・モーラララ 脚の生えたサメが星に何を齎すのか? 
     必要性も意味もまるで感じないが、創造者の熱意を買って当代の創造物管理局局長は脚の生えたサメを承認した。生命としての価値は薄くとも、星が人々の熱意で満ちるのは良いことだと考えたからだ。それは良い。良いはずだ。
     問題は思わぬ所から思わぬ反発を受けたことだろう。
    「だーかーらー! 無闇に海洋生物に脚を生やす風潮が気に食わないんだよ!! 取り敢えず生やしておけと言わんばかりのあの脚! 重力に耐えるためだけに生やされた脚を見て憐れだとは思わないのか!? しかも脚が支えられる体にしなきゃいけないから体も小さくしなきゃいけないって重力から解放されて体を大きく出来る海洋生物の利点が丸潰れじゃないか……」
     アゼム。十四人委員会が一人、第十四の座を占める者。星に散らばる遍く問題を回収・解決する「みんなのお悩み相談係」。
     そのアゼムが脚が生えたサメを間にして、荒れている。普段は首都アーモロートの外を飛び回っているあのアゼムが地を歩くサメの噂を聞きつけ創造物管理局の局長室まで足を運んで喚き散らしている。
    「でも脚があれば生息域が広がって生存確率が高くなるじゃない? 種が絶えにくくする工夫の一つだよ」
     創造主の言い分を丸々引用するが正直苦しい。これでアゼムが納得するならそもそもヒュトロダエウスとて率先して承認していたはずだ。
     実のところ、創造物管理局で承認されたイデアの差し戻し審査の権利が十四人委員会の委員には与えられている。まさか今アゼムによってそれを仕掛けられているわけではなかろうが、承認済みのイデアについて局長と委員が喧々諤々と議論をしている所を誰かに見られるのは誤解を生む。
     ヒュトロダエウスは必死に宥めようとするがアゼムは止まらない。
    「海洋生物には陸に上がって欲しくないんだ。重力に縛られて欲しくない。海の浮力の中で自由に伸び伸びと大きくなって欲しいんだ……」
    「それはそうかもしれないけれど」
    「なら飛ばせ! せめて飛行機能を付けて重力から解放してくれ……」
    「それをワタシに言われても……ねえ?」
     叫び疲れたのか、諦めたのか。おいおいとみっともなく泣き始めたアゼムの背中を叩いて宥めながらヒュトロダエウスは一考する。

     度々スタンドプレーを繰り返し、規則・規約・マナー・慣習などなどに関心を抱いていないと見做されている当代アゼムだが、その実、「レギュレーション」には拘りがある。あのエメトセルクをして「何をお前は拘っているんだ」と窘める程度に、だ。
     自由を好む(と周囲から、少なくとも全アーモロート市民から思われている)アゼムが何故ある種の「縛り」に拘るのか、最初に承認された亜種のサメを前に悔し涙を流していたアゼムに尋ねたことがある。
     曰く、
    「自由と無秩序は別だよ。不自由な中で創造性を発揮すること、目の前の困難を乗り越えること、その過程で培われた智慧こそが星を発展させると思うんだ」
     だから生み出されたもの自体の価値は実は薄いんじゃないかと思ってるよ、と嗚咽混じりの小声で囁くように付け足したアゼムの真意をヒュトロダエウスは理解したが、創造物管理局局長は分からないフリをした。
     
     不意に周囲のエーテルの流れが変わった。空をあてどなく漂うだけだったエーテルが意図をもって滑らかに収束し、一本の道がアゼムとヒュトロダエウスの前まで生成された。テレポの予兆だ。誰かがやって来る。尤も、エーテルを見れば誰がやって来るのかは明白だったが。
    「何の騒ぎだ」
    「やあやあ、エメトセルク。なに、アゼムのいつもの発作さ」
     肺から吐き出された溜息の長さがエメトセルクの徒労を語る。ヒュトロダエウスが懸念していた通り、アゼムとの議論を通りすがりの局員に聞かれていたのだ。そして、心配した局員が「アゼム係」のエメトセルクに連絡をしたのだろう。
    「ごめんね?」
    「お前が謝ることじゃない。海洋生物を語る癖にろくなイデアを持ってこないそこの馬鹿が悪い」
    「ろくなイデアじゃない!?」
     咽び泣いて目と鼻を赤くしたアゼムが心配するヒュトロダエウスの手を振り切って顔をあげる。ぐちゃぐちゃになった情けない顔をしているが覇気だけは十分だ。
    「見てろ、脚なんて奇抜さに頼らない生き物創造して見せてやるからな。それで海の偉大さを知れ」
    「お前に示されなくとも海と海洋生物の神秘性は熟知しているつもりだが? そもそもお前は海が好きなのではなく重力が嫌いなだけだろう」
    「そして大きな物が好き。フフ、アゼムはいつもそうだね」
     マッコウクジラとダイオウイカのイデアが承認された時はわざわざ生息地まで赴いて数年に渡って観測を続けていたのがアゼムだ。そしてふらりと潮の香りを漂わせて興奮気味に両生物の戦いの様子を記録用イデアで持ち込んできた。今でも時折見返しては「やっぱり大きな生き物は良い、最高だ……」などと恍惚としているのはアゼムの友人なら誰でも知っていることだった。
     そして、取り返しのつかない巨大な生物を作らないようアゼムを監視する、というのがアゼムの友人たちの共通見解である。
     ふむ、と脚の生えたサメと「ヒュトロダエウスの仕事の邪魔をするな」とエメトセルクに説教をされているアゼムを見比べる。これは良い機会なのではなかろうか?
     アゼムの持て余した情熱が消化されればそれで良し。もし上手い具合に素晴らしいイデアが生まれたのなら色物じみたサメを作り続ける市民にも良い刺激を与えるだろう。
    「ねえ、アゼム。新しいイデアを作ったなら是非持ち込んで欲しいな。十四人委員会の委員直々に正統派のイデアを作れば少しはみんなサメの創造性の方向を変えてくれるかもだ」
     そう声を掛ければアゼムは説教されていた時のしおらしさは何処へ行ったのか、フードが外れるのも厭わず勢いよく顔を上げた。
    「おうおう、任せろ任せろ!」
     うん、頼もしい。その頼もしさが正しく創造性に発揮されてくれることを祈りつつ、エメトセルクに首根っこを掴まれて何処かへ連行されていくアゼムを手を振って見送った。
    「おやおや、キミ、お手柄じゃないか」
     人の減った局長室で脚の生えたサメにヒュトロダエウスは柔和に微笑む。しかし、サメに人の行いを理解する知性が無いことはヒュトロダエウスが誰よりもよく理解していた。
     
    ***

     ミトロン院の研究者から噂では聞いていた。アゼムが最近熱心に院に入り浸っては何やら創造を試みているとは。しかし最近ではその噂もぱったりと絶えたので脚の生えたサメに変わるイデアの創造に飽きてしまったのではないかと危惧していたのだが……アゼムは友人の期待を裏切るような人間ではなかった。
     噂が絶え、へんてこサメイデアがヒュトロダエウスの元へ持ち込まれ続けること数カ月、アゼムは再び局長室に現れた。エメトセルクが別件で訪ねてきている最中だったのは狙ってのことなのか、ただの偶然なのか。
     アゼムが携えたイデアを見たエメトセルクは厄介事は御免だとばかりに逃げようとしたが、そもそもアゼムが海洋生物創造へ踏み切ったのはエメトセルクが発破を掛けたせいだ。丁度良いだろう。
     ヒュトロダエウスは手早く水槽を創造し、ラハブレア院謹製の生物逃亡防止の結界を展開した。聞こえた舌打ちはお茶のお代わりで封殺出来たものとする。舌打ちに続いて出される溜息は温かいお茶と一緒に飲み込んでくれるに違い無い。
     さて、アゼムが水槽に解き放たれたイデアは平べったくて、巨大……とまではいかないが大きいと言える部類の海洋生物だった。
    「マンボウ。うん、可愛い名前だね。何をする生き物なんだい?」
    「クラゲを食べるんだ。ほら、前にクラゲが繁殖して大変だった漁村があっただろ? そこから着想を得たんだ。まあ、そのクラゲの処理に手間取って約束のイデアの創造が遅くなったんだけど……おかげで良いインスピレーションが得られたからラッキーだったよ」
     クラゲを処理するだけなら生物以外のイデアを創造しても良かったはずだが、海洋生物創造の最中であったから生物の形を取らせたのだろう。ならば生物の形としての利点が必要になってくるが。
    「随分と平べったくて魚にしては大きいけどこれは?」
     まさか何も考えずに好みだけでサイズを大きくしたんじゃないよね? と言外に問う。これも創造物管理局局長としての務めだ。
    「深く海に潜れるようにするためだよ。体が大きい方が保持できる熱量が多い。潜る前に海面で日向ぼっこをして体を温めて、冷たい深海に行けるようにしたんだ」
    「深海……ということは平べったいのは水圧を減らすためだね。沢山クラゲを食べるためには深く潜れた方が有利、ということだね」
    「その通り! 中々出来が良いだろ?」
     友人が誇らしげだと自分も嬉しくなるが、仏頂面で黙ってカップを空にしていたもう一人の友人はどうだろうか。
    「だってさエメトセルク?」
    「何が『だってさ』だ。私にはイデア認可の権限は与えられていない」
    「フフ、堅いなあ。そうじゃなくて、アゼムの言い分さ。これはキミが言うところの『ろくなイデア』足りうると思うかい?」
    「認可するのはお前だ、私じゃない。そして、創造物物管理局の局長御自ら承認されたのならそれはさぞかし立派なイデアだろうさ」
    「えー、何だよその言い方! 素直に『良いイデアだなアゼム』って言えよなー」
    「そうだね、ワタシもそう思うよ」
     うんうん、と気さくに相槌を打つヒュトロダエウスだが、その眼差しはイデアから離れることはない。
    「うんうん、見た目はのっぺりしてるけどこれは中々面白いイデアだ。ただ」
     さて、この「ただ」の一言に一体何人のアーモロート市民が恐怖し、涙を飲んだのか。アゼムが持ち込んだ茶菓子を摘みながらエメトセルクはほんの、そう、指先一摘み分ばかり同情した。ヒュトロダエウスとて、伊達に長年局長を務めてはいない。まさか局長ともあろう人間が、申請者の語る創造物の素晴らしさのみを鵜呑みにするようなことはあってはならないのだ。
    「ただ?」
     朗らかに話していたアゼムの肩に力が入ったのは気配だけで分かった。これは創造物管理局で働いていれば、誰しもが幾度となく経験することだ。
     緊張するアゼムに反して朗らかな雰囲気を崩さないままヒュトロダエウスは続ける。
    「この子、とっても脆いよね? クラゲなんて水っぽいもの食べて体を大きくしなきゃいけないから骨も殆ど無いし、鱗も無い。寄生虫の格好の餌食だし、固いもの……岩にでもぶつかったら死んでしまうよ」
    「寄生虫は体温調整の日向ぼっこの時に鳥が食べてくれるから大丈夫! 岩は……その、マンボウは岩がある所には行かないから……」
    「岩は無いけど他の生き物は居るよね? きっとぶつかったら死んでしまうよ」
    「死ぬけど個体数調整には丁度良いと思う」
    「ただでさえ、食べられて数を減らしてしまうのに? 少しばかり個体数調整方法が雑じゃないかい?」
    「い、いや、マンボウを食べる生き物は少ないはず……」
    「はず?」
     声のトーンが下がったように聞こえたのはアゼムの思い込みだ。ヒュトロダエウスが纏う雰囲気はアゼムが部屋に立ち入った時から何一つとして変化していない。そもそもヒュトロダエウスは人を糾弾するような真似は決してしないし、イデアの不備の指摘など日常茶飯事なのだから一々感情を揺るがされることもない。
    「少ない! 水っぽくて不味いし、大きいからそもそもマンボウを食べられる生き物自体が少なくなるからね。小さな子供の内はそりゃあ食べられるけどその分沢山生まれるから大丈夫! 沢山生まれたら他の生物の食事にもなるから悪い話でもないだろ?」
     なるほどね、と述べたヒュトロダエウスだがイデアの検分がこの程度では終わらないことをアゼムは悟っていた。
     エメトセルクといえば、アゼムの分の茶菓子に手を出し始めた。別に良いだろう、元はと言えばアゼムが悪いのだ。
    「あとこの歯は? クラゲを食べるだけなら歯は不要じゃないかい?」
    「歯はイカや貝を食べたりするために付けた」
    「でもこの子、泳いでイカに追い付けないんじゃないかい? 貝は食べられるかもだけど」
    「水槽みたいな狭い場所のイカなら食べられる。これは確認した。貝はあまり動かないから大丈夫。で、貝を食べるのは確かにレアパターンだけど貝が異常繁殖した時に対応出来るから便利だよ」
    「確かにそんなこともあるかもね」
     それから二、三やり取りが行われ正式に創造物管理局の審査を受けることになった。審査が通った後、マンボウのイデアは一時的なブームとなった。生息域を変えたりサイズを変えたり、他の魚の代用になれるよう味が良い物が創造されるなどした。脚を生やそうという動きもあったようだが、創造物管理局は脚の生えたマンボウを一切認可しなかった。
     こうして多くのマンボウの仲間がアーテリスの海に解き放たれたのだった。

     そして時は流れ一万二千年。メルトール海峡南にて。
    「あああああ! またモモラ・モラ!!! 大物だと思ったらモモラ・モラなの本当に何、何なのこれ。流石に数が多過ぎる!」
     後のアゼムの欠片はアゼムが生み出したマンボウのイデアに苦しめられていた。
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    DOODLEマンボウのイデアを巡るアゼムとヒュトロダエウスwith巻き込まれセルク、そして一万二千年の時を経て因果応報を身を以て体感する羽目になるアゼムの欠片こと光の戦士。

    アゼムが創造するイデアが気になったのとヒュトロダエウスのイデア審査の様子が見たかった。
    ヒュトロダエウスはイデア審査でバチクソに扱きおろしてても某サメの時のようにあんまり普段と雰囲気変わらない気がする。
    モーラ・モーラララ 脚の生えたサメが星に何を齎すのか? 
     必要性も意味もまるで感じないが、創造者の熱意を買って当代の創造物管理局局長は脚の生えたサメを承認した。生命としての価値は薄くとも、星が人々の熱意で満ちるのは良いことだと考えたからだ。それは良い。良いはずだ。
     問題は思わぬ所から思わぬ反発を受けたことだろう。
    「だーかーらー! 無闇に海洋生物に脚を生やす風潮が気に食わないんだよ!! 取り敢えず生やしておけと言わんばかりのあの脚! 重力に耐えるためだけに生やされた脚を見て憐れだとは思わないのか!? しかも脚が支えられる体にしなきゃいけないから体も小さくしなきゃいけないって重力から解放されて体を大きく出来る海洋生物の利点が丸潰れじゃないか……」
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