恋と献身 帰宅した綾人に家司として本日の業務の報告をし終えると、トーマはお茶を淹れながら今度は日中自分の周りでどんなことがあったか語りだす。仕入れた旬の食材の話やら出入りの庭師から聞いた町の噂、顔を出した店での一騒動。必ずしも主の耳に入れる必要性はない、稲妻のありふれた日常、たわいのない雑談のような内容だ。それを綾人は穏やかな顔で聞いている。目を細めてトーマの話に耳を傾ける彼の優しい顔が嬉しくて、ついつい話しすぎてしまうことも多かった。
日がな一日中社奉行としての業務に追われ自由に外に出る暇もない綾人にとって、トーマが話すような平穏な日々の話は心安まるものだ。それに神里綾人という立場ではなかなか立ち入ることの出来ない、市井の情勢を知る貴重な助けにもなっていた。
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