失恋アンブレラ―Side S―
私の初恋は、失恋から始まった。
突然の通り雨に運悪く巻き込まれ、雨が凌げそうな場所へ避難して、偶然彼にばったり出会った。
一緒に雨宿りする事になり、早くやまないかなーとぼやく彼の隣で、仮面越しにその横顔を盗み見してしまう。
初めて出会った時は、とてもカッコいい人だと思った。
窮地に陥っていた私の前に颯爽と現れて助けてくれて。
イケメン!!とときめいたら、少ししてなんともいえない姿を見せられて。
そのうっかり加減とちょっと残念さが、まるでうちの保護者みたいだなぁなんて呆れてしまっい、逆に親近感がわいてしまった。
元々別の次元の人物で、その時はすぐに別れてしまったけれど、色々とあって今はこうして再会し同じ世界に存在している。
彼との交流を深めている間に色んな話を聞いた。
戦いに身をおいたきっかけが、好きになった人の為だと聞いた時は、なんて一途で向こう見ずなんだろうってちょっとひねくれた事を考えてしまった。
彼を浅はかだと笑う人がいるけれど、誰かの為に行動出来る彼はすごいと私は思う。
さりげなく私を屋根のある場所に入れてくれて、自分は肩を濡らしているお人好しな彼。
「クジンシー……濡れてるよ」
「良いの良いの、女の子が身体冷やす方がダメだろ」
俺は平気だから気にすんなって言ってカッコつけて、その瞬間大きなクシャミをする彼。
本当に、そういうところ。
「全然ダメじゃない、意地張らないでもっとこっち寄って」
私は彼の腕を取り自分の方へ引き寄せた。
さっきより密着した状態になり、ちょっとドキドキしてくれないかなと期待して見上げるけれど、キョトンとしたその表情からダメだなとわかり内心ため息。
「おい、セルマ。あんまり男相手にそういう事をすんなって。
あんた可愛いんだから、勘違いされるぞ」
「……されても良いよ」
「え、何だって?」
「何でもない」
「いや気になるし、もう一回言ってくれない?」
「嫌!!」
「何だよ、意地っ張りだなぁ」
やれやれといった様子を見せる彼に、返事は返さず目だけで不満を訴える。
しばらく見つめ合い、何だかおかしな気持ちになって、やがてどちらからともなく笑いだしてしまった。
「似た者同士だな、俺達」なんて笑いかけてくるから。
「そうだね」って笑い返して、自分の気持ちを誤魔化した。
私は雨雲を仰ぎ、今は見えないお日様に祈りを捧げる。
私の想いは叶わなくて構いません。
どうか私の大切な、想いは誠実な彼の願いが成就しますように。
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―Side K―
俺の初恋は、失恋から始まった。
可愛く気高く勇ましい、凛としたロックブーケを初めて見た瞬間恋に落ちた。
でも彼女の眼中に俺は……いや、ある二人を除いた男達は誰一人として映らない。
彼女の瞳に写ることを許されていたのは、ワグナスとノエルだけだった。
彼女は二人の背中だけを見て、常に追いかけていた。
彼女に相応しい男になりたい、彼女に振り向いて欲しい。
ただそれだけの思いで、俺は武器を手にして戦地へ向かった。
俺を馬鹿にしてきた奴らの安寧とか、どうでもよかった。
いや、見返してやりたいぐらいの気持ちはあった。
でも、それ以上に彼女と添い遂げたいなんて大それた考えしか、あの頃の俺にはなかった。
別の次元に飛ばされて、色んな次元を彷徨った今でもその気持ちに変わりはない。
変わりはないのだが……
「クジンシー……濡れてるよ」
偶然降られた通り雨を凌げる場所を探していて、ばったり出会ったこの短命種の少女。
以前ターム族と戦っている時に知り合った、別の次元から来たと名乗った、さる帝国の皇帝の娘。
あの時はドタバタしていてロクに話せないまま別れたのだが、あれから何だかんだあって、今はこうして同じ次元で生きている。
少女はロックブーケの様に、強い意思を持って生きていた。
持ち前の明るさと真面目さで皆から好かれていて、俺みたいなのも含め誰とでも分け隔てなく接してくる。
こんなに幼いのに、リーダーの風格が身についている。羨ましい限りだ。
いつものひねくれた俺なら、多少の妬みが沸き上がってきそうなもんだが、何故かこの子にはそれが起こらない。
「良いの良いの、女の子が身体冷やす方がダメだろ」
むしろこうやって、無意識に気遣いの言葉をかけてしまうぐらいだ。
まぁ、女の子追いやってびしょ濡れにするのはさすがに男としてダメだろ、ここは譲ってイケてる姿を見せなくちゃな……とか思っていたら、クシャミをしてしまった。俺の馬鹿。
「全然ダメじゃない、意地張らないでもっとこっち寄って」
ほら見ろ、呆れられた。
逆に気を遣われ、俺は腕を取られ彼女の方へ引き寄せられた。
さっきより密着した状態になり、誰かにこの状況を見られたら誤解されないか?とちょっとドキドキしてしまった。
俺は良い女に弱い方だし、この子は可愛いとは思うが……さすがに手を出す気はない。犯罪者にはなりたくない。
こんな事を考えているのがバレたらドン引き待ったなし、努めて平然を保つ。
「おい、セルマ。あんまり男相手にそういう事をすんなって。
あんた可愛いんだから、勘違いされるぞ」
しっかりしていそうだが、だからこそ変な奴に引っかかりそうだと懸念し思わず注意すると。
「……されても良いよ」
「え」
今、何か俺に都合の良い言葉が聞こえた気がしたんだけれど。
「何だって?」
「何でもない」
「いや気になるし、もう一回言ってくれない?」
「嫌!!」
「何だよ、意地っ張りだなぁ」
正直気にはなったが、これは絶対に話さないなと判断し俺は引き下がる事にした。
大人な対応を取る俺に、彼女は目だけで不満を訴えてきて。
しばらく見つめ合い、何だかおかしな気持ちになって、やがてどちらからともなく笑いだしてしまった。
「似た者同士だな、俺達」と思った事を口にしたら。
「そうだね」って笑いながら返してくれて。
嫌われ者の俺と同じなんて言われても嫌がらない、奇特で優しい女の子。なんて良い子なんだ。
俺は雨雲を仰ぎ、そのうち出てくる太陽に願った。
俺の様なひねくれ者は、放置していて構わないから。
どうか彼女の様な優しい人は、添い遂げるに相応しい男が現れます様に。