双頭なる蛇の画策プロローグ
「化け物だー!!」
近くから聞こえた叫び声に、クジンシーの意識が浮上した。
こちらを見て悲鳴を上げた者達が走り去って行く姿をぼんやりと見つめ、その後ろ姿を確認して意識が覚醒する。
『待て!!』
宙を舞い後を追いかけようとしたが、周囲に鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々のせいで上手く進めない。
普段は自慢の巨体だが、せまい場所では不利以外の何物でもなく、クジンシーは悪態をつき追跡を諦めた。
(どういう事だ?)
何故、探し続けたにも関わらず見つからなかった古代人達が、数人もここにいた?
何故、ラストダンジョンにいた自分はこんな場所にいる?
何故、他の六人と融合したにも関わらず元の姿に……魔物を吸収し得た蛇の様な姿に戻っている?
色々と疑問が沸き上がり首を傾げていると、目の前に顔の半分が痛々しい状態になっている女性の生首が現れ、思わずひげー!!と叫ぶ。
よくよく見れば、それは自分の相方も同然の冥府の女神であった。
何処からともなく青白い炎をまとった髑髏3体も現れ、クジンシーの側で飛び回る。
俺は死んだのではないのか?
恨みは抱いたまま殺られたから、亡霊にでもなってしまったのだろうか?とふよふよしながらクジンシーは思い出していた。
苦々しい、最終皇帝達との最後の決戦を。
色々回想して腹が立ってきていると突然誰かの悲鳴が耳に届き、クジンシーはお供を連れ向かう。
そこには、上兵であろうターム族の戦士と人間のクジンシーが戦っていた。
防戦一方……いや、必死に避けるしか出来ずにいる彼の姿に、クジンシーは過去に同じ体験をした記憶が甦る。
隊で動いている時にターム族に襲われ、何匹か倒した後にこの戦士が現れ状況が不利になり、撤退の際に囮にされて置いていかれた忌々しい記憶が。
(なるほど、ここは過去って事か)
どういうわけだか、自分は最終皇帝達との戦いに敗れた後に過去に戻ってきたらしい。
それにしても、かつての自分の、何と情けない事か。
泣き叫んで自分を見捨てていった仲間達に恨み言を言いながら逃げ惑うしか出来ていない姿に、これはあいつらに来るなって言われても仕方ないなと苦笑する。
確かこの後、運良く近くを通っていたノエル隊が気づき駆けつけ、ノエルに危機を救われたのだが……
(良い事、考えた)
ニマァッ……と、見た者を畏怖させる不気味な笑みを浮かべ、クジンシーは人間の自分の近くへ飛んでいく。
ちょこまか攻撃を避けていたが石に躓(つまず)きずっこけ、鼻を押さえている彼の元にタームの戦士が近づき武器を振り上げ……
その間に入り込み、邪魔をするクジンシー。
人間のクジンシーはもちろん、タームもまた突然現れたそのおぞましい姿に驚き戸惑っている。
「ひっ……ば、化け物……」
腰でも抜かしたのか、立ち上がれないまま人間のクジンシーが震えた声を出す。
『化け物、ねぇ……』
クックックッと笑いクジンシーはグルリと回り体勢を変え、人間の自分に向き合った。
『なぁ……強くなりたいか?』
「……え……?」
『力が、欲しいか?』
クジンシーはそっと囁(ささや)く様に怯える彼に尋ねる。
人間のクジンシーは困惑するが、無意識のうちに頷いていた。
『なら、俺が“クジンシー”を強くしてやるよ』
そう言って、クジンシーは人間の自分に手をかざした。
「……これを、君が?」
「そ。いやー参ったぜ。
さすがに人生終わったと思ったけれど、火事場の馬鹿力ってやつ?
意外と何とかなっちまってさ」
悲鳴を聞きつけ、隊の数人を連れ駆けつけたノエルの質問に、武器の剣先を大地に差して座り込むクジンシーは答えた。
ノエルも共に来た隊員達も、怪訝そうな表情でクジンシーと地に伏せるタームの戦士の亡骸を交互に見つめている。
「何?疑ってんの?」
「……色々と思うところはあるが……まずは、怪我が無くて何よりだ。
この事についていくつか聞きたい、一度拠点まで戻ろう」
彼の提案にクジンシーは頷き、ノエル達の後をついていく。
ニマァッ……と、とても普通の人間が出来ない様な不気味な笑みを浮かべながら。