辺獄ジムハイ ハインツは馬上から、広大な芝生の先にある邸宅を眺めていた。あれは自分の生家だ。もう何年も帰っていなかった。屋敷のたたずまいは変わらないが空は暗雲に覆われ、昼とも夜とも異なる、この世のものではない暗闇に包まれている。空は黒薔薇のような紫色で、我が邸宅は今にも朽ちそうな白灰色をしている。ハインツは手綱を引いて馬を進ませ、今は無人であるはずの屋敷へと近づいていった。
辺獄というこの世ならざる世界では、戦や抗争、事件によって命を落としたものたちの魂を数多く見てきた。そこでふと、自分の生家のことが気になったのだ。家がどうなっているか、どうしても見ておかなければならない気持ちに駆られた。そこで旅の仲間たちにことわって、こうして一人で赴いたのだ。
1469