Purge Crown of Our Life (王冠を叩き落として)「いやもう、都合が良すぎるんだよなぁ」
「俺がわざとそう振る舞っているとは思わないのかね?」
「僕のためにヒューゴが意図的に態度を変えているなら、それこそ僕に都合がいいよね」
「ふむ、どちらに転んでも、ということか」
「僕が勝手に感じた運命に応えてくれたのがキミだよ。だからこそ、キミの僕に対する行動は、すべて輝かしい」
「僕はおおよそ全てを諦めてしまったからね」
「でも、」
「クローゼットの中で泣くキミを見つけ出すことぐらいはできる。帰ろう。このままでは風邪を引いてしまうよ」
「キミは、自身の手で過去の自分を抱きしめてあげなくちゃいけない。自身でしか自分を救えないから」
「人は勝手に救われて、勝手に傷つくんだよ。アレコレ他人のせいにしても、己が人生を歩むのは自分しかいないんだから」
「さて、どんな勘違いをしているかは見当はつくが、すべて不正解だ」
「?」
「立派な成人女性だよ、このお嬢さんは」
「ヒューゴ」
「そう不機嫌な顔をしないでおくれ」
「おろして」
「なぜ?」
「おろせ」
「………すまない、感謝します。身長差がこうもあると、お互いに意思疎通が難しくて………移動するときにはヒューゴに抱えてもらっているのです。彼に非はありません」
「おっと、失念していた。この俺直々に紹介しよう。彼の名はフォン・ライカン。ヴィクトリア家政のボスで、モッキンバードの裏切り者だ」
「なるほど、貴方が例の。ヒューゴの紹介とあっては断る理由はない。が、ヴィクトリア家政に稀覯本を求める話はなかったはずだけれど」
「まぁ、いつか役に立つだろう。それに君もヴィクトリア家政とのツテは願ったり叶ったりではないかね?」
「そうだね、そろそろパーティの日取りも決めなくちゃいけない時期でもあるし……キミが紹介するなら信用はできる」
「失礼、改めてライカンさん。僕はオルファ。オルファ・ウェイルズ(Orpha Whales) ウェイルズの幽霊だとか、出来損ないだとか、不義の子だとか、色々呼び方はあるけれど。一応第一子の長女です。今は貴重な古本を蒐集するしがない本屋を営んでいます。よろしくお願いしますね。知りたいことがあるなら、ぜひ僕のお店まで。貴方がたにピッタリの本をご用意いたします。青いインクの古書は特に詳しいですよ」
「それは………いえ、ご助力いただくことがあるかもしれません。こちらこそよろしくお願いいたします」
「ところでヒューゴ」
「なにかね」
「散歩だから今名刺持ってないんだよね」
「あぁ」
「後でライカンさんに届けてくれる?」
「このヒューゴに運び屋をさせると?」
「新しいお客様に名刺のためだけに足を運ばせるのはちょっと………」
「あぁ、いえ。後で取りに行かせましょう。我々の名刺もお渡ししたいですし、場所を教えていただいても?」
「あの方が、ウェイルズの歌姫ですか……」
「どこにもいけないよ。僕の足は満足に動かないし、家のしがらみは生きている限り付き纏う。こればかりはもう仕方がない。解けるのは僕が死ぬ時だ」
「ヒューゴは呪いと呼ぶけれど、僕にとっては枷なんだよ。足を潰して、心を粉々にして、囲い込まれて。歌は上手だったから喉は無事だったけど、でも僕の悲しみの歌は誰にも届かなかった。あの夜のヒューゴ以外は」
「僕が見つけた自分勝手な運命を本物にしてくれたのはヒューゴだよ。だから、それだけで僕は満足なんだ。僕は勝手に救われたからね。あとはキミの幸せを願うだけ」
「ヒューゴ、キミの幸せはどこにあるんだろう。キミにしかわからないから、わかったら教えてほしい」
「そのためなら僕は喜んで泡に帰るよ」
「他なんてどうだっていい!君さえいれば、それで……」
「嘘はよくない。それはキミの本心じゃない。キミは欲張りだから、僕だけじゃ満足できないでしょう?いいんだよ、全てを願えばいい」
「キミにはその資格がある」
「キミが生まれた瞬間から、キミには自分の幸福を追求する権利がある。愛し愛され、幸福な人生を歩む事を咎められてはいけないんだ」
「キミの幸せを否定する人間がいるのなら、僕は、僕自身の全てを使って、この世から消し去ってみせるよ」
「所詮、僕は他人に傷つけられただけの代物だ。完膚なきまでに叩き壊されたからそう思い込める。でもキミは違う。自分で心にナイフを刺した」
「だから、キミはキミでしか救えない」
「嘘をついて、何が悪いの?」