のけ者たちの夜「やはり、阿箐を避難させて良かったですね」
窓の外を眺めていた薛洋は、暁星塵の言葉に振り向いた。
普段なら数えきれないほどの星が瞬く空も今は厚い雲に覆われ、一筋の明かりもない暗闇が広がっている。泥濘んだ地面を雨粒が強く叩き、断続的に吹きつける風が義荘の窓や壁を揺らし音を立てた。
「そうだな。まだかなり降りそうだ」
暁星塵、薛洋、阿箐の三人で暮らす義荘は古く、修復も完璧とは言い難い。このままさらに雨や風が強くなれば脆くなった壁の一枚くらいなら飛ばされるだろう。
仙師ではない普通の人間の阿箐が少しでも安全なところで過ごせるよう、高台にある寺院に避難させたのはまだ雨と風が強くなる前、一昨日の昼のことだった。
「さっさと帰ってきなさいよ!道長が雨が降るって言ったら今日は絶対に雨になるんだから!ちょっと!聞いてるの!?」と阿箐に捲し立てられたのはついこの前のことだ。薛洋が自分から買い出しを引き受けた日、暁星塵から早く帰ってくるように言われ珍しさに面白がっていたらいつものようにうるさく言われた。あの時はうんざりしたが、なにかと噛み付いてくる声がないというのは変な感じだ。
2095