他のやつは×× コヨイはいつだって優しい。オレやアサヒが何かやらかしても優しく笑って「大丈夫」と言ってくれるし、こちらのあぁしたいこうしたいと言う意見にも否定的な事は言わず、大抵「いいよ」という肯定の返事が返ってくる。
大人びてて余裕があり、それでいて優しいのがコヨイのいい所だし、オレはコヨイのそんなところが好きだ。だが、そうは言っても流石に優しすぎるなと思うこともある。たまには否定してくれたっていいんだぞ、とこっそり告げたこともあるが、その時も笑って「まぁそのうちね」とよく分からない返事でかわされてしまった。
そんなある日の事、ライブ後の控え室で荷物を整理していると、コヨイがそういえば、と話を切り出してきた。
「ショウゴは今度の学校見学、誰と組むかもう決めたの?」
「あー…まぁ、一応。初対面のヤツらばっかりだけど、なんとかやれそうかなって感じ」
コヨイが言っている学校見学とは、アボカド学園への入学を希望する人達に向けた学校説明会だ。体育館での全体説明のあとは在校生が実際に校内を案内するという流れになるのだが、うちは小中高と様々な年代の生徒が揃っている為、案内役の生徒は学年の垣根を越えたチームでやる、というのが決まりになっている。
正直、こういう時オレは真っ先にコヨイ達を頼ってしまう。だけど、それだといつもと変わらない。そもそも、こういう学内全体のイベントは、いつも関わらないような人と関わるためのものでもある。なので、今回はそのつもりであるとコヨイに告げた。すると、その言葉を聞いたコヨイの雰囲気が、一瞬にして変わった。
「……ふーん。そうなんだ」
「?……コヨイ?」
オレから少し離れてた所にいたコヨイが一歩、また一歩とオレに歩み寄ってくる。そしてオレを壁際に追いやると、そのまま顔を近づけてきた。
「お、おい、コヨイ、なにす──」
急に怖くなったオレは咄嗟に目を閉じて身構える。そしてコヨイの唇はオレの耳元まで迫り、そこで小さく囁いた。
「……他のやつは、ダメ」
オレの耳に、いつものコヨイからは想像出来ないほどの低い声が木霊した。そしてその声からは、普段「いいよ」しか言わないコヨイからの「ダメ」という否定の言葉が紡ぎ出されていた。
「…………え?」
一瞬何が起きたのか分からなくなったオレは、いつもと雰囲気の違うコヨイを前に、情けない声を出すことしか出来なかった。
「ふふっ。びっくりさせちゃったかな?ごめんね、ショウゴ」
「え、あ、いや……」
コヨイはいつものようにニコニコと優しい笑顔を浮かべてはいるが、その瞳はどう見ても笑っていない。オレは、何か変な事でも言ってしまったのだろうか。何か、コヨイを怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。
「いやね、学校行事とはいえ、ショウゴがオレ達以外と組むのか〜って考えたら、ちょっとヤキモチ妬いちゃった」
「は、はぁ……?」
予想もしていなかったコヨイの返答に、オレはまた気の抜けた声を出してしまう。
「だって、ショウゴはオレ達のショウゴだし、オレ達だってショウゴのものでしょ?」
「……まぁ、間違ってはいないけど……どっちかっていうとWITHの、だからな」
あまり公にはしていないし今後するつもりもないが、オレ達はグループのメンバー以上の関係を持っている。だから、コヨイの言いたいことも分からなくは無い。自分の大切な人が自分以外を選んでしまったということは、少なからず相手に悲しい思いをさせてしまうことだ。しかし、今回ばかりは仕方ない。それは、コヨイも分かっているはずだ。
「ていうか、お前も同じだからなコヨイ」
「?何が?」
「お前だって、オレ達以外と組むだろ」
「まぁ、うん。そうね。そういう"決まり"だから仕方なく、ね」
実は今回の案内役チームには、もう一つ決まりがあった。それは、WITHは問答無用で別々のチームに入る、というものだった。理由は簡単で、オレ達が集まってしまうとそこに人が集中し、大混乱になると学校側が危惧したからだ。
確かにWITHの人気が男プリ内外に関わらず凄いのは本当だし、実際ファンに囲まれて身動きが取れなくなった事例もある。だからこういう対応を取られてしまうのは仕方の無いことなのだ。
それなのに、そのことを分かっていてこの男はそういう事を言ってくるのだからタチが悪い。そりゃオレだって、本音を言えばコヨイ達と組みたい。でもそれは叶わないからあえて考えないように、口にしないようにしていたのだ。
「ねぇ、ショウゴ」
「……今度はなんだよ」
「ショウゴも、オレ達と同じ?」
コツん、と小さく音を立ててコヨイとオレの額がぶつかる。透き通るような黄金の瞳がオレを射抜く。あぁもう、その目にオレは弱いんだ……。
「……あぁ、そうだよ。オレも同じだ、コヨイ」
「そう。じゃぁ、ショウゴも言って?」
「……仕方ねぇな。一回しか言わねぇぞ」
「うん」
ふぅ、と小さく息を吐いて、コヨイの事を見つめ返しながらオレは口を開いた。
「他のやつは、ダメ」