僕たちは模索ちゅう前編. 僕のキス論
整った横顔を惜し気もなく晒し読書に勤しむアルハイゼンの側で、僕は本棚の上段に手を伸ばす。背の箔に触れた指先は、すぐに目当ての資料が取り出しにくい状況にあることを悟った。
あれほど、ギチギチに詰めるなと言っているのに。読んだ本は山積みにするし、陽が差す窓辺にも平気で放置するし、片付けたかと思えばこうやって無理に本を押し込むし。紙の本を好んでいるというのに扱いが適当なところは、僕が初めての恋人らしいのに僕との初めてを少しも大切にしないところと同じ。
僕は、僕だけは丁寧に扱おう。両手を伸ばし、決して花切れに指をかけることなく古本に気遣っていると、ふいに視界が陰った。
「……ん?」
腕も下ろさぬまま振り返る僕の目の前には、突然のアルハイゼン。わっ、と声が出なかったのは多分、あまりの近さに空気も音もこの男に吸い取られてしまったからだ。
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