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    Ai遊。捕食態Aiちゃんに触ってみたかったゆさくの話。
    基本的にいちゃいちゃしてる。

    もちもち、ふにふに 誰にも邪魔されることのない俺特製の電脳空間、言うなれば“Aiちゃんと遊作のプライベートルーム♡”。単なる相棒なだけでなく恋仲ともなっている俺と遊作にとって、この部屋を使用するのはまあ所謂アレなことをする場合が多いのだが、今日は違った。

    「ゆ〜さくぅ〜、本当にこれがいいわけ〜?」
    「ああ。だから動くな」
    「ハァイ……」

     そうして訪れる沈黙。俺はいつもより大きめの捕食姿で仰向けになり、遊作はその上に乗ってうつ伏せに寝転がっている。俺から遊作に触ることは許可されていない。なのに遊作はというと、さっきからず〜〜〜っと、飽きることなく俺のカラダを触り続けているのだった。

    ***

     事の発端はLV。財前からの要請でSOL社の密偵を追っていた俺たちは、特に問題なく決闘にも勝利し、ターゲットを追い詰めていた。

    「Ai、やれ」
    「おう!そんじゃ、いっただっきまぁ〜〜す」

     イグニス本来の姿からデータを捕食する一つ目と三対の触手を持つ姿へと形を変え、ターゲットの持つ記録媒体へと齧り付く。
     その時だった。

    ──ふにっ

    「……柔らかい」
    「えっ?」

     Playmakerの呟きはうまく聞き取れなかったが、無事にデータは回収できた。中身についても問題はない。
     俺はPlaymakerのデュエルディスクに戻り、今度は目だけの姿になって話しかける。

    「さっき何か言った?Playmaker様」
    「何も言っていない」
    「うっそだぁ〜〜〜!絶対俺に向かって何か」
    「黙れ」
    「あっ!久しぶりの!」

     あの時の俺は得たデータを処理することを優先していて気付かなかったのだが、どうやら触手の付け根の方の部分がPlaymakerに触れていたらしい。
     そこから、Playmaker──遊作の奇行は始まった。

    ***

     遊作の不思議な行動は3つあった。
     1つ。これまでよりもイグニス本来の姿の俺に触れようとするようになった。元々恋仲となってからスキンシップは増えていたため問題はないのだが、現実でもLVでも何かと手に触れたり頭を撫でてきたり、さらにはデュエルディスクから俺の胴体を伸ばそうとしてくるようになったのだ。前者に関しては愛されてるなぁと思うのだが、胴体を伸ばしてくるのは意味不明だった。そして、俺に触れている遊作が愛おしそうな表情をしているわけではなく、神妙な面持ちをしているのもまた理解不能だった。

    「……なぁ、最近何かあった?」
    「何も無い」
    「うっそだぁ〜!じゃあなんでやたらとこの姿の俺を触ってくるわけ?」
    「そんなに触れていたか?」
    「おうよ!しかも胴体伸ばしたり手をふにふにしたり!俺は猫かっての!」

     わざといじけたふりをして見せると、遊作は自分自身も感情が整理しきれていないといった様子で応えた。

    「悪かった。少し気になったことがあったんだ」
    「そうかよ。おまえが言わないなら詳しいことは聞かねぇけど、その気になったことってのはわかったのか?」
    「ああ。……おまえ、結構柔らかかったんだな」
    「えっ?」

     2つ。やたらとLVや電脳空間に行きたがるようになった。ふたりきりになると自分から電脳空間に行きたいと言うようになったし、これまで以上に財前からの協力要請に応じるようになった。俺としてはもう危ないことには首を突っ込まないでほしいのだが、いつものように「恩を売っておくのは悪くない」と言われてしまえば頷くしかない。
     幸い頼まれたものはどれも俺たちからしたら簡単なものだった。依頼をこなしていく中でPlaymakerからの熱い視線を感じることが増えていったのだが、あいつから何かを口にしてくることはなかった。言いたくないのなら仕方無いが、やはり気になることは気になってしまう。
     ふたりの時間を電脳空間で過ごしたがることについては──曰く「声が隣まで聞こえていないかが気になる」とのことだった。何とは言わない。

     3つ。それ以上は特にない。折角だから愛しの相棒の口癖を真似てやろうと思っただけだ。
     まあそんなこんなで俺は遊作を問い詰めることにした。どうしても言えないような悩みなら踏み込まないが、なんとなくこの件についてはむしろはっきりと確かめたほうがいい気すらしたからだ。それはリンクセンスによるものか、本能による直感かはわからない。……何より、このまま遊作に微妙なアプローチをかけられ続けるのも限界だった。

     遊作にはデュエルディスクに俺をロックして逃げられるようなことがないように、あらかじめ電脳空間へご招待しておいた。さあ、そこら辺の人間とは比べ物にならないくらいイケメンなSOLtis姿のAiちゃんが満を持しての登場だ。

    「Ai、何のつもりだ」
    「何っておまえもわかってんだろ?最近の遊作ってやっぱ俺に対してちょっとおかしいじゃん。具体的にはこの間の密偵事件が解決した後くらいから」
    「……おまえには関係無い」
    「そんなわけねぇだろ」

     後ずさりする身体をすかさず抱き留める。人間を模したこの身体であれば、いつも見上げているばかりだった相棒もいとも容易く捕らえることができてしまう。それが嬉しくて、少し不安でもある。逃げられないことを悟った遊作は、せめてもの抵抗にと顔を逸らした。だから俺は、その顕になった耳元に囁く。

    「なぁ遊作、もうここまできたら隠し事はナシだろ?それとも……俺のこと、やっぱり信用できない?」
    「ぐっ……」

     ずるい言い方だが遊作にはこれが一番効く。逆に遊作も俺を問い詰める時は似たようなことを言ってくるからおあいこだ。
     遊作は観念したかのように一呼吸おくと、俺に向き合い直してぽつぽつと話し始めた。

    「捕食姿のおまえに……触れてみたかったんだ……」
    「えっ?」
    「嫌ならいい」
    「イヤじゃない!」

     そっぽを向こうとする遊作を慌てて引き止めて、再び目線を合わせる。

    「嫌じゃないけど……遊作ちゃんってばそんなアブノーマルプレイをご所望だったわけ!?」
    「もういい」
    「あ〜〜〜冗談だって!そっちの話じゃないことはわかってる!からかって悪かったよ」

     おふざけが過ぎてしまった。完全に拗ねた様子の相棒を宥めるためにも、俺はすぐさま姿を変えることにした。

    「ほら!おまえのお望みの捕食態Aiちゃんだぜ!」
    「さらに大きくなれるか?」
    「おう!」

     これ以上機嫌を損ねることのないよう、言われた通りに体躯を広げる。

    「もっとだ、もっと……おまえなら簡単にできるだろ?」
    「……遊作さぁ、実は俺のこと煽ってたりする?」
    「さっきのお返しだ」
    「うわぁ〜〜ん!弄ばれた!」
    「ふっ……」

     そんな他愛無いやりとりを挟みながら、俺は人間1人なんて簡単に覆ってしまうくらいの大きさになったのだった。

    「そのまま横になれ」
    「ハイハイ、仰せのままに〜っ」

     この後どうされるかなんてもう予測済みだった。そして予測通り、遊作は俺の上に覆い被さってきた。

    「やっぱり柔らかいな……」

     念願の感触を再び味わえた遊作は、ここ数週間で一番と言っていいくらいの喜色を顔に滲ませていた。

    「わかってた……わかってはいたけどさ……。俺、ベッドじゃん……」
    「ベッドにしたかったわけじゃない。おまえはどんな時も、どんな姿であろうとAiだからな。……この姿のおまえにも、ちゃんと触れてみたかったんだ」

     そう言って微笑みながら俺の触手に触れる姿があまりに幸せそうで、その愛おしさに全てがどうでもよくなってしまう。

    「ひゅーっ、Aiちゃんってば愛されてるぅ〜。……なぁ、俺からも抱き締めちゃダメ?」
    「まだだめだ。俺が満足するまではこのままでいてもらう」
    「そんなナマゴロシ……ッ!」
    「おまえに性欲は無いだろう」
    「無くっても触れたいものは触れたいんだよ!つーかおまえはこんな触ってくるのに俺からは触っちゃだめって不公平だろ!」
    「ははっ」

     小さく笑う微細な振動をも直に俺のカラダへ響き渡る。直接繋がっているわけではないのに、このまま融けて1つになってしまうのではと錯覚するくらい近くに感じられた。遊作の方へ視線を向けると、挑発的にこちらを見る翡翠と視線が交わった。

    「ゆ〜さく……おまえ本当に煽ってないんだよな?」
    「……どうだろうな」
    「あっ、ついに本性現しやがったな!今に見てろよ〜〜!」

     その時が来たら、今度は俺が飽きるまでずっと抱き締めてやろう。そして、俺が満足するまでたっぷりと愛を込めて触れてやろう。
     あれやこれやと遊作にやり返す計画を練っていたのだが、気付くとその遊作は瞼が下がり眠たそうにしていた。どうやらすっかりリラックスしてしまったらしい。そんな相棒を見て、まあ今日くらいはずっとこのままでもいいかもしれないとも思ってしまう俺は、随分と絆されているのかもしれない。
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