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    遊郭パロ 真つぐ
    書きかけですが、雰囲気で読んでください。

    ##真つぐ

    タイトル未定心臓がこれ以上ない程にドクドクとなっている。
    しかし、これはトキメキの心音でなく、ましてや好奇心からくる心音でもない。ただ、緊張と焦りの心音だった。

    無理やりつれて来られ、もう金は払ったと言われてしまったら上司の顔を潰す訳にもいかず、引き返すことは出来なかった。
    案内された部屋は締め切られていて暗い。窓の障子をあけ、ガラス戸を開けると、月のあかりで少し部屋の中が明るくなった。波しぶきと桜が描かれた美しい襖が目に入り、素敵な部屋だとつぐみは思ったが、ひとつしかない布団が目に入り、途端ここが何をする部屋かを思い知らされた。
    一つだけ、希望があるとすればここのシステムは客が遊人たちを待つということだ。遊人がお気に入りの客が来ていれば、そちらに時間を割き、朝まで来ないこともあるという。それなら上司もわかってくれるのではないだろうか。

    しかし、ギシリと廊下が軋む音と「失礼する」という低い声にその希望は儚く散ったことを思い知った。

    スっと開けられた障子の先に居たのは、黒髪のガタイの良い、背の高い男であった。こちらを見つめる真っ直ぐな目と、つり上がった眉、引き締められた唇を見て、つぐみはこの美丈夫を当てるために上司がいったいどれだけお金を払ったのかと考えて、恐ろしくなった。

    「待たせてすまない。」
    「い、いえ···」
    少し落ち着いていた心臓がまた煩く鳴り出す。早くそういうつもりでは無いと言わないと···。でももし乱暴にされたら、とつぐみは葛藤で俯き、着せられた着物を握った。
    「···今日は満月なのだな。」
    「···え?」
    男が言う言葉に、つぐみは顔をあげた。男は窓から見える月を見ていた。
    「この部屋からこんな風に月が見えるのか···知らなかった。」
    「···この部屋は普段使わないんですか?」
    「いや。だが、こんな風に夜に窓を開けることは少ない。それに月など見ている暇もないからな。」
    男は遠い月をじっと見つめていた。その目が何故か哀愁が漂っているように感じる。
    「···すまない、無駄話をしたな。すぐに始めよう。」
    「えっ!?ま、まって下さい!」
    角帯を緩めようとするその手をつぐみは咄嗟に掴んだ。
    「なんだ?着衣のままが好みか?なら、そのまま···」
    「ち、ちがうんです!あの、私、そういうつもりじゃなくて!」
    「···どういう事だ?」
    つぐみは自分の意思でここに来たわけではない事、だが既に代金は支払っていて帰れない事、そういう事をしたい訳ではない事を男に伝えた。
    「なるほどな。最初に様子がおかしかったのはそういう事か。」
    「はい。だから、その···」
    「事情はわかった。お前には手を出さないと誓おう。だが、今すぐに帰してやることは出来ない。」
    「え?」
    「部屋に入って、すぐに客に帰られたと知れては俺も店の評判も落ちるからな、せめて夜明けまではいてもらおう。」
    「わ、分かりました···」
    つぐみはほっと胸を撫で下ろした。男は見た目はコワイが、優しい人物で助かった。
    「実際、経験して来いと連れてこられる者は多いが···大抵は絆されてしまう。お前のように何もしないでくれと頼む奴には初めて会ったな。」
    「そ、そうですか。」
    「だが、他の店でこの言い訳をして上手くいくと思うな。中には強引に迫ってくるやつもいる。気をつけることだ。」
    「···肝に銘じます。」

    そこからは何も話さないというのも変だったので、真田と二人で世間話に興じた。主につぐみが話していたが、真田がいろいろな事を聞いてくれるので楽しかった。これも、彼の身につけた技なのだろうか。
    ふと気がつくと、空の色が変わり始めていた。

    「だいぶ空が明るくなったな。」
    「ええ、とっても綺麗です。」
    「ああ···。」
    普段朝焼けなど見ることの少ないためか、オレンジ色に染まる空がとても美しく見えた。

    「小日向。」
    「はい?」
    「ここから出る前に、しなければならない事がある。」
    そういうと真田はつぐみに向き合い、目を見つめてきた。
    「しなけれならない事?」
    「ああ、お前の体に印を付けることだ。これでなにか聞かれても、俺とお前は一夜を共にしたと証明できる。だが、それにはお前の許可がないと出来ない。」
    「許可···」
    「どうか、許してくれないか。俺とお前の名誉のために。」
    「そういうことなら···分かりました。」
    つぐみの言葉に真田は少し笑みを零すと、つぐみの首元の髪を丁寧に払った。そして、襟を少し開き首に顔を寄せた。
    急に接近したことと、真田の暖かい息が首元にかかりつぐみの体はビクリと震える。
    「力を抜いていろ。大丈夫だ、すぐに終わる。」
    「はい···。っ!?」
    首に柔らかいものが触れたと思ったら、チクリと痛みが走った。その痛みが終わると、最後にべろりと舐められて、つぐみの体は固まった。
    「よし、上手くついたな。これで大丈夫だろう。」
    「あ、ありがとうございます···。」
    襟元を丁寧に直され、髪を元に戻されるが、つぐみは今自分がされたことに理解が追いついていなかった。
    「どうした。」
    「い、いえ!あの、じゃあ、帰ります」
    「ああ、玄関まで見送ろう。」
    障子をあけて階段を降りる。来た時とは違い、明るい光につぐみは安堵した。
    「じゃあ···さようなら、真田さん。」
    「ああ、またな。」
    真田のまたな、という言葉が少し引っかかったが、言及することなくつぐみはその場を後にした。

    遊郭を抜けると見なれた上司の姿があった。
    「つぐみ!どうだった?やっぱり立海は凄かったでしょ?」
    「も、もう、先輩ったら!無理やり連れてくなんて酷いですよ!」
    「いい思いが出来たんだからいいじゃない。あら?その首の跡···」
    どうやら、最後に真田につけられた跡のことを言われているらしい。これを付けていればバレないと真田は言っていたが、つぐみは冷や汗を垂らした。
    「つぐみ、貴方一体どんな技を使ったの?立海を手玉に取るなんて···」
    「···え!?ど、どういうことですか?」
    「だって印を付けられるなんて、相当お気に入りにされたのね。しかもこんな見えるところに。」
    つぐみはさっと青ざめた、真田は一言もそんな事はいっていなかったのに。ただ、最後に真田が放ったまたな、という言葉に合点がいった。
    「つぐみはそんな才能があったのね···ね!何したの?教えてよ!」
    「わ、私なんにもしてないです」
    「またまた〜」
    本当になにもしていないのだが、言うだけ野暮だとつぐみは口を閉じた。


    数日後、家へ帰ると一通の手紙が届いていた。
    差出人は書いていないが、達筆な字で「通い神へ」と書かれている。
    封を切ると中には数枚の手紙と、なにやら名刺のようなものが入っていた。
    手紙を読んでいくと、前回の話が楽しかったということと、また会いたいという旨。そして、この名刺について書かれていた。
    「同封した名刺は、俺の指名客だという証になる。次に店に来た時にはこの名刺を番台に渡してくれ。」
    「へぇ、これで···」
    名刺には真田の名前と、立海の文字が刻まれている、実にシンプルなものだ。これがどんな効力を持つかは分からないが、真田の名前を見ていると気が引き締まるので、大事に持っておこうと決めた。

    次の休養日、つぐみは立海の店へとやってきた。上司から金額を聞き、お金は充分に持ってきたが、それでも足りるか不安であるので、確実に真田に会えるとは限らない。もし足りないのなら素直に帰ろうと思っていたし、頻繁にお金の出費があるのならもう真田の元へ行くのはやめようとさえ思っていた。
    からし色の暖簾をくぐり、番台の男へ声をかける。
    「いらっしゃい。」
    「あの、真田さんをお願いします。」
    つぐみは封筒から例の真田の名がかかれた名刺を取り出し、番台に渡した。すると、番台は驚いた様子で、つぐみの事を見てきた。
    「へぇ!あの真田が!珍しいこともあるもんだなぁ。」
    「え?どういうことです?」
    「いや、真田は指名の客を滅多に取らないって有名なもんでなぁ。この名刺なんか俺は初めてみたよ。」
    みんなこの名刺を手に入れるために必死に通うのだ、という番台の話につぐみは驚いた。てっきりこの名刺は真田の客みんなに配っているものだと思っていたのに。よっぽど前回の時のように何もしない時間がほしかったのだろうか。
    料金の話になり、つぐみはいささか緊張したが提示された金額は思っていたよりもずっと少なく、寧ろ一桁足りないのではないかというほどであった。
    「この名刺を持っているお客さんは特別料金なのさ。やつらがお得意様と見込んだお方にしか渡さないからね。」
    どうやら名刺はお気に入りの客に何度も通ってもらうためのサービスのようだ。確かに、遊郭に行く一番のネックである料金が手の届く額であれば、敷居は低い。
    番台と話しながら歩き、案内された部屋は前回と同じ、美しい襖のある部屋だった。
    部屋に入ると、今日はすでに窓が開いている。今日は半月より少しかけており、とても明るいという訳ではないが、月の光は幾分かつぐみの心を和らげてくれた。
    しばらく眺めていると部屋の外から声をかけられた。
    「失礼する。」
    開けられた襖から入ってきたのは、前回と変わらない真田であった。つぐみの姿を確認して、真田は少し表情を崩す。
    「来てくれたのだな。」
    「・・・はい。」
    今夜は半月か、とつぐみの隣に真田が座る。つぐみは真田の顔を見上げた。
    「あの、真田さんはお疲れなんでしょうか。」
    「いや。なぜだ?」
    「番台さんから真田さんが名刺を渡すのは珍しいって聞きました。でも私に名刺を送ってくださったから、その、何もしない時間がほしいのかなって。」
    真田はつぐみの話に少し驚いたような顔をしたが、すぐに考え込むような顔になり、月を見上げた。
    「・・・俺がお前に名刺を渡したのは、お前ともう一度話したいと思ったからだ。」
    「え?」
    「お前が話してくれた事は俺の知らない世界ばかりで・・・久しぶりに楽しいと思った。いつもは情事をして、寝て、そして朝になる、それの繰り返しだからな。客とは、次の誘いや口説き文句を言うくらいで、まともに話したことはない。だから前回のお前との会話は新鮮だったし、お前の話す事は面白かった。」
    真田の言葉につぐみは驚く。自分がただ単に自分の身の回りで起きたことをつらつらとしゃべっていただけで、つぐみとしては何も特別な事は言ってないつもりだった。だから、あの手紙に書かれていた"楽しかった"という旨もお世辞で、また来てもらうための手段の一つと思っていたのだが、どうやら真田は本気でそう思っていたらしく、少し申し訳なくなった。
    「何もしない時間がほしいといったら、そうなのかも知れないな。お前にとっては、つまらないかもしれないが。」
    「・・・いえ、真田さんがそういってくださるのなら、私、何度でも話に来ます。頻繁には来られないかもしれないし、何にも出来事がない時もあるかもしれないけれど・・・私の話が真田さんの為になるのなら。」
    月の見上げていた真田の茶色がかった瞳は、ゆっくりとつぐみを捉えた。つぐみはその真っ直ぐな目を見つめかえした。
    「ああ。ありがとう。」
    ふ、と真田の顔が和らげられる。つぐみもつられて微笑み、さっそく今日は何を話そうかと考え始めた。


    朝日が昇りはじめて空が明るくなる。もう終わりの時間が近づいてきた。
    美しい橙色と紺色のグラデーションを見つめていると、真田がつぐみの名を呼んだ。
    「前に残した"印"は残っているか?」
    「え、あ、い、いえ・・・」
    つぐみはつい襟元を撫でた。着けられたときは消えるのかというほどのうっ血痕であったが、数日したら消えていった。上司には見つかってしまったが、他の人にばれるのではないかとドキドキしていたので、跡がなくなったときにはほっとしたものだ。
    「そうか。ではまた残さねばな。」
    「あの・・・真田さん。その・・・」
    「なんだ?」
    つぐみは上司に言われた、お気に入りの客にしか印を残さないという事を真田に伝えた。
    「客の間ではそうなのか。知らなかった。」
    と真田は本気で驚いているようで、本当に知らなかったようだ。
    「その、だからもう残さなくていいのではないか、と思うのですが・・・。」
    つぐみのその言葉を聞き、少し真田は悩む素振りを見せたが、すぐに言葉を続ける。
    「駄目だ。」
    「ええ?ど、どうして・・・」
    「前も言ったが、その印は俺と一夜をともにしたという証。何も気に入りの客だけにつけている訳ではないぞ。」
    「そ、そうなんですね。」
    「・・・まぁ、無理矢理にすることでもない。お前が嫌というなら、残さないでおこう。」
    つぐみは一瞬安堵したが、すぐにそれは駄目なのだと思い至った。こちらは今、彼にさせるべきではない仕事をさせているのだ、ただ話をするという仕事を。だが、彼の本来の仕事は情事な訳で、それが満足に出来ていないと周りに知れたら評判に関わるのでは、とつぐみは思い直した。
    自分のわがままだけで真田を困らせてはいけない、そう決心するとつぐみは襟元を緩めた。
    「・・・小日向?」
    「し、印、つけてください。私、もう何言われても大丈夫ですから。」
    少し話せる間柄になったからといって、男性に首元を差し出すというのはつぐみにとって恥ずかしい事だった。
    真田の顔を見れなくて、ぎゅうと目をつむる。
    「・・・いいのか?」
    「・・・はい。」
    着物がすれる音と体温で真田が近づいてきたのがわかった。温かい息が首元にかかる。
    「っ・・・」
    ぢゅうと肌を吸われた。前回よりも強く吸われているようで少し痛い。
    唇が離れたかと思ったら、もう一度吸われて体がはねた。先ほど吸われた場所とはまた別の場所だ。
    ようやく唇が離れ、最後にべろりと舐られる。
    「・・・よし、これでいいだろう。」
    真田は何事も無かったかのように、つぐみの着物を整えた。対して、つぐみの心臓はドキドキと高鳴ったままだ。何度やっても慣れそうにない、つぐみはそう思った。


    「じゃあ、さようなら。」
    「ああ。また。」
    見送ったつぐみの姿はあっという間に眩しい朝の光に包まれていった。
    「おや、真田。おはよう。」
    「幸村。おはよう。」
    一足先に仕事が終わっていたのだろうか、寛いだ格好をした幸村が声をかけてきた。
    「さっきの子か、噂の子は。」
    「噂?」
    「真田が名刺を渡したって子だよ。まさか、と思っていたけど本当だったんだね。」
    「ふん。」
    「それに、あの跡···ふふ、相当お気に入りみたいだ。初めてなんじゃない?真田がこんなに尽くすのは。」
    「···もう寝る。お前も休めよ。」
    幸村の横を通り抜けて、自室へと帰ろうとすると、幸村から名を呼ばれた。
    「わかってはいると思うけど、踏み込みすぎてはだめだよ。」
    「···ああ。」
    おやすみ、と声をかけ真田はまた歩き出した。
    真田は自室の扉を開ける。あの部屋とは違い、光を一切通しておらず暗闇だ。
    着替えて、冷たい布団に体を滑りこませる。
    深呼吸をして、目を閉じた。

    わかっている。わかっているのだ。
    俺たちは一生ここから出られない。
    あの光を掴むことは無い。あの眩しい光を手にすることはない。
    だが、せめて見つめさせてくれないか。あの暖かい光を。
    それだけで俺は・・・。

    夜の似合わない、柔らかな小日向の微笑みを思い出して、真田の意識は沈んでいった。
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