タイトル未定心臓がこれ以上ない程にドクドクとなっている。
しかし、これはトキメキの心音でなく、ましてや好奇心からくる心音でもない。ただ、緊張と焦りの心音だった。
無理やりつれて来られ、もう金は払ったと言われてしまったら上司の顔を潰す訳にもいかず、引き返すことは出来なかった。
案内された部屋は締め切られていて暗い。窓の障子をあけ、ガラス戸を開けると、月のあかりで少し部屋の中が明るくなった。波しぶきと桜が描かれた美しい襖が目に入り、素敵な部屋だとつぐみは思ったが、ひとつしかない布団が目に入り、途端ここが何をする部屋かを思い知らされた。
一つだけ、希望があるとすればここのシステムは客が遊人たちを待つということだ。遊人がお気に入りの客が来ていれば、そちらに時間を割き、朝まで来ないこともあるという。それなら上司もわかってくれるのではないだろうか。
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