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    文字が読めない2️⃣に文字を教える8️⃣のおはなし。
    平ゼロ時空、しり切れとんぼさんです。

    #サイボーグ009
    cyborg009
    #002
    #008
    #ジェット・リンク
    jetLink
    #ピュンマ

    それは些細な出来事だった。

    ブラックゴーストの気配を察知したドルフィン号はアメリカのロサンゼルスに降り立ち闇夜に暗躍する憎きブラックゴーストの末端の支部の兵士と一戦を混じえた後の事だ。

    帰路への旅立ちの間各々ロサンゼルスを満喫する中、ジョーとジェットは一層賑やかなメインストリートにあるカフェに入ったらしい。
    そして店員が二人の席に注文を促められ、箇条書きに筆記された文字だけのメニュー表を一通り目に通したジョーが先に注文する。

    「僕は紅茶で。君は?」
    「俺も同じで」
    「大丈夫かい?君紅茶飲まないじゃないか」
    「ああ、今日はなんだか紅茶の気分なんだ」

    店内を満たす紅茶の匂いにあてられたのか、ジェットが紅茶を頼むと言ったものだから珍しい事もあるものだとジョーは差程深く考えず店員に紅茶ふたつを注文した。
    程なくして店員は淹れたてを物語る湯気を立てる飴色の紅茶をふたつ、ジョーとジェットに差し出した。

    ストレートで口にしたジョーを横にジェットは砂糖とミルクをつぎ足しミルクブラウンに変化した紅茶に口をつける――砂糖とミルクでは誤魔化せない紅茶独特のトゲのある味に顔を顰めたのは言うまでもない。


    「だから言ったじゃないか」「それはもう終わったことだろう」と小競り合い、もといジェットの言い訳じみた反発とも取れる二人の会話を小耳に挟んだピュンマはふと疑問を抱く。
    否、ずっと疑問に思っていたのだ。00ナンバーズとして他の仲間と共に過ごす様になった頃から彼は微かに疑問を抱いていた。

    「ジェット」
    「ピュンマ、どうしたんだ?」

    椅子に座り一人雑誌を開いていたジェットにピュンマは声をかける。
    異様な速さでページを読み進めていたジェットに、ピュンマは長らく抱いていた疑問をぶつける事にした。

    「君、字が読めないのか?」

    ぴたり、とページを捲る手が止まる。
    伏せたブラウンアイは雑誌から静かにピュンマへと向けられ、なにがおかしかったのか密かに口角を上げる。

    「バレちまったか」

    ほぼ読まれていないであろう雑誌をパタンと閉じ、ジェットはやれやれと観念したかの様に笑った。

    予兆はあった。
    文面を見せてこれはなんと読むのかとフランソワーズやハインリヒに尋ねる場面は何度も見てきたし、実際ピュンマ自身もジェットに聞かれた。
    その殆どが他国語であった為、分からないのも無理はないと博識なピュンマはその都度口頭で呼んで聞かせていた。
    たまに母国語である英語の文面を見せて尋ねてくる事もあったが、母国語でも訛りや短略で読めない事はよくある事だとさして気には止めなかった。
    だが今日の会話で疑問が確信に近付いた。
    ジェットは飲めない紅茶を飲みたかった訳では無い。ジョーが口にした紅茶しか頼めなかったのだ。

    「俺の住んでた所じゃ字が読める方が珍しかったぜ?」

    まあ、字が読める奴はあんな掃き溜めには居座らないがな、と軽くあしらう様に話すジェット。
    ジェットの生きてきた世界を考えれば識字能力が持てない事は容易に考えつく。実際ピュンマの母国でもそうだ。
    紛争に侵され教育の機会を根こそぎ奪われた子供達をピュンマは数え切れない程見てきた。
    字を覚える事よりも明日生きる術を探す事の方が優先されるのだ。戦争とは、貧困とはそういう事なのだとピュンマは世界を見た時に痛い程思い知った。

    「今だってそうさ」

    近代化が進み、今や世界は字を読める事が当たり前の構造となった。
    字を読めない人間は世界から置いていかれる。置いていかれた者は見なかった事にされる。世界は綺麗な見てくれのものしか見てくれない。
    だがそれでは駄目なのだ。ジェットも、自国にいる自身の名前すら書けない人達も。

    「……僕が教える」

    考えるよりも先に言葉が口をついた。聡い彼にらしくない事にピュンマ自身が内心驚いていた。

    「覚えて無駄になるものじゃないだろ?それにたまにはこういうのも悪くない。そう思わないか?」

    先走った言葉を取り繕う為に出てくるそれをきょとんと呆けた顔で受け止めるジェット。
    拒絶されるか、揶揄されるか。そんな悪い予感は期待を帯びた口角により全てかき消された。

    「……じゃ、頼むぜ、センセ」

    ジェット・リンク、18歳。
    半世紀と少しを経て、今初めて文字という存在に触れる。


    ジェットが識字能力を身につけるにあたりピュンマは知っておきたい事があった。それはジェットがどれだけ文字を記号として認識しているか、だ。
    脳の発達により識字に問題があるのならそれに合わせて物事を教える方法を変えなければならない。
    そこでピュンマは初めにジェットの識字能力と自身の理解範囲を照らし合わせていく。

    「……これは骨が折れそうだ」

    記号としてなんとなく理解はしている様だ。だがその記号の意味はなんなのかはてんで理解が出来ていない様なのだ。
    "あ"という単語を耳で聞き理解は出来る。だが文字で書き起こされた"あ"という文字が耳で聞いた"あ"と同じ意味だと理解の直結が出来ていない。
    運が良かったのか、そもそもの運命が悪過ぎたのか、よくこの字に溢れた世の中で日常生活が送れていたものだとつい思ってしまう。

    「……」
    「……いや、寧ろこっちの方が覚えやすいかもしれない。頑張っていこう、な?」

    自身がそれまでとは思いもしなかったのか、バツの悪そうな、だがどこが申し訳なさそうにも見えるジェットの長身がいつになく縮こまっている様な気がする。
    まるで親に叱られると思い込んでいる小さな子供の様だと思いながらピュンマは慌ててフォローを入れて気を取り直した。

    数日、不定期に行われた勉強会の後、ピュンマの予想は杞憂だったと立証された。
    最初こそ単語と意味の理解の直結に頭を抱えていたジェットだったが基礎を理解してからの成長スピードには目を張るものがあった。
    日常的に使うものであり文字に溢れた現代社会が追い風になっているのか、単語の習得速度は足元の火を見るより明らかだった。
    言わば今のジェットはカラカラに乾いたスポンジで、知識という水を浴びれば浴びる程乾いた体はそれを吸い込むという訳だ。

    「あ、なたは……?ですか」
    「When、Where、なら誰が?」
    「Who!」
    「yes!」

    紙上に記された文章を指が辿る。単語ひとつひとつを噛み砕くように読み進めるその口は無意識にその文章を読み上げていた。
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