近く遠く「くっそぉ!どこだぁ…」
広すぎる空港のターミナル内で数学教師はひとりの人物を探していた。
探し人の出発時刻はわからない。もう行ってしまったかもしれないし、もっと遅い時間なのかもしれない。もしかしたら、今飛び立った便かもしれない。発見できる可能性はかなり低かったが、数学教師の目は、足は、化学教師の姿を探すことをやめなかった。
「頼むから間に合ってくれ!伊黒」
祈るような気持ちが声に出た。
空港のロビーで化学教師は、スマートフォンの画面を眺めていた。画面には数学教師へ送信するだけのメッセージが表示されている。
『さようなら』『あなたの幸せを心より願う』
たった二行の言葉を送ることを躊躇っていた。
あの日から今日まで不死川と言葉を交わすことも、メッセージのやりとりもしなかった。こんなメッセージ、何をいまさら…と思われるような態度をとってきた。けれど自分から終止符を打つこともできなくて曖昧な関係のまま出発の日を迎えてしまった。
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