学パロ②続き
【旧世界】は俺達の遊び場だ。
ダーツにビリヤードがあり、また飲食もできるスペースとカラオケが出来る個室が3つ程ある。学校が早く終わった日、つまらなくて帰った日、そんな時に此処に集まってみんなでダベる。
マスターのアイスマンは俺達に酒は出してくれないが、煙草を吸うのは黙認してくれる。たまに一緒に賭けビリヤードをやって遊んでくれる数少ない優しい大人だ。
「やぁやぁ!中也!機嫌が悪いね!」
阿呆鳥が笑いながら近づく。そして、そのまま背中に覆い被さる。
「重い。離れろ」
「連れないなぁ〜何があったんだい?俺達が聞いてやるよ」
振り解いて、球に集中し、キューで打つ。白い球は別の球を弾き、コーナーへ吸い込まれるように入っていく。ヒューっと、阿呆鳥が口笛を鳴らす。
「何も考えずに、コレだけに集中したい感じですね」
「そんなとこだ」
場所を移動しながら、次の球の弾く位置を考える。広報官は困ったように笑った。
「まぁ、彼女絡みなのは分かりますが、少しは落ち着きましょう?」
「うるせぇ。……分かってるよ」
そう言って、球を打つ。今度はコーナーへ吸い込まれる事は無かった。
「よっしゃー!次は俺だな!」
その場から離れると、阿呆鳥が意気揚々とキューを持ち、この戦局を計算する。近くのテーブルに置いたコーラを飲みながら、その様子を伺う。阿呆鳥は煩い奴だが、頭の中で考えこむ時は静かだ。球はまだ4つ残っているが、きっと此奴で勝負は終わるだろう。
「それで?何があったのか聞いても?」
広報官は静かに近づき、囁くように聞いてきた。此奴はメンバーの中で一番空気が読める。俺があまり言いたくない事を知って、でも悩みは解決してやろうと聞いてきたのだろう。言いたくないというか、その事実を受け入れたくないというか。
はぁーと大きな溜息をつき、頭をかく。
「いや、その」
「はい?」
「太宰とやっちまった」
ん?無言?と思い、広報官を見た瞬間、
「はぁぁ!!!!!???」と大きく叫ばれた。
初めてみる動揺した広報官に俺も驚き、少し離れる。
「あぁぁぁああああ!!ちょっと、広報官!!」
阿呆鳥は広報官の叫び声にビックリしたらしく、球を外したらしい。
「あ、ファール」
俺と広報官が声を揃えて言うと、阿呆鳥は「酷い!」と嘆いた。
その姿を見て笑っていると、広報官はいつもの笑顔に戻し「阿呆鳥さん、もう1回やっても大丈夫ですよ。私のせいですから」と、このミスをサービスにした。いや、絶対、俺から話が聞きたかっただけだろ。
阿呆鳥がまたキューを構えて狙い始めた時に、広報官は真顔に戻り此方を見る。
「え?どういう事ですか?今までずっと避けてきたって言ってましたよね??どうしちゃったんですか!?」
「いや、こぇよ……。ちょっと挑発に乗ってしまっただけだって」
苦笑いしながら答えると、両肩を捕まれ揺さぶられる。
「笑いごとじゃないですよ!彼女は美人でスタイルもいいですが、悪女ですよ!」
「そんなの、俺が良く知ってるって」
阿呆鳥に聞こえないように小声で話す。その間、阿呆鳥は集中できているらしく、球がコーナーに落ちる音がする。あと3つ。
「それで?付き合うんですか?」
「いや、付き合うとかはしねぇ。重い」
「まぁ、そうかもしれませんが……」
すると、たまたま近くにいた、マスターの冷血が話に加わる。
「付き合わないなら、避妊はちゃんとしろよ」
「……分かってるよ」
「え?ちゃんとしたんですよね?」
「……一応、した」
最後らへんは、ゴムが無くなってしまったからそのまましたが、外には出した。チラッと広報官を見る。
「ちょっと!中也さん!?」
と、また責められそうになった所で、阿呆鳥が「失敗失敗」と笑いながら戻ってきた。手で促すと広報官はまだ、聞きたい事があるといった顔だったが、キューを持って台へ向かう。
「え?何?何かあったの?」
阿呆鳥は不思議そうに広報官とタッチする。その瞬間、広報官は阿呆鳥に「避妊してないんですって」と呟いた。あ~これはちょっと怒ってるらしい。
「え?え?中也、彼女できたの?え?次はどんな子?やっと童貞捨てたんだ!おめでとう!でも避妊は大事だぞ!」
「……彼女じゃねぇ」
「え?そうなの?ワンナイするには、まだ早いんじゃない?」
「ワンナイだったら、まだいいんだよ……」
「え?え?どういう事??」
なんて説明しようか悩んでいると、全ての球を落とした広報官が戻ってきた。
「相手は太宰さんですって」
「あーー……マジ?」
「マジ」
「そっかぁ~~~……おめでとう!」
「めでたくねぇよ!」
「え?そうなの?だって、中也も好きだったんだろ?」
「そういえば、そうですよね!おめでとうございます!」
二人は急に手を叩いて祝い始めた。少し離れた所で冷血も手を叩いている。
「そうだけど、そうじゃねぇんだよ……」
苦い顔をして項垂れた。広報官と阿呆鳥は肩をポンと叩く。そこでふと思った。
「そういや、広報官、手前は俺と太宰が付き合うのは反対みたいな反応だったな?なんでだ?」
「そりゃあ、あれだけの美女じゃないですか!たとえ男癖が悪くても、今誰とも付き合っていなければ、スカウトしたいと思ったんですよ」
「あぁ…まだ言ってんのか、それ」
広報官は現在、学生モデルをやっている。たまにカップルでの撮影があるが、広報官の顔が良すぎて何時も女性が気圧され、いい表情が撮れないそうだ。でも、太宰なら並んでも見劣りしないし、広報官の顔に慣れている為、気圧される事もないだろう。広報官は何度か太宰を誘っているが、何時も断られていた。
「男癖なぁ」
「寧ろ、中也さんと付き合えば、男遊びも無くなって、悪い噂が広がらないかもしれませんね」
「あ、それならいいかもな!」
「……」
黙ってしまった俺に広報官と阿呆鳥が不思議そうな顔をする。一応、誤解は解いてやらないとなぁ。
「男癖なんだけど」
「どうしました?」
「どうしたんだ、中也?」
そこで、広報官はハッとした顔をした。どうやら気づいたらしい。
「ま、ま、ま、まさか!」
「そうなんだよ」
「え?何何?」
阿呆鳥は何の事か分からないらしい。広報官が声を潜めた。
「処女だったんですか?」
「はぁぁああああ!!!???」
青い顔をする広報官、大声で叫ぶ阿呆鳥、グラスを落とす冷血、苦虫を嚙み潰したような顔でコクリと頷く俺。【旧世界】にカオスな空気が流れていた。一通り叫んだ阿呆鳥は、俺を見て、「ご結婚おめでとう?」と呟いた。
「それが絶対嫌なんだよ!!!」
俺も思いっきり叫んだ。
しばらく叫んで、ぐったりして、三人でテーブルを囲んで座った。時間を見ると、そろそろ夕方だった。
「そういや、外科医とピアノマン、来るの遅くねぇか?」
「そうですね。授業は終わっているはずなんですが」
「先生に捕まっているのかな?」
三人で笑う。外科医とピアノマンは授業だけは受けてから行くと言われていた。みんなが集まったら、何処かに食べに行きたい。早く来ないかなとぼんやり思っていたら、カランカランと音がした。
やっと来たかと思い、ドアの方を振り返る。そこで背筋がヒヤッとした。
「やぁ~中也……先生じゃなくて、とんでもない人に捕まってさ……」
ピアノマンは苦笑いしている。隣の外科医はただでさえ顔色が悪いのが更に青白くなっている。それもそのはず、その二人の後ろに仁王立ちで立つ奴がいたからだ。
「中也、一体どういう事?」
怒り狂った太宰が立っていた。
みんな、すまん。