独白・・・昔話でもしようか。
改めて言うまでもないが貴様の母は芸者だった。あやつの親族に軍人もいなかったし、当時の私も生死を彷徨う大怪我を負うような任務を拝命することもなかったから、軍人がいかに危険な職業かあまり理解していないようだった。
貴様が産まれた時は、美味しいものを腹一杯食べ、野山で走り回り元気に育ってほしいとふくふくとした貴様の頬をつつきながら朗らかに語っていたよ。その息子がいつか補給が途絶えた異国の地で飢餓と寒さに喘ぎ血濡れで死ぬ覚悟もせねばならんなどと頭の片隅にもない様子だった。
・・・そうだ。私も覚悟がなかったのだ。本来であればそんな血濡れの未来とついぞ縁などなかっただろう家の女の息子である貴様を私の血の為に早々に戦地に引きずり出す覚悟が。平二のようにはなれなかった。
798