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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    meepoJlo

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    日常が続かない空⚠️欠損表現、障害に関する表現、ネタバレを含みます。(2022.3.17)

    何でも許せる方のみご覧ください。












    *****



    優しい春の風が舞う3月。
    探した彼女はそこにいた。


    グラウンドの端の階段で、制服のまま座る後ろ姿が目に入る。
    髪がふわりと揺れてなびく。

    綺麗だな、と思う。


    棘は階段をゆっくりと降りて、唯の後ろに立った。少しだけ腰を屈めて、彼女を見下ろすように覗き込む。

    「ツナツナ」

    気付いていたのだろうか。
    わからないけれど、唯は頭を上げて棘を仰ぐ。

    「…棘だ」

    静かに目を細めて笑う唯。
    ゆっくりと、その右手が棘の顔へと伸びて、


    空をかく。


    あの日から、上手く空間が把握できない彼女はもう、卒業したら呪術師を辞める。

    棘はその手を捕まえて、ネッグウォーマーを少しズラして自分の頬に寄せた。
    冷たい唯の手。
    笑う唯は、いつから此処にいたのだろう。

    「こんぶ?」
    「うん。ちょっと肌寒いかも」

    何も言わない棘の気持ちを汲むように。
    いつも温かな笑顔で包んでくれた唯。


    棘は唯の手を握ったまま、腰を折る。
    唯の額に、軽く口付けた。

    やっぱり、恥ずかしそうに唯が笑う。

    棘は、唯を挟み込むようにして階段の一段上に座る。身体をぴったりくっつけて、2人の右手を唯のお腹辺りに置いた。

    その白い首筋に、顔を埋めれば。
    唯の甘い香りがした。



    悲しい訳じゃない。
    少し寂しいだけ。


    ぎゅっと、離すまいと。
    力を入れるその腕は、もう片方しかないけれど。


    唯の左手は、探りながら、棘の右腕に触れた。


    「棘は変わらないね」

    「しおこんぶ…」


    君がこの手に触れて、ずっと繋いでいてくれるなら。



    もう失う事もない。



    卒業式まで、あと少し。












    …っ、くしゅんっ!


    くしゃみをひとつ。
    季節は間もなく秋を迎える。
    刺すような日差しは日に日に少なくなり、朝夕はぐんと気温が落ちて来た。
    唯は上下長袖のジャージを着てグラウンド脇の階段に三角に足を折って座る。

    澄んだ青空が天高く綺麗だった。
    然程離れていないグラウンドで、真希とパンダから指導を受けている後輩たちから目を離し、空を仰ぎ見る。

    頬を撫でる風が気持ちいい。
    でもやはり、少し肌寒いかもしれない。


    後ろから階段を下る音がして。けれど、それも誰だか分かる唯は、変わらず空をぼんやり見上げていた。

    「ツナツナ」

    棘は、唯のすぐ後ろに立って顔を覗くように空を遮る。軽く腰を屈めて唯を見下ろす。

    「おかえり、買い出し当番」
    「しゃけ」

    左手にはビニールに袋を下げている。袋の中はお茶などのペットボトルが入っていた。
    空いた方の手が、唯の頬に伸びて優しく触れる。

    「こんぶ?」

    首を傾げて尋ねる棘。
    唯の頬はすっかり冷えて冷たい。くしゃみしてたのを見られていたようだ。

    「大丈夫。今日は少し寒いね」

    笑う唯に、棘は頷く。

    「身体動かしてれば温かいんだけどね。何回やっても、今日は真希とパンダに勝てないから諦めて休憩してる」

    勝率は4割ほど。やや唯が劣性だが、何とかついて行っている…つもりでいる。今日は上手く行かないと不貞腐れる唯に、棘はただ笑った。

    唯はグラウンドに向き直る。
    棘の手は唯の髪に触れて頬から離れていった。
    グラウンドにいるメンバーは誰もこちらを気にする様子はない。棘はビニール袋を階段に置いた。

    「ツナ」

    呼び掛けたかと思うと、その両手が唯の首筋に回る。

    「………っ?」

    戸惑う唯に構わずその腕は伸びて、そのまま唯を後ろから包み込んだ。唯の背中に身体を寄せて、両足で挟み込むように一段上の階段に腰を下ろす。棘の手は唯のお腹辺りで組まれた。

    棘の匂いがふわりと香り、その体温が直に感じられる。思わず身体が硬直して、顔が真っ赤に染まるのが自分でもわかった。
    振り向く唯に、棘は顔を覗かせる。

    「……棘?」
    「ツナマヨっ」

    ネッグウォーマー越しに唯の頬に、棘が口付ける。
    それは一瞬の事だが、慌ててグラウンドを見れば、やはり誰もこちらを見てはいない。
    棘は唯の髪を掻き分けて整え、唯の白い首元にも、頬と同じように軽く口付けてから顔を上げる。
    棘の髪が首筋にかかってくすぐったい。
    唯の心臓は煩く響く。

    少しだけ身体を動かしてみたが、離す気はないらしく、棘の腕には一層力が入る。唯の力では全く歯が立たない。

    「おかか」

    棘は唯を抱きしめたままグラウンドを眺めた。
    唯もそちらを見る。
    温かいを通り越して身体が熱いのは、体感だけではない気がする。



    そのまま、静かに時間は流れる。
    棘は口をつぐんだままだった。


    唯は棘の腕に自分の手を重ねた。

    その片方の手を伸ばして、棘の髪に触れる。
    サラサラした髪を撫でてみた。
    棘は静かに目を瞑る。

    「何かあった?」

    小さく呟く。
    後ろで微かに動く気配があった。
    しゃけも、おかかも返ってこない。
    これが棘の返事なのだろう。

    棘は俯き、唯の首元に顔を埋めた。

    「しお…こんぶ…」

    ネッグウォーマー越しにくぐもった声が小さく聞こえた。あまり聞き慣れない単語。

    「…そっか」

    一昨日まで任務に出ていた棘。
    何事もなく無事に帰って来たように見えたけれど。
    きっと彼は、こうして突かなければ何も言わない。他人に優しい分、自分の傷には疎いのかもしれない。

    「…こんぶ」

    肩越しに伝わる声が、小さく響く。
    唯は首を傾けて自分の頬を棘の頭にくっつけた。爽やかなシャンプーの香りがした。


    そのまま、しばらく。









    スパーン!っと、大きな音が聞こえて。
    転がる虎杖に、笑う真希とパンダ。野薔薇に伏黒。

    …決着が付いたようだ。

    「痛ーってぇ!!」

    呻く虎杖を笑いつつ、みんながこちらに歩いてくる。
    棘が唯の首元から顔を上げた。

    「買い出しご苦労様」
    「ありがとうございます」

    「しゃけ」

    パンダと伏黒、野薔薇たちが棘に礼を言う。
    棘は片手で、何事もなかったように袋のペットボトルを差し出した。それぞれが飲み物や頼んでいたお菓子やパンを受け取っていた。
    ペットボトルを空けながら真希が唯を見る。

    「唯はいつまでサボってんだよ」
    「だって寒いもーん。勝てないもーん!」
    「しゃけしゃけー!」

    頭上から唯を肯定する声が聞こえる。
    いつも通りの棘だった。

    真希が呆れた顔でこちらを見た。

    「あんま唯を甘やかすな、棘」
    「おーかかー」

    言って棘は唯をわざとらしくぎゅうっと抱きしめる。唯は苦笑いで2人を見た。

    「何笑ってんだ。唯、私から一本取るまで今日は帰れないからな」
    「えぇ…酷い…」
    「おかか!」

    真希が笑う。
    文句を言う唯に便乗する棘。

    ほんの少しだけ元気になった気がする棘の声に、唯は胸を撫で下ろす。
    日常と非日常が、日常になるこの場所で。


    そんな日常、壊れてしまうのは一瞬だから。


     

    辛い事全部、話さなくてもいいから。


    優しくて。
    弱音を吐かない、この人の。

    ただ、隣で。


    ずっと。


    End***





























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