Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 102

    meepoJlo

    ☆quiet follow

    支部では閲覧不可

    透明な空⚠️直接的な描写はありませんが、夢主が襲われる表現があります。何でも許せる方のみ閲覧下さい。

    棘×不登校女子。






    ※**※**※**※**※**※**※**※



    幼い頃から使えた呪言。
    狗巻の家は、決してそれを良しとはしていない。

    自分は幼い頃から、たくさんの人を呪って生きてきた。


    事ある事に、自分を排除しようとするその家は、それこそがひとつの呪いとなって、ただ自分にとっては苦しいだけの場所でしかなくなっていた。
    産みの母とは、会ったこともなくて。母を愛情を求める事すらも、とうに忘れていた。

    言葉じゃない。
    でもその呪いはきっと、自分がいるから産まれたもの。


    中学に上がる頃には、ほとんど学校にも行かなくなっていった。勉強は家でも出来る。
    御家柄か、世間体だけは気にする「家族」とは何度か揉めたけれど。強い術式のお陰で、表立って強く当たられる事もなかった。
    ただそれは、無関心へと転じて行く。

    衣食住は与えられ、死ぬ事はないけれど。
    きっと生きていても死んでいても、世界は何も変わらない。

    否。自分が死ねば、この家の呪いはひとつ消えるのだろう。








    家を抜け出した、平日の朝。
    黒のマスクを付けてコンビニに向かう途中。


    そこに、彼女はいた。


    小さな公園だった。
    自分と同い年くらいの、女性と言うには少し幼い少女。春らしいふわふわした服に、小さなポシェットを下げていた。
    自分が言うのもおかしな話だが、今は普通の学生は学校にいる時間だ。
    棘は思わず足を止めた。
    彼女はブランコに座り、ゆっくりと揺れていた。


    温かい風と、散り行く桜が舞う中で。
    空を見上げる彼女に。

    思わず、見惚れてしまった。



    彼女が顔を上げる。

    「わ。すごい美人に見られてる」

    目が合った。

    「………」

    思わず棘は、逃げ出してしまった。







    その夜、棘は眠れなかった。

    きっとまた、自分はひとつ呪いを作った。
    彼女を、傷付けた。


    別に、だからどうと言う訳でもないけれど。







    翌日。

    別にどうでもいいけど。

    棘はもう一度公園に足を運んだ。
    やっぱり平日の朝だった。

    風に揺れるブランコに、彼女はいない。

    少しほっとしたような。
    残念な、ような。



    「わ!また美人来たー」

    「………っ?!」


    振り向くとそこに、彼女がいた。
    Tシャツにカーディガンを羽織って、今日もポシェットを身に付けている。
    ふわりと笑った彼女が、棘を追い越す。


    「暇でしょ?ちょっと付き合ってよ、

     狗巻先輩」


    棘は目を見開く。
    一歩下がったけれど、彼女は構わず棘の腕をぎゅっと掴んだ。

    振り払えない力ではない。でも棘はそれをしなかった。彼女は公園に棘を引っ張って行く。







    彼女が先にベンチに座る。棘の目を見て、ベンチを指した。
    横に座れと言う事だろうか。

    「びっくりした?」

    座ってすぐに聞かれて、棘はとりあえず頷く。

    「喋れないんだっけ?喋らないんだっけ?」

    これには首を横に振る。

    「お、おかか…」

    おかか?おにぎり?と、彼女は繰り返すが、さほど気にする様子もない。
    おにぎりの具。血の繋がりがある人はそうでもないが、女中奉公の人たちと話をする時に使っていた。
    家を出ると、それも通じない事は勿論知っている。

    「私、後輩だよ。たぶんね」

    敬語使ってないね、と彼女は付け足して笑った。

    「こんな小さな田舎の学校だもん。不登校は私と狗巻先輩だけだから…。当てずっぽうだったけど、狗巻先輩さんで当たりだよね?」

    「しゃけ」
    「それわかんないんだけどさ」

    彼女は笑った。
    揶揄う訳でもなく好奇な目で見るでもなく、嫌な笑い方ではなかったから。

    「名前、聞いてもいい?狗巻…」

    棘は拾った枝で地面を名前を書く。

     “ 狗巻 棘 ”

    「いぬまき、?」

     “ と げ ”

    「とげ、くん」

    「しゃけ!」

    棘は彼女の顔を指差して首を傾げた。

    「ツナ」

    「私は、唯。枕木 唯」


     枕木 唯 。

    初めて聞いた名前だった。


    「よろしくね。棘くん」

    笑って手を出した唯の、繕わない態度に。

    何だか不思議な気持ちがした。
    柔らかい、春の日だった。







    それからしばらく。
    約束もしていないのに、その公園で時折唯に会った。平日の午前中、そこに行くと大体彼女は居た。

    「しゃけは、○で、おかかは×なんだ」

    「しゃけしゃけ」

    特に何がある訳でもなくて。
    ただ、彼女と話をした。
    表情とジェスチャーで大体事足りるのは、普段人との関わりを避けている棘には少し驚く事だった。

    何で喋らないのか、唯は何も聞かない。
    マスクはいつも付けていた。

    「花粉症?」

    「…おかか」

    「そっか」

    いつも唯は近くまで来るけれど。
    それ以上、棘には近付かない。
    自分も、唯の事はあまり聞かなかった。


    その距離が、お互い心地良かったから。







    春も終わりに近付き、日差しが眩しい暑い日だった。
    いつもの公園にいると、不意に人の声が聞こえて顔を上げる。

    「…あ、今日…」

    中学生が数人歩いて来るのが見えた。

    「テストかな」

    唯は顔を上げてそちらを見た。中学生を目に止めると、少しだけ俯く。

    「こんぶ」

    俯く彼女の手を握った。

    「ツナツナ?めんたいこっ」

    その手をぐいっと引っ張って、中学生とは反対方向に走り出す。

    「えっ!棘くん、ちょっと、待っ!!」

    「おかかー」

    彼女に合わせて少しだけ速度を落として。
    でも、走る。

    走って、走って、

    走って。

    公園から離れて行く。



    いくつか田畑を越えて、民家を通り過ぎ、それでも一番近いコンビニで、立ち止まった。

    ハァハァと、肩で息をする唯。
    棘も息を切らしている。

    「…棘くん、足…っ、早すぎ…」

    途切れ途切れに話す唯。

    「ツナマヨ」

    小さなポシェットからハンカチを取り出して、汗を拭きながら唯は笑った。
    棘もそれを見て笑う。

    桜ももうすっかり散って、葉が青く茂る。


    棘はマスクを外した。
    当たり前のようにマスクを外して、袖で汗を拭うと。

    「……….?」

    不意に、彼女の視線に気付いた。


    彼女に、心を許し過ぎたのかもしれない。
    慌ててマスクを付け直す。

    他人と違う口元に。きっといい気はしないだろう。



    今まで散々聞いてきた。見てきた。

    他人とは違う自分は好奇の目で見られて当然で、揶揄われて、蔑まれる対象になりやすい。
    呪いとか呪言とか、どうでもよくなるくらいには、他人との関わりを避ける要因のひとつになった。


    唯はそっと棘に近付いて、マスクに手を掛ける。予想もしないその動きに、身体が反応出来なかった。
    片方の紐を外されて、露わになった棘の顔に。
    唯はただ、静かに微笑んだ。


    「やっぱ棘くんは美人だね」


    唯の顔が近づいて。
    ちゅ、と棘の頬にキスをした。

    「………っ?!」








    コンビニでパンとお茶を買って、近くの神社に行って昼食にした。
    唯と初めて食べるご飯だった。

    「ツナ」

    先に食べ終わると、棘はマスクをポケットに閉まったまま、地面に文字を書く。

     “ 怖くないの? ”

    「怖い?何が?」

     “ 顔 ”

    「…別に。棘くんは優しいから。怖くない」

    即答だった。

    「綺麗な顔だと思うよ。イケメン」

    「おかか」

    唯は笑った。つられて棘も笑う。


    「私ね。別に中学校嫌いじゃないよ」

    唯は菓子パンを一口かじった。

    「友だちがいない訳でもなかったんだ。それなりに」

    だから、テストの事を知っていたのかと納得したけれど。

    「それなりに、ね。でも、それ以上でもそれ以下でもない。居場所がない…と言うか、何と言うか」

    俯く彼女。
    その顔に表情は見えない。

    「よくわかんないけど、何か居辛いの。居場所がないみたいな」

    ただ、それだけ。
    唯は笑って棘を見た。
    何とも言えない、寂しそうな笑顔に。



    それは衝動的だった。
    頭で考えるよりも先に、身体が動く。思わず手を伸ばして、ぎゅっと唯を抱きしめた。

    菓子パンが、彼女の手から落ちて転がる。唯は何も言わずに、棘に身体を預けた。
    そこに今、言葉はいらないのかもしれなかった。








    空がオレンジに染まる頃。
    棘は唯と並んで歩く。手を伸ばせば、彼女は少し恥ずかしそうに笑ってそれを握って返してくれた。



    「棘様!」

    後ろから呼ばれてハッとする。

    「お探ししました!どちらにおいでになられたのですか!!」

    女性が2人。
    見慣れた何人かの女中の中の2人だった。
    別に家を抜け出すのは今に始まった事ではないけれど。長い時間、無言で家を開け過ぎただろうか。

    そんなに子どもでもないのに。
    それ程までに疎ましいのか。


    唯は隣で少し不安そうに棘を見た。
    棘は笑い掛ける。

    「ツナマヨ」

    心配ないと告げて、手を離した。

    また明日、話そう。
    まだ全部は話せていないけど。

    自分の事。
    唯の事も。


    彼女ならきっと、全部を受け止めてくれる気がした。
    否、受け止めてくれなくてもいい。


    ただ、隣にいてくれれば。
    それでいい。


    「またね、棘くん」
    「しゃけ」

    手を振った彼女は翌日から、あの公園には来なくなった。








    メッセージを入れても既読は付かない。
    いつもの平日の午前中、あの小さな公園に、唯の姿はなかった。
    神社にも、コンビニにも。

    思い当たる場所はそんなになかった。
    探すにも、探す場所がなくて。


    自分は彼女の事を、あまりにも何も知らなすぎた。






    大きな狗巻の家。
    裏口から部屋に戻ると、珍しくそこに人影があった。必要以上に関わることのない、祖父。棘も祖父だとは思っていないし、向こうも孫だとは思っていないだろう。

    「何処に、行っていた?」

    現当主である祖父に聞かれる。
    棘は目を逸らした。答える義理もない。

    「あの娘はもう、来ない」

    言われた言葉に大きく目を見開く。

    …何故?

    「そう、約束させた。それだけだ」

    彼はそのまま身を翻して歩き出す。
    その背中を睨み付けて、奥歯をぎゅっと噛んだ。


    何故?
    だって、彼女は関係ない。

    言いようのない不安に駆られて、棘はもう一度公園へ出向いたが。やはり唯は居なかった。



    棘は部屋に戻る。
    扉を閉めて、壁にもたれ掛かった。
    スマホを握りしめてもう一度、唯にメッセージを入れる。

    「会いたいです」と、ただ一言。




    それから、棘は部屋から出なかった。
    彼女から連絡はない。

    けれど、ようやく既読が付いた。








    一日経った翌日の朝、扉を叩く音がした。
    何もする気が起きなくて、気怠そうにそちらを見ると、扉の下に紙が挟まれているのに気付く。

    「………?」

    慌てて扉を開けて飛び出すが、そこには誰も居なかった。

    棘はそのまま部屋を出た。
    登校時刻はもう過ぎていて、誰もいない道をひたすら走った。







    紙に書かれていたのは住所だった。辿り着いたそこには、小さなアパート。あの公園はすぐ目の前だった。何度も見た事があったが、初めて立ち寄る場所。部屋番号までしっかり書かれている。

    誰がくれたかはわからないけれど。
    小さく掲げられた表札を見れば、枕木と書かれている。間違いなく、唯の家だ。


    インターホンに人差し指が触れた。
    けれど、やはり押す勇気はない。



    …どうしよう。

    しばらくそこで迷って、結局棘は何も出来ずにアパートを後にした。

    あの公園に差し掛かる。
    そこに彼女はいないけれど。

    公園の出入り口の前、唯と初めて出逢った場所だった。

    風がゆっくりと通り抜ける。
    日差しか強い。もう時期梅雨が来る。







    がさっと、背後から物が落ちる音が聞こえた。
    振り向くと、そこに彼女がいた。いつもの小さなポシェットに、春らしいストールを巻いた唯。足元には白いビニール袋が落ちている。


    「…棘くん」

    驚く唯。眉をひそめて、困ったような顔をこちらに向けた。

    「ツナ」

    そちらに一歩踏み出すと、唯はビニール袋を放置したまま踵を返して掛け出した。

    「……こんぶ?!」

    伸ばした棘の手はするりとすり抜け届かない。
    やっと会えたのに。

    棘は震える拳をぎゅっと握りしめる。爪が食い込むくらいに握った。

    一瞬躊躇したが、唯の背中に向かって棘は走り出した。思い切り走って後を追う。先に走り出した彼女はどんどん距離を伸ばして行ったが、追いつくのに時間はさほど掛からなかった。

    走って、彼女の手を捕まえる。
    ぎゅっとその腕を握って、引っ張るように止めた。

    「……っあ!」

    ふらつく唯の身体を受け止める。
    息を切らす唯と棘。
    触れたその手からは、白く覗く包帯が見えた。

    「こんぶ…」

    唯は掴まれた腕を振り払う。

    「………ごめん、ね」

    包帯が巻かれた腕を唯は隠すように握った。その瞳は涙をいっぱい溜めて揺れている。

    「…ツナ?」

    心配で棘は腕を伸ばす。
    けれど、唯は再びその手を払った。

    「や…、やめてっ!」

    悲鳴にも似た声に、棘も驚きを隠せない。
    それきり、彼女は俯いて動かなくなった。

    「こんぶ…」

    大粒の涙が、ぽたりぽたりと地面に溢れる。

    「…ごめん。ごめ…んね。棘が、悪いんじゃ…ないの。…わかってる…」

    唯は顔を覆って、その場にうずくまった。どうして良いのか分からずに、自分の身体をぎゅっと抱きしめて、震える彼女を見ると。
    珍しくストールで巻いていた彼女の首筋に、

    赤い痕が見えてしまった。


    手首を覆う包帯に、首筋の痕。
    怯えるように震えるその姿に、何となく状況を理解する。


    ぼくのせいだ。


    棘はもう、彼女に掛ける言葉を持ち合わせていない。触れる事も出来ない。


    ぼくは、呪いをうむことしかできないから。




    君を守ってあげる事が、出来なかった。









    棘は、嗚咽を漏らして泣いている唯を見守る事しか出来なかった。
    ただ静かに、隣にいた。


    徐々に落ち着いて来た唯は、ハンカチで涙を拭いて、

    「ごめんね」

    と、また呟いた。
    棘は「おかか」と首を振る。


    2人で公園に戻った。落ちたビニール袋はそのままで、拾った中身は包帯と塗り薬だった。
    唯に誘われて、公園のベンチに座る。

    ぽつりぽつりと、声を絞り出すように彼女は話してくれた。
    棘と別れたあの日の夜、知らない男性に襲われたと。途中で人が来て、大事は無かったけれど、もしあの時…誰も来なかったら…と、語る彼女はまた泣き出しそうで。腕の怪我はその時傷になったものだった。
    怖かった、と俯いて小さく呟いた。


    ごめんと、言わなければいけないのは俺だ。


    棘は唯を見たが、唯は決して棘の目を見ようとしない。

    唯はその場に立ち上がる。

    「棘くん。ちょっと、後ろ向いて」

    「……?しゃけ」

    立ち上がって、棘は唯に背を向けた。
    唯は深呼吸をして、棘の袖を小さくぎゅっと摘んで握る。




    「私、棘くんが好きだよ」


    続く言葉は、少しだけ震えている。


    「でも、ね。住む世界が、違うんだって言われたんだ。もう、会わないで欲しいって…」

    どくん、と心臓が嫌な音を立てる。


    いつ?誰がそんな風に告げた?
    それは、


    「棘くんと一緒だと、もっと…怖い目に遭うって。棘くんに、迷惑なるって…」

    棘は俯いた。
    棘に唯を引き留める権利はない。
    彼女を傷付けたのは、他でもない俺だから。

    「私…どうしたら、いいのかな。怖いのは嫌だけど、もう…棘くんに会えないのも、嫌だよ…」

    唯は今、たぶん泣いている。
    今すぐにでも抱きしめて。
    大丈夫だよと、嘘を吐きたい。

    「棘くんの迷惑に、なるんならって。もう会わないつもりでいたの。…でも、やっぱり嫌だよ。これでお別れなんて…やっぱり嫌だ…」

    棘の袖を引っ張る唯の手に力が入る。


    このまま一緒にいれば、いずれまた何かが起こる気がした。取り返しが付かない何かが。

    あの家は、きっとそれをするだろう。


    その時俺は、君を守る事が出来るだろうか?







    ごめん、

    とマスクの中で微かに呟く。
    その謝罪は、唯に届いていないだろう。

    棘はマスクを外して振り向き、唯を真っ直ぐに見た。
    驚いた表情の唯の背中に手を回して、ぎゅっときつく抱きしめた。

    「…棘くん?ゃ…っ」

    唯は棘の服を握り、力一杯抵抗する。
    でも、棘は構わず唯の唇を奪った。逃げようとする唯の顎を掴み固定してもう一度、その柔らかい唇を啄む。

    「…っん、やだ、離して…」

    ストールをズラして赤い痕跡に口を付けてから、その耳元に顔を寄せた。

    「ありがとう。大好きだよ」

    掠れた声で小さく呟いて。

    呪いを紡ぐ。


    『 唯は、狗巻棘の全てを忘れる 』


    言われて言葉を理解したのか、唯の動きがピタリと止まった。
    棘が腕の力を抜くと、一瞬唯と目が合って。
    けれど、ゆっくりとその瞼は閉じていった。


    口の中は、血の味がした。喉が痛む。
    目頭が熱い。視界が揺れる。

    抱き止めた唯は、きっともう俺を知らない。



    …さよなら。唯。















    呪いを学んで、
    強くならなきゃいけないと、思った。
    君を守れるくらいに。












    End***









    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works