体温この世の何をもってして己を己たらしめるのかを村雲江は知っている。
世界を美しく愛おしむ菫色の瞳。
彼を通すとどんなに濁って淀んだ空気も澄んでいるような心地になる。
彼の瞳が映す世界に自分がいると思うと、二束三文の自分でも許されるような、そんな気になってくるから不思議である。
つまるところ、村雲江を村雲江たらしめるのは五月雨江であると村雲江は知っている。
雨上がりの水溜まりに虹がかかるような、太陽に照らされた朝露の輝きのような、そういったどうしようもない美しさに打ちのめされて救われるのだ。
五月雨江という刀が自らを癒す理由など、そういった理解し得ない本能が感じる部分でしかない。
刀である自分のそれを本能と括ってもいいものかは村雲江にもわからないけれど。
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