八周年祝い事だと誰かが笑う。
おめでとう
おめでとう
酒を酌み交わし、ご馳走を食べて笑い合う。
めでたいことがめでたいのか。
めでたいことを祝うことがめでたいのか。
しっちゃかめっちゃかで、もう誰にもわからないけれど。
八周年。
なんとも縁起の良い数字なのだそうだ。
まあそうでなくとも、周年記念日は毎年みんな飲めや歌えやの大騒ぎらしい。
周りをぐるりと見渡して、村雲江の頬は緩む。
いやもうずっと緩みっぱなしではあるが。
この空気は好きだ。
この光景は好きだ。
何故だろう、何故?
一振り一振り見比べる。
たまに目が合って気まずくなったりするけれど。
共通しているのは────
「雲さん、雲さん」
「雨さん」
「明日は皆お休みをいただけるので、夜通し宴が続くそうです」
「へぇ、ふふ」
「素敵な光景ですね、くもさん」
少し舌足らずに話す五月雨江を見て合点がいく。
ああそうか。
村雲江は笑顔が好きだ。
大好きな五月雨江の顔に楽しげな花が咲く。
それだけでなく。
たった数ヶ月過ごしただけの本丸のみんなの笑顔が、一等好きなのだ。
笑顔が綻び、花開く。
たくさん、たくさん。
本丸中そこかしこで花開く。
それは村雲江に絡みついた棘を癒すには十分で。
「雨さん、俺」
「はい」
「ここに来られて、よかった」
「ええ」
「おれ、おれ、みんなのこと、こんなにすきだったんだなぁ」
村雲江の瞳に膜が張る。
きらきらと輝くそれを掬いとるのはいつだって五月雨江だった。
「おれさぁ、この時間を、まもりたいなって、おもうよ」
「くもさん…ワンッ!!」
「わんっ!わん!!!」
「ワオーン!!」
「ワオーーーーン!!」
「なんだなんだぁ??」
豊前江を筆頭に江の仲間たちが二振りを囲み出す。
そして笑顔がまた花開く。
さて、宴もたけなわ。
感極まって遠吠えを続けた二匹は、それはそれは幸せそうな顔をして眠りこけた。
翌朝、初めての二日酔いに苛まれた二振りの顔は実をつけて枯れた花のようだったという。