ほんとうのキス からだの芯まで凍りつきそうな深夜。
俺は汗をかきながら、家まで二駅の距離をひたすら走っていた。
客演先の劇団の舞台稽古が長引いて、そのあとああでもないこうでもないと言い合っていると、気がつけば日付けをまたいでいた。
しまった。
もちろん終電は逃している。
みんな演技への熱があるがゆえ、こんなことはしょっちゅうだし、演者とスタッフたちはこの後飲みに行くと言っていて、普段なら俺も飲み会に参加して始発を待つのだが、それよりも今日は一刻も早く帰りたい理由があった。
今夜は俺が出るドラマの放映日なのだ。
観てないかもしれない。けど観てるだろうなという確信がある。
至さんは俺の仕事に無関心なように見えて、実はつぶさにチェックしてくれてるらしい。というのはたまたま掃除中に落ちてきたせいで見てしまったスクラップブックで知った。およそきれいとは言い難い至さんの字で【国宝】とタイトルが書かれたスクラップブックの中身はすべて俺が載った雑誌の切り抜きで、カラーだけじゃなく白黒の写真も、文字だけのごくごく小さなインタビュー記事まで、マスキングテープで丁寧に貼られていた。これだけ集めるとなるとけっこうな労力と金額になるはずだ。ゲームが一番でゲームの課金のために働いてると豪語してるのに、俺に隠れて俺の写真をこそこそコレクションする至さんかわいすぎる。
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