「俺に言うことがあるだろう」 駅前のチェーンの喫茶店は盛況らしく、蜜柑と檸檬が座席に座った直後に、サラリーマンらしき男が駆け込んできた。慌ただしくカウンター席に座り、アイスコーヒーを注文する。二人はテーブル席に腰を下ろし、先ほどのサラリーマンに倣ったわけではないが、メニューを差し出される前に飲み物を注文した。
席につき、荷物を下ろす。蜜柑はカバンの中から単行本をとりだした。その本を置くか置かないかのところで、檸檬が
「なあ蜜柑。俺に言うことがあるだろ」
と切り出してきた。蜜柑は檸檬から視線を逸らし、店内を見回す。店員が水とおしぼりを持ってきたので、テーブルの上に置いた単行本を端に避ける。徐々に夏らしい暑さが目立つようになってきたものの、冷房の効いた店内では温かいおしぼりが嬉しい。
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