Melty Blackはじめ大学3年
綱大学4年
3月の頭、四年の学部生が張り詰めた卒業論文の発表から解放された翌日、キャンパスは普段の穏やかさを取り戻していた
そんな中、綱は満身創痍の状態で教授の部屋から退室してきた⋯
少し時間を遡る
集大成の卒業論文発表会が終わると学部生たちはそのまま数時間おいて卒業論文お疲れ様さま会と称して打ち上げを行った
例にもれず、綱もペアになった碓井貞光と共に飲み会に参加していた
教授との解釈バトルが本当につらかった、ネチネチとしたお小言に何度血管がぶち切れそうになったか、など珍しく出てくるわ出てくるわで同じゼミの仲間たちも集まり密やかな小言大会になった
盛り上がりに盛り上がりその後二次会、三次会と時は進み空も白み始めたころ解散となった
結果翌日ほぼ全員二日酔いと寝不足の中論文で使用したデータの提出と最後のゼミ会のため集合することとなった
会議室に集まったメンバーはみなゾンビのような様子で、やって来た教授はそれを見て笑っていた、悪魔かと思った
では後で研究に使ったデータや要旨、合体させた論文本体のデータ渡しに来てと、教授からの最後の言葉に数十分で終わったゼミ会を後にして、ゼミ生たちはゼミ室に戻る
昨日までに作成した全てのデータを順々に綱へ手渡す、綱がそれを教授へ提出してこの代の卒論の全て終わる
飲み会の翌日じゃなくてもいいじゃんこんなの⋯意味不明なんだけど⋯
⋯
碓井の発言をそのままスルーし無言で作業する綱の後ろで最早グロッキーな状態の他のゼミ生たちが転がっている
他チームのデータを寝不足の頭で回収しつつ、残りは自分たちの分のデータをフォルダに移せば終わりというところで、ふと碓井のデータに違和感を感じて中を確認する(無意識に自分の担当の論文の最終更新日と違うのを感じ取った)
⋯?おぃ碓井、もらった論文がおかしいのだが⋯
んぇ?どこぉ⋯?
お前の担当の、ここの供述とデータ、以前紙で提出する前に直さなかったか?本当にこれが最新なのか?
あれ、ちょっと───
ハッとしたような様子を見せた碓井が発表で使用した要旨とスライドを確認してゆっくり振り返る
悪い、綱
⋯
その、データの論文、先祖返り⋯、いや、直してそのまま保存してないかも、更新日時が⋯
一瞬で緊張が走る
おまえ、まて、じゃあ、合体させた本体の論文も⋯
白い顔の綱が本体の論文を確認するとそちらも碓井が渡してきた論文のデータと同じものとなっていた
教授に提出した紙の論文は内容問題なく通ったところを見ると出力した後に碓井は保存し忘れたのだろう
あの時は確かお互いがギリギリまでそれぞれ作業したり記述をしたりしていたから⋯、完全に確認を怠っていた
⋯おい、これの、バックアップは
パソコンにもあるけどぉ、渡したUSBの方が常に最新のデータを入れてるから⋯
一瞬で様々な思考をめぐらせる
念の為に確認に行かせたいが碓井の家までどんなに走らせても10分はかかる(ゼミ生全員アルコール入ってるから歩きか公共交通機関を使って登校してる)
そこから確認してお目当てのデータがあれば問題ないが⋯
と考えながら綱は自分のパソコンのデータを確認する
最後のバックアップは教授に見せたあとに取ったもの、それを碓井のデータと照らし合わせるとやはりズレが生じている
綱は目頭を押さえた
碓井、人力で、あと1時間位で打ち直すしかない⋯
⋯あーほんとすまん!!!
使った資料とメモかき集めるぞ、俺の方で直ったものがあるかも、見てみる
ふうぅ⋯
泣くな!!!
大きな声が寝不足の頭に響いて綱は目を覆った
このまま卒業をするならしらばっくれることも可能であったが、不幸にも二人はこのまま大学院に進学となり再びこの論文に手をつけねばならなかった
卒論として提出した紙の論文は教授に提出したあと、教授達の判が順に押されて、最後教務課の判を押されて担当教授の元へと戻ってくる
しかし全学部分あるのでそれが担当教授まで戻るのはたいてい年度を越す
つまり年度始めに院生としてすぐに進捗発表会を控えているふたりは今ここで手を打っておかないとすぐ未来に自分たちの首を絞めることになるため否が応でも訂正したものを提出しておかねばならなかった
背中に冷や汗が流れる2人
ただならぬ2人の様子に仲間のゼミ生も駆けつけて事情を察する
手をかせそうな部分は協力して分担し論文を書き出すメンバーと共有パソコンに保管されてる綱たちのデータで使えそうなデータを抽出するメンバーで別れ、みなが一丸となった
綱の方はメンバーが抽出したデータを使えるものだけ抜き出して、現状のデータと比較、差異のある部分を検出し、それを置換させることで大半のデータの数値を変更することに成功した
碓井の方はアナログで書き残してた供述のメモから論文本文のデータを何とか頭から捻り出す、大まかな道筋さえ間違っていなければこの際表現の仕方については差異と切り捨てた
残り15分の所で残りは直近のデータの穴埋めというところまで持っていくことに成功した
しかしいちばん重要な直前で出した結果の数値が埋められない
寝不足の頭を何とかフル回転して綱は考えるも既存のデータの場所は全て探した
データの採取はギリギリまでやっていたとなれば⋯、あと手をつけていないとすれば⋯
(のこりは⋯碓井のあの紙の山から発掘するしか⋯)
恐らく新しいものから1番上に積み上がってるはずと綱は意を決してそこに手をつけようとしたところで
一人のゼミ生が声を上げた
そう言えばあれ!予行練習でした発表会の動画!あれデータ映ってない?!
全員で保存してあった共有パソコンのデータを引っ張り出して動画を確認すると少々見えずらい所もあるがこれまでのデータと比較すれば判別できる程度のものでついに2人の論文は穴埋め完了という陽光を差した
全員が雄叫びを上げた
そして残り時間5分の所で遂に論文は元の形を取り戻した
そのままデータをUSBに移しを慎重に取り外しの操作をして、全員でハードウェアの取り外しのメッセージを確認した後、綱は急ぎゼミ室を抜け全力疾走で教授の部屋まで駆け門戸を叩いた
そして冒頭に戻る
ゼミ室に戻ってきた綱は開口一番地獄から這いずり出たような声で碓井を叱責した
間に合った⋯が、碓井、お前、ゼミのやつら全員に詫びをしろ⋯
ゼミ室に備え付けの長ソファに綱は顔から倒れ込み体を沈める
体力があると言われている20代前半でも連日体を酷使していたせいですぐには起き上がれなかった
マジでたすかった!!!ありがとう!!!今度奢らせてくれ!!!
ほとんど泣きながら土下座する碓井に他のゼミ生たちは各々口を開く
いや、俺たちよりも渡辺の方を⋯どうにかしてやってくれ
こんな渡辺君見たことないよ⋯
まじでお前、俺らはいいからさ、これから一緒にやってく綱のフォローしてやってくれよ
あまりの綱のボロボロ具合に見るに堪えないのか全員から辞退と綱のフォローを頼まれる
低姿勢のままソファで横たわる綱に縋り付く
綱ぁ!!!つなぁ!!!今度、今度奢るから!!!!!
⋯とりあえず帰って寝てもいいか?
いくらでも寝てくれ!泣
やっと帰宅の目処がたった綱は何とかソファから体を起こして最後の力を振り絞り大学から徒歩圏内のアパートまで無心で歩き帰宅した
説明しがたき様々なストレスによりボロボロの状態ではあるが、ひとまず風呂に入ってそのままベットに雪崩混んだ
数時間前まで寝ていたそこはもちろん何の温もりもなくむしろ冷たさが際立っており、その冷たさがやけに感覚の冴え渡った体には不快に思えた
落ち着かない心地に寝るにも寝られず仕方なしに用事もないのにスマホの画面を眺めていた
(そういえばはじめと連絡したのはいつだったか?)と最近は忙しくて構ってやれず連絡の取れてなかった恋人の存在を思い出した
メッセージは5日前に連絡を取ったのを最後に止まっており自分の卒論のスケジュールを送ったのが1番新しいものだった
何となく過去のやり取りを見てるとなんて他愛もないやり取りをしているのだと思うのと同時に、急激に声が聞きたくなった
その瞬間、指し示したかのように突然通話のサインでスマホが震えた
通知を見るとそこには今の今までやり取りを見ていたはじめの名前が表示されていた
もしもし、
あ、綱さん?卒論、無事に終わりました?
昼前に提出してきて、今いえに戻ってきた
そうなんですか?ちょうど良かったぁ
?今、そとか?
リズムに合わせて言葉が僅かに揺れるのを電子音の越しに感じ、思わず口からこぼれた
ばれちゃいました?へへ、その、実は綱さんの家に向かってるんですけど
⋯あ、そう、なのか?
うん、あ!でもゆっくり休みたいとかあったら、ちょっと顔見てすぐ帰るんで!
いや、来ても、いい、少しちらかってるが⋯
綱さんの部屋いつも綺麗すぎるくらいだよ、てかやったぁ、綱さんに会えるの久しぶりだから嬉しい
はじめの弾む声から滲み出る嬉しさが綱の方まで伝わりつられて鼓動が一つ弾んだ
そんななんということは無いただのやり取りをしてるだけだったが、綱は何故か急に胸から込み上げてくるもので声が詰まり目から涙が溢れてきた
もちろんそれは電子音越しでもはじめにも伝わって⋯
綱さん?
ぁ⋯っ、ふっぅ、はじ、め
ぅえぇ?!ど、どうしたの?!えっ?!今向かってる向かってる!駅出たからあと15分位で着くから!
電話口の先から聞こえる靴音の感覚がほのかに短くなってる
ごめん、ケーキ、買ってきちゃったから、あんまし走れないんだけど!すぐいくから!
待ってて!!
恥ずかしいと感じる間もなくボロボロと零れてくる涙に寝不足の頭はほとんど働かなくて
ぅん、わかっ、たっ⋯
と返事するので精一杯だった
家着くまで通話繋げでおくよー!
と元気のいい声が返ってきた
(場面転換)
はじめ合鍵で綱の家に入り、寝室の扉を静かに開ける
ベットにこんもりの山が出来てるので何となく静かな歩調でそこまで近づきその盛り上がりを撫でながら話しかける
綱さん、きたよー
ん⋯
声が返ってきたと思ったら頭から布団を被った綱の顔が出てきた
久しぶりの綱さんだ⋯わー涙出てるー
⋯ん、
綺麗なまつ毛が涙のせいで余計に束になってきらきらしている
伏せ目がちになっている今、不謹慎にもそこに目がいってしまうはじめ
瞬きをするたび涙がまつ毛に吸収されていって艶めいてくる様子をずっと眺めていたくなるがそのような事態では無い
こんな様子の綱はついぞみたことがなくて色々聞きたいことが山ほど浮かんでしまう
が、久しぶりに会って一番に言うことはこれでは無い
⋯綱さん、おつかれさま、すごくがんばってたよね
んぅ⋯
サラッと前髪を撫でて、はじめは普段より落ち着いた声で話す
綱は一番聞きたかった声になだめられるように優しく語りかけられて、冷たく固まった気持ちの部分がじんわりと温まっていく
たくさん頑張ったから、綱さんでも疲れちゃったかな?それとも⋯
僕と会えなくてさみしく思ってくれた?
上擦る声を抑えられない
綱は漠然と日々負荷がかかっている状態を認識してはいたが、はじめの言葉にストンと腑に落ちた感覚を得た
忙しさとゼミ長の責任から今の今まで自分の気持ちなど色々と後回しに立ち振舞ってきたが言葉にされるとより実感した
(はじめに、会えないかったのは寂しい)
実感したら止まりかけてた涙がまた溢れてきてしまった
⋯寂し、かった、っ会えないのは、その上寝られなかったし、声も聞けてない、おまけに最後に碓井はデータ保存していなく、て提出間に合うかギリギリだった、疲れた
(碓井先輩!!)
よく知る名前が上がり思わず心の中でその名を叫んでしまった
きっとギリギリであと少しあと少しと保っていた気持ちが、考えもしなかったハプニングでついに決壊してしまったのだろうな⋯とはじめはボロボロ涙をこぼす恋人の頭を撫でながら考えをめぐらせた
綱さんちょっと手洗ってからまた戻ってくるから、それまでにもう少し顔出してくれてたら嬉しいな
未だに布団を頭から被っていもむし状態の綱に1度扉から出て行くことを伝える
そのはじめを見送り何となく足音の気配から今は早速手を洗いに行った、その後遠ざかる足音に次いでガサガサと冷蔵庫に何かしまわれる音に気になって頭を布団から出した
最近までは自分しか生活してなかったそこに別の人間がいる音が聞こえて気持ちが紛れてきたのか涙は少しずつ収まっていった
一通りやることがおわったはじめは綱が寝ている寝室に戻り、洋服がしまわれている収納ケースのひとつを開けた
特に断りもなく開けるそこには綱の家で過ごすときの着替え一式がしまわれている
手早く部屋着に着替えて再びベットまで戻ってきた
つーなさん、お待たせ
言われた通り顔を出していた綱の様子に内心微笑ましくなってるはじめ
ただその顔を改めて確認すると疲労が色濃く残っているのが見えて思わず手が伸びた
クマすごいね、しかもここ赤くなってるし⋯
目元のクマと泣いたことで腫れ気味になってる瞼を優しく撫でる
んっ⋯
そのまま瞼と頬にキスしてベッドに上がって一緒に横になる
眠たくならないの?
⋯何だか寝られなくて
んー、まだ神経高ぶってんのかな?
綱の隣に寝転んで考える素振りするはじめ
じゃぁ、綱さんまずぎゅーってしよっか
ぎゅう?
綱がアクションを起こす前にはじめは綱の体と頭を自分の胸元に抱き寄せる
体を包む温かさにまるで今まで緊張が続いていたかのような体が柔らかく解けていくような感覚得て、余計な力がふっと抜けた
それが心地よくて無意識に強請るようにはじめの背に腕を回した
胸と背中越しから伝わる久しぶりの綱の体温にはじめは胸の底から溢れ出る愛おしさが限界を越えようとしていた
(はぁ⋯すんげぇ、かわいい⋯どうしようめちゃくちゃかわいい)
衝動のまま隙間もなくなるほどぎゅうと綱を抱きしめると胸元からくるし⋯という声が聞こえてきた
慌てて力を抜きごめんと口にすれば、実はそれほど嫌がっていた訳でもない様子に(もしかして照れてただけ?)と思わず邪推してしまった
ちょうど綱の髪の毛がはじめの口元辺りあるので髪の毛に顔を埋めて久しぶりの感触を堪能する
(綱さんのシャンプーのにおいだー)
密かにはじめも久しぶりの綱の存在を堪能しつつ、今日は頑張った恋人をひたすら全力で労わるつもりでやって来たためそれもそこそこに顔を離した
胸元で額を押し当ててる恋人の頭を、体に回してる手とは反対の手でゆっくりと、体温を分け与えるように撫でる
綱さん、すっごいがんばってた
その久しぶりの手の温かさと全身の温もりに綱はとろけそうになる
綱さんには会えなかったんだけど、実はゼミ室には何回か行っててね
うん
その度に他の先輩達から綱さんの話聞いてたんだ
そう、なのか⋯
頭の中で誰からもそんな話聞かなかったと綱が疑問に思ったところで再びはじめが口を開く
綱さんが気にしたらいやだなぁって思ったから、先輩たちには内緒にしておいてもらったの
綱を慕って足繁く通う後輩がいたと実は知られていた事に気恥ずかしさを覚えるも、碓井以外のゼミ生はみなこれからはほとんど顔を合わせることがない
綱は敢えてそこは目を瞑ることにした
先輩たち研究で忙しそうなのにさ、みんな綱さんの普段の様子とか教えてくれて、優しかった
自分のいない所で言われるのはむずがゆい⋯
そぉお?それでね、みんな綱さんのこと頼りになるゼミ長で、いつも周りのこと気にかけて面倒見てくれてるって言っててね
うん⋯
なんだか高校の部活の時を思い出しちゃって⋯
依然頭を撫でながら続けられるはじめの話に綱はこそばゆい心地になりながらも耳を傾ける
3年生が居なくなったあと部長として周りを引っ張ってく綱さんはさ、僕たち1年からはまぁ、めちゃくちゃ怖かったんだけど⋯でも、堂々としてて同じ男としてすごいかっこよくてこの人なら着いていきたいっていう風格があって⋯、綱さん気付いてなかったと思うけどファンクラブみたいなのあったの
ファン、クラブ?
そう、当時は俺が恋人なのに誰の許可得て勝手に作ってんだよってめちゃくちゃ腹たったんだけど⋯
はじめが堪えるように笑う振動が綱まで響いてくる
そんなわけでみんなの憧れをかっさらっていた綱さんが、大学でも変わらず頼れるリーダーでかっこいい人だったっていうおはなし
そんで先輩たちが頼れるリーダーだと思って日々あくせく忙しそうにしてるその人は僕の恋人なんですけどぉっていうのが喉まで出かかったんですけど⋯言わずに飲んだの褒めてください
がんばったがんばった⋯
ゆったり、ゆったりとはじめの背中を撫でると綱を抱きしめる腕の力が緩やかに込められた
えへへ、⋯綱さんは一生僕の憧れでずっと好きな人
急にいわれると⋯はずかしいな
告白のようなはじめの言葉にむず痒い心地に襲われて、綱は額を擦り付けた胸により強く額を押し付けた
するとはじめの心音が綱の胸に服越しに響いてきた
(きもちのいい音⋯)
普段よりもいささか早くて力強いその音が今の綱には子守唄のように心地よくて、程よく拍動をする心音とゆるやかに温まった体に脳がようやく休息が必要なことを理解したのか、うとうととまどろみ始めた綱
⋯つーなさーん?
⋯んん⋯
とろとろと瞼が降りては懸命に開こうとする様子に庇護欲が駆られる
ふふ、おやすみ⋯
うん⋯
なんだか額に柔い何かが押し当てられた気がした綱は誘う微睡みに抗えず心地よい意識の底へ旅立った
(場面切りかえ)
綱はあのまま上手く寝入ることが出来たようで目を覚ますとカーテンの外は真っ暗だった
時折車のライトがカーテンの隙間から差し込んでは消えるようだったがそれを何個か見送って、ベットから体を起こした
(はじめ⋯帰ったのか?)
先程まで隣にいたように思える温もりがないことに気付き、ふとリビングに繋がるドアを見るとそちらから明かりが漏れているのに気が付いた
のそりとベットから降りて寝室のドアを開ければ、炊きたての米や味噌汁の匂いが漂ってきた
それと同時にはじめがテーブルに何やら色々と準備している光景が目に入る
まだ帰ってなかったことに密かに安堵した
⋯おはよう
あ!綱さんおはよう
すまんせっかく来てくれたのに、夜まで寝てしまって⋯
大丈夫大丈夫、それより綱さん昼ご飯も食べずに寝続けてたからさ、ごはん食べよーよー
とりあえず米と味噌汁は作ったから、おかずは買ってきたけど
とはじめは別のおかずを取りにもどりながらも構わず話を続けていく
いつも行ってるスーパーの惣菜安くて、他にも鮭とか買ってきちゃったら朝ごはんみたいな夜になっちゃったーと言いながらテキパキテーブルに食事を並べるはじめを見て(世話されてる⋯)と少々気恥ずかしさを感じた
そんな綱の葛藤など露知らずのはじめは準備の出来たテーブルを離れて綱の所までやってきて洗面所まで連れていく
はいタオル
とまるで自宅のように欲しいものを違わず差し出してくる
⋯甲斐甲斐しいな
今日はお世話されててくださーい
じゃぁテーブルで待ってるからと洗面所を後にしたはじめの背中を綱は眺める
そのままふと洗面台に視線をやると空いている場所に普段使われるスキンケア用品が違わず用意されていた
あまりの用意周到さに密かに(今日は⋯本当に1日全て世話をされてしまうな)と思い、心臓が静かに早鐘を打った(これは夜の方も久しぶりだから今日はとろとろに甘やかされるんじゃないかって密かに期待してる)
おしまい
年下彼氏に泣きついて甘える(甘やかされる?)綱の話
はじめ不足によって引き起こされる自身のデバフの存在を理解した綱
余談
後日碓井の詫びの奢りに一緒について行くはじめ
なんで斎藤も来てんだよ?!
碓井先輩のせいで綱先輩ボロボロになっちゃってかわいそうでしたよ、ここまで綱先輩が回復したのは僕のおかげなんで僕もご相伴にあずかりますピースピース
そうだぞ碓井
その節は誠に申し訳なかった⋯!
綱先輩電話では泣いてるし家では寝られなかったんですよ
それは、流石に嘘を言うな
⋯⋯⋯さてはじめはなんでも頼め、なんならメニューの最初のページから順に頼んでも構わんぞ、"全て"碓井の奢りだから
わーい♡やったぁ♡何食べよっかなぁ♡
今の間はなんだよ?!