眠り続ける魏嬰の話彼は、よく眠る。
温かな体温と、細いながらもしっかりとある重さ。すぅすぅと心地よさそうに寝息が漏れるたび上下する、薄い胸。藍忘機を下敷きに健やかな眠りにつく彼の鼓動。
藍忘機がそっと腕を上げて、背を撫でてやると、安堵したように眉尻が下がる。猫のようなその様に、あまり愉快ではないはずの己の顔が、かすかにほころぶのを感じる。
魏無羨は、よく眠る。
目の下に隈を作り、痩せ細っていたあの頃が嘘の様に、こんこんと眠り続ける。
ようやく受け止められるようになったのかと、ぽつりと思う。
藍忘機にも、深く眠り続けた時期があった。三年間。背中の傷が癒えずにいたから体力がなかったのだと兄である曦臣には思われているが、そんな傷よりももっと、深い傷があった。
人は、受け止めきれない感情が溢れると、眠り続ける。睡魔が耐えず襲ってきて、感情を処理しきれなくなるから。生前、眠っている余裕などなかっただろう彼が、現世に蘇ってすぐに眠るようになったのは、当然のことだと言える。
絶望と、狂乱。引き裂かれるような別離。不甲斐なさに嘆いて、光も潰え、真っ暗闇の中で潰された命。
彼が現世に戻ってきて、もう1週間ほど。藍忘機の元から逃げ出そうと奮闘している底抜けに明るい様子からは、その片鱗さえ窺うことはできないが、それでも確かにそこにあるのだと。忘れられるはずがないのだと。こうしてこんこんと眠り続ける姿で教えてくれる。
藍忘機は絹のようにしっとりと流れる黒髪に指を通して、その艶が損なわれていないことを確かめた。
彼は、あと何年かかるだろうか。己は、何年かけたのだろうか。未だ血を流す傷跡を、潰えることのない痛みを。慰める権利を、藍忘機はもらえるだろうか。
ふっと息をついて、瞑目する。
彼の深い眠りは、まだ覚めない。