純白を纏う君去年は彼に指輪を貰った。
それがとても嬉しくてしばらく薬指を見る癖が止められなかった。
今だって彼から貰った指輪が左手の薬指にあることを実感して何度も触れている。
「早く…会いたいな……。」
ぽつりとそう呟いて、降り続ける雨が映る窓を見つめた。
彼は仕事の関係で出張に出ていて、明日には家に帰ってくる予定だ。
帰ってくることが分かるだけでも確かに嬉しいが、分かったからこそ会えるまでの間寂しさを覚えてしまう。
静かな空間がこの気持ちを増幅させていくと感じ、テレビを付けてみるとテレビ画面には幸せそうに微笑み合うカップルが映っていた。
暫く見ているとテレビの字幕には「カップルフォト」と書かれていた。
他にもウェディングドレスを着た女性が写真撮影をしているところもテレビに映されていて彼とこんな写真撮りたいと心底思った。
「良いなあ……、馬淵と、こんな写真撮りたい…。」
スマホには彼と2人で撮った写真が沢山残っている。
トップ画面には、以前泊まったホテルで夜景を眺める彼の後ろ姿を設定していて、それは彼のスマホも同じ設定になっている。
明日彼が帰ってきたら言ってみようと思い、カップルフォトに関することを調べることにした。
翌日、家事を一通り済ませて昼に差し掛かる頃、ドアが開く音で彼が帰ってきたことに気づき、玄関先で彼に抱きついて出迎えた。
「おかえり!!」
「ただいま。長いこと家を空けて悪かったな。」
「ううん、無事に帰ってきてくれて良かった…、ご飯食べてきた?」
「いや、まだだ。」
「なら丁度良かった!お昼これから作るから、先に着替えてきて?」
「ああ、ついでにシャワーも浴びてくる。」
「うんっ、いってらっしゃい。」
その後彼が戻ってきて昼食を取り、少し休むためにベッドの上でクッションに背を預け寄り添い合う。
彼が仕事で行った先の話を聞くことが好きで、ギュッと彼の手を握って彼の話に聞き入る。
彼の話を聞いた後、テレビで見たカップルフォトの話を切り出すことにした。
「あ、あの、馬淵…、記念日にね、やりたいことがあって…。」
「どうした?」
「これ、写真……撮りたいなって…。」
スマホの画面からカップルフォトの画像を見せ、画面をスクロールして色んな画像を見せていくと、彼の方から予約すると言ってくれた。
記念日は来週で彼も休みを取ってくれているから、そこに合わせて撮影が出来るスタジオを探す。
丁度その日に空いてる場所を見つけ、予約してからあっという間に当日を迎えた。
写真を撮るために用意した服とお気に入りのアクセサリーを身につける。
「よし…、これで大丈夫かな?」
「準備できたか?」
「あっ、うん!」
「…その服、似合ってる。」
「っ、ほんと…?ありがとう…!ま、馬淵も、その、似合ってて…、すごくカッコイイ…。」
前に買い物に行った時に彼に選んだジャケットが凄くよく似合っていて思わず赤面してしまう。
それを見た彼が笑って、選んだセンスの良さを褒めてくれた。
「あっ、えと、着てくれて、嬉しいっ……。」
「あぁ、せっかくだしな。汚したくなくて今まで着てなかったが…。」
「そんな、気にしなくていいのにっ…。」
それでも贈り物を大事にしていてくれたことが嬉しかった。
そんな嬉しい気持ちを抱えて、撮影スタジオへと向かう。
到着してみると、思ったりよりもスタジオの規模が大きく、入口で見上げて目を見開く。
「わぁ…大きいスタジオだねっ!」
「ああ、……そうだ、その内着替えが必要だから準備しておいてくれ。」
「…?うん、分かった!」
彼の言ったことが一瞬何のことか分からず、疑問符を頭に浮かべて中へ入る。
そこには様々な撮影機材や撮影用の背景セット等が多くあった。
ここで今から彼と写真を撮ると思うと、下調べしていた時よりも嬉しくて心臓が煩い。
撮影してくれるカメラマンの方も、こちらの要望に合せて色々と用意してくれていた。
「じゃあ、早速始めていきましょう!まずは自然な感じで、いつもお二人が取ってる距離感でいきましょうか!」
「は、はいっ…、よろしくお願いしますっ…!」
「じゃあ、こちらのソファに座ってもらって……、はい!あ、もう少し顔近づけてもらって…!そのまま、はい、じゃあ撮りますね!」
彼の手が肩に回され距離がぐっと近づいたことに心臓が更に煩くなっていく。
少しだけ目を伏せてしまいそうになりながらも、ちらりと目を彼の方に向けて撮影が始まっていった。
最初は緊張していたものの、徐々にいつもと同じような雰囲気で撮影に臨むことが出来た。
「じゃあ、次はお着替えした後に撮影するので、お二人とも更衣室へ!スタッフがお手伝いさせて頂きますね!」
「あっ、はいっ…!」
あの時彼が言っていた着替えというのはこのことかとようやく理解できた。
別々の部屋へ通されて、用意されてた衣装を見ると、息が出来なくなりそうだった。
その衣装は結婚式で花婿が着ているタキシード。
彼がくれたサプライズに嬉しくて泣きそうになったが、今は泣かないように気持ちを落ち着かせた。
着替えとメイクを済ませてから撮影場所へ案内されると、彼の方が先に用意を終えていてその姿に息を呑んだ。
「あっ……、まぶ、ち……。」
「あぁ、やっと来たか。」
「っ………!」
「なんだ、そんな顔をして。どうした?」
「あっ、う、だ、って……、その…、っ、これ、だって、知らなくて…、でも、うれしくて…っ。」
「もう泣いてるのか?」
「だって、っ、ううっ……ありがと、まぶち…。」
「まだ撮影始まってないぞ。ほら、ハンカチ。」
「ぅ、ん、っ、はぁ……、ごめんね、ありがとうっ。」
「落ち着いたか?」
「うん、大丈夫…っ。」
差し出された彼の手を取り、改めてスタッフと撮影について話す。
すると、スタジオから少し歩いたところにある教会へ連れて行かれた。
その教会の中に入ると、太陽の光が彩りあるステンドグラスを通して、様々な色の輝きを放っていた。
「わぁ……凄い……。」
「あぁ、綺麗だな。」
「では、このブーケを持ってもらってそこの椅子に腰掛けてもらっていいですか?」
「はいっ…、ブーケも、素敵ですね…。」
「ありがとうございますっ、知り合いに作ってもらったんですよ〜!じゃあ、もう少し近づいてもらって、はい、撮りますねっ!」
ブーケを持って彼の方へ笑みを向けると、彼も静かに口元に笑みを浮かべている。
その顔を見て幸せな気持ちでいっぱいになり、ずっと彼の傍に居たいと思った。
そんな気持ちを抱えながら、次の撮影のために彼と向かい合うようにして立つ。
すると、ステンドグラスから差し込む光を受け、より一層彼の立ち姿が凛々しさを増していた。
「左手貸せ。」
「ぁ、う、うん……、…!!」
彼に言われて差し出した左手。
その薬指に先程彼に預けたペアリングが通されていく。
一瞬何が起こったのか分からず、身体が石のように固まって動けなくなった。
「ぁ、っ…!!!ぅ…。」
「いつも、ありがとな。」
そう言って指輪を指先にスッと通してから優しく見つめてくる彼に、抑えていた感情が溢れだして涙が頬を伝い始める。
本当に結婚式を挙げているかのようで、胸が熱くなり涙が止まらなくなっていた。
「っ、うっ、わああっ…!!」
「大丈夫、では、無いな……。」
「ば、かぁっ……っ、うっ、うぅ…!」
そこからは泣き止むまでしばらく時間がかかってしまった。
彼に抱きついて子供みたいに泣きじゃくってしまったが、それでも彼は落ち着いて優しく頭を撫でてくれていた。
すると、彼の方からこっちを向けと言われたが、きっととんでもなく酷い顔をしていると思い断る。
だが、そんな抵抗も虚しく彼の手が頬に触れ、目線が合わさると共に唇が重なり合った。
「っ、ぅ、ん……。」
「……天佑、愛してる。ずっと…、ずっと一緒だ。」
指先が唇をなぞり、真剣な眼差しを向けてくる彼。
しんと静まり返る空間で放たれた言葉は脳内へ響き渡り、一つ一つしっかりとそこに込められている気持ちを感じ取った。
「あきら…、ありがとう…っ、ほんとにほんとにっ…、すっごく、幸せっ…!!」
「…俺も、幸せだ。」
そう言って優しく笑った彼につられて自分も笑みを浮かべた。
そして、この先もずっと一緒に居たいと強く強く願い、再び彼と唇を重ね合ったのだった。
・
おまけ
(撮れた写真は?)
「どの写真も…馬淵が凄い格好いい…。」
「……目元赤いのばっかだな。」
「だ、だって、しょうがないでしょっ……!写真撮れるの嬉しかったし…、あんなことされると、思ってなかったし…。」
「元々は趙が撮りたいって言ってたことなんだ、心の準備ぐらいしておけ。」
「む、無理だよっ!!タキシード姿の馬淵見たら…もう…。」
「なんだ?」
「な、なんでもない!!!と、とりあえず、この写真は寝室に飾っておくから!!!」
「………、なぁ。」
「…なにっ……、んっ……!!」
「…変な顔。」
「っ…!!か、揶揄わないでよっ…バカ馬淵……!」
立ち上がろうとしたらキスされ、やはり敵わないと思いながら、顔を隠すようにして抱きついた
end