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    ポイピクに載せる場所があったので再録(書いた日/原作の日付) 影浦くんと雨

    ##夢
    ##ワ

    雨が上がるまで(22/9/25|1/29) 多分影浦くんは雨が好きだ。
     髪の毛がどうなろうと、体が濡れようと……傘の中で一人きりなれるなら、頭痛がして、怠くって、寒くても、影浦くんが雨の日が好きなのだ。
     菊地原さんも、村上さんも、迅さんも、……たぶん天羽さんも、雨の日がほかの人よりずっと好きだと思う。
     サイドエフェクトというのは厄介なもので、人と自分の距離感をずっとおかしくする、周りの目も、自分の目も視点を変えてしまうものだ。だから程よい距離感に包まれた雨水の喧騒が、静寂に思えてしまう時がある。一人きりで放って置かれるのは虚しいのに、雨傘の下だとそれがとても懐かしくて、少しだけ落ち着く。
     本当は、私がそう思うから、外でも1人になれるから雨が好きなのを影浦くんもそう思ってたらいいなと思っていたのだけど、そういう話を頭を振り絞って影浦くんに伝えたら、彼も「そうだな」と言ってくれた。
     影浦くんの傘は大きい。本当は影浦くんのお家のお店の傘で、突然雨が降ってきた時にお客さんに貸したり、タクシーのまでの間に使ったりする傘らしくて、お父さん傘って言うのかなそれよりひと回り大きい黒い傘だ。持ち手のところにテプラで『かげうら』と書かれていて、その文字もかなり掠れている。お店のものだけど「一番ボロいやつだから」大丈夫だと言っていた。
     影浦くんは、最近その傘の中に私を入れてくれる。
    私が、雨の日は世界が見えにくくて、頭が少し楽だと言ってからは、コンビニに行くとか、時には「行くぞ」だけ言って私を連れ出してくれる。
     影浦くんの傘は大きいから、二人でちゃんと濡れない。
    それに、黒い傘だから誰と誰が2人で歩いてるか分かりにくい。影浦くんは、私の背丈に合わせて傘の天井に頭を付けて歩いてくれる。だから私は影浦くんの髪の毛が傘の金具に引っかからないように見張っている。けど、一度影浦くんの髪の毛が傘の骨に絡まったのを取ってあげたことがあったのに、影浦くんが頭をくっつけるのをやめてくれない。「痛えな〜」とだけ言っていて、機嫌が悪そうにしてたけど、その後も話し続けてくれるのだ。
    2人で傘を並べてもいい、私がカッパを着てもよかったけど、スカートの端が濡れてもいいから2人で傘を使いたかった。影浦くんも言わなくて、私が待機室から出る時傘を持ってこないことも、気にしていない。
     商店街の向こうにある少し遠くの自販機の前まできて、影浦くんがポケットにそのまま入れていた小銭を出し始める。その時影浦くんは一度私に傘を貸す。私は影浦くんの手が触れるとびっくりして、手を離したくなる。
    だから、我慢する。一度、私が傘を落としたことがあって二人で濡れたこともあったので、私がちゃんと傘を握り込むまで待っててくれる。でも、その時に影浦くんが私の顔を見ていて、すごく恥ずかしくなるのを、影浦くんは知っている。

     「コーラだよな?」そう言って影浦くんは迷彩柄の、自分の好きなジュースを先に買った。私が影浦くんを眺めていると彼はもう一度私に聞く「コーラでいいんだよな?」私はがんばって「うん……」とだけ言う。もう一度自販機のボタンを押して、影浦くんはコーラを買ってくれる。冷たい缶を私に手渡す時、服の端で結露を拭いて渡してくれる。
     ありがとうと私が言えると、影浦くんは傘を奪って引き返す。傘を奪われる時、手が触れて、私はものすごく手が震えてコーラを落としそうになるのを影浦くんは空いた手でキャッチしようとする。それがまた滑るから私は地面に着く直前でコーラをつかむ。
    「……まぁ、コーラは流石に視えてるか」
    「か、かげうらくん……」
     私は空間把握が秀でていて、物を落とすのはあり得ない。正しい位置、正しいものが理解るのだから、私の手から物が落ちたりすることはないのだ。
    なのに影浦くんが、手を伸ばしたから、手が震えて。だめだった。
     次は屈んだ影浦くんが髪が触れるほど近くて、後ずさる。後ろ髪が濡れそうになるのを影浦くんが引き止める。
    「濡れンだろ、バカ」
     私はすべてが見えてるから、反面、匂いや、音や、物理的に人に触れるのが恥ずかしい。汗が出るし、単純に怖い。それに、影浦くん相手だと顔まで熱くなる。傘の中にいて、影浦くんは全部知っていて私を誘う。
    「バカじゃない……」
    振り絞ってそれだけ言って、影浦くんは私の回答に少し鼻で笑って傘を持ち直した。
    「コーラ買ったし、帰んぞ」

    遠い背中を見て、あぁ 好きだな、影浦くん そう思って私は心が喜ぶのに、影浦くんはそれで満足させてくれない。
    私のためにゆっくり話してくれる。私と2人で静かに出て行ってくれる。傘をお店から持ってきて、2人っきりにしてくれる。なんでも見える私をなんでもないふうに扱ってくれる。目つきが悪くても、口が悪くても影浦くんの優しさは本物で、背が高いのに、古い傘の天井に頭を擦り付けて、私が濡れないように気を遣ってくれる。私の好きなものを買ってくれる。それが大好きで、頭の中では何度もぎゅーっと抱き付いてるのに、実際の視線や、ちょっと笑う仕草に顔が熱くなって大胆になる気が消えてしまうのだ。

    私はそれが恥ずかしくて、一緒にいられるのがすごく嬉しくて、立ち止まりそうになると、影浦くんも立ち止まって私の言葉を待ってくれる。
    私もこんなふうに、影浦くんを幸せにしたいのに、優しい気持ちが煮えたった羞恥心に溶けていく。

     影浦くんは、雨が好きだと言う。でも雨が上がるのをきっと待ってる。全部お互いわかっているのに、雨の日にしか前に進めない。
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