Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yuuosukisuki

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    yuuosukisuki

    ☆quiet follow

    勇と尾の立場が逆だったらの完全妄想話。
    性格や話の流れなど変わってる面が多々あるので注意。

    勇尾立場逆転フラフラする、何日歩いたんだ?北海道を舐めていた、ずっと中にいたからこんなに寒いと思わなかった。何処に逃げて良いかもわからない。ここは一体何処なんだ…疲れた、もう休みたい。
    俺の意識はそこで途切れた。


    「アシㇼパさん!なんか落ちてる!」
    「ん?!なんかって人じゃないか、それにこの格好…軍人じゃないか?」
    「そうだね、服から見るに少尉あたりか…でもなんでこんな所で…」
    「まぁいい、うちに連れていくぞ杉元」
    「はーい!」


    暖かい、もしかして俺死んだのか?折角軍から逃げてきたのに死ぬとか、それならあそこにいた方がまだ楽に死ねたかもしれん。失敗したな。
    それにしても、天国ってこんな民家みたいなのか。思ってたのと違うな。

    「あ、起きたか」
    「」

    顔に大きな傷のある男が上から俺の顔を覗き込む。驚きすぎて飛び起きるとソイツの額とぶつかり酷い激痛に転げ廻る。一体何が起きているんだ、確か俺は雪山で倒れた筈、そこまでは覚えていた。もしかしてコイツらに助けられたのか?

    「いってぇ〜…そんな慌てるなよ、取って食ったりしねぇから」
    「……!」

    ない、俺の銃が無い。どこだ、まさか隠されたのか。あれは俺が唯一大切にしている物なのに。

    「もしかして、探してるのはこれか?」

    髪の長い少女が俺の銃を持ってくる。俺が倒れている時に大事そうに抱えていたため、丁寧に保管していてくれたらしい。軽くお礼を言い、今の状況を説明してほしいと頼んだ。
    俺は雪山で遭難していて、それをこのアイヌの少女と顔に傷のある男に発見され、少女が住む村まで運ばれ、看病されていた。起きるまでずっとなにか呻いていたらしいが何を言っていたかは聞き取れなかったとも話してくれた。

    「逆にお前はなんであんなとこに倒れてたんだ?観光なんて事じゃないだろ」
    「俺は…色々あって軍から逃げてきた」
    「その色々は話せないのか?事情によっては私達も協力できるかもしれない」

    こんな見ず知らずの男を助けるなんて、少しお人好し過ぎではないか。隣の男は嫌そうな顔をしているが、反論しないあたりこの少女には物言いが出来ないのかもしれない。

    「……弟に殺されるかもしれないから」
    「弟?」
    「腹違いの弟が軍にいるんだ。ついこの間そいつと初めてあったけど、あんなに冷たい目をした奴は初めて見た。同時に、ここに居たら、こいつにいつか殺されると思った。やりたくもないことをやらされて、よく知りもしない弟に殺されるくらいなら逃げた方がいい。誰でもそう思うだろ」
    「なるほどな、それで逃げてきたはいいけど遭難したと」
    「事情はわかった、それで、これからどうするつもりなんだ?」
    「…分からない、どうしたら良いか。ずっと父の言うことを聞いて生きてきたから、何をしたら良いのか分からない」
    「んー、困ったねアシㇼパさん。俺達もやんなきゃいけないことがあるからあんまり悩まれても」
    「やんなきゃいけないこと?」
    「アイヌが残した金塊探しだ」
    「え!?アシㇼパさんそれ言っていいの?」
    「金塊…?」

    俺は何故そんなものを探しているのか杉元から全て聞かされた。なんだか大変そうだな。まぁ俺には関係ない、体の調子が戻り次第街に降りてこれからの事を考えなくてはならないし。

    「って事で、全部知ったんだからお前も手伝えよな」
    「ん?は?俺も?」
    「当たり前だろ、情報知ってるやつを逃がす訳にはいかないしな」

    は、はめられた。俺なんか仲間にしてどうする。俺が役に立つ事なんて何も無いのに、少しでも人手が欲しいってことなのか。

    「俺は何も出来ない、仲間にするだけ損だろ」
    「なんかしら出来るだろ、取り敢えず逃げらんねーから。わかったか?」

    傷の男がにっこり微笑む。こいつ勇作と同じ、笑顔で人を殺すタイプだろ。よく見たら顔も似ている気がする。この世にあんな男が何人もいるなんてたまったもんじゃねぇ。だけど今は従うしかない。

    「はぁ…わかった、そう言えばまだ名前を聞いてなかったな」
    「そうだな、俺は杉元佐一。こっちの子はアシㇼパさん」
    「花沢百之助。…とりあえず、その金塊探しとやらが終わるまではよろしく」

    よろしくっと手を差し出され、その手を握り返す。握手なんて何時ぶりだろう、以外に友好的なのか。とにかく、勇作と出会わなければ何でもいい。どうせアイツは軍の中にいる、戦死するか満期で除隊するかだろう。これで少しは落ち着ける、めでたしめでたしだ。

    それから数ヶ月、俺は自分が思っていた1000倍以上辛い金塊探しを続けていた。もっとお宝探しみたいなのを想像していたのに、囚人と戦わされたり皮を剥がされたりチタタㇷ゚させられたり、もはやちょっとした事では驚かなくなっていた。俺もそれなりに成長しているんだろう、中々頑張ってるぞ百之助。偉いぞ百之助。もうなんでも来い、俺は屈しないぞ。

    「お久しぶりです、兄様♡」
    「ひぃぃい…」
    「そんなに驚かれるなんて、たった一人の弟との再会がそんなに嬉しいのですね。俺も嬉しいです、ぶっ殺してやりたいくらいに」
    「嬉しくない!なんでここに居るんだよ!お前軍にいたんじゃないのか!」
    「兄様もいないし父親も殺してしまったのであそこにいる理由が無くなりました。そして今、兄様と再会出来たので生きる意味をまた見つけられました」

    絶対良い意味ではないしさっきからニコニコしながら物騒なことばかり言う。ジリジリ詰め寄られ、まるで肉食動物に追い込まれる小動物の気分だ。
    「誰だ!!」
    「おっと、急に危ないな」
    「杉元…!」

    薪を探して戻ってこない俺を心配したのか杉元が探しに来てくれた。ほっとしているのもつかの間、二人の争いが激しくなるにつれ、俺にも被弾しそうになる。慌てて逃げ出そうとすれば、逃がさねぇよと回り込まれた。勢い余って勇作の胸に突っ込んでしまい、もう逃げ場が無くなった。

    「兄様自ら来てくれるなんて嬉しいですね、期待にお答えしてひねり潰してあげますよ」

    「頼んでない…!期待してない…!死にたくない…」
    「うるせぇな、騒ぐなよ」

    勇作のゴツゴツとした手で頬を思い切り掴まれる。終わった、今度こそ終わった。死を覚悟して目をぎゅっと瞑るも、暫く待っても何も起きない。様子を伺うようにうっすら目を開けると、勇作は真顔で俺の顔をじっと見つめていた。怖すぎる、なんなんだ一体。俺の顔そんなに可笑しいのか。段々恐怖よりも怒りが湧いてきたところで後ろから追いかけて来た杉元の声が聞こえてくる。すると先程まで逃がさないと豪語していたのに、勇作は俺から離れ森の中へと消えていった。

    「た、助かったのか…?」
    「花沢、平気か?」
    「平気だ…何もされなかった、なんだったんだ一体」
    「気味悪いやつだ、お前のこと追い回して楽しんでるんじゃないか?」
    「何が楽しくてそんなこと…前からそうだったが正気とは思えん…」

    そうして熾烈な鬼ごっこをした日の晩は寝付きが非常に悪かった。体力の消費よりも心労が酷いせいか目が冴えてしまっていたのだ。少し夜風に当たろうと外に出て月明かりを頼りに辺りを散歩する。少し暖かい季節になってきたとはいえ、やはり北海道はまだ冷えるな。

    「にしても星が綺麗だな…軍にいた頃は気にしたことすら無かった」
    「随分感傷に浸っておられますね、兄様」

    美しい星空を眺めていたのに、突然頭上から聞き覚えのある声がして咄嗟に顔を向ける。すると樹上からこちらを見下ろす勇作が居た。昼間のことを思い出して恐怖で体が強ばり動けない。飛び降りて来ては俺の目の前に立ち、昼間ぶりですねと微笑み頬を撫でてくる。体が震えている、皆寝静まった後だし銃はこの距離では近すぎて発砲出来ない。きっと昼間の仕返しをしに来たんだ。今度こそ本当に終わった。

    「兄様、腕の良い用心棒は欲しくないですか?」
    「…は?」

    本日二回目の死を覚悟し神に祈りを捧げている最中に、勇作から思わぬ提案をされ目を見開いた。

    「俺が貴方をお守りします。貴方も探しているのでしょう、アイヌの金塊を」
    「俺は別に探しているわけじゃ…それにお前を信用出来るわけが無いだろ。どうせ機会を伺って殺すのが目的なんだろ」
    「いいえ、俺は心を入れ替えたんですよ。たった一人の兄の命を狙うなど人として最低です。そんな俺に罪滅ぼしの機会を与えてくださりませんか?」

    俺の手をとり、跪く。まるで王に忠誠を誓う騎士のように。どうせ端から俺の許可など必要としていないのだ、逃げようが無駄だろう。それより杉元達になんて説明したらいいのかそっちの方が悩ましい。

    「…わかった、どうせ嫌だと言っても聞かないんだろ。勝手にしろ」
    「ありがとうございます。この命に代えて兄様の命をお守りします」

    もう疲れたから帰ると来た道を戻っていると、ニコニコしながら後を着いてくる。内心気が気では無いが仕方ない。というかこいつそれを言うために今まで見を潜めていたのか?俺が来なかったらどうしていたんだ?それにコイツどこで寝る気なんだ?

    「って狭い!お前なんで入ってくるんだよ!」
    「外は寒いですよ、凍えて死んでしまいます。俺の体温で温めて差し上げますので我慢してください」


    一人分しかないから布団に勇作は無理矢理デカい図体を入れてくる。結局その晩は眠れなかった。勇作は随分よく眠れたようで、早くに目を覚ましては俺の寝顔を見つめていたのか、起きた瞬間から良い笑顔でおはようございますと挨拶をしてきた。面が良いせいかもその笑顔が眩しく感じる。

    「いい天気ですよ、散歩でもしますか?」
    「しない。少なくともお前とは絶対しない」
    「昨日はあんなに熱い夜を過ごしたではありませんか」

    戯言を無視して外に出ると、既に杉元達が起きていて朝食の準備をしていた。寝床から出てきた俺達を見て困惑している為、昨晩あったことを話した。杉元は訝しげに勇作を見たあと、お前が良いなら良いけど、気をつけろよと釘を刺される。

    「兄様、お話終わりました?」
    「あぁ。どうせ盗み聞きしてただろ」
    「してませんよ、全然聞いてません」

    またその顔。目は笑っていないのに口は凄く綺麗な形で微笑ませる。

    「その胡散臭い笑顔やめろ、見てて腹が立つ。俺に愛想振りまいたって仕方ないだろ」
    「そんな、にこやかな方が良いと思いますよ?兄様はあまり表情が変わらないので何を考えているのかわかりにくいですよね。あーでも、怯えた顔はよくしますか」

    くそむかつく。誰のせいでそんな顔していたと思っているんだ。これ以上話していたら胃に穴が空いてしまう。死因が弟と話しすぎて胃に穴が空いたからなんて絶対に嫌だ。
    俺は杉元達の手伝いをしに行くことにした。勇作も空気を読んでかアシㇼパに教えられながら作業をしている。見る限りチタタㇷ゚を教えられているのだろう。小さく口を動かしながら包丁を上下に下ろす様に嫌な想像をして若干肝が冷える。


    そうして勇作が俺専用の用心棒として仲間になってから数ヶ月が経過した。意外にも俺を襲ってくる素振りはなく、本当に用心棒としての役割を果たしていた。俺も愛銃がある為それなりに戦えるのだが、的を狙う際集中し過ぎてしまう癖があり、背後から来る敵に気づけないことがある。そんな奴らを勇作は問答無用で片付けていった。
    再会してからすぐに気づいたが、アイツは俺と同じ銃を所有していた。俺が愛用しているものと同じだと知り、これで殺してやろうと思って持ち歩いていたと言われた時は本当に頭をぶち抜いてやろうかと思った。それに、こいつは銃よりも近接戦の方が得意だ。銃の腕も悪くは無いが俺の方が上手い。自分でもわかっているのか最近では銃の出番より己の拳の出番の方が増えている気がする。

    そして今日も慌ただしい一日を終え、俺達は宿泊している宿の部屋に各々戻って行った。勇作は勿論俺と同室の為、一緒に部屋に戻る。疲れた体を布団に沈めると、お疲れですねと聞きながら勇作は椅子に腰かける。未だに嘘んくささは取れないが、最近ではこいつの素の表情を見ることが増えてきた気がする。今は敬語で話しているが、ふとでる言葉は荒々しい。なんだかんだ杉元達とも仲良くやっている。もう、こいつの中で俺を殺すという選択肢が無くなったのではないかと錯覚してしまうくらいには距離が縮まった気がするのだ。それはあくまで俺の理想でしかないのかもしれないが。

    「兄様ぁ、風呂入らんのですか?体汚いままですよ」
    「入るけど疲れすぎて動けん」
    「だから洗ってくれってことですね?わかりました」
    「俄然やる気が出てきたから一人で入ってくる。着いてくるなよ」

    全く、油断も隙もない。男の背中なんて流して何が楽しいのか。早く休みたいためさっさと風呂を済ませ部屋に戻る。部屋に入ると疲れと一人のため暇だったのか勇作は眠っていた。出会った当初から少し伸びた髪が目元に影を落とす。ほんと、黙っていればかなりの美形だ。こいつは母親似なのか?あまり俺とは似ていないしきっとそうなのだろう。

    「…兄様のすけべ、そんな熱心に覗き込まれたら噛み付いてしまいますよ」
    「」

    ニヤリと笑いながら勇作が目を開けた。俺は驚いて後ろに下がろうとするとそれを阻止するように勇作の長い右腕が腰に巻き付きグイッと引き寄せられる。自分では気づかないくらい近くで見ていたことと、より近くなった距離に緊張と恥ずかしさで顔がみるみる赤くなっているのを感じた。

    「俺の顔になにか着いていましたか?それとも、見惚れていました?」
    「は、離せ。近い、別にそんな見てないだろ」
    「いいえ、穴が空くかと思うくらい見ていましたよ?容姿が良いのは自負しておりますが、まさか実の兄まで虜にしてしまうとは。俺も罪な男ですね」
    「馬鹿なこと言ってないでほんとに離せ」
    「嫌ですよ、俺もお返しに兄様のお顔を見て差し上げます」

    より強い力で引かれ体勢を崩した俺は対面するように勇作の膝の上に座らされた。近すぎて頭が沸騰しそうだ。じっと見つめられ、思わず顔を逸らすと、ちゃんとこっち向けてくださいと無理矢理顔の位置を調整される。真っ黒な瞳が俺を見つめてくる。とても目なんて合わせられなくて色んなとこを見てしまう。こいつは一体何がしたいんだよ。

    「兄様、俺を見てください」
    「無理…近すぎるから降ろしてくれ…」
    「良いから俺を見ろ」

    半ば強制的に勇作と目を合わせる。無表情なのにいつもよりその目に熱を感じる。心臓の動きが早い。今にも爆発しそうだ。
    そんな俺を見て満足したのか、膝から下ろし風呂に行ってきますとだけ告げて部屋を出ていった。全身の力が抜けて布団になだれ込む。解放された安堵感からか、俺は直ぐに眠ってしまった。


    窓から差し込む陽の光で起こされ、軽く伸びをする。辺りを見渡すと勇作の姿がない。どこに行ったのか探しに行くと遠くの方から銃声が聞こえてきた。音のする方に向かうと、勇作が木を的にして射撃の訓練をしていた。絵になるその光景を俺は黙って見つめていると、ある程度撃って満足したのか、勇作は銃を下ろし振り向く。俺に気づいていなかったのか珍しく驚いた表情を見せる勇作は少し面白かった。

    「おはよう、朝から熱心だな」
    「おはようございます。兄様もお早いですね」
    「…少し散歩でもするか?」
    「!えぇ、お供しますよ」

    そう言う勇作の笑顔はいつもの作り笑いではないように思えた。
    湖の周りを二人で歩きながら他愛もないことを話していた。今になってお互いの事を何も知らないことに気づき、今までどんな風に生活してきたのか、何が好きで何が嫌いなのか、本当に色んなことを話した。そうして見えてくる勇作の姿はどれも新鮮で、なんだか本当の兄弟になった気分だ。

    「ところで、兄様はこの金塊探しを終えたらどうされるのですか?」
    「さぁ、わからん。そもそも金塊が欲しくてこの旅をしているんじゃないし。杉元も、行く宛てが無い俺を、事情を知ってしまったから逃がさないなんて言って置いてくれてるだけなんだろうし」
    「ふぅん、なら行く宛てが決まればここに留まる理由はないと」
    「まぁそうだな、でもここまで来て途中でほっぽりだすなんて出来ないだろ。例え死にかける事になっても、俺は事が終わるまでここに居るつもりだ」
    「そうですか、それなら俺もここに居ましょうかね」
    「別にやりたい事があるなら抜けろよ、俺は一人でも平気だ」
    「未だに俺に助けられてるのに?無理でしょう、それに俺はあんたの傍にいたいんですよ。離れた瞬間死にそうだし」

    ケラケラ笑う勇作にムカついて肩を殴る。もう戻るぞと踵を返すと、勇作も着いてきた。気に触りましたか?と気にしてないくせに聞いてくる。うるさいと鼻をつまんでやると痛いと言いつつなんだか嬉しそうだった。

    「お、二人とも戻ったか。散歩か?」
    「あぁ、少しな。天気も良かったし」
    「兄様と濃厚な時間を過ごしてしまいました」
    「お前次アシㇼパさんの前でそんなこと言ったら殺すからな」

    殺伐とした空気が多いため、こんな穏やかな時間は久しぶりだ。ずっとこれが続けばいいと思うけれど、そうはいかないだろう。金塊を求めて何人もの死体が重なった。俺もいつか、その死体の山に乗せられる日が来るのだろうか。もしかしたらここにいる誰かが…やめよう、良くない考えは身を滅ぼす。今はこの時間を楽しむべきだ。

    朝の支度を終えて、俺達は宿を後にする。また囚人の手がかりを集め、戦いが起こるのだろう。いつまで経ってもこの不安は解消されんな。

    「くしゅんっ」
    「なんだそれ、鳴き声か?」
    「違う、馬鹿にすんな」
    「そんな細いから風邪をひくんですよ。これ着ておいてください」

    勇作は自分の外套を俺に掛けて首元で紐を縛る。さっきまで着ていたからなのかほんのり勇作の熱が残っていて、まるで勇作に抱きしめ…

    「何を考えてるんだ俺は…!」
    「びっくりした、なんですかいきなり」

    思わず声に出してしまった。クソ、本当にイカれてる。顔の赤みを隠すため俺は外套に着いている頭巾を深く被った。

    「あ、ありがとう…暖かい」
    「それは良かったです、俺の温もり感じますか?」
    「うるっっっさいんだよお前は!」

    後ろから視線を感じるも俺は気づかない振りをした。最近おかしい、コイツといると胸が苦しくなる。病気か?それともコイツといるといつもハラハラさせられるから体が覚えてしまったのか?ぼんやりそんなことを考えていると急に腕を引かれ、勇作の腕の中に収まった。

    「前見てください、ぶつかりますよ」
    「あ、悪い…ボーっとしてた」
    「知ってますよ、だからこうして助けたでしょう?ほんと、俺がいないとすぐぼんやりするんですから」

    腕を離し、横に並ぶ。前では俺を監視できないからだろう。どっちが兄だかもうわからんな。まぁ、兄らしい事なんてコイツにしてやった事は無いが。

    「兄様、またボケっとしてますよ」
    「してないし一々言うな」

    文句を言われているのに勇作はなんか嬉しそうだ。最近この顔も増えてきた。少しは心を開いてくれているのか。なんか、うん、嬉しいな。

    日も落ちて来た為ここらで一晩過ごそうと準備を始める。この旅をし始めて野宿というのにも大分慣れてきた。最初は手際が悪く怒られたが、今は一人でも出来るくらいに成長してる。一通り作業が終わり、休憩していると隣に勇作がやって来た。

    「終わりました?」
    「あぁ、お前は?」
    「こっちも終わりましたよ。今夜は天気も良いので星がよく見えそうです。近くに綺麗に見えそうなとこがあったので、後で行きませんか?」
    「良いけど、あんまり遠くは行けないぞ」
    「すぐ近くですよ、道は俺が分かりますから安心して下さい」

    ではまたと離れていく勇作の後ろ姿を俺はじっと見つめていた。
    すっかり日が暮れ、早めに飯を済ませた俺たちは各々の時間を過ごしていた。星が大分出始めた頃に勇作は俺を迎えに来て、その星がよく見える場所へと連れていった。そこは広い野原になっていて、開けた土地と澄んだ空気のおかげで本当に星が光り輝いていた。

    「これは、見事だな…」
    「そうでしょう、俺頑張って探したんですよ」

    褒めてくれと言いたげに顔を覗き込んでくる勇作の頭を、よく出来ましたと撫でてみる。一瞬驚いた顔をするも照れくさそうな笑顔に変わった。
    二人で野原に座り、夜空を見上げる。まさかこんな風に二人並んでいるなんて、再会した時には想像もしていなかった光景だ。

    「くしゅっ」
    「はぁ、またあんたは。いつもなんで薄着で来るんですか」
    「出た時は平気なんだ。仕方ないだろ」

    たくっと呟くと、着ていた外套を広げその中に俺を包み込みように抱き寄せられる。突然近くなった距離にまたドクドクと心臓が早くなる。顔にも熱が集まり、自分でもわかるくらいに赤くなっていた。そうして俺は、勇作が自分にとってどんな存在になってしまったのか気付いてしまった。

    「これで寒くないでしょう。俺も冷えるからこれは貸せませんけど…」

    勇作は真っ赤になった俺を見て言葉を途切れさせる。そりゃ驚くだろうな。男に、ましてや弟に抱き寄せられてこんなに恥ずかしがっているなんてどれだけ初なんだと。
    何か言わないと不審に思われると顔を上げた時、唇に何か柔らかいものが触れる。それが勇作の唇だと理解した時には既に顔は離れていた。どうしてそうなったのか混乱していると、勇作は先に戻りますとだけ残しその場を去っていった。その後ろ姿を俺はただ呆然と眺めることしか出来なかった。
    部屋に戻った時には勇作は既に布団に入っていた。色々聞きたいことはあるものの、それは明日に回して俺も隣に敷かれた布団に横になり瞼を閉じた。何故だか今日はすぐに眠りに落ちた。


    次の日の朝、目覚めた俺は隣の布団が既に片されているのを確認した。もう起きているのか、いつも早いななんて思いながら自分も布団を片付けていると、ふと机に目がいった。そこには小さな紙切れに、『お元気で』と、とても短い文が書かれていた。部屋を飛び出し、勇作の姿を探したけれど、何処にもなく、荷物すら見当たらない。本当に出て行ってしまったのか。なんで突然。昨日の事が原因なのか?頭がグチャグチャになり過ぎて目頭が熱くなってきた。蹲って耐えていると、それを見つけた杉元が慌てて駆け寄ってくる。

    暫く背中をさすられ、気持ちに整理が着いてきた。泣いたって仕方ない、アイツはもう何処にもいないんだ。きっと二度と会えない。良かったじゃないか、弟に恋心を抱くなどあってはならない。強制的に忘れられるなら楽なもんだ。大丈夫、大丈夫だ。

    「すまない、取り乱して。遅れを取り戻さなきゃいけないな」
    「それは良いけどよ、お前ほんと平気なの?無理してない?」
    「大丈夫、してねぇよ」
    「それなら良いけどさ…」

    そうして勇作が消えてから長い月日が流れた。金塊探しの旅も終盤、最後の勝負に命を燃やす俺達は、とある列車に逃げ込んだ。そこには最悪にも敵側の兵士が大勢乗っているものだった。まさに鬼神の如く突っ込む杉元達を先頭に、俺はアシㇼパを守りつつここから脱出する術を模索していた。それにしても、この列車何かおかしい。普通各駅に止まるものだが、これだけ兵士を乗せているからなのか一切その素振りを見せないまま突き進んでいた。

    「白石、アシㇼパを頼む。俺は運転席を見てくるから」
    「えっ?ちょ花沢ちゃん!?」

    杉元が開けて行った道を進み、俺は運転席に辿り着いた。やっぱりそこに居るはずの車掌が何処にもいない。その代わりに、そこにはずっと会いたくて仕方なかった人物が居て、そいつは俺と目が合うと酷く驚いた顔をしていた。

    「兄様…?」
    「…!?ゆ、勇作、待って!」

    一瞬怯むも、勇作は身を翻して逃げていった。俺もその後を追うため列車の上によじのぼる。走行中の列車の上を移動するなんて体格の良くない俺にはかなりの重労働だったが、ここで勇作を逃がしたら、本当に二度と会えなくなってしまう。そんな気がしたんだ。

    「あっ…!」
    「!!」

    風に押され転んでしまう。上手く進めない。どんどん勇作が離れてしまう。嫌だ、もう何処にも行くなよ、ここにいてくれ。

    「…っ行くな…!戻ってこい勇作…っ!!」

    俺は出せる限りの力を振り絞って叫んだ。その声に振り向いた勇作はなんとも言えない表情をしていた。

    「…俺はあんたと一緒に居られない、あんたと俺とじゃ住む世界が違いすぎるんだよ。あんたは祝福されて生まれた子だ、その道を外れる必要なんてないだろ」
    「何意味わかんないこと言って…」
    「俺はあんたと違って望まれて生まれて来たんじゃない。そんな人間は此処で朽ち果てるべきなんだ」

    今までに無いくらい悲しそうに笑う勇作に心臓を滅多刺しにされるような感覚に陥る。コイツは金塊目当てでこの列車に乗り込んだんじゃない、死に場所を探していたんだ。きっとそれは、俺と再会した時からずっと続いていた。今になってようやくわかった事実は俺には重すぎて潰れてしまいそうだった。

    「勇作はずっとそんなこと考えていたのか…?誰も自分を愛してないって本気で思っているのか…?」
    「思っているんじゃない、それが事実なんです。生まれた時から俺は、厄でしかない。…もう疲れたんです」
    「でも、でも俺には勇作が必要だ…」
    「あんたには未来があるだろ、可愛い嫁さんと子供作って、周りと同じように平穏で暖かい未来がさ」

    俺の言葉を、気持ちを、お前は全て否定するんだな。

    「〜っ…ふざけんなよこのクソ野郎!!俺の幸せをお前が勝手に決めるな!!」

    人生でこんなに怒ったことは無い。そのくらい頭に血が上っていた。黙って聞いていれば好き勝手言い、自分を否定しまくって。お前に俺の事なんもわかっちゃいない。

    「俺はそんなモノ望んだことなんて一度も無い!散々人の心引っ掻きましておいて自分は逃げるのか!」
    「なんとでも言えよ、俺はなんて言われてももう戻る気はありませんから」
    「あーそうかよ、わかった。お前が俺のとこに戻らないなら、今すぐここを飛び降りてぐっちゃぐちゃになって死んでやる」

    躍起になって列車から身を乗り出す。これで止めてくれなければそれまでだ、諦めるしかない。どの道あいつのいない人生など生きていく気になれない。覚悟を決めて勢いをつけたところで後ろから凄い力で引き戻される。

    「…馬鹿野郎…何してんだよ」
    「離せ!戻る気は無いんだろっ、ならここで全て終わらせる!こんなに好きにさせておいて、今更他の誰かと幸せになんてなれる訳ないだろ…!」

    離せ離せと暴れるも全く効果が無い。力の差を見せつけられて俺はついに泣き出す始末だ。もうこれ以上みっともない姿を見られたくないのに、どんどん記録を更新していく。

    「…あーー、負けた。降参だよ」
    「…へっ?」

    間抜けな声を上げる俺の肩に勇作は顔を埋める。そのくすぐったさが懐かしく感じる程に暖かくて、やっと現実を受け入れられた。俺の粘り勝ちだ。

    「うっ、ずっと会いたかった…勝手にいなくなるなんて酷すぎる…っ」
    「悪かったよ、だからもう泣くなって…」

    今度はしっかり俺の唇に勇作の唇が重なる。口付けなんて勇作が初めてだったけど、きっとこんなに幸せだと思えるのは勇作だからなんだろう。

    「…ところで、この列車どこまで行くんだ?」
    「えー、終点までこの勢いのまま進むかな」
    「止められないのか?」
    「止められないですね」
    「「…………」」
    「後で覚えてろよ」
    「善処します」

    勇作に初めて殺意を覚えたが今はそんなこと考えてる余裕はない、どうするか考えろ百之助。次第に終点駅が見えてくる、周りは広大な海が広がっていた。

    「これっ、このまま突っ込んだら海に落ちるんじゃないのか…?!」
    「…兄様、俺にしっかり掴まって、絶対離すな。海に飛び込んだら息も止めてろ」
    「えっ?でも…」
    「いいから早くしろ!」

    勇作の怒声に驚き咄嗟にしがみついた。

    「安心しろ、俺が絶対守りますから」
    「…っ」

    俺達を乗せた列車は勢いを落とすことなく終点駅に突っ込み、海に飛び込んだ。勿論俺と勇作も振り落とされる形で海に落ちる。必死にしがみつく俺を担ぎながら勇作は地上に向かって泳ぎだした。息がとうとう限界に近づいてきた頃、地上に出て精一杯酸素を取り込んだ。
    勇作はまた俺を支えながら沖まで泳ぎきり、ついに二人して砂浜で力尽きた。


    そんな金塊戦争から早半年、俺達はあの後助けに来てくれたアシㇼパ達に病院まで運ばれ事なきを得た。治療を受け、退院後は二人で勇作の故郷に戻り生活すると告げ杉元達と別れた。
    それからはあの戦いが嘘のように穏やかな日々が続いた。父の言うままに生きていたら絶対に手に入らなかった幸せだ。

    「兄様、早くしないと置いていきますよ」
    「うぅ、薪拾いすぎて重いんだよ…」
    「全く、ほんと兄様は俺がいないとダメですね」

    俺の荷物を片方軽々と持ち、ほらこれで良いでしょと微笑む。憎たらしくて愛しい俺のこいびと
    一度は離れた二人だけど、手を繋ぎもう二度と離れることは無かった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator