-「やっほ〜」
「げぇっ、てめえ服ビッタビタじゃねぇか!」
「あれま」
なんや気持ちわる〜思ったんよ、何て暢気にゆるい口調で話す簓の顔色は、決していいものではなかった。山を3つばかし越えてきました!とでも言わんばかりの疲労感が滲む簓を玄関に置いて、バスタオルを取りに行く。
行きしなに新聞紙が積んであるところを通りすがり、ふとそこで足を止めた。
(あいつ、玄関水びたしにしやがったから敷いとかねぇと)
今朝の中日新聞を勝手に使うと親父にとやかく言われるので、小さく印字された日付を注意して見ながら古いものを手に取る。H歴×年、3月27日。
──玄関に戻ると、簓の姿はない。彼から滴った雫で出来た水溜まりが夕焼けでまばらに反射して、ここに彼が立っていたのだと主張する。まるでその場を彩る装飾のように、藍色の花弁が散らばっている。
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