【オリジナル漫画】『these stones』白百合編 場面メモ[『泡瀬館』・客間]
(ササラギ小隊の食事風景。東の国の料理をベースにした料理に盛り上がる一同。しかし、ラタは料理に手を付けない。それどころか、目の前に置いてあるお椀を何故か気味悪そうに凝視している。そんな様子に気がついたトスクが、ラタに声をかける。)
トスク「何だ、ユートュ。食べないのか?」
スクルト「えっ?」
スクルト「あれ…本当だ。一口も手を付けてないじゃないか。」
スクルト「どうしたの、ラタ。お腹でも痛いの?」
ラタ「……………」
ラタ「……そういうわけじゃないんだ。なんか、食べる気になれなくて……」
モリアナ「ええっ 大丈夫ですの 食べざかりの男の子が食べられないだなんて、尚更健康によくありませんわよ」
マフィー「だ、大丈夫 胃薬いる いっぱい持ってきてるよ」
マッキンリー「胃が悪くて薬飲むなら三十分前に飲まなきゃ意味ないだろ……」
ラタ「………………」
ジーニアス「本当にどうしたんかね? 随分顔色が悪いぞぉ?」
[ラタを静かに見つめるササラギ。]
ザッツ「よく見たらクリスも食べてないじゃん。どうしたのさ、二人して。」
クリス「あ…はい、僕はなんか、目が霞むのが気になって……」
ヴル「東の国で言うドライアイというものではないか? もっとも、君の目は大変貴重なのだから大切にしたいところだが…」
[クリスの方を見つめるササラギ。]
ササラギ「……二人共、無理に食べることはないでしょう。最悪非常食も持ち歩いていることですし、好きなときに食べればいいと思いますよ。」
ササラギ「私もどうにも、決まった時間に食べるという習慣がないので体が受け付けてくれませんし。」
マッキンリー「そうでなくてもお前は食わねえだろうが しかもよく見たら魚とか分解しただけじゃねーか」
ササラギ「解剖学は敵の弱点を知るのに最適ですよ?」
マフィー「魚と戦うことってあるの」
グリード「ふむ、しかし残すと言うなら些か食材が勿体ない。というわけで、二人の椀を私に寄越すと良い。私が食べてやろう」
トスク「あんた、米が食べたいだけだろ」
グリード「何故わかった…?」
ラタ「……食べるなら好きにしていいですよ。ぼくはもう寝る……」
[立ち上がり、寝床に去るラタ。]
モリアナ「……よっぽど具合が悪いのかしら。後でお水でも差し入れましょう。」
モリアナ「ところでクリスさん。あまり目を掻きすぎるのも良くありませんわよ。あなたも目を休めると言う意味で、もう休んだらどうかしら。」
クリス「えっ、ああ…ありがとうございます。じゃあ、先に休みますね。」
スクルト「クリスもお大事にね。」
マフィー「私の冷やせるアイマスク貸したげるから、勝手に枕のところに置いてあるのを取ってね!」
クリス「あ、ありがとう。借りておくね」
ジーニアス「儂はマフィーちゃんの手で目にマスクしてほしいかなぁ〜」
トスク「あんたは黙ってろ! エロジジイ!」
[その後も騒ぐ彼らを後目に、寝室に入るクリス。寝室ではすでに、電気をつけたままラタが自分の布団に潜り込んでいる。]
クリス(どうしたんだろう、ラタ。大丈夫かな……?)
クリス(それに、何なんだろう……さっきから見えたり、消えたりするこの『もや』は……)
クリス(従業員の人たちはお香の燃えカスじゃないかって言ってたけど……こんな目に悪いものか?)
[クリス、マフィーのアイマスクを借りて床に就く。]
[皆が寝静まった夜、寝室にて。布団から小さな影が起き上がる。]
ラタ(……なんで、さっきからこんなにトイレが近いんだ……)
[立ち上がり、トイレに行こうとするラタの後ろに、影が現れる。背後の気配に気づいたラタが振り返ろうとした瞬間、勢いよく何者かが彼の首を掴み上げる。]
ラタ「ガッ……ハッ」
[ラタの首を掴み、締め上げる謎の影。ラタがめちゃくちゃに動かした手足が、影の顔あたりにぶつかり、影が怯んで大きな足音を立てる。その音を聞いて、モリアナが体を起こす。]
モリアナ「もう…なんですの…?」
モリアナ「お手洗いに行くときくらい静かに……」
モリアナ「……」
[モリアナが目を見開く。そこには首を絞められている子供と、それを締め上げる大きな誰かがいた。一気に青ざめるモリアナ。]
モリアナ「きゃああああああ」
[モリアナが上げた悲鳴に、全員が飛び上がるようにして身を起こす。サヴァランがいち早く動き、部屋の電気を付けると、そこにはラタの首を締め上げるグリードの姿と、それを引き剥がそうとするモリアナの姿があった。]
モリアナ「グリード! グリード おやめなさい ラタが……ラタが死んでしまいますわ」
クリス「ぐ…グリードさん…」
[クリスが驚いて目を見開く。その横をササラギが駆け、飛び蹴りをグリードの頭に食らわせる。彼がラタを手放した瞬間に、ササラギは自身の身体を空中で捻り、もう片方の脚をグリードの胸辺りに打ち、グリードの体を吹き飛ばす。グリードの身体は思いっきりサヴァランの身体に激突して止まる。]
ササラギ「全く、夜中に騒がないでください。他のお客様に迷惑ではないですか」
クリス「言ってる場合ですか グリードさん! ラタ」
トスク「ユートュ 大丈夫か 返事しろ、ユートュ」
ラタ「……ッゲホッ …………ッ……」
スクルト「しっかりして、ラタ! 呼吸できる」
マフィー「トスクくん達退いて! 今診るから」
ザッツ「お、俺、看護師さん連れてくる! あと医療キットとかももらってくる」
マフィー「お願い! バイタル系も全部お願いね!!」
ササラギ「待ちなさい、ザッツ」
ザッツ「え なんで」
ササラギ「行くなとは言ってないじゃないですか。一つ頼みがありまして……まぁ、ザッツの目に任せますよ。」
ザッツ「えっ? どゆこと?」
ヴル「……ザッツ、俺も行こう。判断力は多いほうがよいだろう?」
ザッツ「あ……うん。ヴルちゃんが来てくれるなら大丈夫かな……よくわかんないケド…」
ザッツ「じゃあ、行ってくる! すぐ戻ってくるからね! ふたりとも!」
[サヴァランとグリードの横を駆けていく二人。サヴァランがグリードを近くの布団に横たわらせ、ラタのいる方へ歩いてくる。]
サヴァラン「いたた……気絶から目覚めたらまたこんなことに……」
スクルト「あっ、サヴァラン……ごめんね、君も大丈夫かい?」
サヴァラン「ああ、大丈夫だよ。それよりもラタだよ。……大丈夫なのかい?」
マッキンリー「大丈夫とは言い難いな……」
トスク「顔が真っ青なんだ……」
マフィー「皆手伝って! 彼にちゃんと血液が回るように体位を保ってもらうから───」
[その様子を呆然と見続けるクリス。その横に、ジーニアスが寄り、彼に囁くように言う。]
ジーニアス「クリス=アイラーン君。」
ジーニアス「君には、何が『視えて』いるのかね……?」
[クリスはためらいがちに、口を開く。しかし声になることはなかった。]
クリス(どうして……)
クリス(どうして、グリードさんが)
クリス(ノムレスの気配を纏っているんだ…)
[クリスとジーニアスの二人を、ササラギは静かに見つめた。]
[翌日。ラタの顔色はすっかり戻り、点滴がされている。ラタが目を覚ますと、覗き込むような姿勢のトスクを筆頭にササラギ隊の面々が見える。各々話していたり、もしくは心配そうに見つめてくる人だったりと様相は様々。]
ラタ「………?」
トスク「………!」
トスク「ユートュ 目が覚めたんだな」
ラタ「………うるさいなぁ、グローク……。寝起きの人間に大声出すなよな……」
ササラギ「おや、思ったより元気そうではないですか」
スクルト「隊長、ちょっと判断早すぎです」
[ラタが目覚めたことを喜ぶ一同(ササラギはあんまりわからない)。ラタは彼らの様子を見て、昨日のことを思い返す。彼の首には痛みと、痛々しい痕が残っている。]
ラタ「……………」
ラタ「………ぼく、あのあと、どうなったの……?」
モリアナ「それについては、わたくしが説明致しますわ……。」
モリアナ「と言っても、あなた自身には、首を絞められ、意識を失って危ない状態だった……ということしかないのですが……」
ラタ「抵抗したのまでは覚えてるよ。でも、向こうの力がとても強かったんだ。」
ラタ「とっさに護身術を食らわせようとしたけど、うまくできなかったよ………」
ラタ「ところで、ぼくを絞め上げていたのはなんだったんだい? とてつもない力だったから、心臓持ちじゃないかと思ったんだけど……」
[一同が黙り込む。ラタは首を傾げる。]
ササラギ「君の首を締めたのはグリードですよ」
トスク「隊長ッ」
ラタ「グリ……え?」
ラタ「グリードが、ぼくを……?」
クリス「………正確には、違う、と…思う」
モリアナ「違う、とはどういうことですの……? たしかに、あの時のグリードさんは普通ではありませんでしたけど……」
クリス「……ノムレス……」
クリス「ノムレスの気配を見たんだ」
クリス「僕は見たんです…グリードさんの体から、聖文のオーラが出ているのを」
[全員の顔が強ばる。]
モリアナ「グリードさんが…『心臓』持ちに…」
マッキンリー「クリス」
マッキンリー「………お前の証言を聴いてやると、グリードを……」
マッキンリー「解剖に出さなきゃならなくなる」
マッキンリー「彼が『心臓』を持っていないと言い切れるのか?」
クリス「……砕けて使われた『心臓』には、かならず羅列がおかしくなった文字か、一文字だけが視えるのがほとんどです。」
クリス「でも、グリードさんには無かったんです。」
クリス「視えたのは、石が持つオーラだけです。」
スクルト「オーラはあるけど、『心臓』はない……ってことだよね?」
ヴル「まるで東の国の書物に出てくるゾンビとかそういった類いに思えてくるな。」
モリアナ「ぞんび……ってなんです?」
ザッツ「死体に魔法を込めると、死体が動き出すんだ。それをゾンビって言うらしいよ」
モリアナ「何というか、すこぶる趣味が悪い物体ですわね……」
モリアナ「でもそれ、関係あるんですの?」
ザッツ「魔力が高い人だと、操ってる人の魔力のオーラが見えたりするっていう設定の本とか昔あったんだよねぇ。」
ザッツ「ヴルちゃんはそれが言いたかったんじゃないかな?」
ヴル「そうそれ。」
ヴル「前に聞いたが、クリスよ。」
ヴル「核たる石である『心臓』は、生成される際に大地の成分を吸収することで、石が纏うオーラの色が変わるのだったな?」
クリス「……はい。」
ザッツ「それなら、もしかしたら何処かにクリスくんが見たオーラと同じ色の『心臓』がどこかにあって、何かの方法でグリードを操ったって可能性があるんじゃない?」
スクルト「もしそんな石だったら厄介すぎない……?」
[その時、どこからともなく通信の音が鳴り響く。音のなる方へ顔を向けると、ササラギが通信端末を取り出して耳に当てた。]
ササラギ「はい。こちらササラギですが。」
ササラギ「………」
ササラギ「ええ、あなたの連絡を待っていたところです。面倒なのでスピーカーにしますよ。」
[ササラギは通信端末を耳から離し、ボタンを押す。]
???「ハァ~イ♡ みんなぁ、元気してたぁ? ワタシはぁ、妹共々ぉっ♡ と〜っても元気してたわよぉ〜♡」
クリス「その声…ロマンシーさん」
ロマンシー「そうよぉぅ! 皆の魔女さんこと、ロマンシーで〜す! 言うほどでもないけどぉ…おひさぁ♡ クリスぅ♡」
ササラギ「それで? 結果はどうだったんです?」
ロマンシー「あぁん! 結論が早すぎぃ! でも、そこがいいのよねぇ〜。」
ロマンシー「まぁ、ワタシもそぉんなに余裕があるわけじゃないからぁ…先に結論だけ言うわねぇ〜。」
ロマンシー「ササラギの予測はハズレよ〜。キレイサーッパリ、まぁ〜ったくの白っしろのシロよぉ。」
ロマンシー「怪しい薬物もなぁ〜んにもなぁし! 真っ白しろすけ漂白剤って感じぃ? 残念だけどぉ。」
ロマンシー「昨日こっちに運ばれてきたグリードにもぉ、異常はとぉくに無かったって感じねぇ〜!」
ササラギ「そうですか。」
ラタ「……スクルト、隊長とこのおばさんは何の話をしてるんだ?」
スクルト「うーん……。」
スクルト「僕たち一応、白百合百人隊の人たちに麻薬を配ろうとしてる人がいるって通報で来てるから、グリードがおかしくなったのを麻薬なんじゃないかって思ったんじゃない?」
ロマンシー「そういうことぉ〜! グリードの血の他にぃ〜、調べたものとしてはぁ? お米とかお魚とかも送られてきたんだけどぉ〜。」
マッキンリー「米? 魚? まさか、あの分解してたときに……」
ササラギ「ふふ。」
ロマンシー「でもねぇ、せっかくなんだけどぉ〜……なぁんにもでなかったのよねぇ〜〜……。」
ロマンシー「まさに白日に晒された無実の白米だったしぃ〜……魚とかの寄生虫で我を失ったわけでも無いわけぇ……」
トスク「……それはいいんだけどさ。」
トスク「隊長、料理のことを怪しんでたなら言ってくれてもいいじゃないですか」
マフィー「あ…そうだよね 私たち、料理食べちゃってるよね」
スクルト「でも、料理には何もないわけだし、大丈夫じゃないかなぁ。」
マッキンリー「……たぶんだが、コイツは最初っから料理に細工がされてるかどうかなんてあんまり考えてなかったんじゃねぇかな……」
マッキンリー「あれば幸い、くらいだろ。」
ジーニアス「というか、もし麻薬が入れられてるなら、入れたやつは相当マヌケじゃないかぁ?」
ジーニアス「儂らに捕まえてくれと言っているようなもんだぞぉ?」
スクルト「あ……確かに……?」
トスク「それでも、もし他に何かあったらどうする気だったんだ?」
ササラギ「何言ってるんですか。」
ササラギ「君が私に勝てるとでも?」
トスク「全員のす気だったんですねアンタ」
スクルト「そっちのほうがより最悪な結末だよ……」
ラタ「隊長に全滅させられるとか終わってるね」
ロマンシー「でもぉ〜、彼ぇ、ちゃぁ〜んと加減はしてくれると思うわよぉ〜?」
ロマンシー「実際死んでないし♡」
ササラギを除く全員(基準がヤバい)
マッキンリー「……まぁ、とにかく。」
マッキンリー「本件は麻薬によるものではない…という判断をしていいってことだな?」
ロマンシー「うん♡ それでいいと思うわぁ♡」
ラタ「………………」
[ロマンシーの映る通信端末を複雑そうに見つめるラタ。トスクはラタの横顔を見つめている。]
ロマンシー「あぁ〜、でもぉ」
ロマンシー「なぁんにもないけど気になるぅ〜っ! ……って言うならぁ……。」
ロマンシー「下から出しちゃえばぁ?」
[ササラギ以外の全員が固まる。]
ササラギ「……だ、そうですよ?」
マフィー「……どうしよう……下剤あるけどどうしよう……」
モリアナ「わ、わたくしも、頂いて飲んでおいたほうがよろしいかしら……」
トスク「飲むなら黙って飲んでください 女性の下事情とか聞きたくないんで」
ラタ「女の人に下事情とかサイテーだなグローク」
トスク「あぁ もう心配してやらねーぞお前」
ラタ「おまえに心配されるって何かイヤだ」
スクルト「ふたりとも、ツッコみづらいことで喧嘩しないでよー」
クリス「あの……ロマンシーさん」
ロマンシー「ん〜? なぁに♡ クリス?」
クリス「今回のことは『心臓』が絡んでるかもしれないので……」
クリス「その……」
[ササラギ、一瞬だけクリスを見る。]
ササラギ「ロマンシー」
ササラギ「あなたはあくまで協力者。無理にグリードの面倒を最後まで見る必要はありませんよ」
ロマンシー「あらぁ〜〜」
ロマンシー「クリスはともかくぅ、アナタが心配してくれるなんて槍が降っちゃうわねぇ〜♡」
[マッキンリー、ササラギを見る。]
ロマンシー「一応〜、心配は御無用よぉ〜♡」
ロマンシー「リビビっていうあなた達への依頼者がぁ〜、『だいじょぶ』そぉ〜な看護師さんを送ってくれたのぉ♡」
マッキンリー「彼女たちが『看て』くれている限りは大丈夫ってことが……」
ロマンシー「そゆことぉ〜♡」
ロマンシー「というわけでこっちのことはだいじょ」
ロマンシー「ぐえぇ」
子供の声「やい‼ インチキ魔女 早くおじさんを治す薬作れよ」
子供の声「魔女さんならおじさんを元気にできるんでしょ、お願い!」
子供の声「おじさんがかわいそうだよぉ…」
ロマンシー「ぅぎぇえー 親愛なる街の子どもたちぃ〜⁉ モチロン薬は作るけど、ワタシのみつ編みはタぁ〜ザンロープじゃな…」
[ピッ、という音と共にロマンシーの声が途切れ、画面の映像が消える。ササラギが通信端末のボタンを真顔で消していた。]
スクルト「消しちゃったよこの人……」
ラタ「大丈夫って言ってたから気にしなくても良いだろ」
トスク「いや、良くはないだろ。首エライ方に行ってたぞ……」
マッキンリー「……まぁ、とにかく、だ。」
マッキンリー「グリードのことは彼女たちに任せるとして、俺達は早急に調査を進める必要があるだろう。」
ジーニアス「ふむぅ〜、ヒジョーにやっかいだが」
ジーニアス「ここからは『麻薬』と『心臓』、どっちも調べていく必要があるんじゃないかぁ?」
マッキンリー「そうだな。」
マッキンリー「ここから班を分けての行動とする。」
マッキンリー「それでいいな? 隊長。」
ササラギ「構いませんよ」
マッキンリー「班を『麻薬班』と『心臓班』に分ける。俺とササラギ、マフィーは本部としてそれぞれの班の報告を待つ。」
マッキンリー「ラタはランガオ館の方から退院次第、動けそうならどちらかに復帰してくれ。」
ラタ「………了解。」
マッキンリー「クリス、お前に選択権をやれなくてすまないが……」
クリス「はい」
クリス「『心臓』の在り処を必ず見つけます」
マッキンリー「ああ、頼んだ」
モリアナ「あのっ……!」
モリアナ「わたくしも……」
モリアナ「わたくしも『心臓』の調査に行かせていただけませんか」
マッキンリー「あ、ああ……。他は自由にしてもらって構わないが……」
マッキンリー「なにか気になることでもあるのか?」
モリアナ「………………」
モリアナ「その………」
モリアナ「ラタ……。」
ラタ「え……なんだい?」
モリアナ「ごめんなさい」
ラタ「え…? なんだよ急に……?」
モリアナ「わたくし、あなたがグリードに首を絞められているとき……」
モリアナ「何も出来ませんでしたわ。」
モリアナ「結果的にあなたは助かりましたけど……もし、あの場にわたくしだけだったら、」
モリアナ「……………」
ラタ「……あのさぁ」
ラタ「勘違いするなよ」
ラタ「皆からしたらぼくは子供だろうけど、ぼくはこの隊で戦ってるんだ。」
ラタ「いつ死んだっておかしくない。その全部に責任取るつもりなのか?」
モリアナ「……………」
ラタ「だ……だから……、そんな気にするなよな。」
モリアナ「…………」
モリアナ「ありがとう……ラタ。」
モリアナ「でも……それでも、わたくしなりのケジメはつけさせてほしいんですの。」
モリアナ「それは、よろしいかしら……?」
ラタ「………勝手にすれば」
モリアナ「………そういうわけですのでっ!」
モリアナ「……クリス、このような未熟者ですが……ご一緒させていただけますか?」
クリス「もちろんです! 頼りにさせてもらいます!」
[隊の和気あいあいとした様子を見て、安心したように一息つくマッキンリー。]
マッキンリー「それで、他のやつはどうする?」
スクルト「あ、僕はラタの様子を見てようかと思います。」
スクルト「なので、グロークを『心臓』の調査に行かせてあげてください」
トスク「なんでお前が勝手に僕の方向性を決めるんだ、バーランス」
スクルト「だって、いつも即決する君が何も言わないんだもん。」
スクルト「原因を絶ちに行きたいけど、ラタが心配だったから何も言わなかったんでしょ?」
トスク「な、何を言ってるんだ! 誰が心配なんか……」
スクルト「でも原因突き止めたいのはホントでしょ? 僕がラタを守るから、行ってきなよ。」
トスク「〜〜〜っ…」
[トスク、くるっとクリスとモリアナの方を向く。そのまま二人に向かって頭を下げる動作をしながら。]
トスク「……よろしく。」
クリス「あ、うん」
モリアナ「……なんか一周回って可愛いですわね……」
[目線を下に、考えるような表情のヴル。]
ヴル「ごめんね、ちょっと良い?」
クリス「どうしたんですか?」
ヴル「今思ったのだが、『心臓』を持っておるのが『泡瀬館』の内部の者である可能性もあるだろう。」
ヴル「その場合、あまり『心臓』の調査に人を割いてしまうと、勘付かれるかもしれん。」
ヴル「そういうわけで、とりあえず現状はこの三人に任せ、残りは『麻薬』について調べるのは……どうかな〜と思うんだが?」
サヴァラン「警戒心で言ったら、麻薬関係のほうが圧倒的に強そうではある。」
サヴァラン「そういった意味でも、『麻薬』のほうに人がいたほうがいいかもしれないな。」
ザッツ「そうだね。それなら残りで麻薬の方を担当しようか。」
ジーニアス「えぇ〜 儂はマフィーちゃんと一緒の班が良いんだけど」
トスク「マフィーは本部で待機だって言ってたでしょうが! 何を聞いてたんだ」
マッキンリー「それでは各員、班に分かれてそれぞれ行動を開始してくれ。」
マフィー「皆、怪我とかしたらすぐ連絡ちょうだいね!」
[『麻薬班』の面々がまだなにか言ってるジーニアスを引き連れ、病室を出ていく。それに続き、マフィー、マッキンリー、ササラギも病室を出ていく。ササラギは歩きながら一度病室に目を向けるが、すぐ目線を戻し、マッキンリーの後に続いた。]
クリス「えっと……」
クリス「二人とも、改めてよろしくお願いします」
モリアナ「ええ、こちらこそ。よろしくお願いいたしますわ」
トスク「よろしく。あんたの目に頼らせてもらうぞ。」
スクルト「それで、三人はこれからどうするの? 麻薬はともかく、『心臓』については手がかりゼロだよね?」
トスク「それなんだが……ユートュに聞きたいことがあるんだ。」
ラタ「なんだよ?」
トスク「お前、あのときご飯を食べなかったのは具合が悪かったわけじゃないんだろ?」
ラタ「………ああ。別にね。」
トスク「理由を聞いてもいいか?」
ラタ「……今だから言うけど、実は並べられた料理から、甘ったるい香りがしたんだ。」
モリアナ「甘ったるい香り……?」
スクルト「そんな匂いしてたかな……?」
ラタ「ぼくの鼻が変になったんじゃなければね。」
ラタ「……ただ、なんか嫌な匂いでさ。」
ラタ「それで食べる気がしなくなったんだ。」
モリアナ「トスク、それがなにか……関係しそうですの?」
トスク「……いや、どっちも全然情報がないからな。なんとも言えない。」
トスク「とりあえず、今は見学と称して『泡瀬館』をクリスに徹底的に見てもらうしかやれそうなことはないな。」
[トスク、ラタの顔を見る。]
トスク「でも、まぁ、参考にはしとく。」
ラタ「どうせ、数日経ったら忘れてるんじゃないのか」
トスク「そんなジーニアスみたいなことするか!」
スクルト「そんなさり気なくジーニアスさんを落とさなくても。」
[スクルト、何故か一時停止する。]
スクルト「まぁ、ジーニアスさんならいいか。」
トスク「地味にお前も酷くないか、バーランス……」
モリアナ「何にせよ、どこに何があるのかを早急に把握しませんと……」
クリス「……次の被害者が出てしまうかもしれない……よね」
トスク「とにかく、今は『泡瀬館』に戻ろう。」
トスク「話はそれからだ」
[頷くクリスとモリアナ。]
トスク「……じゃあ、あとは頼んだからな、バーランス」
スクルト「おう。……気をつけてね。」
ラタ「野垂れ死ぬなよ」
[モリアナ、クリス、トスクが病室から出る。]
[一方、『麻薬班』。サヴァランとザッツが話している後ろで、ジーニアスが腕を組んで立っている。そこにヴルが近づいてくる。]
ヴル「今、少しよいだろうか?」
ヴル「『ストレイズ』。」
[ジーニアスの眉がわずかに動き、静かな表情をヴルに向ける。しかしすぐその表情を崩し、ヴルに背を向ける。]
ジーニアス「何だぁ? 随分とヤブからスティックな話しかけじゃぁ〜ないか。」
ジーニアス「トイレなら向こうだぞ?」
ヴル「…………」
ヴル「『ストレイズ』……貴様はこの事態をどう見ている?」
ヴル「オーラが見えているのに『そう』ではない。」
ヴル「症状としては先の大戦で使われた『モノ』であるはずなのに、それも『違う』。」
ヴル「随分と都合がいいものもあったものだな。」
ジーニアス「…………」
ジーニアス「ああ、そうだな。」
ジーニアス「一つ問おう、ヴル=テナー=サックス。」
ジーニアス「時としてその形は人の願いを受け、その姿を変容させてきた。」
ジーニアス「その願いが地獄の入口に立たされていたとして、確固たるもの無くば、人は誘惑には勝てないだろう。」
ジーニアス「例えその願いの先が百の鞭打ちに遭う結末だったとしても、その者にはなんと楽な道だと言う程度のものかもしれぬ。」
ジーニアス「さて、そのような楽があるのならば、最初の堕落者は誰であったのか……」
ジーニアス「と、気になりはしないかね……?」
ヴル「……………」
ヴル「そうだな……。」
ヴル「道路ではない獣道も、最後には人の足によって均される。」
ヴル「始めに何が通ったかなど、もはや残らぬ記憶であろうな。」
ジーニアス「…………それを覚えているものを、果たして揺り起こすのはどうなのか……?」
ヴル「……『ストレイズ』………」
ヴル「貴様には、何が見えている……?」
ジーニアス「さぁなぁ〜……。あえて例えるならば……」
ジーニアス「地獄の入り口だよ。」
[続く]