無配のアクスイの話 届く手紙はだいたいが検閲済みで、だいたいが心穏やかに読めるものだった。
別に、フィガロ宛ての手紙に危険物が封入されていたことはない。少なくとも、フィガロが見た中にはなかったし、あったという報告もない。当然あっても言えるわけないのは、承知している。
だからなにもこの手紙に悪いことが書かれているとも思っていないのだ。ただ、双子社長からじきじきに、「これとっても重要なやつだから!」「適当に読んじゃだめだから!」などと言われて、嫌な予感がしているだけ。
それに差出人にも心当たりがある。以前仕事をした映画監督とそのときの脚本家、それから、こちらも何度か携わったことがある舞台監督だ。
強いて言うなら、連名で来ているという点が、フィガロの開封の手を鈍らせている要因かもしれないが。
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