フォーチュンドール6章3話クランたちがおじぃの所に戻る頃には夕方になろうとしていた。戻ってきたクラン達を見ておじいは喜び、クランもこれで魔力が戻ると思うとホッとするが、おじぃからの一言は。
「夕飯の材料がそろったわい。」
であった。まぁ、予想はできていただろうけど。その言葉に雨は再び怒りをあらわにして、おじぃを何度も殴ろうとするが、おじぃはその拳を毎回受け止める。おじぃにとって雨の拳はハイタッチも同然らしい。
「ほっほっほ、そんなに動いて、お腹も空いたじゃろ?一緒にどうじゃ?」
「騙したな!」
「雨、そんなに怒らないで?」
「これが怒らずにいられるか!」
「腹が減っては何もできぬぞ?まず腹ごしらえをして、それから技を教えよう。」
「本当に教えてくれるんだろうな?」
「ここはお言葉に甘えておこうぜ雨、仙人の飯ってのも面白そうじゃん。」
「ほっほっほ、仙人になりたかったのぉ~、まさか魔女になるとはのぉ~。」
そして、クラン達は食事の後、雨は零子に遅くなると連絡し、おじぃからの特訓を受けた。その結果、雨がマナコアを拳に込めて、クランを殴ると手の中のマナコアは無くなり、クランも自身に魔力を感じるようになった。成功だ。辺りはすっかり夜になっており、他の6人もすでに帰っているようなので、見つけた素材は凛太郎に持たせておき、後日、唯たちに会うときに渡すことにした。
さて、残るは唯と雫と澪の3人である。3人は森の中を探索していた。ティンダロスが魔力を感じるものを探してはそれが木の枝でも唯に渡している。
「本当にぬいぐるみなのか?もの拾いは普通の犬みてぇだな。」
「ぬいぐるみだワン。」
「魔物と呼んでもいいものか?こういうのは…」
「魔物だなんて失礼ですよぉ!ティンダロスは俺の愛犬なんですから!」
「くんくん、ワン!こっちにすごく魔力を感じるワン!」
ティンダロスが森の奥の方へ走っていく、3人もそのあと追いかけようとしたがその瞬間。
「ワ――――ン!?」
轟音と共にティンダロスが吹っ飛んで戻ってきた。その頭は半壊している。それを見て唯はティンダロスを呼びながら泣き叫んだ。森の奥から足音が聞こえると、澪は鏡を手に持ち警戒した。
「いきなり攻撃してくるとは、何者だ!」
「魔法生物反応…お前らこそ何者だ。」
森の奥から現れたのは黒く長い髪、濁ったような青い瞳、顔は化粧が施されているが、気になるのは頬の白いライン、赤いコートを身にまとい、服の一部は鎧のようになっていて、片手にミドルソードくらいの剣を持った女性出会った。人間であるならと澪は鏡を見て相手の過去を見た。弱点や戦い方を見るためにやっていることであるが、その女性の過去には知っている人物が映っていた。そして澪は知ってしまった。全てを見てしまった。
「お姉さん!?」
その女性はまぎれもなく火桜朝であるのだ。朝は澪の言葉に何も反応することはなく、3人を見ると、雫に焦点を当てる。
「お前は魔女か?」
「えっ…あっ…」
朝は地面をけり、雫に向かって一直線で攻撃を仕掛けた。咄嗟に澪が雫を庇い、攻撃を受け大けがをするが澪は朝に言った。
「姉さん、あなたは死んでしまったはずでは?」
「何の話だ?お前は何を知っている?」
「あなたは火桜朝さん…です…よね…?真昼…さんと…夜の…おねぇ…さん。」
だいぶ大きな傷を負ったせいで徐々に話にくくなっている澪であるが、朝は澪の言葉に動揺する。特に真昼と夜に名前を聞いた瞬間。雫は朝が動揺している隙に、風魔法で土埃を作り、視界を悪くした。そして大けがをしている澪と泣いている唯をどうにか風の力で動かし、その場から逃げ出した。朝はしばらく動揺していて、雫が逃げたことに気付かなかったようだ。
「どうかしたのか?ムスペルヘイム。」
朝の事をムスペルヘイムと呼ぶ女性が朝に近寄り、声をかける。その姿は緑の長い髪に朝と同じように濁った黒い瞳、服装はチューブトップのみで何より手と下半身がサソリのようになっており、特に下半身はいくつもの節と足、尻尾まで付いている。
「あぁ、ニヴルヘイム…少し気分かすぐれないようでな。謎の魔法生物と魔女を見かけたのだが逃がしてしまった。」
その女性はニヴルヘイムと呼ばれていた。ニヴルヘイムは何かを勘づいたのか、朝を休ませることにした。
雫が唯と澪を魔法で運ぶとかなり消耗したのか、息を切らしている。しかし、澪の怪我の具合を見ると心配せずにはいられなかった。森の入口で他のメンバーと分かれた地点で誰か来ないか待っていると、幸達が戻ってきた。幸も傷の手当された痕があり、雫はゾッとした。
「先輩も派手にやりましたね。」
将信が澪を見るとそういい、傷の状態を確認する。幸が唯と雫に何があったか聞くと。唯はティンダロスの状態を見せて泣いていた。
「あら、随分変わり果ててしまっているわね。」
幸がティンダロスを受け取るとカバンにしまう。将信ができるだけ澪の手当をすると澪は将信に今までどんな魔物と戦ってきたのか質問した。というのも澪は朝の過去を見た際に、いろいろな事象を見てしまい、それを信じられずにいるため、魔法に詳しい将信に聞いたのである。将信は澪の質問に答えると、何かを勘づいたのか。澪に単刀直入に聞いた。
「先輩、何と出会い何を見たのですか?」
「亡くなったと思われていた人間が生きていた。いや、それどころかどうやら魔物…いや、悪魔と化しているようなんだ。」
「お兄ちゃん…あの…朝さん…って言ってたけど…」
「信じがたいが見える過去は紛れもない事実…」
ここにいるメンバーの大半の心のダメージが大きすぎるため、将信が今日は帰ったほうがいいと言い、素材の鑑定は落ち着いてから行うことにした。零子の所にも雨から遅くなると連絡が入り、この日は解散する形となった。
それから数日、幸はティンダロスをキレイに直して、魔女の集会場に来ていた。先に来て待っていた唯と雫、そして澪と将信と凛太郎は集めた素材を出し合っていた。澪は幸が来たことを確認すると、将信と素材の確認を行い、信楽を探しに行った。残った4人はティンダロス事で話を弾ませていた。
「わぁ、ティンダロスおかえり~!」
「はぁ、やっと唯ちゃんに会えたワン!死ぬかと思ったワン!」
「あの具合で死んでなかったの?」
「勝手に殺してほしくないワン。」
「ティンダロスも大変だったねぇ~唯ちゃんから聞いたよ~。」
「ワン!?おい、凛太郎!唯ちゃんに何もしていないかワン」
凛太郎がティンダロスにちょっかい掛けるとティンダロスは魔力を吸った。雫も少しずつ笑みをこぼす。そんなところに一人の魔女が現れた、ドクターだ。
「おや~?この前の被検体じゃないか~、あれから調子はどうだい?」
はっきり言って幸にとって印象はかなり悪い。ドクターが幸の魔法を見たいと言うが幸はあまり出そうとはしなかった。そこに澪と将信が戻ってくるが信楽の姿はなく。どうやら見つからなかったようだ。将信がドクターに信楽を見なかったか聞くと、信楽は最近姿を見せていないというのだ。
「なんで信楽を探しているんだい?」
「魔法武器を作ろうと素材を集めたのだが、その鑑定をしてもらおうと。」
「だったらこの私に任せてくれ~。」
「先輩、あてにしないほうがいいですよ…」
「しょーがない、赤馬くぅんに任せるか。」
「俺かよ…」
「で?そういえばこの明らかに研究者の奴お前らと知り合い?」
「まぁ、色々と…ね。」
澪が将信からドクターの話を聞くとドクターはなぜかどや顔で自慢気に自分の事を語り始めた。澪はドクターが魔女であることを確認すると、信楽にしようとしていた質問を口走った。
「なぁ、人間が悪魔になることはあるのか?それを治す方法があるなら知りたい。」
つづく