フォーチュンドール4章6話澪と別れた後の夏希は屋上にテレポートした。屋上の柵をに手をかけ、屋上の床に着地すると、目の前にはジャケットを着て、口元を布で隠し、口のような模様のついた帽子をかぶり、右腕に何かを操作する機械を身に着けた男が、彼の武器なのかいくつかの浮いた物体の一つに腰かけ、別の一つに肘をのせていた。彼が夏希の知り合いの翔織である。翔織は夏希が目の前に現れると、相変わらず大胆に登場するなと思い、呆れた顔をする。
「翔織さん、さっきは魔物討伐ありがとうございます。」
「お前が戦ってたのか…咆哮がやかましかったから攻撃しちまった。」
「私もいきなり出てきてびっくりしましたよ。」
「え?お前が練習用に召喚したんじゃないの?」
「私は魔法使えないっすよ~いやですね~。」
「冗談はさておき、ちょうどいい頃合いに来たな、これが用意した武器だ。」
「おぉ!これがビームライフルっすか!かっこいいっすね!」
「あくまでこの武器のテスターとして貸し出すんだからな。他のやつみたいに変に壊すなよ。」
「他のやつがなにしたんですか?」
「ほかのやつは怪力だからと重い武器を作れと言って、銃を作ったのに鈍器に使ってぶっ壊しやがったからな。」
「いやですね~そんな鈍器に使うなんて私はしませんよ~。んでこれどうやって使うんですか?」
この施設にいる科学部、そこで研究されているのは人工的に魔法を作る方法。誰しもが魔法を使えるようにと研究されている。その人工的な魔法「粒体マナ」は有限であり、作るためにもまだ大元に魔力が必要なのだという。その粒体マナの管理を任されており、粒体マナを使った兵器を開発しているのが科学部副部長である翔織である。翔織は粒体マナのカプセルを二つ夏希に渡す。今渡せるのはそれだけだというので大切にしてほしいというのだ。実際、翔織が使っている兵器、いわゆるファンネルに似た感じの武器も粒体マナを使用して使われている。科学の力と魔力の力を合わせて繰り出す光線はかなり強力なものであり、当たれば魔物も木端微塵である。そんな光線に近いものを出せるライフルを夏希はもらったのだ。今までのモルターバレットと違い、地形や建物も壊さないか心配であるが大事な局面では使えそうだとは夏希も思っている。
「これで何発くらい撃てそうっすかね?」
「まあ、一個五発といったところか。」
「練習に使って終わりじゃないですか!」
「あくまでテスターだしいいだろ。普段からライフルは使ってるんだろうし。」
「それとこれとは話が別ですよ~。」
「粒体マナは有限なんだ。今はそれ以上あげられない。」
「けち~。」
「悔しかったら魔力でも集めてこい。」
翔織はその後、科学部の部下に呼ばれ屋上を後にした。夏希は試し打ちに施設内の練習場へ行き、粒体マナにカプセル一個分を試し打ちしてきたのである。
幸は少し暇そうにしていた。今日の特訓は将信がほかに用があるらしく、早めに切り上げたため、グレーラと話しながら、帰り道を歩いていたところ。
「幸もけっこう魔法の才能あったんだね!」
「自分でも気づけないことがあるものね。雫も同じように使えたらいいのだけど。」
「幸の花魔法で人形に装飾したりとか、うまく連携してみんなで戦えたらすごく強そう!」
「そこまでできるかしら。」
口では控えめに言っているが幸の顔は少し笑っていた。ふと顔をあげると、歩いている場所の隣に塀があった、その塀の上に猫がいた。ただの猫ではないあまりにも黒いのだ。まるで影のように黒い…幸は唯の言葉を思い出した。あまりにも黒い猫、魔女であり、魔女の事にとても詳しいのである。でも猫はしゃべることなんてあるのだろうか?しかし、何かヒントがつかめるかもしれないと幸は猫に近づこうとしたが、猫は動き出し、裏の道に入っていく。幸はグレーラに猫の魔女の話をして、あの猫を追いかけるように指示を出す。幸もまたグレーラについていき、猫を追いかける。幸は少し疲れて休んだりしているうちに猫を見失うも、グレーラがある程度場所を突き止めたため、グレーラが幸のもとへ戻ってきて、場所を案内した。
幸がその場所へ向かうと、そこは廃墟のような、しかし、苔のついたなかなか雰囲気のある古い書店のようにも見えた。貝森特区にもこんな場所があるとはと、少し驚きつつ、幸がその扉をギギギと音を立てて開けると、中は幻想的なドラマで見るような魔法図書館のようになっており上の階の吹き抜けになっているところの手すりに黒い猫がいた。猫は幸に気付くと驚いて逃げて行ってしまったが、その勢いで一冊の本が落ちた。グレーラは猫の動きが速くて追いかけようにも完全に見失ってしまった。幸は落ちた一冊の本を拾う。何の本か皆目見当もつかない、将信やクランと違って魔力を探知できない幸であるが、少し本に魔力があるのではないかと思った。
「ねぇ、猫は魔女ならここはその魔女に関する本とか置いてあるのかなぁ?」
「もしかしたら魔導書的なものがあるかもしれないわね、この本とりあえず持ち帰って調べてみようかしら。」
「えぇ、それは怪しいんじゃないの?」
「雫が魔女になった何かがわかるかも…」
「幸ってばいつからそんな積極的になって…」
「友達が困っていたら助け合うものよ。」
幸は一冊の本をカバンにいれてその場所を後にした。魔法の事はだいたい将信に聞こうと思ているし、もしかしたらこの場所に将信を連れてくる必要があるかもしれないと思い、道を覚えようとした幸であったがある程度歩き、振り向くと先程歩いた道は見ていた景色と違っていた。不思議な現象に幸は怖さを覚えたが、魔女も関与しているこの特区内なら何が起きても不思議ではないと自己暗示をかけて落ち着いた。
「へぇ~こういうワープゲートもここにはあるのか。便利だな。」
「そうですよね、お兄様。しばらくこの特区内にいるんですし、色々覚えていかないとね。」
幸の目の前に見知らぬ二人と大きな蛇がともに行動してるのが見えた。最初は蛇の大きさに驚いたが二人組のほうに目をやると、かなりの美人であることが見て取れる。男性のほうは隻眼で怖い雰囲気もあるが、女性のほうはかなりの美人で幸はあんな美人な人がこの特区内にもいるんだと見惚れてしまった。グレーラは何度か幸に声をかけた。ハッと気付いた幸はグレーラに返事をした。
「幸?どうしたの?」
「いや、なんだかきれいな人がいるんだなぁって。」
「そんなにきれいな人がいたの?」
「うん、なんか人形のモデルになってもらいたいようなそんな感じ。」
「へぇ~、幸も知らない人間に興味を持つようになりましたか~。」
「そ、そうね。何か縁があったら話したいかも…。」
グレーラは幸が色んなものに興味を持つ嬉しさがあったが、半面寂しさもあった。あんなに人形としか話せなかった幸が赤の他人に興味を示すとは、これが成長なんだなと思った。
いろんな人たちがめぐり合うこの特区内で次は何と出会うのか、幸たちの物語はまだまだ続く
フォーチュンドール4章 終