今日はタイガくんと銭湯に行く。初めての銭湯だ。旅館やホテルの大浴場とは違う。緊張する。一緒にお風呂はあるけど、ホテルや自宅のもの。いつもと違う。
テレビなんかで見るあのまんまなんだろうか? 番台があって、壁に富士山が描いてあって……カポーンって音がして、「ねぇ! シャンプー貸して!」「はーい! いくよー!」ポイっ! って。
まぁ僕らは並んで入るから、定番? のやり取りはできないけど、楽しみなことには変わりない。でも、ちゃんとジャンプー、コンディショナー、トリートメント、洗顔フォームにボディーソープ、化粧水などのスキンケア、ヘアケア用品、ドライヤーも持ってきた。これじゃないと、僕のこのもじゃもじゃは綺麗に保持できない。うん、ばっちり。タオルもフワフワだ。着替えも勿論忘れてない。おしゃれもしてきた。すぐ裸になっちゃうけど、一応これはデートだもんね。あと、いい話題になるかと思って赤い手拭いも。ただし石鹸はない。結構な荷物になっちゃったな。
「悪い、待たせた」
「タイガくん!」
待ち合わせ場所に現れたタイガくんは、やけに軽装だ。荷物は? あ、もしかして、マイロッカー? タオルくらいしか持っているように見えない。
「おめぇすごい荷物だな。どこ行くんだよ?」
「えぇ? そう? タイガくんこそお荷物少なくない? 何持ってるの?」
「タオルと石鹸とゴシゴシするやつ」
何を当たり前のことを聞いてるんだ? とでも言いたげな顔をするタイガくん。僕は続ける。
「それから?」
「それから、って?」
「え?」
「は?」
「だから、シャンプーや、リンスは? もしかしてマイロッカーにあるの?」
「そんなもんねぇよ」
「え!?」
まさか、本当にそれだけ? 石鹸だけって……髪は?
僕が目をぱちぱちさせていると、タイガくんは怪訝な顔をした。
「なんだよ?」
「だって、石鹸だけで、どうするの? 髪は?」
「あ? んなもん、全身石鹸に決まってんだろ」
「嘘でしょ!? あ、もしかしてボケ? 僕、ツッコミなんて出来ないよぅ」
「ボケてねぇわ!」
でもどうして? 荷物を減らすため? 確かに、タイガくんちのお風呂に石鹸が置いてあるのは知ってるけど、ちゃんとしたシャンプーやリンスもあるよね? 持ってこないの? いつもと違うもの使って平気なの? お風呂上りにゴワゴワにならないの? 様々な疑問が頭に浮かぶ。
「荷物軽くしたかったの? 僕のシャンプーとか使う?」
「いや、いい」
「でもいつもはシャンプー使ってるでしょ?」
「普段は石鹸」
「え?!」
また、驚きの声を上げる。だって、いつも一緒にお風呂に入る時はシャンプーしてリンスもするじゃない。ていうか、タイガくんちのお風呂にあるアレはなんなの? 使わないのに置いてるの?
「タイガくんちのお風呂に、シャンプーあるよね?」
「あぁ、あれ、おめぇ用。俺はおめぇみたいな髪型じゃねぇし、石鹸で十分なんだよ」
「えぇ……って、ん? 僕用?」
タイガくんは使わないのに、僕が来た時の為に、置いてるの……? 僕の為に、タイガくんが?
そう思うと、嬉しくて仕方なくて、ドキドキしてきた。
「なにモジモジしてんだよ。ほら、行くぞ」
「あ、まって!」
先に歩き出すタイガくんを、慌てて追いかける。
後でタイガくんが使っている石鹸をリサーチしよう。そして、僕の部屋のお風呂にもそれを置いておこう。タイガくんの為に。
あ、もしその石鹸で身体を洗って寝たら、タイガくんと一緒に寝てる気分になれるかな? なんてね。