「手」
「え?」
並んで歩くタイガくんが、ぽつりと言った。さっきまで黙っていて、どうしたのかな、と思っていたところだった。
「手がどうかしたの?」
「手、繋ぎたい」
雑踏に溶けてしまいそうな声でタイガくんは言った。
「え、えと」
勿論、構わない。けど、なんでわざわざそんなことを……? ただ手を取ってくれればいいのに。
「ダメか……?」
「いや、ダメじゃないよ! 繋ご!」
そう言って手を差し出すと、タイガくんは恐る恐るといった様子で手を取った。少し骨ばっていて、自分のものより大きい手は温かくて優しかった。
「聞かないでも、繋いでくれていいのに」
歩き出しながら言うと、タイガは少し困った顔をして答えた。
「だって、俺たち……もう大人だろ。子供のころは、こうしてよく手を繋いでもらってたけど、流石にこの歳で手繋ぐの、カケルは嫌かな、って思って……」
「えぇ、そんなわけないじゃん! それに、手を繋ぐのに大人も子供も関係ないでしょ?」
僕がそう言うと、、タイガはホッとした表情を見せた。可愛いなぁ。大人になったけど、こういう表情はあの頃の面影がある。
「じゃあ、これからは勝手に繋ぐ」
「うん、そうして。僕からも手、繋ぎに行くから」
「おう」
「遠慮しないでいいんだよ、だって僕たち、恋人になったんだから!」