狂犬ダーリン おかわり!ピピピピピピ……。人間より優れた聴力が微かな電子音をとらえる。
扉の向こうで鳴り止む気配もなく、僕は仕方ないと体を起こした。新一くんときたらまた夜更かしして寝過ごしてるに違いない。
今日は十時から警視庁で打ち合わせのはずだ。意外と寝汚いところがある恋人を起こすのは大変だけど、子どもみたいにむにゃむにゃ寝ぼける姿を見るのは結構好きだ。
今朝は何分で起きるのか。僕だけに見せてくれる無防備な寝顔を想像しながらドアの隙間に体を滑り込ませ、前足が金色の毛に覆われていることに気付いて固まった。
おかしい。犬型になった記憶がない。それどころかアラームが鳴る前に何をしていたかすら思い出せなかった。
この姿が相応しい時もあるけれど、やっぱり人間の手足でないと買い物にも行けないし食事は作れないし、何より新一くんを抱き締めることもままならない。
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