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    kfs1120

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    kfs1120

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    新刊の獣人降谷さんと新一くん設定の小話です!
    新刊のネタバレは特にありません。

    ※降谷さんは自分の意思で完全な犬型や人型にもなれる。
    ※通常降谷さんはお好きな大きいワンコでイメージしてください。
    ※降新は付き合ってるし、同棲してる。

    狂犬ダーリン おかわり!ピピピピピピ……。人間より優れた聴力が微かな電子音をとらえる。
    扉の向こうで鳴り止む気配もなく、僕は仕方ないと体を起こした。新一くんときたらまた夜更かしして寝過ごしてるに違いない。
    今日は十時から警視庁で打ち合わせのはずだ。意外と寝汚いところがある恋人を起こすのは大変だけど、子どもみたいにむにゃむにゃ寝ぼける姿を見るのは結構好きだ。
    今朝は何分で起きるのか。僕だけに見せてくれる無防備な寝顔を想像しながらドアの隙間に体を滑り込ませ、前足が金色の毛に覆われていることに気付いて固まった。
    おかしい。犬型になった記憶がない。それどころかアラームが鳴る前に何をしていたかすら思い出せなかった。
    この姿が相応しい時もあるけれど、やっぱり人間の手足でないと買い物にも行けないし食事は作れないし、何より新一くんを抱き締めることもままならない。
    ベッドはすぐそこだったけれど、起こす前に元に戻らないと。いつものように頭の後ろに力を込めて、意識を集中させる。必要なのは明確なイメージだ。褐色の肌とその下のバネのような筋肉、淡い金色の髪と今と同じ灰青色の虹彩。
    「……ゥゥン?」
    だけど、口から零れたのは獣の唸り声だった。人型に戻れない。
    「キャン!!」
    「んぁ、……ぅわ、やべ!」
    今までなかった事態に首の後ろの毛がざわつく。いったいどうなっているんだ。いつもより視線が低くて、ベッドの上も覗けない。おろおろしてたら新一くんが飛び起きたけど、驚いたのは僕の方だ。いま響いた甲高い鳴き声は誰のものだ。まるで可愛いだけが取り柄の小型犬じゃないか。
    「あ、起こしに来てくれたのか? ありがとな、ゼロ」
    匂いはないけど僕以外の他に犬がいるのか? 首を巡らそうとしたら視界がひょいと高くなった。
    まだ少し眠たげな新一くんの顔が近くなって、よしよしと褒めるように撫でられた。大きな手にすっぽりと頭が収まるのも、耳の後ろを引っ掻かれるのが気持ちいい。犬型の僕を撫でるのは新一くんのお気に入りだ。あったかくて優しい手つきにうっとり瞑りかけ、目を見開いた。
    新一くんが僕を抱き上げた?
    細腕に抱かれたまま固まる。新一くんのちっとも増えない体重に比べればどっこいどっこいのサイズである犬型の僕を抱き上げるなんてありえない。
    視界が低いとは思ってたけど、そもそも縮尺がおかしい。ピンと伸びた手足は短いし、体は不安になるくらい小さい。
    「おおっ?! 暴れんな、落ちる落ちる!」
    人型に戻れないどころか、この体もなんだかおかしい。
    キャンキャン鳴き声を上げながら全身でのけぞらせると、慌てた新一くんが床に降ろしてくれる。
    「キャゥン!」
    床に足をつき、驚きのあまり真上に跳ね上がった。全身鏡の中から蜂蜜色の綿あめが、垂れ気味のくりくりした目でこっちを見ていた。
    鏡には、その丸っこいフォルムのぬいぐるみと新一くんしか映っていない。つまりどこからどう見てもポメラニアンか見えない犬が僕だ。強靱な体躯も犯罪者に噛み付く顎もない、すぐに蹴り飛ばされそうな可愛いだけの犬が。
    「んー…? いつもは静かなのに今日はやけに吠えるな。腹減ったのか? それともどっか悪いのか、ゼロ」
    走った後でもないのに舌を仕舞えず、ポカンとしているとしゃがみ込んだ新一くんがまたちっぽけな体を膝に抱き上げた。さっきから僕のことをゼロと呼んでいるのはなんでだろう。懐かしい渾名に胸がきしきし疼いてしまう。
    「目やにも涙も出てないし、腫れたりもしてないよな?」
    僕が人型に戻れないことも気にせず、顔を両手で固定して覗き込んでくる。謎を解き明かすときのような真剣な表情で体を撫でられてくすぐったい。
    「あーごめん、お手上げ。これから赤井先生、開けてくれっかな?」
    しばらく確かめるように体をまさぐっていた新一くんは僕をおろし、いそいそと着替え始めた。ピンと耳が真上に立つ。
    赤井?!なんでここで赤井が出てくる。僕は赤井になんか会わないからな!
    口から飛び出す言葉は全部、五月蝿い鳴き声に変わる。キャンキャンうるさいけれど、こんなちんちくりんな姿で赤井に会うなんて絶対に御免だ。
    シャツに腕を通す新一くんの脚の周りを何度もくるくる回っていると、あっさりと捕まってしまった。
    「あー分かってるから落ち着け。病院嫌だよな。でも、俺はお前の飼い主として連れてくからな」
    ぽんぽんと背中に手を置かれながら、頭をぶっ叩かれた気がした。決意めいた顔は僕を心配しているし、惚れ惚れするほど頼もしい。でも僕が求めているのはそういう類の感情じゃない。
    「キューン…」
    ひどい。哀しげな鳴き声がこぼれた。相変わらず言葉は通じない。僕を見つめる慈愛に満ちた深青色が細められる。
    「いいこだな。大丈夫、俺がそばにいてやるから」
    ショックで静かになった僕を落ち着いたと思ったのか新一くんがギュッと抱きしめた。濡れた鼻先に押し付けられたいつもの新一くんの匂いが胸を満たして……、
    「ーーーッ」
    飛び起きると、どくどくと心臓が速かった。
    咄嗟に両手を確認する。分厚く褐色のてのひらだ。ほっとして次に頬、胸板、腹と確かめていく。ちゃんと成人男性の身体だ。最後に臀側から尻尾を引き寄せる。蜂蜜色のふさふさした毛並みは昨晩、新一くんが丁寧に梳いてくれて艶々だ。レトリバーのような大ぶりの尻尾をシーツに投げ出す。
    「んー…なに、」
    良かった、夢だ。ハァァアアと顔を覆って安堵の息を吐いていると、隣で誰かが身じろいだ。
    「新一くん!」
    「なに…? まだ暗いじゃん」
    薄目を開けた新一くんはまだ夜中であることに気付くとすぐに布団にくるまった。
    「僕のこと何に見える?名前は?」
    「何って……耳と尻尾がフサフワのワンコで、握力はゴ……ヒグマの零さんじゃねえの」
    ふわふわとおぼつかない返事を置いて逃げるように枕に顔を押し付けるので、引っ張り上げてガクガク身体を揺すった。
    「そんなに握力ないから……じゃなくて、君は僕の恋人だからな!」
    「……そーだけど、急になんだよ……寝ぼけてんの?」
    ふわりと欠伸をしてからの肯定にようやく安堵のあまりに涙が出るかと思った。
    「変な夢を見たんだ」
    「そっかぁ…よしよし、俺が一緒に寝てやるからな」
    しょげた三角耳をぽんぽんと撫でると、新一くんは僕の頭を抱いてベッドに倒れ込んだ。相槌したけど絶対僕の話を聞いてない。自分が眠いだけだ。
    「危ないな…」
    うっかり下敷きにするところだったのをすんでのところで自分を下にする。ポメラニアンならまだしも僕の体重だったら潰してしまう。
    新一くんは僕の胸にほっぺたをくっつけてもはや夢の淵にいる。薄い背中に両腕を回すと、すっぽりと収まった。
    「可愛い小犬じゃなくても一生一緒にいてくれる?」
    こぼれた声は自信なさげでまるでか弱い愛玩犬だ。
    もし僕が何も出来ないポメラニアンだったら新一くんは全身全霊で守ってくれる。ご飯もちゃんと用意して、病気がないか確かめて、散歩のときも細心の注意を払って、人より短い命が果てるその時までそばに居てくれる。
    あちらこちらに古傷の残った腕で細っこい体を抱きしめる。それでも庇護されるだけではいられない。
    「うん…ずっといてやる、よ…」
    寝入っていると思っていたから、ふわふわした声にびっくりしてさっき堪えた涙がうっかり溢れてしまった。

    おわり
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