Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    はっこ

    @hacco_t12

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    はっこ

    ☆quiet follow

    進捗また新しい春が来た。今日は雲一つない晴天で、まるで私の高校進学を天も祝っているんだろうなという晴れやかな気分にさせる。
    入学式は滞りなく終わり、
    少なくとも中学の頃に中の良かった友達は、このクラスにはいないので、誰か自分と気の合う人がいればいいなと思いながら、クラスの自己紹介を聞いていた。
     中学の頃よく一緒につるんでいた光忠君は、別の高校へ進学した。鶴丸さんも通っている剣道強豪校だ。
     いつの間にか目の前の生徒の自己紹介の番になっていた。
    「自分、明石国行言います。親の仕事の都合で今月から兵庫から引っ越してきたばかりで、こっちのことはまだあんまり分かりまへん。優しく教えてください。どうぞ、よろしゅう」
     関西訛りの自己紹介だった。聞き馴染みのないイントネーションからか、一瞬教室がシンとしたが、先生が率先して拍手をすることで、クラスの皆もハッとしたのか、他の人同様教室が拍手に包まれた。
     ということは、次は自分の番だ。こういうような場は人並みに緊張するので、一度深呼吸をしてから起立する。
    「粟田口一期です。西中学校からきました。中学では剣道部でした。高校でも勉強と一緒に頑張りたいと思います!よろしくお願いします」
     再び拍手に包まれる教室。そうして次の人へ自己紹介の順番が回っていった。

     自己紹介や学校案内なども終わり、今日はもう帰ってもよいとのことだった。
     今日は帰ろうかなと思っているところに、前の席の明石君がくるっと後ろを向いて声をかけてきた。
    「なぁ、あんさん剣道やってたん?自分もなんですわ」
    「あかしさん、ですよね。貴方もそうなんですね」
     初めての会話なので名前が合っているか不安だったが、自己紹介が印象的だったのと、自分の前の席だったということもあり、ちゃんと覚えていたみたいだ。
    「そうやで。というかクラスメイトなんやし、そんな距離のある話し方、やめまへん?明石でええよ」
    「ええ、すみません。そうですよね、なんだか緊張もあるというか」
     そういえば、昔はよく人懐っこいと言われた覚えもあるが、いつの間にかこんなキャラになっていたなと思う。
     それから、中学の頃の部活の話などで盛り上がった。あかし君も中学から初めてレギュラー入りしたんだとか。しかも結構強い中学だったらしい。
     話に花が咲いている最中、ふと近くの席の会話が聞こえてくる。
    「え、それ大丈夫なの?」
    「うん、今日早速部活見学に行っても迷惑じゃないって。やる気があるって思ってもらえて印象良いよって先生言ってた」
    「まあ、確かにそうなのかも」
     部活説明会より前に見学に行くなんて考えてもいなかった。自分は説明会が終わっても剣道部志望の気持ちは変わらないはずだ。ならば早めに見学に行っても良いのではないだろうか。それに源先輩もこの高校にいるらしいので、数年ぶりに会えると思うと嬉しくなってくる。
     あかし君も誘ってみようか、と思っているとなんだか微妙な表情をしていた。何か期限を損ねる話などしただろうか。
    「いや、分かるわ。そのキラキラした表情、剣道部の見学に誘おうとしたんやろ。俺は行かんよ」
    「えっ、高校は剣道以外の部活にするんですか?」
    もしかして、先ほどの会話が彼にも聞こえたんだろうか。だからと言ってこんな表情なのはなぜなんだろうか。そう思って問いを重ねたが、さらに苦虫をかみしめた表情になる。
    「ちゃうちゃう。自分やる気ないのが売り何で、見学なんて説明会後に行くって」
    「じゃあ帰宅部の方がいいのでは?」
     何を言っているのかちょっと分からない。
    「んー、そういうのやなくてな。好きなのと、それを常に気張りたいのは違うやろ」
    「そういうもんなんですね。私はあんまり思ったことがないので分からないですが」
     なるほど、そう思う人もいるのか。高校ってやっぱり色んな人がいるんだな、と感心していると、ジト目でこちらを見てくるあかし君。
    「すまんなぁ、そういうことやから自分は今日は遠慮しとくわ」
    「そうですか、分かりました」
     あかし君は「ほな」と言って先に帰ってしまった。
    剣道部の友達がさっそく出来るのかなと思ったけど、まあ追々仲良くなっていけばいいのかなと思って一人で剣道部に赴くことにする。
     この高校は中学校より、規模が小さく、そのせいで道場までの道のりも近い。
     道場の傍によると威勢の良い掛け声が聞こえてくる。勢いで来たはいいが、ここにきて緊張してくる。でも勢いをつけて戸の隙間から中をのぞく。
    すると、ちょうど水を飲んで休憩していた源先輩と目が合った。
    「もしかして粟田口か?」
    「は、はいっ!」
     緊張で声が上擦る。
    「今日は入学式だろう。まさか待ちきれなくて見に来たのか?」
     汗を流してはいるものの、まったく疲れを感じさせない表情で聞いてくる。
    「はい、そうです」
     久しぶりに見た源先輩はやはり、頼りがいのあるオーラをはなっているというか、変わらない雰囲気に思わず嬉しくなった。
    「ああ、そうだすまんな。中に入ってきていいんだぞ。みんな集中しているようだから、後での紹介にはなるが、自由に見ていってくれ」
    「ありがとうございます」
     ドキドキしながらも道場に足を踏み入れる。どのあたりで見学していたら邪魔じゃないんだろうか。
    「よく見たら制服なんだな、まあ入学式だから当たり前といえばそうなんだが」
    「えっ、あ、すみません」
    「いや別にいいさ、でも今日は見ているだけだな。しかし、粟田口は相変わらずで安心したよ」
     あまり褒められている気がしない。
    「成長していないってことですか?」
     返答の言葉がムスクれたようになってしまう。すると源先輩は笑いを抑えるように、口を手で口元を覆って体を震わせる。
    「いや、相変わらず素直というか、まっすぐだなと思ったんだ。鶴丸が可愛がる理由もわかる」
     可愛がるか、他の人から見るとそう思われていたんだなと思うと、気恥ずかしくなった。
    「中学一年のことと比べるとこんなに背も伸びたしな」
    「そうでしょうか」
     憧れの人に認めてもらった気がして嬉しくなった。確かに、以前より源先輩と目線が合わせやすい。もちろん、先輩自身も背が高くなっているんだろうが。
    「あのあたりでなら見学していても大丈夫だ。制服だとリラックスは出来ないかもしれないが、今日は気楽に見ていってくれ」
     そう言い練習に戻っていく。
     先輩方の練習を見ながら、鶴丸さんも別の高校でこんな感じで練習しているのかなと思いをはせる。ああ、きっと凛としてかっこいい姿でふるまっているんだろうなと思いをはせる。
     こんな感傷的になるのは、さっき源先輩が鶴丸さんの話題を出したからに違いない。こんなことではいかんと、先輩方の練習風景をに目を向けなおすのだった。


    ::::::::::::::::


     五月も後半にさしかかり、高校生活にも剣道部の雰囲気にもだいぶ慣れた頃である。
     土曜日の今日は、午後から練習試合があるとのことだ。驚いたことに、鶴丸さんが通っている高校、通称ダテ高とである。
     同じダテ校に通っている光忠君も来るらしい。一年なのに凄いなという気持と少し嫉妬が入り混じった気持ちになったのは、内緒だ。平均身長よりも背が高い彼のパワーは注目されていると嬉々として話していたのを覚えている。身長が高いのはどの部活でも有利らしい。
    そんな彼から鶴丸さんの事を聞くこともあった。相変わらず、酔狂な手が好きで、でも鋭い一撃は健在、現在はダテ高剣道部の部長を務めているらしい。あまり部長に向いているようには思えないが、面倒見はなんだかんだ言っていいし、強いから大丈夫なんだろう。
     午前の練習、そしてお弁当も食べ終わり、食後の休憩時間もそろそろ終わる。
    そろそろダテ高の方たちも来る頃だろうか。連取が始まる前に先にお手洗いを済ませた帰り道、なんだか変な目線を感じる気がする……
     視線の方向を振り向くと、ささっと建物の物陰に誰かが隠れたようだ。不審者だろうか。もしそうだったら、捕まえなければという、正義感が起こり、大股で物陰に向かっていく。
     近づくとやはり人の気配がする。見間違いではなかったようだ。ひとまず声をかけてみることにする。
    「あなた、学校関係者ですか?」
    「ソ、ソウデスワッ」
     いかにも裏声で言っていますというような言い方だった。ますます怪しい。
    足をもう一歩前に踏み出す。相手も近づいてきているのに気が付いたのか、焦ったようにひとこと。
    「ワタクシハ、アヤシクナクテヨ」
    「今ならまだ間に合います。おとなしく姿を現してください。でないと、強制的に職員室につれていくことになりますよ」
     今日は休みだが、顧問の先生はちょうど職員室で仕事をしているころだ。
     ピリッとした雰囲気の中、物陰から思いもよらない懐かしい低音が聞こえた。
    「俺だよ俺、変な真似して悪かった」
    「私の知り合いに“俺”さんという方はいませんが?」
     振り回されていたことに気がついたので、あえて嫌がられそうに返答する。
    「いやいや、オレオレ詐欺か?鶴丸国永だよ。君分かっていっているだろ」
     そう言って、鶴丸さんが物陰からひょこっと顔を出す。
    久しぶりにその華美な顔が……分からない。なぜサングラスをつけて、頭に手ぬぐいを巻いているんだろう。体は剣道着だ。鶴丸さんだとしても、変質者の雰囲気がある。
    「やっぱり、その恰好は不審者のようですね。一緒に職員室に行きましょうか」
     鶴丸さんの腕をむずっとつかんで、連行しようとする。竹刀を振り回しているとは思えない細い手首だった。
    「おおい、マジですまない。だから職員室は勘弁してくれ。潜入敵情調査の気分を試したかったんだ」
     あいかわらず、くだらない。とりあえず、理由もわかったので手を放す。ずっと握っていたら、なんだか動機が激しくなって、まともに話すことができなくなりそうだった。
     掌にきめ細やかで吸い付くような感触が残っている。
     動揺を隠すように、
    「潜入敵情調査、練習試合にですか?意味が分からないんですけど、もう変な真似はしないでくださいね」
    「分かったよ。ウケると思ったんだけどなあ」
     不満そうな顔で言ってのける。それどころか、なぜか反撃してきた。
    「君こそ、もし俺じゃなくて本当の不審者だったらどうするんだ?刃物を持っているかもしれないんだぞ」
     先ほどはそこまで考えていなかった。確かにそれは危なかったかもしれない。
    「すみません、気を付けます」
     分かればよし、というように口元をにやっとゆがめる鶴丸さん。ところでいつまでその怪しい格好のまま何だろうと思っていると、それが伝わったらしい。
    「そういや付けたままだった、通りで夜のように暗いわけだ」
     と、明るく言ったのだった。
     てぬぐいとサングラスを外す。先ほどまで隠れていた白銀の髪の毛と日の光をあびて輝く瞳が現れる。
     二年ぶりに見るその可憐さに、なぜだか目が吸い込まれるようだった。
    相手は鶴丸さんだというのに……
    彼の視線がこちらを向こうとすると、視線が合うのが気まずい気がして、思わず目をそらしてしまう。失礼だと思われたらどうしよう。
    「おお、明るい世界だと君の空色の髪が良く映えるなあ。こんなに男前に成長して俺は嬉しいぜ」
     端正な顔を笑みに染めて、頭を撫でられる。中学の頃のように容赦なく髪の毛をぐちゃぐちゃにかき混ぜる撫で方だ。
    「君も成長したなあ。可愛いところは相変わらずだが、昔と違って撫でるのも一苦労だぜ」
    「やめてください。ボサボサで帰ったら絶対皆に笑われますから」
     成長したとは口で言いつつも、高校一年生になってまで可愛いと言い撫でまわすのは、やはり子供扱いしたままじゃないかと、ふてくされる気分になる。まあでも、成長した私は、久しぶりだし大人しく撫でさせてやるか、と思って。抵抗する気が失せたところ、道場の方から大声で呼ぶのが聞こえた。
    「おーい、鶴丸せんぱーい。そろそろ時間だから戻ってきてくださいねー」
    「おっと、もうそんな時間か」
     呟きとともに、手が頭から離れる。少し名残惜しい気がした。
    「油をちっと売りすぎたな。一期も戻るだろ」
    「ああ、はい」
     わちゃわちゃやっているうちに、時間がかなり経ってしまったらしい。駆け足で道場の方へ、戻ると光忠君がいた。なるほど、どこかで聞いたことのある声だと思ったら、彼が鶴丸さんを呼んだらしい。
    「鶴丸先輩ったら、視察に行ってくるっていつの間にか消えるんだから。練習試合直前に調査も何もないですよね」
    「すまんすまん、面白そうだからやってみたかったんだ」
     小言を言っている光忠君が自分に気が付いたらしい。
    「一期くん!会えて嬉しいよ。久しぶりなのにこんな怒っている姿見せちゃって、恰好わるいな」
    「いえ、呼んでくれて助かったよ」
     自分が速足で歩く傍ら、光忠君がにっこりとした表情で、鶴丸さんの背中を押して無理やり歩かせる。「自分で歩けるから」という不満があり、しょうがないなというように、手を離すと力が急になくなったからかよろける鶴丸さん。コントだろうか。
    しかし自分はなぜだか笑う余裕がなかった。きっと自校の皆のもとへ駆け足で戻っているからだろう。
    しかし、鶴丸さんと光忠君は以前あんなに仲が良かったろうか。中学が一緒とはいえ、入部して二カ月もたっていない。きっと鶴丸さんの面倒見がいいからなんだろうなと思うことにする。
    幸いにも、まだ開始時間まで時間はあるようだ。早めに練習している同級生に交じって素振りを始めるのだった。


    「ありがとうございました」
     練習試合は、充実していたというのもあり、あっという間に終わっていった。
     レギュラーの先輩方と、ダテ校との団体戦での練習試合。先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の五名で試合をするベーシックな団体戦だ。
    源先輩も鶴丸さんも大将だ。数年ぶりに二人の試合を見ることが出来て、ワクワクする。
     勝ち、負け、負け、勝ちときて、大将の試合が最終的な結果を左右する形になった。
     互いに礼をして近づき、蹲踞する。竹刀を合わせ座った状態から、瞬時に空気が変わる。立ち上がった瞬間に鶴丸さんの素早い一撃が打ち込まれる。同じ速度で防ぐ源先輩。もともとスピードタイプだったが、技、というか読み合いがさらにすさまじい事になっている。
    緩急のついたつばぜり合いに、ただただ見惚れてしまった。
     一本、また一本と決まり、試合は決着した。今回は引き分けとなった。
    レギュラーの先輩方は悔しそうな、でも闘志は消えないような表情をしていた。練習後は反省会が待っているんだろう。
     その後、てっきりレギュラー陣だけかと思っていたら、監督は腕試しだと言い、私たち一年のメンツとダテ高のレギュラー候補の皆さんと団体戦を行うことになった。
     団体戦は、高校生になってから初めてで緊張する。よし、と気合を入れている。
    そういえば、光忠君は先ほどのレギュラーの先輩方との試合ではいなかったから、今度は参加するんだろうか。ダテ高の方に視線を向ける。
    「頑張れよ、光坊」
    「はい、頑張ります」
     ちょうど鶴丸さんが光忠君の背中を、バンバンと叩いていた。
     ……ああなんだ。別にその場所は、私ではなくても良かったのだな。
     しかも光“坊”って、あきらかに特別扱いではないのか。自分のことは小学生から一緒にいても一期呼び
    熟慮して進学先を選んだ結果、鶴丸さんとは違うこの高校に進んだのは自分だ。いや、そもそも今の今まで鶴丸さんの傍にいないことが、こんな事になるなんて思ってもみなかった。
     この高校の剣道部には、中学の頃からお世話になっている源先輩、他にも強かったり、頼りがいが有ったり、優しかったり、厳しい部分もあるけど、だからこそ尊敬できる先輩方に囲まれているはずなんだ。
     今まで自分は、他人を羨むような性格だっただろうか。
    「やる気ないのめずらしいなぁ。そういうのは自分ポジションなんで、一期はんは気張り」
     明石君に肩をポンと叩かれ、ハッとする。いつの間にか隣にいたらしい。
    「ありがとう。ちょっと頑張れそう。というか、明石君も頑張りなよ」
    「はあー、跳ね返ってくるなんて参ったわ。まあ、自分は気楽にやるんで」
     そう口では言っても、やることはきちんとやるのだということはこの一カ月余りで分かっている。
     この緩さに助けられたな、と準備をしながら再確認するのだった。

     まずは先鋒から。相手はダテ高期待の一年生、光忠君だ。中学卒業後も成長中で、最近は一八〇センチを超えたらしい。十分健闘したが、残念ながら紙一重で負けてしまった。こちらの大将は小学校の頃から剣道をやっていたそうだが、背が小さく彼の勢いを受け流せなかったらしい。
     あかし君は次鋒で、相手はダテ高の二年生。かなり健闘し、一本取ることに成功したが、残念ながら敗北となった。気楽になどと言って上級生相手だが、やはり悔しいらしい。悔しさをたえている表情た。
     中堅、副将と惜しくも負けで続き、私の番となった。皆強豪校の二年生相手に十分よくやったと思う。最後は自分の番だ。
     気負う必要はない。私は高校一年生で、相手は三年生。実力差があるのは当たり前だ。そして今回の試合は、監督曰く急遽決まった単なる練習。
     

    結果は言わずもがな……


     私は中堅として試合に挑んだのだが、もちろん、悔しい気持ちでいっぱいだが。
     団体戦の相手には光忠君もいて、彼は副将だった。
    「そうです。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯👏👏👍👍💴💴😭😭🙏🙏💴💴💖💖😍💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works