「えっ!? あっ、へえ……」
「主様! これは重大なことなんですよ! わかってますか!」
「うん、わかってるんだけど……現実にあるんだねこういうこと」
「先の大侵寇で三日月宗近が霊力不足を起こしていたのをお忘れですか?」
…嫌な思い出だ。刀の姿になった三日月宗近は、刀の姿になっても私たちのために闘ってくれた。それはそれとしていい選択だったと褒めることはできないから、お菓子一ヶ月禁止にしたけど。
「あれ。でもさ、時間が経てば元に戻るんじゃないの?」
「それが、その……」
こんのすけは先程までの勢いを消し、耳を垂らしている。目には涙が浮かんでいる。なんだかとても嫌な予感がする。ろくでもないこの管狐からましな提案をされたことはあるだろうか、いやない。
「せ、性行為をしていただきたく…」
目の前の空間を何かが斬った。というのも考える必要もないことで、隣で片膝をつく実休さんが刀の切っ先をこんのすけに向けている。こんな実休さんは初めて見た。
「ワァ」
「こんのすけ。それは僕の隣でする話かな?」
「で、ですが、主様にとって、大事な話だと、思いまして……あなたのあずかり知らぬ場所で、話が進むよりは、いい、でしょう?」
一拍の間。「それもそうだね」と実休さんは刀をおさめて腰を下ろした。次の瞬間には茶柱の立つお茶を手に取っている。それと実休さんの顔を交互に見ていると、いつもと変わらない柔らかな笑顔で微笑まれた。
実休さんのあれは、譲歩だ。きっとそこらに居る野良狐の戯言だったら斬り捨てていた。私がこの本丸を好きだということを理解してくれているから、 こんのすけの言葉に耳を貸しているんだと思う。こんのすけが下手なこと言ったら斬られると思うけど。頑張れこんのすけ。
「まず、時の政府としての見解を示します。代わりの刀剣男士はいくらでもいるのだからさっさと刀解せよ、というのが基本です。しかしながら、いくら物とは言えど物言う物です。とんでもないしっぺ返しを食らったこともあります。その救済措置として、審神者と刀剣男士の性行為が提言されました」
「ここまではよろしいですか?」とこんのすけが実休を恐る恐るといった様子で見上げている。実休はお茶を飲んで一息付き、目線でこんのすけに先を促す。こ、こわい。
「まあ正直、一つの本丸であればプチッと潰せるのですが、貴重な戦力ですのでそんなことで反感を買うのは良くないと言う結論が出ました。その上での性行為という案です。審神者の霊力は刀剣男士の霊力と波長が似ているため良く馴染みます。刀剣男士を花街に行かせる、という案が出なかったわけではありませんが効果がありませんので、すぐに取り下げられました」
「まあこんなもんですかね」とこんのすけはやりきった顔をした。こんのすけ、私の隣にいる人の顔を見なよ。忘れてない? 大丈夫?
さっき、ちょっと物騒な言葉が聞こえた気がする。時の政府はただの上官ってだけではなくて、力を持つ怒らせてはいけない存在だと感じさせてくる。
「それで、」
「…はい」
「霊力不足を起こしているのはどの刀なのかな?」
「それは──