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    kuroyume_9

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    kuroyume_9

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    こっちの垢でもポイピク登録をしたのでテスト&進捗を晒して自分を追い込む背水の陣戦法。とぷ3姉

    とぷ3姉である。タイトルはまだない ヒーロー公安委員会のオフィスで、今僕は思考回路をショートさせかけていた。
    「えーっと…啓悟、もう一回言ってくれる?」
    「うん、だからさ、」
     『俺らと同居せん?』と啓悟は一言一句同じことを言ってのけた。なぜこうなった?俺『ら』とは?
     脳内でグルグルと思考が巡る。目の前に立っている僕の弟が心配そうな視線を向けているが、今の僕の目には1ミリも写らない。
    「お姉ちゃん?大丈夫?」
    「……うん、ちょっと待って…何で同居?」
    「だってお姉ちゃんがメシ適当にしちゃう理由って、自分の分だけ作るのが面倒臭かけんやろ?なら誰かと一緒に暮らせば相手ん分も作らないかんくなるけん、面倒臭くならんのやなか?」
    「う…まぁ、確かに…」
    「それにお姉ちゃんがずーっと仕事しとるとば止めることもできるし、一石二鳥ばい」
    「……でも俺『ら』って?他に誰がいるの?」
    「うん、エンデヴァーさんとジーニストさん。俺ら今3人でエンデヴァーさんちに住んどるんよ」
    「ちょっと待て」
     僕は岡山県出身の某お笑い芸人が相席する食堂番組のように会話を一時停止させた。本当にどうしてこうなった?
     話は少し前に遡る。


    「…朧さん、またお昼ご飯それですか?」
    「ん?何ですか?」
     上司の目良さんは呆れたような顔を僕に見せた。
     さすがに1週間以上昼食をカロリー◯イトで済ませてたら注意されるか…。でも忙しいからなぁ…時間が惜しいし…。
    「たまには食堂とか行ったらどうなんです?」
    「えー…お金かかるし…人多いし……」
    「じゃあお弁当作るとか…」
    「1人分の用意するのってめんどくさくないですか?それにそんな時間あったら早く出勤して仕事片付けたいし…」
    「あー…」
     同じ社畜、もとい、同じ部署で働く者なら理解してくれるはずだ。処理しても処理しても無くならない書類の山、10分もしない内にいつの間にか増えている未処理の案件、迫る締切、無くなる休日…。正直、逃げてしまいたくなる。だがそういう訳にはいかない。我々がこの仕事を全うしなくてはヒーローたちが困るのだから。
    「……程々にしてくださいね」
    「ふぁーい」
     返す言葉が見当たらないのだろう。目良さんは早々に注意だけで終えて、オフィスを出た。僕はカロリーメイトを咥えたまま、パソコンの画面から目を離さずに気の抜けるような返事を返す。
     するとすぐに聞き覚えのある声が僕を呼んだ。
    「おねーぇちゃん。お昼そんだけでよかと?」
    「啓悟。……なんかあった?」
    「なにも?なんで?」
    「目、笑ってない。なんか…怒ってる?」
     啓悟は幼少の頃、訓練に訓練を重ねた結果、悲しかろうが怒りが込み上げようが、普段と変わらない笑顔を出せるようになった。
     でも僕は看破できる。何てったってお姉ちゃんだからね。
    「…そうやね、お姉ちゃんが最近お昼をカロリー◯イトで済ましとることに怒っとーね」
    「うっ…」
    「まさか朝昼晩カロリー◯イトやなかね?いかんばい、栄養補助食品だけで済ますんは」
    「うぅ…チョコレート味メインだから許して?」
    「俺が宣伝しとーヤツ食べてくれとーけんって許さんよ?」
     バツの悪そうな顔をしたら、啓悟の顔が綻んだ。この野郎…我が姉の苦しむ姿を楽しんでやがるな…?
    「もー…さっき目良さんが言っとったばい?食堂に行きたがらんし、お弁当作るんも1人分作るの面倒臭いって」
    「だって…人多いし…お金かかるし……お弁当も…料理できない訳じゃないんだけど、なんか…自分の為に作るって思うと面倒で…適当でいいかなぁって…」
    「…俺、お姉ちゃんにはもうちょっと自分ば大切にして欲しか。『自分しかおらんけん適当でよかか』ってんやめて欲しか…ばってん、お姉ちゃんは直さんっちゃろうね」
    「…そうだね。多分…直さないってか、直らないだろうねぇ…」
    「うんうん。やけんさ、俺らと同居せん?」
    「………………………………は?」
     たっぷり時間をかけて、どうにか理解しようとした。しかし僕の脳が到底理解できる内容ではなかったようで、口をあんぐりと開けて、ひと言発することしかできなかった。
     そして、話は冒頭へ戻る。


    「同居……啓悟とエンデヴァーとジーニストが…」
    「そうそう。大戦の時に俺らとデクくんとオールマイトさんとでチームアップしとったやろ?あん時ん同居がなかなか快適で、こん戦いが終わったら同居するって3人で約束しとったんよ」
    「そんな死亡フラグおっ立てとったんか…」
     TOP3達が『俺…この戦いが終わったら結婚するんだ…』並の死亡フラグを立てていたことに戦慄する。死亡率100%の死亡フラグが密かに立っていたのか…よく生きていたな…。
    「朝メシは各自で好きなもん作っとー。夜は早う帰った人が当番。洗濯も各自で、掃除は当番制。あ、ばってん自室は自分でするってことになっとる。…同居ってよりルームシェアに近かかも?」
    「へ、へー…」
    「もちろんお姉ちゃんは女ん人やけん、男まみれん家に住むって抵抗あるかもしれんばってん…今ん食生活続けとったら、マジ倒れるばい?そげしたら仕事も滞るし、いろんな人に迷惑かかるんやなか?」
    「う……そ、それなら、自分で…」
    「自分で『直らん』って言うた手前、直せると?無理やろ」
    「うー…」
     図星を突かれ、唸り声が出る。確かに啓悟の言う通りだったし、なんなら既に何度か目眩を起こして倒れかけたことが何度かあった。
     その度にちゃんと食事を摂らなくてはと思ったけど、どうしても自分の為だけに作るのが面倒臭い。2人分作って半分冷凍することも考えた。でもそもそもあまり家に帰れないし、冷凍した物のことを忘れて何ヶ月何年も放置する可能性が高い。それなら簡単に済ませてしまった方が…と考えた結果が今の惨状だった。
    「お姉ちゃんの食生活が改善できるし、仕事んやりすぎにストップかけれるし、俺らん生活にお姉ちゃんという花が添えられるし、一石三鳥やろ?」
    「1個おかしくない?何僕という花って」
    「何がおかしかと?」
     啓悟の目は本気だった。この子、こんなにシスコンだったっけ…と昔の弟を思い返す。ああ…そういえば昔から距離近いわ普通にほっぺにチューするわでシスコンの気はあったな…。
    「どお?悪か話やなかやろ?」
    「…悪くは、ないけど……他の2人がなんて言うか「あ、もう許可とっとーよ?」早っ!」
     啓悟はスマホのトーク画面を見せてくれた。

    [お姉ちゃんも一緒に住むかもなんですけどいいですか?]
    〈本人が嫌々で無ければいいんじゃないか?〉
    【かま】
    【わん】

    「で、どうする?」
    「…う……あー………んんー………………………」
    「…そげん悩んどーなら、試しに何日か泊まってみる?気に入ったら同居ってことで」
    「………………………………じゃあ、それで」
     啓悟の満面の笑みが、更に増した。うわっ眩し。


    「昼に『先帰ってて!』って言われて鍵を持たされたはいいものの…入っていい、んだよね…?」
     3日後、鍵とスーツケースを手に、僕は轟邸の玄関前で途方に暮れていた。
     お試しで同居を決めてから、TOP3のグループトークに招待され、そこで簡単に挨拶を済ませた。本来なら面と向かって挨拶すべきなんだけど、それは同居当日で構わないと家の持ち主にしてNo.1のエンデヴァーに言われてしまったので、その言葉に甘えることにした。何せ全員多忙の身、時間を取ることがなかなか難しい。それに1度で済ませられるならその方が合理的だ。
    「お、お邪魔…します…?」
     鍵を開けて恐る恐る足を入れると、純和風の広い玄関が迎えてくれた。玄関だけで広いとは…と初めての豪邸に萎縮しかけたが、これから3日間ここで生活するのに今からこんなんでどうする…!と己を鼓舞し、どうにか上がった。
     スーツケースのキャスターの汚れを拭き、一緒に持って入る。時間をチラッと確認すると、18時を迎えようとしていた。そろそろ誰かが帰ってきてもおかしくない時間帯だ。
    (確か…台所は玄関入って奥に進んで左、とか言ってたな…)
     啓悟から事前に聞いていた部屋の間取りを思い出しながら奥へ進むと、これまた広い台所に着いた。僕は台所の隅にスーツケースを置き、着ていたジャケットをかけた。
    「…夕飯、作った方がいいよね…」
     冷蔵庫の中身を確認する。曰く『冷蔵庫の中のもんは名前書いとらんかったらみんなのもんやけん!』だそうなので、遠慮なく使わせてもらうことにした。
     ふと、台所の椅子にエプロンがかけられているのが目に入る。無地の黄色のエプロンを体に合わせると、ちょうどいいサイズだった。
    (啓悟のかな。使っても……いや、一応聞くか…)

    『家に着きました。台所に置いてあった黄色のエプロン、誰のかわかりませんが借りてもいいですか?』
    [お姉ちゃんおかえり〜!]
    [それ俺んやけん使ってよかよー]

     グループトークで聞くと、啓悟から即返事が返ってきた。送ってまだ5秒も経っていないのに早すぎ…と思わず苦笑いが出る。

    [今日のご飯なに〜?]
    『内緒』
    『帰ってきてからのお楽しみ』
    [うわめっちゃやる気出た]
    [最速で終わらすけん…!]
    〈ではさっさとこのトーク画面を閉じて仕事に戻るべきだな〉
    〈先程からエンデヴァーがご立腹だ〉
    【はやき】
    【はやく】
    【もどれ】
    [サーセンw今戻りまーすw]

     どうやら3人とも同じ現場にいるようだった。それなら…。

    『お戻りはだいたい何時頃になりそうですか?』
    〈恐らく19時ごろだと思う〉
    〈ホークスが張り切り始めたのでね〉
    『承知しました』
    『お夕飯を用意してお待ちしてますので皆さん気をつけて』
    〈ありがとう。では私も戻るよ〉
    【ありがと】
    【う】

     スマホをポケットにしまい、腕まくりをする。献立は決まった、そしてそれの手順もシミュレーション済みだ。
     エプロンを身に纏うと、ガラにもなく気合いを入れる。何せ、人の為に料理するなど、仕事では何度かあるがプライベートでは初めてだ。しかも相手はTOP3ときた。少しも気は抜けない。
    「……さて、やりますか」


     台所のテーブルに所狭しと料理が並んでいる。僕はその前で頭を抱えた。
    「作り過ぎた…」
     チキン南蛮、青椒肉絲、唐揚げ、きゅうりとタコの酢の物、鯖の味噌煮、肉じゃが、豚しゃぶのサラダ、鯵の南蛮漬け、きんぴらごぼう、わかめと豆腐の味噌汁、茄子の揚げ浸し、鰯の甘露煮、ピーマンの肉詰め…などなど。
    「…メインとサラダと味噌汁くらいの予定だったのに…」
     ふと『あれ?そういえばエンデヴァーとジーニストの好きな食べ物聞いたことないな…?』と思ったのが原因だった。大戦中に作った料理を思い返しながら、どれが食べっぷりよかったかなぁ、と考えているといつのまにかこんなことになっていた。無意識のうちにご飯も5合炊いている。炊き過ぎでしょ…。
    「まぁ…残ったら明日に回せばいいか…」
     それとも今から冷凍してしまうか?と目の前の皿を取り、タッパーに移そうとした時、玄関の方からガチャガチャと音がした。
    「たっだいまー!」
    「ただいま」
    「戻ったぞ」
     帰ってきちゃった…タイミングが良いやら悪いやら…。僕は皿を机に置き、パタパタと小走りで玄関へ向かう。あ、エプロン外すの忘れた。
    「おかえりなさい。ご飯の準備はできてます。お風呂の準備はまだできてなくて…ごめんなさい、ご飯からで良いですか?」
     …なんかこれ、『ご飯にする?お風呂にする?』みたいだな…と思いながら3人を見ると、皆そっぽを向いてフルフルと震えていた。…何事?
    「………………嫁」
    「エプロン姿で『おかえりなさい』…!最高だな…!」
    「お姉ちゃんお願いやけん『ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?』って言ってくれんね?最後ちゃんとハートマーク付きで」
    「いやだからさっきご飯の準備しかできとらんて言ったばい?頭に蛆でも湧いとんか?」
    「辛辣!!でもそれもいい!!」
    「えっ…この子怖…」
     啓悟のいきなりの要望に引いた。わが弟ながらいきなり何を言ってるのか全く理解できなかった。何で僕がそんな新婚さんみたいなこと…誰得だよ…って思ったけど、エンデヴァーとジーニストの表情を見て呆れが驚きに変わった。
    (…なんでこの人たち、『言ってくれないのか…』みたいな視線を僕に向けるの…!?)
     ……そういえば啓悟の発言に気を取られていたけど、この2人も訳のわからないこと言ってたな…。……この3人、僕に何を求めているんだろう…。
    「…同居は、今日からだったな。よろしく頼む」
    「よろしく、朧」
    「…はい、よろしくお願いします。……とりあえずご飯にしましょうか」
    「腹減ったー…今日のご飯なに?」
     何事もなかったかのように簡単な挨拶を済ませ、僕らは居間へ移動した。
    「今持ってきますね」
    「お姉ちゃん俺も手伝う!」
    「助かる。ちょっと…いや結構作りすぎちゃったから…」
    「そげん作ったと?」
     啓悟を連れて台所へ戻る。机の上に所狭しと置かれた料理を見せると、途端に彼の眼は大きく開かれ、口はポカンと開いた。
    「よ、ようこんなに作ったねぇ…。1時間くらいしかなかったやろ…」
    「なんか…無意識にたくさん作ってたみたいで…。…エンデヴァーとジーニストが食いつきよかったやつどれかなって思ってたらこんなことに…」
    「あー…2人の好きなもん知らんかったけんか…」
    「啓悟が好きなものは知ってるんだけどねぇ…。…だからほら、唐揚げは揚げたてを食べれるように最後に作ったよ?」
    「マジで!?うっわ、うまそー!!」
     驚きに満ちていた顔が、今度は歓喜に変わる。
     …仕事でファンに向ける笑顔も好きだけど、やっぱりこっちの笑顔の方が啓悟らしくて好きだなぁ…。
    「…1個食べる?」
    「!?…よかと?」
    「2人には内緒ね」
     ひと口で食べきれそうなサイズの唐揚げを爪楊枝に刺し、口へ運ぶ。啓悟は口を大きく開け頬張った。ハフハフと熱さを逃がしながら、しかし嬉しそうに食べている。ああ…僕の弟、可愛いなぁ…。
    「~っうっまぁ…!俺お姉ちゃんと結婚する…!!毎日唐揚げ作ってくれんね…!」
    「プロポーズにしてはなかなか油っこくて不健康だね…。……ほら、手伝ってくれるんでしょ?」
     両手に器を持った途端、赤い羽にするりと取られてしまった。なら別の器をと思い、机の上を見るがそれらもすでに羽の上だ。何でもかんでも早いこと…。
    「あとは?」
    「おひつに移したご飯と、鍋の味噌汁と…茶碗と取り皿と箸と湯呑と…」
     必要なものを挙げたそばから羽で持ってきた。結局、全て啓悟の羽が持ってしまい、手持ち無沙汰になった。
    「ありがとね、啓悟」
    「これぐらい軽い軽い。早よいかんね、維さんが腹減ってぶっ倒れるけん」
    「…うん」
     …名前呼びしてるんだ。ちょっとびっくりした。
    「……あ、呼び方か」
    「ん?」
    「俺がジーニストさんのこと維さん呼びしたのが気になったとやろ?」
    「…さすが弟。よくわかったね…」
    「お姉ちゃんのことなら何でもわかっとーよ。家帰ったらプライベートやけん、ヒーロー名呼びは止めんねってなったとよ。やけんあの2人も俺んこつ『啓悟』って呼んどーよ?」
    「へー…。…僕もそうした方がいい?迷惑かな…」
    「呼んであげんね。あの2人もお姉ちゃん来るの楽しみにしとったけん、迷惑じゃなかよ」
     迷惑じゃない…ならいいか…。……炎司さんと…維さん、ね。よし、言ってみよう…。


    「……随分、張り切ったな」
    「朧、何合炊いた?」
    「5合炊きましたが…多かったです?」
    「いや、完璧だ」
    「維さんが獲物を狙う肉食動物の目ぇしとるwww」
     机を埋め尽くすほどの器の多さに、エンデヴァー…炎司さんはは驚き、ジーニスト、維さんは歓喜した。…この場合、作りすぎたことを謝るべきなのか、喜んでもらえたことを喜ぶべきなのか…。
    「…初めは、メインとサラダと味噌汁くらいの予定だったんですが……その、え、炎司さんと、つ…維さんの味の好みがわからなくて…。3人のサポートでご飯作りに行ってた時、何が好評だったか思い返しながら作っていたら…いつの間にかこんなことにな「待て。さっきのところもう1度」…3人のサポートで「違う、その前」
     いきなり話を遮った維さんに驚きつつ、何と言っていたか思い返す。『3人のサポート』の前は…。
    「えーっと…炎司さんと、維さんの味の好みがわからなくて?」
    「…………………かつて、」
    「?」
    「かつて……名前を呼ばれただけでこんなに嬉しく感じたことがあっただろうか。いや、ない」
    「反語懐かしいですね。漢文で習いました。いきなりどうされました?」
    「名前で呼んでもらえて嬉しい、ということだよ。ありがとう、朧。もっと呼んでもらえるかな?」
    「えっと…維さん」
    「Marvelous…!!」
    「発音良…」
    「…朧」
    「何ですか?…炎司さん」
    「うぐ…!」
     維さんは天を仰ぎ、炎司さんは心臓を抑えて蹲り、そんな2人を見て啓悟はゲラゲラ笑っている。…わぁ…カオスな空間だなぁ…。……でもどんな形であれTOP3ヒーローが気を抜いているってことは『ヒーローが暇を持て余す世』になってる証拠かな…?
     そう思うと自然と笑みが出た。平和になってるのは嬉しいよねぇ。……でもそれはそれとして。
    「…ご飯、冷めますよ?」
    「むっ…それはいかん。いただこう」
    「笑ったら余計腹減ったww炎司さーん!食べますよー!」
    「…あ、ああ…。…いただきます」
    「いただきます」
    「いただきまーす!唐揚げ唐揚げ~」
    「いただきます。啓悟、野菜も食べないとダメだよ?」
    「お姉ちゃんのご飯なら野菜も食べるけん大丈夫たい」
    「…つまりそれ以外は食べてないってことかな?じゃあ啓悟だけ明日から野菜生活だね」
    「殺生な!!」
    「……ふふ、じょーだん。早く食べないとジーニス……維さんに全部食べられるよ?」
    「えっ…?…っあー!!維さんそれ俺が狙ってた鯖味噌ー!!」
    「美味い…。……済まない朧、ご飯のお代わりをお願いできるかな?山盛りで」
    「薄々気付いてはいましたけど…本当に大食いなんですねぇ…」
    「…朧は大食いの男は嫌いかな?」
    「うーん…見ていて気持ちいいのでどちらかと言えば好きですね。ジーニ……維さん、お代わりはこれくらいでいいですか?」
    「ああ、ありがとう」
    「朧、済まんが俺も頼む」
    「エンデ……炎司さん、肉じゃが以外も食べてます?というかご飯おかずに肉じゃが食べてません?」
    「ー!!肉じゃが無くなっとるし!!炎司さん全部食べたと!?」
    「まだひと口も食べてないんだが…!!」
    「済まん。止まらなくてな」
    「まだあるので持ってきますね。啓悟、ご飯のお代わりよそってあげて」
     僕は肉じゃがが入っていた器を手に、台所へ向かった。…それにしてもこんなに賑やかなご飯は久しぶりだなぁ…目良班のみんなとご飯行くことってそんなにないから…。
    「…ふふ、楽しいなぁ」


    「ごちそうさまでした!美味しかったー!」
    「ご馳走様」
    「ご馳走でした。美味しかったよ、ありがとう」
    「お粗末さまでした。お口にあったようでよかったです」
     あれだけあったおかずとご飯は、綺麗に彼らの胃の中に収まった。あんなに大量にあったのに…TOPヒーローってみんなこうなのかな…だとしたらすごいなぁ…。
    「さて、皿洗いは我々の仕事だな。…啓悟は朧に家の中を案内してやれ。私と轟さんで片づける」
    「了解です!お姉ちゃん荷物は?」
    「あ、台所に置きっぱ「これ?」…それ」
    「お姉ちゃんの部屋に行く道すがら、他んとこも案内してくけん」
     啓悟の羽が持ってきた荷物とジャケットを持ち、僕は案内を聞きながら家の中を歩いた。風呂、トイレ、客間、炎司さんの部屋、維さんの部屋、啓悟の部屋、トレーニング部屋…どこを取っても広い。広すぎる。…ここにご家族と住んでたんだ。
    「…そういえば、エン…炎司さんのご家族は?大戦が終わってから離婚したのは知ってるんだけど…この同居生活には何も言ってないの?」
    「同居前に挨拶しに行ったら奥さんが『主人に息抜きを教えてあげてください。よろしくお願いします』って言っとったくらいで、特になんも?」
    「ふーん…」
    「俺が『老後も俺らで介護やっときますね』って言ったら息子さんたちが即『お願いします』って言っとってねぇww俺思わず吹き出しちゃったw」
    「お前なぁ…」
     人の家庭事情を面白がるんじゃないよ…。全くこの子は…。
    「いやぁ、あれ見たらお姉ちゃんも笑うってw食い気味で言っとったんよ?w…っと、ここがお姉ちゃんの部屋でーす」
    「ありが、うわ広」
    「俺とおんなじ反応しとるwwwやっぱ広かよねぇ。維さんが『普通では?』って言っとったけん俺がおかしいんかと思ったばい…」
     布団、机、座布団4枚が置いてあってもまだスペースが余ってる。こんな広いとこ1人で使えと…?スーツケースに入る分しか荷物ないから有り余っちゃうな…。
     啓悟は我が物顔で部屋に入り座布団に座ったので、僕も習って向かいの座布団に座った。
    「さて…じゃあ同居の決まり事…って言ってもそんなお固いものと違うばってん、一応説明してくね」
    「お願いします」
    「朝ご飯は各自で用意する。出る時間とかまちまちやけんね。夕ご飯は1番に帰ってきた人が、皿洗いは2番目に帰ってきた人が、風呂掃除は3番目に帰ってきた人がする。トイレ掃除と共同スペースの掃除は休みの人がする。自分の部屋は自分でする。あ、洗濯も自分ね」
    「…緩いような緩くないような決まり事だね」
    「これくらいがいいんよ。……で、この3日間。お姉ちゃんにお願いしたいことっていうか、その…意識して欲しいことがあるんやけど…」
    「僕に?」
     何だろう…。意識してほしいこと…やっぱり男所帯のところに生物学上女が来るわけだから、薄着でいるなとかかな。…前に啓悟が僕の家に遊びに来た時『服を着ろ!!!!』って怒ったもんなぁ。そんな人を裸族みたいに扱わなくてもいいのに…。僕裸族じゃないよ?薄着なだけで。
    「…その………えっと……実は……………俺ら3人とも、お姉ちゃんのことが好きなんよ」
    「……………………………ん?」
    「やけんその…この3日間で、俺らんことを…その……そういう…恋愛的な目で見てくれん?」
    「………………………………………………………………んん?」
    「あ、もちろん嫌とか、俺らに性的な目で見られるの無理とかやったらいいけん。なんならお試し同居もやめていいけん」
    「………………………………………………………………………………………んんん?」
    「だけん…その………ちょっと、意識して、欲しい…デス…」
     シン、と静寂が走る。啓悟の顔を見ると真っ赤になっていた。僕もきっと顔が赤いんだろう、体に熱がこもってすごく熱い。冷水を浴びたいくらいだ。
     『俺ら3人とも、お姉ちゃんのことが好き』と言われた時、冗談かと思った。だけど啓悟の目があまりにも真剣で、冗談なんてとても言える雰囲気には見えなかった。
    「…なんで、…」
    「お姉ちゃん…?」
    「………啓悟。ひと晩時間をくれる?ちょっと考えるから」
    「ひと晩でよかと…?」
    「…大丈夫。…で、よく考えて…嫌じゃないと思ったら残る。嫌だったら出ていく。2人にも伝えておいてくれる?」
    「…わかった、伝えとく。……今日は疲れたやろ、お風呂先入りんしゃい」
    「ありがとう。そうするよ」
     啓悟は立ち上がり部屋を出た。廊下を歩く音が遠ざかり、聞こえなくなると同時に僕はため息をつきながら後ろに寝転がった。
    「…………なんで、僕…」
     いつから?きっかけは?本当に僕?誰かと間違ってない?本当に『好き』?別の感情と間違ってない?なんで?なんで?なんで?なんで?
     天井を見上げながら、ぐるぐると思考が回っていく。おかしいな、さっきあんなにご飯を食べてエネルギー補給したのに、いつになっても答えが出る気配がない。
    「…………なんで、僕。…もっと別に、良い人がいるだろうに…」
     僕よりもっと…可愛くて守ってあげたくなるような子、いくらでもいるのに。なんで僕なの?どうして?なんで?…ダメだ、さっきから同じことしか考えていない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
    「…お風呂、入ろう」
     湯船に浸かったらリラックスして考えもまとまるでしょ…。僕は荷物の中から着替えを出して部屋を出ようとしたが、それより先に部屋の前から声がした。
    「すまない、朧。今いいかな?」
    「ジーニ、…維さん?どうぞ」
    「突然すまないね。急ごしらえになってしまったが、これを渡したくて」
    「これ、は…エプロン?」
    「さっき、啓悟のエプロンを使っていただろう?これは君のだ。使ってくれ」
    「あ、ありがとうございます…」
     手に持っていた服のようなものを受け取って広げると、水色の布地で左胸のところに黒猫がワンポイントで入っているエプロンが姿を現す。
    「さっき思いついたから、水色の布しか手持ちがなくてね。君は黒のスーツを着ているから黒がいいかと思ったんだが…」
    「いえ…水色も好きなので…その、ありがとうございます。とても可愛いです」
    「気に入ってもらえてよかった。…今から風呂に入るところだったみたいだな。引き止めてすまなかった」
     では、と言って部屋を離れようとする維さんの腕をとっさに掴んだ。
    「…どうした?」
    「…………なんで、僕なんですか?あなた方なら…僕なんかよりもっと、可愛くて守ってあげたくなるような女性らしい良い人がいるはずなのに。どうしてこんな、可愛らしさの欠片もない僕をす「ストップ。…それ以上はやめてくれ」
     維さんは空いているほうの手で僕の口を塞いだ。先ほどの驚いた顔とは打って変わって、どこか悲しいような顔をしている。彼は僕の口から手を放したが、僕は何も言い出せない。
     なんで僕の口を塞いだの?どうしてそんな顔をするの?…もう、何が何だかわからないよ…。
    「…私の愛している人を、そんなふうに悪く言うのはやめてくれ。聞きたくない」
    「…なんで………どうして…」
    「『僕なんかより』か…。済まないな、君より魅力的な女性など検討もつかない。…君以外、考えられない」
     腕を掴んでいた手を彼はそっと手に取って、そのまま僕の手の薬指に口付けをした。チュッと小さなリップ音と共に唇が手から離れると思ったのに、彼はそのまま手の甲や掌、手首にキスをしていく。
     唇の感触がするたびに、ゾクッ…と体が震える。僕は思わず自分の体を縮こまらせた。そんな僕に彼は小さい子に言い聞かせるような優しい口調で囁いてくる。
    「嫌か?……嫌ならやめるから、嫌って言って?」
    「……っや……………や、じゃ………ない……」
     っ僕は…今なんて言って…。
     恐る恐る維さんを見ると、すごく嬉しそうな顔をして僕を見ていた。そして見せつけるように僕の手にキスをする。
    「…ふふ、顔が真っ赤だ。可愛いな」
    「……う、うぅ……」
    「…好きだよ、朧…。……もっといろんなところにキスしたいな」
    「…っや……」
    「嫌か。わかった、やめよう」
     彼はパッと手を離してキスをやめた。…そ、そんなあっさり…。
    「言ったからな、『嫌ならやめる』と。……なんだ?もっとして欲しかったのか?」
    「〜っち、違うもん!!お風呂いただきます!!では!!」
     彼の横を通って、風呂場へ向かう。逃げるようにその場を離れた僕を維さんが愛おしそうに見ていたことを僕は知る由もなかった。
    「……『違うもん』って………本当に可愛いなぁ、朧は…」


    「うー……全然リラックスできなかった…」
     つ、維さんのせいだ…とぶつぶつ言いながら自室に向かっているとドンッと誰かにぶつかってしまった。突然のことで完全に気を抜いていた僕は反応できず、後ろに倒れる。と思ったのに大きな腕で抱き寄せられて無事だった。
    「っ…済まん。気を抜いていた」
    「こ、こちらこそ、前方不注意でした。…ごめんなさい、エ…んじさん」
    「…まだ呼び方は慣れんのか」
    「す、すぐ慣れます。大丈夫です。………多分」
    「……焦る必要はない。ゆっくりでいい」
     僕を胸へ抱きながら、彼は優しく頭を撫でてくれた。彼の太い指が僕の短い髪をすいてくるのがくすぐったくて、思わず身を捩る。
    「んっ……」
    「…済まん。…嫌だったか」
    「ちが…!………その、くすぐったかっただけで……嫌じゃ、なくて……」
     僕はまた何を言って…!
     慌てて口を塞ぐ。炎司さんは僕の頭を撫でていた手をピタッと止めて、さっきの維さんみたいに嬉しそうな顔をして僕をじっと見つめていた。
    「~っみ、見ないでください…!というか離して…!」
    「…もう少し、駄目か」
     彼は僕の頭を胸に押し当てて、そのままギュッと抱きしめた。彼の心臓がドクン、ドクンと大きく音を立てているのが聞こえる。
    「……啓悟から、聞いたな?俺が…俺たちが、お前に恋慕していることを」
    「きっ…聞き、ました…」
    「………初めは、気の迷いだと思った。


    ここまで。お姉ちゃん奥手すぎんか…?
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