8±1=9^7花も似合うと。
束ねられたバラを持つアデルの姿に、ロルフは何時かの贈り物を密かに後悔した。
「おっ。おはようロルフ!相変わらず早起きだな」
「おはよう、アデル。それは?」
間を空けず花を指せば、問われたアデルは苦笑混じりに微笑む。
「何時ものお礼に誕生日のお祝いも兼ねてって、貰ったんだ。花瓶は持ってないんだが、…ロルフ?」
話す合間に丸くなった赤い目を何事かと覗き込んだ。
一度瞬くと、腕を組んでは花を見下ろして。それから、何かを探すように周囲を見渡した。
「…あ。もしかして欲しいとか?」
猟師として自然に感謝する彼のことだ、花も愛でているのかもしれない。
はい、と試しに一本。目と同じ色のバラを差し出したのだが、
「っす、まない急に。誕生日なのか?」
視界に映り込んだ色にハッと息を呑む。突然考え込んでしまってはアデルも困惑する、と慌てて言葉を発した。
「ん?あぁそうだ」
「今日か?」
「うん」
聞いてもいないが聞く勇気も無い、とはいえ大切な日に限って贈り物を手渡せないとは。
堪らず頭を押さえた指の隙間から、先に探していた人を見つけてロルフは勢い良く顔を上げる。
「少しだけ待っててくれ」
「えっ?あ、おーいロルフー?」
アデルの肩を軽く叩いてから向かった先は、花売りの女の子の傍だ。
今度は手持ちの花籠を見下ろしている。やはり欲しかったのだろうかと遠くに見ていると、本当に少しだけで戻ってきた。
「…すまない。これだけ残っていたようだ」
束の中へ挿されたのは一本のバラだった。他のものと比べて二回りは小さく、桃色に近い。
「………も、しかして。くれるのか?」
「今から他にも用意するつもりだが先に、」
「あーっいやいやいや悪いせがんだつもりはないんだありがとな!」
何時かのようなお礼ではなく誕生日の贈り物、という予想外に今度はアデルが慌てる番だった。
往来でバラの花束を挟んで言い合っている大の男二人に刺さる周囲の視線が痛い。遅れて来た顔の熱りを掻きながら、一先ず言葉を継ぐ。
「えっと、今日は休みか?」
「ああ」
「そっか。……あ。もし良かったら、これに合う花瓶か器か、探すの手伝ってくれないか?」
当初の悩みの種だ。折角貰った花を出来る事なら長く、綺麗に保ちたい。
きっと彼の方が適した物を選べる筈だと、アデルはロルフをわずかに見上げる。
その期待する青色に、応えられるだろうかという不安が半分、特別な一日を彼と過ごせる歓喜が半分。
「…俺で良ければ、善処する」
思わず微笑みながら頷くと、屈託の無い笑顔を見せてくれた。
肩を並べて仲良く二人、バラの花束と共に町中を歩く姿をお礼にと渡した花屋が暖かく見守っていたのは別の話だ。