ふたりで考えたい話「――なぁ浪、まずはどれがいい?」
お世辞にも綺麗とは言い難い拙い字で綴られた『やってみたいこと一覧』なる書付を差し出されて、しかし問われた内容に首を傾げる。何故それを自分に問うのか。そう視線に込めて問い返せば、何故か、仕方ないなぁという笑みを含んだ呆れ顔で、紙上に書き加えられる言葉。
『「巫謠と」やってみたいこと一覧』――改めて出された書面の文字列に、胸の奥に温かいような、むず痒いような、なんとも形容し難い感情が湧き立つ。
見れば、悪戯が成功した童のような笑顔と、返る答えに期待を寄せて星のように輝く無垢な碧眼と鉢合う。
しかし、共に行うのであれば、どれを選ぶかは共に考えるべきではないのか。こんな時まで決定権を巫謠に委ねるのは狡いのではないか。それとも、散々彼の忠言を跳ね除け続けたこれまでの巫謠の行いに対する意趣返しなのだろうか。
と、次第に卑屈になる思考を悶々と巡らせていれば、突如遮るように部屋へ生じた、ぎゅぅう、と絞り出すような情けない音に、ぱちりと同時に目を瞬かせる。
「腹へったみたい……」なんて、他人事じみた物言いをしながら照れくさそうに笑う姿を見て、一先ず最初に自分たちがやるべきことは決まったようだ。一覧を差し出し返して、その中の一行を指で示す。
『美味いものを腹いっぱい食べる』――己が書き付けた文字を読み取った瞬間、裂魔弦の顔がぱっと喜色に満ちる。
「よっしゃ、そうとなりゃ膳は急げだ! 早く行こうぜ、浪!」
字が間違っている気がするが、この場合はあながち間違ってもいないのだろうか。どうでもいい思考がぐるりと過ぎる。
ぐいぐいと腕を引っ張る勢いに押されながら、巫謠はこれからのことを考える。これから『ふたり』で何をやってみたいか――そんなこれからの旅の予定をふたりで考える、その一寸先の未来のことを考える。それはきっと、『楽しい』ことだ。
自分によく似た色をした後ろ姿に引っ張られながら、巫謠はこれからも続くだろう騒がしくも幸いな日々を思い、ひっそりと笑みを浮かべたのだった。