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    n_lazurite

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    現パロ裂浪小話。てるてる坊主の話。

    ##裂浪

    あした天気になあれ ――いい加減、もっとこう、からっとした晴れ間ってのが見てえよなぁ……。
     白い丸坊主の頭に黒いマジックを走らせながら、裂魔弦が呟いた。
     丸めたちり紙にもう一枚を覆い被せて輪ゴムで止めただけの、簡素な人形ひとかたのそれ。所謂てるてる坊主というものに顔を描いているらしい彼の様子を何とはなしに見守りながら、先程携帯端末で確認した明日の天気を思い浮かべる。曇り時々晴れ、ところによって一時雨。降水確率25%。梅雨時期らしいと云えばらしい、なんとも微妙な数値である。
     天気予報が一週間の雨を予想したところで、実際は一日曇っているだけで終わったり、どころか時々晴れ空を覗かせていたずらに蒸し暑さを助長させることも珍しくはない。明日のことなどは結局、明日になってみなければわからないのだ。
     とはいえ、巫謠も裂魔弦の意見には概ね同意だった。曇り続きの空模様にはいい加減見飽きている。そろそろ一度くらい、夏日の先駆けのような晴れ間を望んでも許されるのではないだろうか。微かな雨音の響く窓辺を見遣りながら、そんなことを思う。
    「できた」
     満足そうな声が聞こえて、視線を真向かいに戻せば、自信ありげに裂魔弦は手に持ったてるてる坊主の顔を見せてきた。
     てるてる坊主の顔といえば、ごま粒のような目に、弧を描いた口というとても簡素でゆるい表情を思い浮かべるものだが、裂魔弦のそれはもう少し手が込んでいた。黒いつぶらな両目はつり目を表すように斜め上がりの線が添えられ、髪も描き加えられている。正面顔を見せられる直前に見た後ろ頭にはご丁寧に三つ編みが描かれていたので、おそらくこれは巫謠を似せているのだろう。机上に乗せられた肘の傍らにはもう一体、右目に眼帯を付けたてるてる坊主がいて、言わずもがな此方は裂魔弦だ。デフォルメされた顔立ちは、小さく丸い輪郭と合わさって中々愛嬌がある。なんとなく、これから首を吊らせてしまうことを躊躇ってしまう程度には。
    「……自分で描いといてなんだけどよ、なんか、首吊らせんの嫌だなコレ……」
     全く同じことを思ったらしい裂魔弦の言葉に、なら窓辺に置いてやるだけにすればいい、と提案すれば、少し考えた後、笑顔で了解して彼は二体のてるてる坊主を持って立ち上がった。
     きっと、僅かな逡巡の間は、自分の似姿にさせた方だけでも吊るすか否かを考えていたのだろう。それこそ巫謠は躊躇うどころでなく拒否したに決まっている。何が悲しくてお前一人で首を吊る様を一晩眺めなければならないのか。
     そうして首吊を免除された二体のてるてる坊主は、窓縁に仲良く並べ置かれることになった。はたしてこれで晴天祈願が叶うかは微妙なところだが、まぁいいだろう。それに、以前知人から聞いた話によると、てるてる坊主の顔は晴れた後に描き込むものらしい。顔を描くことで願いは叶ったと見做され、祈願の効果がなくなるのだとか。
     それを教えてやると、目に見えて落胆した顔をした裂魔弦が「もっと早く教えてくれよぉ」ともっともな恨み言を返した。だってお前が、あんまり楽しそうに描いているものだから。止めるのも野暮だと思ったことは、あえて口にはせず詫びる気持ちを込めて頭を軽く撫でてやる。
     窓の外ではまだ止まない雨の音がする。明日は久々に重なった休日だったが、はたして予定していた外出は叶うだろうか。わからない。結局は、明日になってみなければ何もわからないけれど。
     窓辺に寄り添う二体のてるてる坊主を見る。勝ち気に口端を釣り上げた笑顔と、控えめな弧を描く笑顔。はたして自分は彼の傍らに居る時こんな表情かおをしているのだろうか。穏やかで、静かに満ち足りたような、そういう笑顔。
     弱冠の面映ゆさを覚えながら、巫謠は直感する。理屈では説明のつかない、けれど間違いなく当たると昔から裂魔弦に豪語されてきた第六感に曰く――――明日はきっと、自分達が望んだ通りの晴天だ。
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    n_lazurite

    DONE魔界暮らしの裂浪小話。
    ふよが日に日に冷たくなっていく気がして不安な裂ちゃんに、ならお前が温めてって添い寝要求するふよの話。ふよの執着が重いので注意。

    いつか絶対一線越える気満々ですやん(
    その熱で息づく為に「――酒でも飲めばあったかくなんのかね」
     言葉だけ取れば冗談じみたことを、如何にも真剣な表情かおと声で言うものだから、率直に言って巫謠は呆れた。
     ちゃぷりと水の揺れる音がして、素足を浸した桶の中の湯が朱い掌にすくわれる。それが足首の辺りから丁寧にかけられていく度に、忘れかけた温みが足先から身体の奥へと伝わっていく。それを何度も繰り返されて、両の足はもう十分すぎるほどに温められていると思うのに、裂魔弦は未だ納得がいかないようだった。珍しく難しい顔をしたまま、日に焼けにくい白い足をじ、と注視している。
     もういい、という意思を込めて、つま先を僅かに蹴り上げる。ぱしゃり、と小さく跳ねたお湯のひと粒が裂魔弦の頬に当たった。それを気に留めた様子はなく、けれど巫謠の言わんとするところを的確に察した碧の眼差しが、不服そうに細められる。そのまま暫く無言で見つめ合えば、やがて諦めたように裂魔弦は桶から巫謠の両足を引き上げさせ、間近に置いていた手拭いでぱたぱたと滴る水気を拭っていった。
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