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    n_lazurite

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    n_lazurite

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    れっふよ魔界移住ルート。
    油断して魔力枯渇した裂ちゃんに、魔よちゃんがちょっと乱暴に魔力供給する話。裂浪と言い張りたい。

    ##裂浪

    その熱で脈を打つ ――少し堪えろ。
     抑揚のない声で告げられ、黒化した左手が肩に置かれる。温度の無い掌が急速に熱を帯び、集められた魔力がばちり、と溢れ弾けるように青白い火花を散らした。
     思わず、引き攣った笑みが浮かぶ。ただならぬ緊迫感を茶化して、誤魔化したかった。当然上手くはいかなかったけれど。
    「で、できれば俺様、もうちょっと優しいやり方がい――っんぎゃあ!」
     瞬間、ばち!!と烈しい電撃が全身を駆け巡り、情けない悲鳴が上がる。しかし、仕置きめいた鋭い痛みと衝撃は一瞬のことで、「大人しくしろ」と大袈裟に仰け反った身体を抑えつけるように肩を強く掴んだ掌からは、今度は先程よりも出力を抑えた電流が流れ込んでくる。
    「っ、……!!」
     そうはいっても、魔族の血を活性化させた状態で操る魔力の雷は巫謠自身にも制御が難しいらしく、流し込まれる力にはどうしたってびりびりと内側を鈍く刺すような痛みが伴った。それを、今度は文句を飲み込んで受け入れる。痛みと共に全身を急速に、くまなく駆け巡っていく魔力が、『裂魔弦』という魂の器を補ってくれているのがわかるからだ。乱暴なやり方ではあるけれど、間違いなくこの魔力が己を生かそうとしてくれている。ぎりぎりまで魔力の枯渇した身体に活力を注いでくれている。
    「っぐ、ぅ……!」
    「もう少しだ」
     淡々と降ってくる声には、その実、押し殺した感情が見え隠れしている。不安、憤り、心配、焦燥。そうした心の乱れが流し込む力に影響しないよう、極力抑え込んでいるがゆえの、冷淡な声音だった。そんな声を出させているのは裂魔弦だ。
     自分達が身を置く――置かざるを得なくなった場所が、どんな危険が取り巻く環境であるかは理解している。理解していたはずなのに。油断。慢心。それらが招いた窮地でありこの無様な状態であるならば、正しく自業自得であり、その代償は全て裂魔弦が背負うべきなのに。
     ――嗚呼、だから嫌だったのだ。こんな場所にお前を連れて行くだなんて。
     黒い角、赤い紋様。黒化した肌に、血の色に染まった翡翠の双眸。黒衣を纏ったその姿は、魔族の因子を極限まで活性化させた、彼にとって忌むべき様相であっただろうに。もう二度と、その姿を晒してほしくなどなかったのに。よりにもよって裂魔弦の為になんて、その力を使わないでほしかったのに。そんな顔は、させたくなかったのに。だけど、
    「――どうした?」
     魔力を流し終えた巫謠が、反応のない裂魔弦を訝しむように問う。
     まだどこか不調があるのではないかと注意深く探るように見据えてくる双眸は、本来彼に似合わない禍々しい血の色を宿しながら、其処に灯る光は恐ろしいほどに優しかった。真っ直ぐに見つめる意志の光は、どこまでも彼らしかった。
     その眼差しを向けられること、心を砕かれること、それを歓喜せずにはいられない『心』が、確かにこの胸の裡にあるのだ。だから離れられない。今からでも、平穏な地上に送り返した方が、きっと彼の為になるはずなのに。もう突き放せれない。手放せない。その黒き姿を知るのは最早自分だけだ。その猛々しい魔力の雷熱を、痛みを、受け取れるのは自分だけなのだ。それはなんて、甘美な『歓び』だろうか。
     肩に触れたままの、『彼』の手に己のそれを重ねる。黒化した肌にも、器物の掌にも、温もりはない。だけど、それでもその身が灯す熱を知っている。その熱が己の身を駆け巡って、満たしていく感覚を知ってしまった。もう二度と、知らなかった頃には戻れない。
     へらり、と困ったように笑う。突き放せないなら、手放せないなら、みっともなくしがみついて、捕まえ続けないといけないのだ。黒い手を握り込む。まだ指先に甘い痺れが残っているような気がした。
     態とらしくおどけるように、小首を傾げる。
    「……さっきみたいな乱暴なのが癖になっちゃったりしたら、責任とってくれよ浪ちゃん?」
     ぱちり、と朱色が静かに瞬き、そして呆れたように、空いた手で頭を引っ叩かれた。
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    n_lazurite

    DONE魔界暮らしの裂浪小話。
    ふよが日に日に冷たくなっていく気がして不安な裂ちゃんに、ならお前が温めてって添い寝要求するふよの話。ふよの執着が重いので注意。

    いつか絶対一線越える気満々ですやん(
    その熱で息づく為に「――酒でも飲めばあったかくなんのかね」
     言葉だけ取れば冗談じみたことを、如何にも真剣な表情かおと声で言うものだから、率直に言って巫謠は呆れた。
     ちゃぷりと水の揺れる音がして、素足を浸した桶の中の湯が朱い掌にすくわれる。それが足首の辺りから丁寧にかけられていく度に、忘れかけた温みが足先から身体の奥へと伝わっていく。それを何度も繰り返されて、両の足はもう十分すぎるほどに温められていると思うのに、裂魔弦は未だ納得がいかないようだった。珍しく難しい顔をしたまま、日に焼けにくい白い足をじ、と注視している。
     もういい、という意思を込めて、つま先を僅かに蹴り上げる。ぱしゃり、と小さく跳ねたお湯のひと粒が裂魔弦の頬に当たった。それを気に留めた様子はなく、けれど巫謠の言わんとするところを的確に察した碧の眼差しが、不服そうに細められる。そのまま暫く無言で見つめ合えば、やがて諦めたように裂魔弦は桶から巫謠の両足を引き上げさせ、間近に置いていた手拭いでぱたぱたと滴る水気を拭っていった。
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