「おはようございます」
[溶ける愛]を収容した次の日。ニコルはイゴリーに挨拶をする。いつもと変わりないように見えるが、一つだけいつもと違う点があった。
「はよ。……どうしたんだそれ」
「新しい防具です。[溶ける愛]から抽出されたもので、管理人が新しく支給してくださいました」
まあほとんど私が頑張ったんですが。と得意げな様子でニコルは語る。半分液状になったピンク色のコート。同じく液状のベストにはうっすらとハートの模様が浮かんでいた。彼女の茶髪と白い肌が生えていて似合っていると、イゴリーは思った。
「ずいぶんゴキゲンだな」
「もちろん、これで私も晴れてHEランク装備卒業ですから」
「おー、そりゃよかったな」
ふふん。といいながらニコルはくるくると回る。...しばらくしてニコルはぴた、と動きを止め、イゴリーのほうをじっと見つめ始めた。
「……」
「…何だよ?」
「いいえ、何も?」
「言いたいことがあんならハッキリ言え」
「なんでもないですよ」
なおも何も言わずにこちらを見つめるニコルを見て、イゴリーはあきらめたように小さく息をつく。
「ハァ…。ま、似合ってんじゃねえの」
「…それだけですか?」
どうやらお望みの回答ではなかったらしく、ニコルは眉一つ動かさずにこちらを見ている。コイツ、調子乗りやがって...と思いながら、イゴリーは小さく舌打ちしつつ言う。
「チッ...。...可愛い。これで満足かよ」
「ふふ、ありがとうございます」
満足したのか、ニコルはカツカツと靴の音をならして歩いて行った。昨日のしおらしい様子とは違っていつも通りのその姿に、ひそかにイゴリーは安堵した。
「あ、そうだ」
「あ?」
何か忘れ物でもしたのか、ニコルが振り返ってこちらに向かって歩いてきた。そして__
「えい」
袖の中に手を隠し、ぴちゃりと音をたててイゴリーの両手を包んだ。訳が分からない、といった顔で
「なっ...にすんだ急に」
「んふふ、昨日はこうはできなかったので。それじゃ改めて失礼しますね」
心なしかちょっとうきうきした様子で歩いていく去っていくニコルを、イゴリーには見送る事しかできなかった。
…前言撤回。やっぱもうちょっと大人しくしててくれ。